第16章 12話
「じゃあ、やるよ。はいっ召喚っと」
パール君がモンスター召喚を行うと、空から海に向かってビチャビチャッと大量のエビっぽいものが落ちていく。いや、あれはエビだ。『ブラックタイガー』は、やはりエビだった。
「タカシは嘘を吐いた」
「いやいや、リノちゃんが勝手に勘違いしただけだよね!?」
「興味を失……いや、心を傷つけられた。私は戻る」
「く、暗いから一応、気をつけてよー」
踵を返すとリノちゃんは真っ直ぐに戻っていった。一縷の望みを抱いていたのかもしれない。ダンジョンバウムクーヘンでも食べて待っててね。
海ではバシャバシャと『ブラックタイガー』が元気そうに飛び跳ねている。これ、本当にダンジョンモンスターなのかな?
「タカシさん、大変です。こ、これは……」
「どうしたのアイシャちゃん?」
「そ、その、こちらを見てもらえますか?」
見せられたのは『ブラックタイガー』のステータスだった。1Pないんだからそりゃ見れたものではないだろう。
ブラックタイガー(餌系)
レベル1
体力1
魔力0
攻撃力0
守備力0
素早さ1
「あぁ、酷いステータスだね」
「そ、そうじゃなくてですね、ブラックタイガーさん、餌系に分類されているんですけど」
あっ、本当だ。餌系モンスターって、そんな身も蓋もない、ど直球な系統があるのか……。
「これって『ブラックシャーク』の餌ってことだよね。いや、それ以外に考えられないよね。マジか、サメって一回の食事でどのくらい食べるのかな?」
「おいっ! これって隠れ消費ポイントみたいなものだろう。どんどんポイント無くなるパターンだぞ。やっぱり、止めておいた方がよくないか。ア、アイシャ、今からでも遅くないチェンジだチェンジしよう」
「ですが雪蘭さん、ここまでやったのなら『ブラックシャーク』を召喚するまで頑張ってみたいと思います。私、ちゃんと『ブラックシャーク』を飼育してみますからっ!」
アイシャちゃん、ダンジョンモンスターはペットじゃないんだからね!
「正気か? 新手の詐欺みたいな階層だぞ。『ブラックシャーク』を増やす度に消費ポイントが増えていくし、『ブラックタイガー』(餌)を与えないと間違いなく消滅するんじゃないか」
「まぁまぁ、とりあえず『ブラックシャーク』がどのくらい食べるのかを見てから判断しても遅くないんじゃないかな?」
「私も師匠の意見に賛成かな。面白そうな階層であることは間違いないし、まだそこまで消費ポイントがめちゃくちゃって訳でもないんだよね」
そう。まだ、コウモリさんポイントでまかなえる程度なのだ。これからこのダンジョンには結構なポイントが入ることがほぼ決定している。そこまで無茶なチャレンジでもないかもしれないのだ。
「ところでアイシャちゃん、『ブラックタイガー』と意志疎通とかってとれたりするの?」
「いえ、全く。何の感情も伝わってきませんね」
「そ、そうか。それはよかったね」
「えぇ……そうですね」
『ブラックタイガー』に意思があったらと思うと、とても残酷なことを毎日繰り返さなくてはならない。案内人からビームを受けている影響はあるとはいえ、毎回30万匹の「た、助けてぇー」的な感情が伝わってきたら流石に病気になりそうだ。
それにしても、何故『ペナンダンジョン』だけ、こんな特殊な階層を選択出来るようになったのだろう。ダンジョン協会に行けば教えてくれるのかな。何かしらの条件がクリアされたということなんだろうけど、これといった理由がわからない。
『ダンジョンとパラレルワールドについての研究』をしているのが、ガズズさんだったね。次に戻った時にでも聞いてみよう。
「今日のところはここまでかな。明日、またポイントが貯まったら『ブラックシャーク』の召喚をしてみよう」
「おっ、今日はまだ帰らないんだね。やっぱり、師匠もこの階層が気になるのかな」
「そりゃあね。まぁ、でも明日には帰るつもりだから後はよろしくね」
「オッケー! ここまで御膳立てされていたら大丈夫」
「最後に何かお食事をたくさんご用意したいところですけど、雪蘭さんの烏龍茶ぐらいしかお出し出来るものがないです。ごめんなさい」
「いいって。僕が持ってきたお菓子もまだあるし」
「私もカップラーメンならストックがあるよ。水竜の女の子に注意さえすれば、一週間は持つはず」
「さすが、用意がいいね。助かるよ」
さて、明日は『ブラックシャーク』の召喚だ。
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