第16章 5話
再びダンジョンの外にリーダーさんと共に出ていくと、既に条約の書類が用意されていた。リーダーさんに指示を出して、書類を持ち上げてもらう。
(ティア、小さい声で僕に内容を教えて)
(かしこまりましたわ)
内容としては、かなり大まかな感じで書かれており解釈によっては様々な意見が出そうに思えなくもない。こんなものなのだろうか。一応、ティア先生に聞いてもらおう。
「イスマイル国王、条約の内容についてお伺いしたいの。拝見させて頂いた限りだとかなり大雑把に書かれているように感じたのだけど、これで大丈夫なのかしら?」
「その点につきましては、私、アブドゥルから説明させて頂きます。条約の文書ともなると、そうそう変更出来るものではございません。ですので、ここでは基本の柱となる内容についてしっかり記載させて頂きました」
「つまり、詳細についてはこれから決めていくってことかしら?」
「そうですね。条約につきましてはここで締結し、それぞれの項目については実務者レベルで話を進めさせて頂きたい」
「なるほどね、了解したわ」
その後は、各担当者と注意事項などの話し合いを進めていった。
「ダンジョン内への荷物の持ち込みが厳しいですね。身に付けているもの以外は時間の経過によりダンジョンが吸収してしまうということですか」
「つまり、機材関係は都度持ち込み、撤去しなければならないのですね」
(タカシ様、1日3食の食事はお願いしてみますか?)
(いらないよ! そもそも、このダンジョンはポイントがかなり入るようになるはずだからね)
(そうですの? アイシャもラッキーね)
(じゃあ、そろそろダンジョンに案内しようか)
(そうですわね。もう大部屋の設置も終わってる頃合いですものね)
「それでは、そろそろダンジョン内の大部屋へ案内するわ。リーダーの後をついてきなさい」
若干の緊張が走る。ダンジョンに入るということは、この世界ではない違う場所へ行くことに等しい。条約は締結したものの、安全かと問われればまだ未知なのである。
「私が参ろう。それぞれの担当官も来なさい」
「イスマイル国王!? そ、それでは私も参りましょう」
「いや、アブドゥルは残りなさい。万が一はないと思いたいが、どちらかは残らねばなるまい」
「し、しかし……いえ、おっしゃる通りでございます。かしこまりました」
既に歩き始めているリーダーさんの後を追うようにして、イスマイル国王と担当官3名が続く。軍関係者が慌てて続こうとするも、イスマイル国王が片手で制した。無粋なことをするなということなのであろう。
「ダンジョンの中を動画で撮影しても大丈夫でしょうか?」
「……大部屋内に限ってのみ許可しますわ。それ以外の撮影はご遠慮ください。ダンジョン内は監視カメラで動きを確認しております。変な動きを発見した際にはすぐに注意させて頂きます」
「そ、そうなのですね。かしこまりました」
「この先がダンジョンの入口になるわ」
目の前には普通の洞窟にしか見えない、広めの道が続いている。しかしながら、ある境を越えたところで通路幅が一気に広がった。
「陛下、電波が入りません。ここからは圏外のようです」
「そうね、貴方達はもうダンジョンに入っているわ」
「ここがダンジョンの中なのですね……」
自然に出来た岩壁というには整い過ぎている。地面は凹凸もなく、まるで整地されているかのように美しい。奥には狭い通路が続いているように見える。
「大部屋というのはここですか」
リザードマンリーダーが歩いている先には唐突に現れた岩壁の大きな部屋が続いていた。入口の幅は2メートル弱で、高さは5メートル程。
「10トンぐらいのトラックならそのまま入ってこれそうですね」
「曲がりきれないだろう。10トンショート、いや、7トン車がギリギリじゃないか」
「ダンジョンマスター殿、こちらの入口は広げることは難しいのでしょうか?」
「……将来的には可能でしょうけど、現状の私の力ではそこまでの調整が出来ません」
「なるほど、ダンジョンマスター殿も成長することで可能になることが増えていくのですね」
「……えぇ、その通りですわ。これからは仲間です。共に成長していきましょう。それから、今後みなさんとの交渉の窓口となるアイシャを紹介しますわ。アイシャ、こちらへ」
「は、はい。アイシャと申します。よろしくお願いします」
仮面をつけた10代半ばと思われる少女が現れると挨拶をしてきた。
「本来ならば、私が姿を現してご挨拶するべきなのですが、制約がありそうすることが出来ません」
「特別な枷というのが要因なのでしょうか? ダンジョンマスター殿も、これからは仲間だとおっしゃって頂きました。我々でお手伝い出来ることがありましたら何なりと言ってください」
「……えぇ、とても助かるわ。では、ここからはアイシャを通してお願いするわね。アイシャもダンジョンの外には出れないので、打ち合わせはこの大部屋でお願いするわ」
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