第15章 15話
イスマイル国王のもとには、二足歩行の爬虫類、所謂トカゲ人間のようなモンスターが檻に入れられ首輪が繋がれた状態で運ばれてきた。言葉は通じないようで、意思の疎通は全く図れない。これが宇宙人の類でないのならば……。
「イスマイル国王、これは日本に現れたというダンジョンのモンスターなのではないでしょうか」
「確かにそう考えなければ説明がつかない生物のようだな。それで、アブドゥルはどうしようと考えているのだ」
イスマイル国王と向かい合って話をしているのはアブドゥル首相。マレーシアで実際に政治を動かすのは議会であるため、国の実権を動かしているのはアブドゥルであり、権威的なものを担っているのが国王のイスマイルだ。日本の天皇と首相の関係に近いともいえるが、マレーシアの国王は任期制である点が大きく異なる。
「もしもマレーシアにダンジョンが出現したのであれば、先進国の仲間入りを果たす大きなチャンスです。軍の強化とダンジョンアイテムの輸出で国も潤います」
「ふむ。しかしながら危険はないのか?」
「多少の危険は承知の上です。他国に匂いを嗅ぎつけられる前に早く場所を押さえたいところです」
「発見された場所はペナン島だったか。海外からの来訪者が多い街というのが困ったな。下手に島を隔離させてしまうと話題になりやすい」
「なるべく理由をつけて観光客を遠ざけたいと思います。どこで情報が漏れるかわからないですからね。もちろん、国民への発表もある程度の目処が立ってからとなるでしょう」
「アブドゥル、しっかり頼むぞ。国の未来が開けるかどうかが掛かっている」
「アッラーの思し召しのままに」
国としての方向性は決まった。マレーシアにダンジョンに関する資料を早急に集めなければならない。日本ではダンジョンを管理下に置いたことで、とんでもない利益を産み出しているという。
ダンジョンアイテムは第二の石油だ。今までは中東に利権が多かったが、これからはダンジョンアイテムの時代が来るのだろう。乗り遅れる訳にはいかないが、ここで日本に頼る訳にもいかない。自分たちの手で押さえてこそ、最大の利益を生むのだから。
首相官邸に戻ったアブドゥルはすぐに指示を出していく。秘密裏に動かなければならないが、関係各所の協力は不可避である。
「やはりペナン島の封鎖は難しいか……」
「場所の目処はついているのか?」
「島の北西部で例のモンスターを捕獲しております」
「では、せめてその近辺だけでも何とかしよう。理由は動物関連のインフルエンザとでもしておけばいい」
「マスコミへの説明は任せるぞ」
「軍はどのくらい動かせる?」
「すぐに動かせるのは2万人です」
「うむ、十分だ。島の北部を中心に山狩りをさせてくれ。ヘリコプターは何機出せる?」
「常に2機が飛んでいるようにローテーションさせます」
「ところで、ダンジョンは見つけたら攻略するのですか?」
「いや、一応話し合いの場を持ちたい。可能であればであるがな。ダンジョンマスターとやらがいるのであろう」
「そうですね。ダンジョンマスターとの交渉は此方で引き受けます。現場には通訳も準備させてくれ。そうだな、英語と日本語を」
さて、今日にも探索に掛かれそうだ。国のためにも何としてでもダンジョンを見つけなければならない。ダンジョンマスターが求めるものとは何なのだろうな。交渉がとても楽しみだ。
それから数時間、ペナン島を探索している陸軍と連携をとりながら未捜索エリアの洗い出しを行っていたのだが、狭い島だと思い甘く見ていたのか大人数にも関わらずダンジョンはなかなか発見されることがなかった。
「アブドゥルよ、なかなか苦戦しているようだな。実は私に良案があるのだが聞いてはもらえぬか」
その案を提案してきたのは、なんとイスマイル国王であった。
「どのような案でございましょうか。少しでも早く発見出来るのであれば是非ご教授願いたい所でございます」
「そうであるか。では、あれを使いなさい」
「あれと申しますと?」
「そのダンジョンモンスターを使うのですよ。ダンジョンマスターと話し合いをする方向なのであれば尚更、それが良いのではないかと思うのだ」
「は、はぁ……」
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