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第15章 8話

 素敵な露天風呂だった……。すっかり逆上(のぼ)せてしまった。頭の上にひんやりと冷たいウンディーネがいなかったら、もっと酷いことになっていただろう。後で何かおやつでも用意しよう。


 ヨルムンガンドちゃんは気を利かせたのか、早々に風呂から上がると隣の部屋で片付けをしていたエディをつかまえてホテル内にあるゲームコーナーに遊びにいってしまった。変な気配りが出来る五歳児である。


 長風呂の影響でまだ体が熱い。冷たい飲み物を探していたら、レイコさんが冷蔵庫に入っていたと思われる飲み物をコップに入れて持ってきてくれた。


「はい、どうぞ。みんなのもありますよ」


「ふぅー暑いね、レイコさんありがとう」



 喉が渇いていたからか最初の一口では気がつかなかったが、これは……シャンパンだな。三人とも一応、未成年だしあまり飲み過ぎない方がいいかもね。


 でも、このシャンパン飲みやすいな。エグゼクティブスイートにあるシャンパンなのだからかなり高級な物に違いない。



「これ、お酒だからみんな飲み過ぎには気をつけてね」




「これ、おいしいでしゅね」


「……おかわりぃ!」


 ソファーにもたれ掛かりながら既にテンション高めなレヴィが可愛くおかわりを要求していた。


 遅かったか……。



「レヴィちゃんも好きねぇ。はいっ、レイコ持ってきましゅたっ」


 もう一人いた……。


 ボトルごとシャンパンを持ってきたレイコさんは親指でポンっとコルクを抜くとそのままレヴィのグラスに注ぎ入れる。


「ちょ、ちょっとレイコさん? もう溢れてるよ! これ、お酒だって言ってるでしょ」



「あははっ、レヴィちゃん、びしょ濡れ!」


「もーう、ベタベタだよー。お兄さま……舐めて」


 浴衣姿のレヴィが胸元を露に近寄ってくる。


 な、舐めろだと……。


 シャンパンの香りと濡れた浴衣がレヴィの肌にピッタリとくっついておりなんともエロい。


 思わず唾を飲み込んでしまった。


 いかん、いかん。


「二人ともアルコールに弱すぎだよ。せっかくお風呂入ったばっかなのに」


 僕は脱衣場からタオルを持ってきてレヴィに渡してあげた。


「お兄さまぁ……早く拭いてぇ」


 自分で拭く気ゼロなご様子。


 一方、ティア先生は海を眺めながら優雅に飲んでいるように見え……いや、どことなくフラフラな感じだ。


 ダメだな……。どうやらみんな酒に弱いようだ。


「うわっ、つ、冷たっ! ティア、レイコさん何やってるの!?」


 目を離した隙に二人が僕の胸元にシャンパンをドバドバとかけてくるではないか。


 何故にシャンパンファイトが始まった!? 床、こんなにして、ホテルに怒られてもしらないからね!


 ニヤリと目を細める二人が僕の首もとから胸元にかけて舌を這わせてくる。両腕をロックされて身動きがとれない。


「ひやっ」


「……美味しい」

「おかわりちょうらい」



「あ、あの、レヴィさん!?」


 目の前からは、グラスを傾けたレヴィが口に含んだシャンパンをニコニコ顔で、そのまま僕の口に流し込んできた。


 レヴィの口の中で少しあたたかくなったシャンパンを舌で押し込むように、いや、舌を絡めるようにしてくる。チュパチュパとした、とても甘美な音が僕の頭に響いてくる。


 なんだか頭がボーッとしてきた。


 思考が停止している。


 何も考えられない。


 本能が理性を大きく上回っているのだろう。


 今度は僕が、口に含んだシャンパンを横にいたティアに注ぎ入れる。


「ふわぁ……」


 シャンパンは飲み込まれずに口から流れ落ちているが、ティアの舌と僕の舌は絡まったままその動きは止まらない。


「わたしもぉ」


 隣にいたレイコさんが、僕とティア先生を離すように割り込んでくると、頬っぺたから這わせた口がそのまま唇の中に激しく入ってくる。僕の顔を手で覆うようにして息もさせてくれない。



 まぁ、大抵こういう時に限って邪魔が入るもので、僕のスマホに連絡が入った。


 ふと、我に返ると急に恥ずかしくなる。みんなは酔っぱらっているからいいけどさ。僕はほぼシラフなのだ。



「もしもし?」


「あっ、師匠? 温泉旅行とかズルくない? 私たち呼ばれてないんだけど」


「いや、『千葉ダンジョン』の慰安旅行みたいなもんだからさ」


「とりあえず、ピースケさんに『大阪ダンジョン』の案内人を預けたから、私たちもそっちに遊びに行くね」


「えっ、来るの?」


「ヘリでこのまま向かうからすぐに到着すると思う。じゃあまた後でねー」


 どうしよう。目の前にはソファーで戯れるレイコさんとレヴィ。ティア先生はボトルを抱えたまま床で寝ていた……。

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