第15章 6話
ホテルの売店コーナーには千葉県のお土産が所狭しと並べられている。ピーナッツ最中はもちろん、完熟びわゼリーや落花生ダックワーズも人気のようだ。
キンメダイやヒラメなどの干物も販売しているので、お土産に買って帰ろうと思う。新人マスターさん達もきっと美味しい焼き魚とか食べたいだろう。サザエカレーや伊勢海老カレーなるレトルト食品とかもあるので押さえておこう。
「最近、こちらのダンジョンバウムクーヘンが人気急上昇中なんですよ」
「えっ、ダンジョンって?」
「はい、千葉には鋸山にダンジョンがありますからね。バウムクーヘンの形が洞窟みたいでダンジョンっぽいと人気なんですよ!」
「そ、そうなんですね……。あれっ、このパッケージの竜とキャラクターは!」
「『千葉ダンジョン』はブルードラゴンが有名でしょう。このパッケージにしてから馬鹿売れなんですよ」
記載されているキャッチフレーズにはこう書かれていた。
ドラゴンも納得の美味しさよ!
おかわりもらえるかしら?
ベタなキャッチフレーズだけど、この擬人化されたドラゴン美少女、どことなくティア先生に似ている……。
パッケージの裏側を確認すると販売者は菜の花食品となっている。……知らない会社だな。
「と、とりあえず、これ一つください」
「はい、1500円になります」
とりあえず、あとでティア先生に見せてあげようかな。
それにしても、どうも休暇をとるという感覚に慣れていないんだよね。散歩がてら浜辺の方にでも行ってみようかな。歩きながらふと思い出したのは新しくダンジョンマスターになった人達。
そういえば新人さん達は、魔法の練習進んでるのかな……。
ついつい気になってしまう性分なのだが、あまり僕が口を出さない方がいいだろう。リナちゃんやコウジさん、サクラちゃんの成長にも繋がるだろうし、困った時に相談に乗ってあげるぐらいの気持ちでいいはずだ。
やはり、ふと考えてしまうのはダンジョンやみんなのことになってしまう。
春とはいっても夕暮れ時は体が冷える。そろそろ戻るか。
一通り時間を潰して戻ってくると部屋の中では夕食の準備が進められていた。
「あれっ? みんな浴衣着ているんだね」
「せっかくだからとレイコさんが。似合ってますか? お兄さま」
僕の前でクルリと回って見せるレヴィが可愛い。
「うん。レヴィとても似合ってるよ」
すると、僕の手に持っていた物に気づいたレイコさんが近づいてきた。
「タカシさんおかえりなさい。あれっ? そのバウムクーヘン、ホテルで売ってたんですか?」
「あっ、うん。このパッケージ、ティアにそっくりだと思ってさ」
「……まぁ、モデルはティア先生ですからね」
「ちょ、ちょっと待って。まさか、菜の花食品って」
「はい。菜の花ホールディングスのグループ会社で食品部門の一翼を担っている菜の花食品です」
「菜の花ホールディングス……」
「最近では、レトルトのご当地カレーなんかも販売しています」
「あ、あれもそうなのか!?」
「ちょっと! タカシ君、もうすぐ食事なんだから静かにしてくれる? 早く来て!」
いつの間にか食事の準備は完了していた。
目の前にあるのは豪華絢爛な神輿盛り。用意された後で思うのもなんだけど、神輿盛りだと取りづらいよね。普通に大きな舟盛りでよかったような……。
旬の朝獲れ地魚や伊勢海老がお刺身になっている。分厚く切られたキンメダイにヒラメ、タチウオ、イワシにムツ。マグロやサーモン、甘エビなどの定番品も溢れんばかりに盛ってある。
「はい、みんなにどんぶりを配るわよ。ティアには特大サイズを渡すわ」
各自にどんぶりが用意され好きなように海鮮丼が作れるようになっている。
「こっちにあるのは何?」
「そっちは味変コーナーね。金目鯛のなめろうよ。細かく刻んだ大葉と合わせてもいいわ。ご飯と一緒に食べるとトロっトロにとろけるわよ。その隣は鯛味噌。鯛の身を秘伝の調合で味噌と合わせているの。あと引く美味しさよ」
「これもなめろうっぽいけど、あれっ? 焼いてある?」
「それは、さんが焼きと言ってアジを生姜味噌で叩いて焼いたものなの。気をつけなさい。ご飯が止まらないわよ」
「なぁ、エディ。もう食べていいのか?」
「そうね、ヨルムンガンドちゃん。ズワイガニは全部剥いてあるわ。ウニも掛け放題だから好きなだけ食べていいわよ」
神輿の裏には貝コーナーが準備されている。アワビは踊り焼きで食べられるように網の上にスタンバイされている。サザエ、ハマグリには出汁醤油、ホタテはバター焼きで食べられる。
す、すごいぞエディ。普段からティア先生やレイコさんに鍛えられているだけある。
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