第15章 4話
「おいおい、本当にネタがなくなっちまったぞ……」
ガラスケース内には今日のために仕入れた魚が綺麗に無くなっていた。ツアコンからの指示でいつもより2倍の量で仕入れたにも関わらずだ。
「大将、どこかから仕入れられないの?」
「無理だ。この時間じゃもう市場は閉まってんだ。どうしようもねえ」
まだ昼ごはんだというのにティア先生の胃袋がどうにかなってしまっている。何故かウンディーネもティア先生のカバンの中から隠れるようにして爆食していた。いや、見つかってないからいいけどさ。それにしても二人とも一体何と勝負をしているのか不明だな。
「大将、エディ、もう十分だよ。無理を言って貸し切りにして頂きありがとうございました。とても美味しかったです」
「半信半疑だったんだけど、こうもペロッと食べてくれると気持ちがいいもんだ。また食べに来てくれよ。値段も勉強するし、ネタの量も更に増やしておくぜ」
「寿司というのはとてもいいわね。一口で全てを表現してくれるんだもの。大将の腕は素晴らしかったわ。花見寿司はもちろん、お任せで頂いたブリとイサキもとても美味しかったわ」
「なぁ、レイコ。このまるっこいの苦いから残してもいいか?」
「あぁ、銀杏ね。私が食べるからちょうだい」
茶碗蒸しを食べていたヨルムンガンドちゃんが底の方にあった銀杏がお口に合わなかったらしい。子供の舌には苦味が強いのかもしれないね。大人になるにつれて食べられる物が増えていくのは舌が大人になるのではなく、鈍感になっていくからなのかもしれない。
そろそろ会計という時に『大阪ダンジョン』に向かっていたモンスタードールズの一人、サクラちゃんからスマホに着信があった。
「おっ、サクラちゃんからだ」
「あっ、師匠? 大丈夫だった?」
「うん。問題ないよ。何かあったの?」
「流石は師匠だね。そろそろ10億ポイント超えるんじゃない?」
「サクラちゃん、10億の道のりはとても長いようだよ」
「そうなの? てっきりもうオーバーしたのかと思ってたよ。あっ、それで連絡したのはさ、『大阪ダンジョン』の案内人をどうしたらいいのかなと思ってさ」
残念ながら『大阪ダンジョン』は敗者復活で敗れたためこのラウンドでのクリアはない。その案内人に次があるかはわからないけど、状況は厳しいだろう。案内人が第一世界の貴族だと知ってしまった今となっては話ぐらい聞いてあげたい。
「そうしたらレベル上げしてるとこ申し訳ないんだけど、その案内人を『千葉ダンジョン』に連れてきてもらってもいいかな? 『大阪ダンジョン』にヘリコプターを向かわせるからさ」
「うん、いいよー。もしも、案内人がこちらの言うことを聞かない場合は諦めてよ」
「その場合はしょうがないね。案内人の意向を尊重してあげて」
「わかった。じゃあヘリコプター待ってるねー」
「お兄さま、またダンジョンに戻るのですか?」
「いや、今はバカンス中だからね。戻らないよ。案内人を預かるだけなら適当に会議室にでも居てもらえばいいよ」
『てんとう虫』さんは近くにいるかな? いや、間違いなくいるよね。僕は店を出たところで声を掛けてみた。
「『てんとう虫』さん? 近くにいるかな?」
「はっ、こちらにおりますマスター」
「話は聞いてるかもしれないけど、これからヘリコプターでサクラちゃん達が『千葉ダンジョン』に来る。その応対を『てんとう虫』さんに任せるよ。案内人が同行してる場合は、会議室にベッドを入れてゴブリン達にお弁当や飲み物でお世話をさせてよ」
「かしこまりました」
「サクラちゃん達は好きな場所にヘリコプターで送ってあげるよう伝えて」
『てんとう虫』さんは、一礼すると直ぐに電話して打ち合わせを始めた。これでもう大丈夫だろう。『てんとう虫』さんと『菜の花』さんに対する依存の高さに自分でもびっくりする。
「第一世界にも『てんとう虫』さんと『菜の花』さんがいてくれたらなぁって思ってましたね?」
「レ、レイコさん、僕の心を読まないでもらえるかな!?」
「連れていけるのはボスモンスターだけ、何とかして連れて行けたとしても『てんとう虫』さん達の特長は数の連携ですからね。いっぱいいないと特長を活かせませんもんね」
「本当に悩ましいね」
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