第15章 3話
「つまり、これはダンジョンから外出し放題ということっすね」
「やっぱり? 遂に! これで僕も自由に外に出れるんだね! 気軽にその日の気分で亀山ダムにボート浮かべてバスフィッシングとか昼寝とかしていいんだね」
「そんなことしたかったっすか?」
「うん。というか、ピースケが落花生に戻ってるのを普通に違和感無く受け入れていたよ」
『ダンジョンパスポート』の効果であるが、予想通りポイントに左右されず自由に外出できるという代物だった。このアイテムを使えるのは僕のみで、他のダンジョンマスターに貸したりは出来ない。
「タカシさん、この状況で温泉旅行とか行って大丈夫なんですか? 確かカモメのジョナサンを倒して、『大阪ダンジョン』に行ける人はレベル上げに向かってるんですよね」
「そういえばそうだったね」
レイコさんがもっともな発言をしてくれた。ちょっと整理しよう。
カモメのジョナサンを『千葉ダンジョン』で返り討ちにして、『大阪ダンジョン』には残り10万のリポップするガルーダを狩りに『熊本ダンジョン』や『モンスタードールズ』が向かっている。
「ピースケ、リナちゃんというか、ウナ次郎に連絡をお願い。ジョナサンの討伐に疲れたのでしばらく温泉旅行に出掛けます。急用の場合はスマホに連絡くださいって感じで連絡を」
「了解っす」
「軽いわね」
「えぇ、お姉さま。温泉旅行が全面に出てしまってます」
「レイコさんはエディを呼んでバスのチャーターと房総半島で露天風呂付き高級ホテルのスイートルームの確保、それから夕食は豪華舟盛り海の幸で予約をよろしく」
「わかりました」
「迷いがないわね」
「えぇ、お姉さま。指示が細かく的確です」
「じゃあ、みんなは洋服に着替えてお出掛けの準備を! 休日は七日間だ。思う存分羽を伸ばして、ほんの少しだけ魔法について語り合おう。では、各自準備出来たら、ボート小屋に集合だよ」
エディには無理を言うけど、その分支払いで還元することにして精一杯コネを使って頑張ってもらおう。
春の房総半島は人気の観光地と言ってもいい。温暖な気候により関東に一足早く春の訪れを伝える。そして、海あり山ありの豊かな自然に海の幸やローカルフードなどバラエティ豊かなグルメは人気を博している。
そして、メインはこの時期に咲き誇る様々な花だろう。菜の花はもちろん、ポピーなどの花畑が続く千倉から館山へと約40キロも続く『房総フラワーライン』の景観はまさに美景である。
「ほんとキレイな景色ですよねー」
「お兄さま、一面、菜の花さんだらけです!」
「ちょっとー、私、運転してるからちゃんと見えないじゃない!」
僕たちはエディの運転で房総半島をドライブしている。海沿いの道には一面に咲き誇る花、花、花。この時期限定のスペシャルな光景だ。
「エディ、例の店はちゃんと予約取れたんだよね?」
「もちろん、抜かりはないわ。すでに店ごと押さえてるわよ」
「さすがエディ。ホテルはどんなところなのかな?」
「レイコの希望を全面的に上回る提案をさせていただいたわ」
「頼もしいね!」
「海が見える貸し切り露天風呂よ。ライトアップもされてるわ」
「ふむふむ」
「最高級ホテルの最上階を全部押さえたわ。エグゼクティブスイートよ」
「ほうほう」
「でもね、夕食の舟盛りは舟ではなくなったの」
「まぁ、そこまではしょうがない。海の幸を頂けるなら……」
「神輿よっ! 舟じゃ乗せきれないの。氷の彫刻で神輿盛りにしてもらったわ!」
「おぉー、何だかわからないけど凄そうだね!」
「続きは昼食の後にしましょう。到着したわ、ここが貸し切りにしたお店『寿司処 海花』よ」
このお寿司屋さんは海の幸はもちろんのこと食用の花を使用した、ちらし寿司も有名なのだ。
春限定の花を目で見て食べて楽しむという房総半島の楽しさと美味しさが詰まった逸品といえる。
「へい、らっしゃい!」
「これが食べられる『花見寿司』ですのね! 大将、おかわりよ」
「おいおい嬢ちゃん、まだ食べてねぇじゃないかい」
「足りないのよ。匂いも香りも食欲をそそるわ。私にはとりあえず5個よ。その後は握りをお任せで頂こうかしら」
「大将、この子の言う通りにしてあげてちょうだい。本当にペロッといくから死ぬ気で握りなさい」
「へ、へい、らっしゃい」
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