第14章 14話
「お前ら早くしろっ! もうすぐカミア様が到着してしまうだろうが! ったく、出発は明日の予定だったというのにこのタイミングでドラゴンが街を襲うとかどんだけついてねぇんだ」
船員の一人が空を見上げて立ち止まっていた。ぶつかって積み荷を落としてしまう。
「うぉ、危ねぇよ!」
「何やってんだっ! キメラが出てきちまったらどうすんだ馬鹿野郎! 気をつけろ!」
「い、いや、違うんだ。あれを見てくれよ」
「な、なんだぁ、あれはっ!」
「お、おい、こっちに来てねぇか?」
「に、逃げろ。逃げろぉぉぉ!!」
「ドラゴンが来るぞぉぉぉぉ!!!」
「メ、メルキオール様、あ、あちらに見えるのはド、ドラゴンではないでしょうか」
「ドラゴンだと!? シャルビーを襲ってたんじゃないのか。何でこっちにもいるんだよ!? 今日はとことんついてねぇな……」
船上は慌ただしく動き回る船員で溢れかえり、船から逃げ出す者も多く見られた。
「おいっ、てめぇら勝手に逃げてんじゃねぇ! とにかく船と積み荷を守れぇっ!」
見た目にも武器を持っていないし、迎え撃とうという考えの者もいない。メルキオールの声は聞こえているものの自らの命の方が大切なのだろう。一人二人と次々に逃げ出していく。どうやらここにいるのは戦闘力のない船員だけのようだ。
その時、船の甲板に物凄い轟音と共に二体の水竜が降り立った。大型船とはいえ、その揺れは相当なもので何人もの船員が海に放り出された。
ようやく揺れが収まった時には誰も動けなかった。海に落ちた方がどれだけ幸せだったであろうか。動いたら捕食される。そう感じさせる鋭い威圧感が船上を支配していた。
「闇矢!」
反射
「なっ! ぐはっ!」
ブリッジの影から不意に撃たれた闇矢を知っていたかのように反射してあげた。
気づいたティア先生がメルキオールを見つけるとそのまま前足で抑え込んだ。爪が首にめり込んでいて既に死にそうになっている。
「スッハー……ス、スハー」
辛うじて息を吸えているような吸えていないような絶妙な取り押さえ具合なようだ。まぁ、たまたまだろう。これを好機と船員達が海に飛び込み一斉に逃げ出した。
「お兄さま、彼らは逃がしてしまっていいのですか?」
「いや、全員逃がさないよ。強制されたとしても裏切り行為であることに間違いないからね。生きたまま捕まえるよ」
「かしこまりました。お兄さま」
「海に逃げた船員は僕の魔法で身動きとれないようにするから地上に逃げたのを追ってもらえるかな?」
「地上ですね。すぐに捕らえます」
絶対零度
港周辺に規模を限定して撃った魔法は、かなり加減して撃ったため大型船を中心に海の上部のみを凍らせることで海上にいた船員をそのまま身動きを封じた。
一部、地上にいた船員も影響を受けたようでふらふらになっているところをレヴィが意識を刈り取っていく。
「ティアもレヴィを手伝ってきてくれる? そいつは僕が引き受けるよ」
「わかりましたわ。他にやることはありますかしら?」
「そうだね。船員を捕獲した後はカイトさんが秘密の抜け穴を使ってカミア王子を追って港に向かってるはずだからその場所を探しておいてもらいたいんだ」
「私の嗅覚が唸りをあげるわ。アモナなんちゃらかカイトの匂いを辿ればすぐにわかるかしら」
「さ、さすがだね。抜け穴壊しちゃダメだからね」
「では行ってきますわ」
ティア先生が人型に戻ってレヴィを追い掛けると甲板の上にはあっさりと失神しているメルキオールが泡を吹いて倒れていた。足には矢が刺さった後が残されているし、顔色もまだ若干青白い。息できないのって一番苦しいものね。
「この船も凍らせておくか。大事な証拠品でもあるしね……。あっ、でも雷鳥さんが船内にいるんだったね。解除しておこう。えーっと、もう大丈夫だよっと」
雷鳥さんに心の中でそう伝えた時だった。
ズガァァァァァン!!!!
「へっ?」
ドガァァァァァン!!!!
「えっ? えっ!?」
雷鳥さん痛恨の勘違い発動。
もう大丈夫だよっと→やっちゃいなよ(解釈)
船は少しずつ傾きながら沈もうとしていた。
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