閑話 13
タカシが聖女様を捕虜にして帰りの途に就く頃、人族の部隊は信じられない光景を目の当たりにしていた。のちにそれはデビルズサンダーバードと呼ばれ伝説のモンスターとして後世に語り継がれたそうな。
曰く、その姿を見たものは目が焼き焦がされる。
曰く、音速を超えるそのスピードから逃げ切ることは難しい。
曰く、どんな魔法や兵器、罠も見破られ優先して叩かれる。逃げるなら武器を捨てろ。
曰く、その雷は必中の一撃である。
曰く、その鳴き声はとても可愛らしい。
「そろそろ聖女様も前線の砦に向かう頃だべか」
「んだなぁ。ソフィア様、すっげー別嬪さんだったなぁ」
「俺、握手してもらったぜ!」
「「マジか!?」」
「で、でもよ、砦はかなり悪い状況だと聞いてるぜ。止めなくてよかったのか?」
「もちろん上層部は止めてたらしいけど、聖女様がどうしても前線部隊を慰問したいとのことでな。何ともお優しい方だよな」
「聖女様が前線に行くってんならもっと魔族をぶっ殺しておけばよかったなぁ」
「おめぇ、砦で散々な目に合った! 二度と行きたくねぇって喚いてたじゃねぇかよ」
「聖女様のためなら魔族の一匹や二匹どうってことねぇよ。俺のロングソードが血を欲しがってるぜ」
「はっはっはっ、お前のロングソード手入れしてねぇからちょっと錆び始めてるじゃねぇかよ!」
キュルルー
「あ、あれっ? 何かあっちで光ってねぇか」
「あん? ありゃ、鳥だろうよ」
「と、鳥? ふざけるな! あんなデケー鳥いてたまるか! ありゃモンスターだろ!」
キュルルー、キュルルー
「何で前線でもないこんな場所にモンスターがいるんだよ!?」
「まさか! と、砦がもう落とされてるんじゃ……」
「あ、あ、あっちにも光ってる鳥がいるぞ!」
「せ、聖女様……」
「お、俺のロングソードが火を吹くぜ……」
「お、おいっ! は、早く逃げるぞ」
ズダダーン!!!! ズダン! ズダダーン!!
「ひ、ひぃー。か、雷落としてきやがる!」
「か、固まるなー! 散開するんだ。全滅するぞ!」
「ヒギャァァァァァ!!!!」
一人、二人と雷に打たれ倒れていく。
「くっ、魔法部隊集まれぇぇぇ!」
空からの攻撃は弓兵か魔法兵でしか対処出来ない。しかしながら弓兵は砦に多く配置されているためこの場には少ない。つまり攻撃をするなら魔法しか手段がなかった。
「準備はいいか! 撃てぇぇぇ!」
ファイアボールが塊になって雷鳥を襲うが空中でターンをするとあっさり避けられてしまう。
「つ、次ぃぃぃ! 撃てぇぇぇ!」
散らして逃げ場が無くなるように撃たれたファイアボールだったが雷鳥の体をすり抜けていく。そう。元々、雷の体をした雷鳥に魔法は効かなかったのだ。
「ダ、ダメだ……に、逃げろぉぉぉ!」
「お、おいっ! 逃げるなぁぁぁ!」
ズダダーン!!!! ズダン! ズダダーン!!
「ヒギャァァァァァ!!!!」
雷属性に効果の高いのは土属性と言われている。しかしながら土属性魔法は防御系中心に考えられており遠距離放出系としての地位が低かったのも被害が拡大した理由といえる。
タカシの指示通りに補給基地周辺を探っていた雷鳥はいつの間にかその範囲を広げていって大幅に前線を押し上げ始めていた。
「悪魔の鳥だぁ!! デビルズサンダーバードが来るぞぉぉぉ!!!」
【人魔大戦記録簿】
デビルズサンダーバードによる戦死者は約5000名とも10000名との噂もある。これは人魔大戦における全ての戦闘の中で最大規模の被害とも言われている。しかしながら当時の魔王ヘーゼルによるとそのようなモンスターは魔族領には存在しないとのこと。被害の影響を考え戦後の友好ムードを第一に考えた魔族側が情報を隠ぺいしたのではとの話もあったが、人魔大戦終了間際に現れたその神々しい姿からも両者の戦いを見かねた神々がよこした神使、若しくは眷属なのではとも言われている。
また当時、人魔大戦を嘆き自ら捕虜となることで終戦締結の橋渡しの役目を果たしたとされるソフィア聖女は次のような言葉を残している。「捕虜になったその時、私は初めて神の天啓を授かったのです。体を突き抜けるは電撃のように、しかしながら甘く痺れる衝撃により一瞬にして気を失いました。これが神の力なのですね」この発言からもソフィア聖女の授かった天啓こそがデビルズサンダーバードなのではとの見方が歴史研究家の中でも未だに討論されている。
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