第13章 13話
コンッ、コンッ
「はい。どうぞー」
「あっ、入ります。怪我の調子はいかがですか?」
「おっ、お前はー! こ、この変態!」
「リズ、止めなさい。話し合いをするためにここに来ていただいてるのよ」
「しかしながら聖女様、交渉相手がこの変態とは聞いておりませんでした」
一応、前情報としてピースケには変態的な治癒を撃って捕獲したことを伝えておいた。
「あっ、そう。じゃあ交渉決裂だね」
「ま、待つのです! リズ謝罪しなさい」
「くっ、す、すまない」
「気持ちがこもってないっすね」
「も、申し訳ございません」
あくまでも強気でいこう。そして交渉はこちらが優位に進めさせてもらう。これがピースケと交わしたことだ。
まぁ、聖女様とはいえ捕虜なので向こうも無茶は言ってこないはずだ。そもそも話を持ち掛けてきたのは聖女様なのだしね。
「それで、捕虜の交換だっけ? その情報は確かなの?」
「は、はい。私は直接王子とお会いして話もしております。カシュー王子は間違いなく生きておられます」
「証拠は?」
「ございません」
「話にならないな」
「おいっ! 聖女様に無礼であるぞ!」
「リズ! いい加減になさい」
今回の話はピースケのお兄さん三男のカシュー王子が生きているとの情報が聖女様から入ったことで僕とピースケに話がきたのだ。魔王様が直々に動くことが出来ないらしく、フットワークが軽い五男坊と出世させなきゃならない変態に任せるということのようだ。
「じゃあ、一応質問するっす。カシュー兄さんの髪の長さはどのくらいだったっすか?」
「肩まである長髪です」
「瞳の色は?」
「ブルーです」
「ふむ。捕まえた理由は聞いてるっすか?」
「国王の判断であるとしか……」
とても信用出来そうな王とは思えないよね。
「それで、人族の王は捕虜の交換に応じるのですか? 少なくとも人族側がカシュー王子が来たことを知らなかったと言い張れば、こちらも一応可能性は低いですが盗賊や魔物の類いに襲われたと考えることも出来ました」
「捕虜の交換に応じるということは親書を持参した王族を捕らえたことを暗に認めたことになるっす。それでも応じるというっすか?」
「カシュー王子が匿われている場所は公爵領です。リズに極秘裏に公爵様と交渉させます。私の出身も公爵領ですので話は通りやすいと考えています」
「先にその女を放せと。公爵が国王に内緒で捕虜交換を判断出来るとは到底思えないんだけど」
「その女に聖女様が捕虜にされていることを伝えに行かせたいだけなんじゃないっすか」
「そう思われても致し方ありません」
「何か僕たちを説得させる材料でもあるのかな?」
「この度の戦争はおかしなことが多く、私の慰問も公爵様からの命でございました。私の役目は公爵様からの親書を魔王様にお届けすること。前線に来て魔族領に入る隙を伺っておりましたところ、運が良いのか悪いのか貴方様に捕虜にされた訳でございます」
「魔王様への親書ね。手紙の内容は知っているの?」
「中身を把握している訳ではございませんが、おそらくは戦争を終わらせるための提案かと」
「ピースケ」
「父上に確認しておくっす」
「これは聖女様の考えでいいんだけど公爵様の意向はどんな感じなのかわかる?」
「おそらくは現国王体制の終結と新体制に切り替わるための魔族側からのフォロー。そして、新体制になってからの協力関係の構築といったとこでしょうか」
「何とも都合のいい。つまりはクーデターか。こちらに力を求めるのならカシュー王子を返してもらって先に誠意を見せてもらいたいとこだね」
「おっしゃることはごもっともなのですが、公爵様にも体裁は必要なのです。私を捕虜から解放するためという理由で何とかごり押しはできるはずです。それに、カシュー王子を殺させまいと捕虜として自領に連れていったのは公爵様でございます。どうか信じて頂けないでしょうか」
後づけで何とでも言える言葉ではあるけど僕たちは聖女様の交換に乗るつもりでいる。ピースケもカシュー兄さんを何とか助けたいと思っているしね。
「まぁ、信じよう」
「裏切るかもしれないっすよ」
「その時は人族のあらゆる街に聖女様のアレな表情を写した写真を散撒けばいいんじゃない。ついでに幾つかそこの女の写真も混ぜておこう」
「おー、それは人気が出そうっすね。プレミア写真っす。聖女様としては終わりだとは思うっすけどしょうがないっすね。ちなみに写真というのはこういうのっす」
カシャッ!
ピースケが見せたのはスマホで今撮ったばかりの画像。
「こ、これは私の姿絵!」
「ま、ま、まさか! 補給基地でもこの姿絵を撮っていたのか!?」
実際にはそんな余裕はなかったから撮ってはいない。軽く脅す分には構わないだろう。人道的ってなんだろう。
「捕虜の交換が無事終わったらデータはちゃんと消去しておくよ」
これで少しは人道的になっただろうか。
「ほ、ほ、本当だろうな! 聖女様のは絶対ダメだからな」
「君たち次第じゃないかな」
「その通りっす」
何だかとても黒い二人であった。
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