第13章 10話
聖女様と魔王様の話し合いが気になる。卑猥なことをされたとか非人道的な扱いを受けたとか言われている気がする。嫌な予感しかしないぜ。
魔操から変態にシフトチェンジしてもオーバードライブ出来ない僕の精神状態はパンデミックなスティグマに追いこまれている。
「何を難しい顔しておる! 主役なんじゃからもっと愛想よくせんか」
ディラン宰相が面倒くさい。どうせこのじいさんも二時間後には僕のことを変態と呼ぶに違いない。慰問に来るのが聖女様なら最初からそう言っておいてもらいたかったよ。もっと魔族もしっかり情報集めようぜ。
「祝いの場だというのに何を不貞腐れておるのじゃ。ほれっ、会場に入ったら簡単でいいから挨拶をせい。その後は順次、わしが紹介していくから顔と名前をしっかり覚えるのだぞ」
このパーティーが終わったらヨルムンガンドちゃんと『山形ダンジョン』にでも身を寄せようかな。コウジさんはイケメンだけどロリコンの変態だから僕とも仲良くしてくれるかもしれない。
「あっ、どうもはじめまして。今のところ魔操(そのうち、変態)と呼ばれておりますタカシです。こちらの世界のことはわからないことが多いので、みなさんからご教示いただきながら魔族のために尽力したいと思っていますので、お近づきになりたいという方がいらっしゃいましたらこの後のご挨拶の際にどうぞよろしくお願いいたします」
なんだか会場がザワザワし始めている。挨拶何かおかしかった? 無難な感じにしたはずなのに変だな。
「お、おい! き、聞いたか!」
「あ、あぁ、今のところ魔操って言ってたよな」
「あれは今の二つ名に満足していないということだろう」
「つまり、魔を操るよりも王として君臨する……魔王になるということでは!?」
「ア、アホか! さすがに血の繋がりもない者を……いや、アモナ姫との結婚により末席ながらロイヤルファミリーの一員となり、後見人にピース様がいるとなればあるいは!?」
「公爵位から魔王に即位された例もある。これはひょっとしたら勢力図が変わる可能性があるのではないか!」
「じゃあ、みなさんからご教示ってのは、俺につくなら身分は保証するぜってことか?」
「あぁ、つまりそうでないなら遠慮はしねぇぞということだろう」
「何ということだ! まさか魔王様がいないこの状況で我々の信を問うとは……まさに、鬼神のふるまい!?」
「あの苛立ちに満ちた表情を見ろ! 心ここにあらず。すでに頭の中は人族を滅ぼした後を考えているに違いない!」
「ど、どうするのだ!」
「まさかこの場で判断せねばならぬとは!」
「あの仲の良さ。宰相様はすでに魔操派とみるべきであろう」
「ま、まさか!」
「お、おい! 第二王子のピスタ様がご挨拶に向かっているぞ!」
「第二王子まで!? ば、磐石の基盤を築こうとしている」
「こ、これはどっち派とか関係無く挨拶だけでも早く行っておくべきなのではないか!?」
「よし、行こう!」
「わ、我々も遅れをとる訳にはいかぬぞ! 恐らく時間を要すれば派閥の末席になってしまう」
「わ、私は魔王様派だけどとりあえず挨拶はしておこう」
「待て、私が先だ!」
なんだか急に会場が騒がしくなってきたな。さっきまでの静けさは一体何だったんだ。
「これはこれは、ピスタ様。わざわざ魔操殿にご挨拶でございますか」
「やぁ、ディラン。ピースのマスターだからね。実は会うのを楽しみにしていたんだよ。ピース、久し振りだな。無事に戻ってくれて嬉しいよ」
「ピスタ兄さんご無沙汰っす。ご挨拶が遅れて申し訳ないっす」
「いやいや、話は聞いてるよ。戻ってきてから忙しかったみたいじゃないか。そちらが魔操のタカシ君だね。ピース、早速だが紹介してほしい」
「自分のマスターっす。将来は義理の兄弟になりそうっす」
ぎ、義理の兄弟って、確かにそうだけどさ。
「ど、どうもはじめましてピスタ様。タカシと申します。あっ、これよかったら召し上がってください故郷のお土産『ピーナッツ最中』です」
「わざわざありがとう。ピースのことも頼むね」
「はい。もちろんです!」
「それと今度、魔力操作の勉強をしたいからタカシ君の手が空いた頃を見計らってあらためて声を掛けさせてもらってもいいかな」
「あっ、はい。私でよければ喜んで」
「うん。じゃあ、なんだか行列が凄いことになっているから僕は退散させてもらうよ」
気がついたらクリメニア伯爵一派を除く全員がずらりとピスタ様の後ろに列を作って並んでいたのだった。
やはり、こういったパーティーというのはなかなか食事が出来ないのがデフォだね。誰も食べてないし……。僕ちょっと喉が渇いてきたんだけどな。あ、あと聖女様……今頃話をしているんだろうな……。
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