第13章 5話
僕たちは前線に向けて三方向からアタックをかけるべく歩を進めている。まもなく到着するという頃に通信器具からの連絡がレヴィからレイコさんに入った。僕についているバッジと同じ形をした通話機能に限定した代物をお借りしている。
「こちら二班、現場に到着しましたどうぞ」
「レヴィちゃんノリノリね。こちら三班。同じく現場に到着しました。前線部隊との顔合わせも完了していますどうぞ」
「お兄さまもそろそろ到着ですかねどうぞ」
「レヴィちゃん、別に語尾にどうぞつけなくてもずっと聞こえてるから大丈夫よ。切り替えとかない通信器具みたいだし」
「雰囲気的なものですよ。お姉さまはご迷惑お掛けしてませんか?」
「うん。大丈夫よ。どちらかというと秘めた闘志を隠しきれてない感じ。暴れ出したら、ちょっと止められなそうです」
「まぁ、ストレスを発散したいという意味では私も同じです。レイコさんもでしょ?」
「えぇ。一体何なんですかね。いきなり婚約とか! 思い出したらまたイライラしてきたぁ! そろそろ何か喋ったらどうですか? タカシさん!」
この通信器具は10名以内なら同時接続が可能な代物だ。僕の耳にはさっきから二人の会話がずっと聞こえている。
「……えっとね、ごめんなさいって言ってる」
「「ヨルムンガンドちゃん!?」」
チーム分けは一班が僕とヨルムンガンドちゃん。二班がレヴィとウンディーネ。三班がレイコさんとティア先生だ。
「とりあえず、準備が整ったら絶対零度をそれぞれの砦に向かって撃つようにって言ってる」
「わかったわ」「まったくもう!」
「砦を落としたら目標地点で合流しようって言ってる」
「はいはい」「後でゆっくり話し合いをしましょうって伝えておいてね。ヨルムンガンドちゃん」
通話がオフになってようやく心の静寂が訪れている。ふぅー、今は何も考えたくない。
「マスター、女性陣を敵に回すとかやめた方がいいと思うぞ」
「敵に回すつもりはこれっぽっちも無いよ。僕はむしろ何もしていないと思うんだけどな」
何もしてないからよくないのはわかっている。
「言い訳は男らしくないぞマスター。もっとこう結果は結果として受け止めた上でみんなにちゃんと説明しとけよ」
さすがヨルムンガンドちゃん。恋バナの相談に乗れる五歳児なのである。
「いや、正座させられて喋らせてもらえなかったのヨルムンガンドちゃんも知ってるよね?」
ピースケの家に行って婚約の話が出てからは僕は床に正座させられ、足を崩さないように曲げた膝を紐で縛られていた。これはきっと新種のプレイなのだと思う。すぐに紐を用意してみせたミルさんもどうかと思うし。あと、途中から膝の上に乗ってきてヨルムンガンドちゃんがとても楽しそうだったのはよく覚えている。
ピースケから順を追って説明があったので僕に非がないことは理解しているはずなのに、下着とか抱きつかれたとかのワードが発せられる度に冷めた目線を向けられていた。
「まぁ、あれだよな。マスターもみんなのことちゃんと考えてるんだろ。いい機会じゃねぇか」
まさかヨルムンガンドちゃんにそんなことを言われる日がくるとは思わなかった。でもまぁそうだよね。わかっている。
「そ、そうだね。確かにいい機会かもしれないね。でも急に婚約とか言われても実感が湧かないんだよな。しかも今日会ったばかりのピースケの妹でお姫様ときた」
「よくわかんねぇーけど、別にすぐ結婚する訳じゃねぇんだろ。これから長くつき合っていく中で育んでいけばいいんじゃねぇか」
周りに大人が多いせいかヨルムンガンドちゃんの精神年齢も上がってきているのかもしれない。今日はなかなかに大人びた五歳児なのである。
「目標地点に集合したらちゃんと話をするよ」
左右から轟音と共に氷の世界が各々の前方の砦に向かって押し寄せている。こちらも始めようか。賢者の杖を掲げ全てを凍らせる中級魔法を放つ。
絶対零度!
ピコン! レベルが73に上がりました。
「この世界はダンジョンの中とか関係なくレベルが上がると言われたけど本当みたいだね。さて、ヨルムンガンドちゃん行こうか」
「しっかり頼むぞマスター」
砦にはひょっとしたら生き残りがいる可能性もあるのだが、僕たちは先に進むことになっている。敵将首を含め元々前線で工作活動をしていた部隊が回収及び殲滅、そして砦の破壊をしていくとのこと。
次の目標地点は人族の前線における食糧供給を支えていた基地だ。後方に撤退する前に食糧ごと押さえるようにとの指示を受けている。更に情報では人族のお偉いさんが慰問に訪れているらしく捕虜にとるように言われている。宰相様がお金になりそうだと大変喜んでいた。
ただ、生きたまま捕まえなければならないのでちょっと面倒くさい。誰がお偉いさんかもわからないし変装してる可能性だってあるかもしれない。
みんなとも相談しようと思うけど、あとで回復させればいいので見つけ次第に足を潰していこうかと思っている。
なかなか残酷な考えだが助けを呼びにいかれても困るのでしっかり囲いこみながら逃がさないようにする。
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