第13章 1話
「アモナ、そのスケコマシから早く離れなさい。口では言えないひどいことをされてしまうのだぞ!」
娘に向かってその会話はないだろう。いや、僕に対してもだけどね。もはや魔王様というより子煩悩な親バカだ。
「タ、タカシ様になら何をされても……きゃっ! 構いませんわ。は、恥ずかしいですわ……」
上目遣いで覗きこむように見上げてくるアモナ姫は童顔で小動物のようなウルウル瞳が可愛らしい女の子だ。日本なら完全に条例違反になる14歳らしい。もうすぐ15歳になるらしいけどそれでも捕まります。
「おい、変態マスター! 覚悟は出来ているんだろうなぁ! 勝負だ! 俺が勝ったらお前を殺す。お前が勝ったらアモナを返してもらおう」
「お父様は気が狂ってしまったのかしら? タカシ様が勝ったらアモナはお嫁に行かせてもらいますわ」
「ならん! ならぬぞ!」
ぼ、僕には殺されるか、結婚するかの選択しかないらしい。
「ピースケ、魔王様ってやっぱり強いよね?」
「多分、マスターの方が圧倒的に強いっすよ。魔王は王位継承の際に特殊なスキルを受けとるっすけど、それはあくまでも守りに特化したものっす」
「じゃあ、僕が戦うのは?」
「代理のダンジョンマスターっすかね」
「ダンジョンマスター!?」
その時、訓練所の入口をゆっくりと入ってくる人影があった。着物姿に脇には刀を差している白髪の若い侍。まさか同郷の方だろうか。
「魔王様、遅くなりました」
「おぉ、タカモト来たか。早速で悪いが一人斬ってくれ。変態タカシという」
そういって僕を指差す魔王様。もちろん、僕の後ろには誰もいない。
「ちょっとお父様! 対戦相手がタカモト様とか酷いですわ」
「おー、かわいいアモナよ、すぐに解放してあげるからな」
「なるほど。ピース様のダンジョンマスター殿でしたか。それは面白そうですね」
僕を見てニヤリと笑みを浮かべた侍はきっと戦闘大好き人間だろう。同郷のよしみで何とかならないだろうか。
「マスター、訓練所では致死性の攻撃を受けても気を失うだけで死にはしないっす。あと、タカモトっすけど、現在最強のダンジョンマスターでレベルは103っす。スピード特化型っすから気をつけるっすよ」
「やっぱりもう戦うのは避けられないのね。レベル103ってヤバいね。どうにかして逃げ出したいんだけど」
「もともと誰かしらと模擬戦をする予定だったとは思うっすけど、まさか一番強いマスターが来るとは思わなかったっす」
「そうだったんだ。死なないで済むならあっさり負けちゃえばアモナ姫とも結婚しないで済む?」
「タカシ様はアモナがお嫌いなのですね……」
「いや、嫌いとかじゃないんだけど……」
さっき会ったばかりで好きも嫌いもないんだけどさ。正直そんな目で見られても困ってしまうのだが……。
「マスター、負けるって言っても死ぬ経験をすることになるっすよ? 参った無しっすけど大丈夫っすか?」
「ええー、参った無しなの? それはちょっと嫌かな」
「まぁ! タカシ様は戦わずに負けようとしてらっしゃったのですか? アモナは悲しゅうございます」
そんな話をしていたら試合がそろそろ始まる流れになってしまった。もう逃げられないようだ。
「両名、前に!」
審判らしき城兵が真ん中に立ち僕らを呼ぶ。城兵は周囲を囲うように壁になる。やはり逃がしてはくれないようだ。
「はぁ、仕方ない。じゃあいってくるよ」
前に進み出るとタカモトと呼ばれた侍も同時に前へ出てきた。
「タカシ殿と言ったかな。某、タカモトと申す。力比べは楽しみである。尋常に勝負なされよ」
「タカモトさんはカイトさんと同様に転生して第二世界でダンジョンマスターになった人かな?」
「だとしたら何でござろうか。同郷のよしみで手を抜くとかは某の一番嫌いなことでござるが?」
「いえ、ちょっと聞いてみたかっただけです。何でもないです。気にしないでください」
なんて嬉しそうな顔をしているのだろう。そんなに戦うの好きなら人族との戦いに行けばいいのに。
「某も前線で暴れまわりたかったのであるが、まだ出番ではないようでな。つまらない留守番をさせられておったのたが、どうやら留守番も悪くないようであるな」
ぼ、僕、言葉を発してないんだけど心とか読めるのかな? かな? 侍スキルとかあるのかな?
「そんなスキルはないのである。言うなれば、武士の勘でござるな」
鋭すぎるわ! ほぼスキルみたいな勘じゃないか。さて、そういうことなら周りの人にも聞こえるように大きな声で少し動揺を誘ってみようか。
「タカモトさん、僕の得意とする戦法は広範囲出力の魔法なんですけど、周りの城兵や魔王様を巻き込んでしまうことになっても構わないのかな? 死なないから大丈夫なんですよね?」
城兵は顔色一つ変えず一歩も動かないし、魔王様もやってみろと言わんばかりに笑っていやがる。防御は得意ということか。
「タカシ殿は魔法が得意なのであるか。それは楽しみであるな。但し、某に当てられるものならではあるが」
審判の手があがり声が発せられる。
タカモトさんは半身になり居合いの構えで刀に手をおいている。
「それでは、始め!」
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