閑話 12
ここしばらくは人族の侵攻は鳴りを潜めている。部下からの情報によると単純に人手不足で手が回っていないらしい。
明らかに戦線が間延びし過ぎている。おそらく、最初の頃はスラム街対策と奴隷による開拓で順調に進んでいたのだろうが、奴隷も疲弊し使い潰され、開拓に携わるスラム街の住人もいなくなったというところだろう。
「カイト様、今夜もちょっかいかけるんですか?」
「そうだね。敵は人員も少ないしそろそろ寝不足で参ってくる頃だよね。もう少し継続してみよう。他の前線基地の状況も確認したい」
「かしこまりました。すぐに確認いたします。それでは兵には三交代制を継続させますね」
「うん、よろしく頼むね。みんなの体調はどう?」
「普通、戦場では休めませんからね。そりゃ、みんな元気ですよ」
私の部隊は前線の足止めと工作活動を主として任されている。前線における人族の攻勢は殆どなく、三交代制にしたことでしっかり休息をとれているのが何よりも喜ばれている。休みの者は闇の門に入るため、戦闘音や振動で目が覚めることもないし、ゆっくり食事をとることが出来る。
「あっ、そうそう。カイト様にオランズ様からの手紙を預かっております。どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
「それでは私は夜襲部隊との打ち合わせに行って参ります」
あー見えて、なかなか気遣いのできる参謀だ。私がゆっくり手紙を読めるよう席を外したのだろう。前線でゆっくりと手紙を読める指揮官というのも珍しいものだが、それほど今の状況は好転し始めている。火力のある部隊が応援にくれば一気に戦線を押し戻せるかもしれない。
「さて、オランズ様からの手紙だったね。どれどれ……」
私はダンジョン協会の刻印が入った封蝋を剥がすと中から数枚重なった便箋を取り出した。一枚目はオランズ様のものだった。私が転生前に住んでいた世界からポイントクリアをしたというダンジョンマスターのことが書かれていた。
なんとたった一年で条件をクリアしたスーパールーキーとのこと。名前はタカシ君、僕と歳は近いようだ。残念ながらグループへの勧誘には失敗したらしく文章を見る限りとてもくやしそうに見受けられる。
二枚目からはそのタカシ君からの手紙だった。何で私に手紙を……。
読み始めると笑いと涙が止まらなかった。こんなに感情を表に出したのは久し振りかもしれない。
「そうか、元気に生きているんだな……。それにしてもよりによってダンジョンマスターになってるとはね。はははっ!」
手紙の内容はとても信じられないような話で溢れていた。
私のダンジョンでボスモンスターをしていた『ゲリュオン』が第三世界に転生していた。
しかも女の子三人組で。
あんなゴツくて格好よかった『ゲリュオン』が。てっきり雄だと思っていたよ。
しかも三人はモンスタードールズというユニットでアイドルデビューをしていたらしい。『ゲリュオン』がアイドルやるとか。なんてアホっぽいんだ!
三人の名前はリーダーのミク、魔法使いのサクラ、モフモフのリノだそうだ。
「ちょっ、モフモフのリノって一体どんな役割だよ!?」
更に驚かされたのはボスモンスターには私と相討ちになった勇者がいるとのこと。ちょっと複雑な気持ちになったけど、すっかり改心しており三人の力になってくれているとのことなので安心した。
さらに面白いのは、なんと三人は合体が出来るらしい。まったく戦隊ものかよ! 時間制限はあるようだけど『ゲリュオン』に戻れるらしい。タカシ君のサポートのもと力を蓄えているとのことだし、案内人もカーキ様とダンジョンとしては恵まれているようなので、ちょっと心配だけどきっとクリアしてくれると信じている。
私は第二世界でダンジョンを失い、専属の研究者としてオランズ様のグループに在籍することになった。僕の研究内容は勇者の攻略について。『ゲリュオン』達が勇者についていろいろ(拷問)調べてくれたようなので次会うときにデータを頂こうと思う。そう、また会えるんだね。
「さて、ちょっと元気もらったし今夜は盛大に嫌がらせをしようか! 私も夜襲部隊の打ち合わせに参加しよう」
その日の夜襲は勢い余って砦を落としそうになってしまった。いけないいけない。砦の維持にもっと人手と大量のお金を消費してもらわなければならないのだ。簡単に帰れると思うなよ! 私は今とてもやる気に充ち溢れているのだからね。もっとじっくりたっぷり遊んであげよう。
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