第2章 3話
沙織の死から数時間後、男性4人組の死亡も確認された。いったい何が目的なんだ。
私達は洞窟から戻ってきたSPとも合流し、官邸で会議を行っている。
「それで、洞窟内はどうなっていたのだ」
静まりかえった会議場で言葉を発したのは第二次佐野内閣の官房長官、野崎だった。
「洞窟はすぐ行き止まりで、何もありません」
「何かするような場所にも思えませんし、立ち寄ったのは、あくまでも偶然かと」
「もうあの洞窟を調べる必要性を感じませんね」
洞窟内を調べたSPに確認した際の回答だ。なるほど。
それを聞いた佐野首相は三人に対してこう述べた。
「そうか。浜金谷駅の防犯カメラを確認したところ亡くなった方の全員ではないが多くの方が映っていた。車やバスで向かった者もいるのだろう。みんな君らのように青白い顔をしてな。取り押さえろ!」
「はっ!」
すぐさまSPによって床に取り押さえられる三人。
「み、脈がありません!」
やはり、か。この三人もすでに。
「やはりバレていましたか。マスターがおっしゃられた通りですね。お見事です人間達。我が主に代わって教えてさしあげましょう。あの洞窟はダンジョン。千葉ダンジョンです。これからこの国はマスターによって支配されていくでしょう。せいぜい足掻いてみることです」
そう話すとまるで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「お、おい!だ、ダンジョンだと。千葉ダンジョンということは、他の地域にもあるのか?おいっ!き、聞いているのか!」
返事がない。もう動かないのだろう。あれはいったい何なんだ。死んだ人間をどうやって操れるのだ。
「板東事務次官、辛いだろうが君の意見を聞かせてほしい。やつらの目的はいったいなんだと思うかね」
「総理、やつらの目的は結果的に殺人。しかも1万人超の大量殺人という例を見ない事件です。あの洞窟、いやダンジョンについて我々は知るべきです」
その後の会議は紛糾した。
「ダンジョンとは何なのだ。マスターとやらの目的は」
「どうやって死んだ人間を操れる。敵は死霊使いか、吸血鬼だとでも言うつもりか!現実の世界にファンタジーかね。まさか、魔法でも飛び出すのではないか。はっはは」
「あれは長くは操れないのだろう」
「平均して26時間程度です」
「だが、その時間があれば奴らは無差別テロをいつでも何度でも起こせる」
「っ、交渉の余地はないのか」
「アメリカには伝えるべきか?」
「今の時点で何を伝えられる」
「特殊部隊を派遣する」
「自衛隊でなくていいのか!」
「情報が足りなすぎる。今は戦力というより情報収集だろう」
「とにかく交渉はそれからだ。情報もなく交渉など出来るか!」
◇◇◇◆◆
そうして、2週間後。
特殊部隊によるダンジョン探索が開始された。
すでに鋸山周辺一帯は封鎖されており、対外的には地質調査となっている。
「川崎隊長、地質調査の結果でました。洞窟の奥行約10メートル。幅は約3メートル。以上です」
「そんな狭い洞窟でダンジョンとは言わんだろう。何かしら妨害されていると考えるべきかな。準備は大丈夫か?」
全50名で構成された特殊部隊でこの千葉ダンジョンをどのように攻略するか。ある程度流れは決まっている。あとは、状況に応じてだな。
「装備整いました!いつでもOKです」
「全員慎重に行けよ。未知の相手だ。何が起こるか見当もつかん。常に撤退を視野に入れながら進め。説明したが、青白い顔のやつは敵だと思え。決して油断するなよ」
まずは定石通りに、閃光弾と催涙ガス投入。その後、ガスマスク装備の10名を突入させる。
それで殲滅可能なら問題ないが、まずは様子を見ながら入口付近から順次赤外線カメラの設置を優先させる。安全な範囲を確保しながら進んでいく。
あとはロボットカメラにてのんびり探索といこうか。
ファンタジーに魔法なんか出てきても詠唱中に蜂の巣だ。科学の力を思い知りやがれ。
「よし。突入だ」
さて、どうなることやら。
じっくり構えるとしようか。