第12章 5話
ティア先生とレヴィがかなり頑張ってくれたようで、三階層草原のフロアに来たカモメのジョナサン御一行の数はすでに二万を切っていた。
とはいっても、二人で八万もの『ガルーダ』を倒したわけではなく、そのほとんどが一階層の通路や菜の花畑に瀕死の状態で横たわっている。
「レイコさんとウンディーネは一階層の掃討戦に参加してレベルを稼いできて。ここは僕とヨルムンガンドちゃんで引き受けるよ」
「大丈夫ですか? まだジョナサンの強さはわかっていないのでは……」
「俺がいるから大丈夫だぞレイコ。マスターは俺が守るから安心して行ってこいよ」
なんて男らしいセリフを話せるのだヨルムンガンドちゃん。しかもとてもナチュラルに。何となく男として悔しい気持ちになってしまうじゃないか。
「まぁ、そういうことだから。はははっ。この後は空中戦メインになると思うしティア先生とレヴィを一緒に手伝ってあげてよ。ウンディーネもよろしくね」
ウンディーネはレイコさんの頭に乗り微笑んでいる。ティア先生と一緒にいる時は胸の谷間に落ち着くのだが、レイコさんだと落ちてしまうのだろう。
「わかりました。でも無理したらダメですよ。ヨルムンガンドちゃん、タカシさんをよろしくね。ヨルムンガンドちゃんもあんまり危ないことしちゃダメなんだからね」
ブンブン手を振りながらバイバイしているヨルムンガンドちゃんだが、目はギラついている。あれは捕食者の目だ。絶対に僕を守るつもりなんてこれっぽちもないだろう。いや、攻撃が最大の防御とか思っていそうだ。
「『ワイバーン』、準備はいいか? 『グラスバイパー』と『グラスウルフ』は落ちてきた『ガルーダ』をしっかり仕留めてくれ。じゃあ一気にいくよ」
二階層から飛び出した『ガルーダ』達は何かを待っているかのように階段周辺に固まったまま集団飛行をしている。
「指示待ちか? 固まってくれているならありがたい。ジョナサンが来る前にガシガシ削っていこうか『ワイバーン』ゴー!!」
上空高くから様子を見ていた『ワイバーン』が一気に降りてくると、それに気づいた『ガルーダ』達が一斉に逃げ惑う。どちらが捕食者なのか瞬時に理解できたのだろう。
尻尾で叩き落とされる者、翼を食いちぎられ地面に叩きつけられる者、混乱し、逃げる者同士でぶつかり合い落下していく者もいる。
草原には数多くの『ガルーダ』が落ちてくるが、すぐさま『グラスバイパー』が絞め殺し、違う場所では『グラスウルフ』達が急所に噛み付き仕留めていた。
「マスター、羽毛布団いっぱい作れそうだな!」
「汚ないから拾わなくていいよヨルムンガンドちゃん。それちょっと血がついてるし……」
「洗えば大丈夫だろ。あとで『グラスウルフ』達に集めてもらおうぜー」
五歳児は寝る時間が長いからベッドに情熱を持っているのかもしれない。
「……ヨルムンガンドちゃん来たよ」
「へー、あれがカモメのジョナサンか」
『ワイバーン』にやられるがままだった『ガルーダ』達の動きに変化が表れた。反撃は出来ていないが、ただ逃げ惑う個々の動きから柳のようにしなやかに集団でかわす動きへと切り替わっている。
「もっと精神的にやられているかと思ってたんだけど意外に頑張るね。僕なら二階層辺りで、もう少し現実逃避してるんだけどな」
「一階層の催眠の罠が頭に残ってるんだから前に進むしかねぇだろ」
「まぁ、それもそうか。おっ、大分バラけてきたね」
その時、ジョナサンが急に輝き始めると体が炎に包まれ、いや炎そのものになってというべきか。もの凄いスピードで『ワイバーン』の首目掛けて突っ込むとそのまま焼き切って飛び去っていった。
治癒!
突然、首が無くなり落下し始めていた『ワイバーン』を反射的に治癒するとまるで甦ったかのように首から先が繋がっていき、ふと我に返った『ワイバーン』は再び上空へと無事上がっていってくれた。
「なんだ今の攻撃は?」
「マスター、あの鳥さん燃えてるぞ! ジョナサン、焼き鳥に変身出来るのか!!」
焼き鳥ではないと思うけど、ジョナサンさんは火の鳥になっていた。体自体がゆらゆらとまさしく炎になっている。スピードもかなり上がっているようで僕でも目で追うのがやっとだ。
こちらを向いて一直線に飛んできている。どうやら治癒を撃ったことで僕たちに気がついたようだ。
「マスター、どうする?」
ヨルムンガンドちゃんがウズウズしているのはわかるが、ここは少し待ってもらおう。
「ちょっと試してみたいことかあるから僕に任せて」
「わかった」
意外とものわかりがいいヨルムンガンドちゃん、珍しい。このあとは存分に暴れてもらおうと思う。
疾風!
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