第2章 1話
「ニュースです」
「千葉県を中心とした関東近郊において、若年性の突然死が相次いで発生しております。今夏より同様と思われる突然死は増加しており1万人を超えて尚、増え続けています。政府は、新種ウィルスの恐れも考えられるとして、急ぎ対象者の死亡前行動情報を集め検証作業に入っているとのことです」
「本日は千葉大学医学部の大塚教授にお越しいただいております。大塚教授、突然死というのはどうして起こるでしょうか」
「そうですね。虚血性心疾患、心室性不整脈、大動脈瘤破裂など死因が特定できるものと、解剖などによっても疾患の特定できない原因不明の突然死があります」
「今回のは原因不明のケースということになるのでしょうか」
「一概には言えませんが、若い世代で突然死が拡がっているという点に違和感を覚えます。通常こういった突然死というのは高齢者に多いので、非常に珍しいケースといえます。また、政府がウィルスを疑っているのは成田空港がある千葉近郊に集中していることからも理解できますね」
「つまり海外から未知のウィルスが入ってきているということも考えられると」
「あくまでも可能性ですが」
「原因がはっきりわからない以上、むやみな外出の禁止とマスクの着用をおすすめします」
「続きまして、次のニュースです」
◇◇◇◆◆
場所は代わって永田町。
「塩見大臣、やはり海外渡航者に例の突然死が多い傾向にはありますが、渡航先がバラバラでハワイ、グアム、台湾、インドネシアと絞り込めません」
「まぁウィルスの線は薄そうだからな。一応、念のため国交省にも、あと小松大臣にも連絡して空港の検疫強化を促してもらいなさい」
私は第二次佐野内閣にて厚生労働大臣を務めている塩見だ。何故私が大臣の時にこんな問題が起きるのか。
しかも私の選挙区である千葉で起きているとなると、手を抜く訳にもいかない。いいPRの場となれば良いのだが、まったく困ったもんだ。
「板東事務次官、いつになったらまともな解剖結果が出てくるのかね。いったい何例目だと思ってるのだ」
「大臣。何度も繰り返しますが、解剖の結果は同じです。外傷もなく、血管や臓器の破損もなく、そしてウィルスも検出されておりません」
「では、いったい何が起きているというのだ!たまたまだとでも言うつもりか!」
「はっ。ただ、気になる点はございます」
「なんだね。もったいぶるな、早く言いたまえ」
「はい。死亡推定時刻が合わないのです。死体検案の結果から平均して24~30時間程度前に亡くなっているはずなのですが、その時間は間違いなく生きていたはずだと報告が上がっております」
「死亡推定時刻がそんなにずれるものなのかね?つまり、君は死体が街中をゾンビのように闊歩していたとでもいいたいのか。くだらん」
「まだあります。亡くなる直前の対象者の状態ですが顔は青白く、普段とは違うテンションの高い状態にあり、また強い眠気があったと」
「どういうことだね」
「わかりません。これが亡くなる前に共通することとしか。ただ、おそらくですがその時点で身体的にはすでに死んでいるのでしょう」
「オカルトの類いは好まん。引き続き、まともなことを調べてくれたまえ」
「かしこまりました。では、本日はこれにて失礼致します」
それにしても不思議な事件だ。私が厚生労働省に入省してから今まで経験したことのない何かが起きている。死ぬには若すぎる若者の突然死。
しかもウィルスの可能性は低いのに拡大流行している。千葉近郊だけですでに1万人を超えている。異常だ。
しかし、わからないものはどうしようもないか。今日は考えることが多く脳が疲れているようだな。今は緊急の予定も入っていない。早めに家に戻るか。
そうして、数ヶ月ぶりに早めの帰宅をすることにした。
「ただいま」
「あらあなた。おかえりなさい。今日は早いのですね」
「今日は疲れてしまってね。早くあがらせてもらったんだ。沙織はどうした?」
「あの子なら、明日朝から予定があるから早めに寝るって言ってご飯も食べずに2階に行ってしまったわ」
「たまには家族で外食でもと思ったんだがな。どれ美味しいフレンチで誘ってみるか」
私は、娘の部屋の前に立ち扉をノックした。
「沙織、今日は早めに帰れたからみんなでフレンチでも食べに行かないか」
「明日朝から用事あるから早めに寝るのー!」
何かいつもと様子の違う娘に違和感を持ちながら、扉を開けるとすでにベッドに横になっている沙織がいた。
「ご飯はいらないの、か?って沙織!どうしたんだ。顔色が悪いぞ!大丈夫か?」
「えっ。平気だよ!明日の約束が楽しみでテンション上がるー!」
「そ、そうか。じゃあ父さんたちも外食はやめて家で食べようかな」
「うん!おやすみー!」
どうして、どうしてこうなった。
あれは、あの症状はまるで。くっ。