第11章 6話
居住区に行くとミサキさんとガルフがゆっくりお茶を飲んでいた。『オークソルジャー』のブーちゃんが可愛らしい花柄のエプロン姿でお盆を抱えているのでお茶を用意してくれたのは彼なのだろう。エプロンの趣味はきっとミサキさんだろう。
「ガルフに聞きたいんだけど、うちのティアは今何やってるか知ってる? 一緒じゃないところみると別行動なんだろうけど」
「あー、あの姉ちゃんならオカマの兄ちゃんの乗ってきたトラックに牛を乗せろとか言って揉めていたぜ。何か養鶏用のトラックに牛は無理だとか言ってたな。とりあえず新しく10台トラックをチャーターするとかで決着してたはずだ」
牛の方だったか。トラック10台って牛何頭分なんだろう……。まさか、本当に品種配合とか始める気じゃないだろうな。
「それで、いつ頃戻ってくるとか言ってた?」
「今日中には戻ると言ってたぜ。夕飯はいらないからと伝えてくれって言ってたから遅くはなるんだろう」
間違いなくグルメツアーを敢行してるな。旅のしおりに忠実な行動とも言える。あんまり目立たないようにしてくれていると助かるんだけどね。僕は肩にとまっていた『てんとう虫』さんにフォローをお願いすることにした。
「『てんとう虫』さん、君の仲間がティアと同行しているだろうから安心はしているんだけど念のため何か問題があっても揉み消せるように準備しておいて」
『てんとう虫』さんは空中で一回転して了解の意を示すと外へ向かって行った。
「なんかちっこいけど便利そうなモンスターだな。姫様の眷属みてぇなやつか」
「そうだね。とっても頼りにしてるんだ」
「ブーちゃん、タカシ君にも美味しいお茶をお願いしてもいい?」
ブーちゃんは頷くとくるんとエプロンをひるがえし、早速お茶の準備に向かってくれるようだ。ブーちゃん、意外とエプロン気に入ってる?
「ミサキさん、ブーちゃんありがとね」
「そういえば、タカシ。姫様から話は聞いているか?」
「何の話? 多分、何も聞いていないと思うけど」
「おかしいな。タカシに相談するって言ってたんだけどなぁ……」
その時、会議室の扉が開くと少し眠そうな目を擦りながらリリアさんが入ってきた。
「ガルフ戻ってたのか。話すかどうかちょっと迷っておったのだ。ちょうどよい、今からみんなに話を聞いてもらおう。ミサキ、私にもその飲み物を頂けるか?」
「えぇ、もちろん。ブーちゃん、追加よろしくねー」
リリアさんは僕に向かい合うように座るとその綺麗な脚を見せつけるようにゆっくりと組む。机の上には両手で頬杖を作りながら上目遣いで見つめてきた。
「あのー、リリアさん?」
「なんなのだ! ミサキ、全然上手くいかないじゃないか。それともタカシは女性に興味がないのか?」
ミサキさんを見ると頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。
「リリアさん、もう少し自然にやってくれないと意味がないというか急ぎすぎだわ。いろいろと台無しじゃない……戦略の練り直しが必要ね」
まぁそれなりに効果はあったのだけど、あからさまというか不自然だったからね。リリアさんみたいな綺麗な人に狙われるのは悪い気がしないけど、残念ながら狙われてるのは僕の血のような気がするんだよね。
「ミサキさん? リリアさんに何をレクチャーしてるのかな?」
「えーっと、リリアさんとはご近所さんだからそれなりに協力すべきところは協力しようと思ってるのよね」
「えー! ま、まぁいいや。リリアさん、早速で悪いけど相談ってのを聞かせてよ。あ、脚は組み直さなくていいから!」
「おぉっ、それなりに効果はあるのか!? もう少し継続してみてもよいのかもしれぬな。では、早速だけどみんなに話をさせていただくとしよう」
リリアさんの話を要約すると、『大阪ダンジョン』のダンジョンマスターから会談の連絡が入ったとのこと。内容については情報交換と今後の相談をしたいと言っているそうだ。
「タカシはどう思う?」
「話は聞いてみてもいいんじゃないかなって思うけど、リリアさんは『大阪ダンジョン』のダンジョンマスターってどんな人なのか知ってるの?」
「前の世界で一度会談したことがあってな。あの時は相互不可侵条約と境界の線引きの話し合いをしたのだ。奴の名はジョナサン、カモメのジョナサンだ。あくまでも私見だが、調子のいい奴を演じているようにも感じた。おそらく油断ならないズル賢い面も持ち合わせているだろう」
「カモメのジョナサンか。仲間に引き込むのは難しいの?」
「本音をさらけ出すようなタイプではない。厳しいだろうな」
「それなら、カモメ達を利用して優位に交渉を進められるように仕向けるか」
「タカシ君、何かいい案があるの?」
「さすがタカシだな。申してみるがよい」
「いや、まだ浮かんでないよ。リリアさんは会談を受けてもらっていいかな。出来れば一週間よりも後が好ましいかな。なるべく時間を引き延ばしてほしい」
「えぇ、わかったわ」
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