第10章 15話
待つこと僅か30分。米軍の戦闘用ヘリコプターがやってきた。言ってみるもんだな。
「ものすごい音ですわね。どこか欠陥でもあるんじゃないかしら? タカシ様、本当にこれに乗りますの? 私、水竜になりましょうか?」
「大丈夫だよ。いいから乗った乗った」
「ちょ、押さなくても乗りますわ。さ、最悪、墜落しても水竜になれば大丈夫かしら」
不安がるティア先生の背中を押してヘリコプターに乗り込む。どのくらいで到着するか聞いてみたところ二時間も掛からずに『佐賀ダンジョン』の目の前に行けるらしい。ありがたい。
お土産にもらった『名物かまど』を食べながら話をしていたら、あっという間の到着だった。帰りもヘリコプターをお願いしよう。ダンジョンの目の前まで来れるのはやはり楽だね。『千葉ダンジョン』もボート小屋の駐車場が中々の広さなので着陸するのに問題ないだろう。
「帰りもお願いしたいからまた連絡するね」
「かしこまりました。準備しておきます。ではお気をつけて」
「うん、ありがとう」
ヘリコプターを降りて『佐賀ダンジョン』に向かって歩き始めるとカモメがいないことに気付いた。
「ティア、こっちにはカモメはいないのかな?」
「そうですわね。でもあの辺りとか何か争ったような痕跡がありますわ。白い羽根が所々に落ちてます」
「ミサキさんにそんな指示はしてないから、リリアさんかな」
中途半端に捕まえて取り逃がしていたら目も当てられないんだけど、リリアさんなら大丈夫だろう。大丈夫だよね?
「手間が省けまして結構ですわ。どちらにしろダンジョンに行けばわかりますわ」
「そうだね。じゃあ行こうか」
ダンジョンに入ると狼男とオークソルジャーのブーちゃんがお出迎えしてくれた。この狼男がいるということはリリアさんも来ているのだろう。ダンジョンポイント勿体無くないのかな。かなり血を吸いたいように見える。
「この間ぶりだね。ちゃんと生き返っていてよかったよ。狼男さん」
「ガルフだ。スピード特化型じゃなくて魔力特化型のタカシだっけか?」
根に持ってらっしゃる? いや、そんなタイプではないか。
「ごめんごめん。少しでも楽にクリアしたかったからさ。とはいえ、君たちの連携プレイには度肝を抜かれたよ」
「フンッ! 姫様とお前の娘が奥で待っている。早く行け」
む、娘だと!? 身に覚えがない。というかリリアさんと会ってからまだ一週間も経っていないのだけど。
「タ、タカシ様にお子が……。わ、私、側室ですのにまだノータッチですのよ! どういうことかしら?」
「いや、僕も何のことだかわからないんだけどね」
とりあえず、ブーちゃんがダンジョン内転移で居住区に連れていってくれるらしい。話はそれからだ。プンスカしてるティア先生をなだめながら居住区に到着した。
「パ、パパァー」
到着するなり、知らない幼女が抱き着いてきた。
「や、やっぱりお子が。タカシ様にお子が……」
ティア先生、一人テンションガタ落ちのようです。いや、何で子供が既に大きいのかな!?
「えっと、君の名前は?」
「リリアのリとタカシのタをとってリタでしゅ……六歳です」
噛んだな……。吸血鬼って六歳から生まれるのか。後ろからミサキさんとリリアさんが歩いてきているのが見えた。ま、まさか吸血されたらパパになるとかないよね!? し、知らなかったとはいえ困ったな。
「リタ、ちゃんとパパにご挨拶できたの?」
「はい、ママ」
ママという言葉に反応して何故かクネクネし出したリリアさんに話を聞いてみる。このままだといろんな人に怒られてしまうのだ。
「リリアさん? えーっと、これは一体どういうことなのかな?」
「愛の結晶よ!」
ティア先生ががっくりと膝まずいている。
「ちょ、ちょっとリリアさん、さすがにこういう話はちゃんとしないとダメよぉ」
ミサキさんが話を聞いているようだ。何とか僕が怒られない方向で話が進んでほしいものだ。
「タカシくん、リタちゃんはねぇレベル50以上の侵入者を撃退した際に貰えたボスモンスターチケットを使って召喚した『ウィッチマスター』なんですって」
ん? レベル50以上って……僕のことか。
「それって……」
「つまり、タカシのお陰で手に入れたチケットで私のダンジョンから召喚した正真正銘の私たちの娘よ!」
リリアさん、力強く言った割りにリタちゃんは普通のボスモンスターだったのか。何だかすごくホッとしたよ。びっくりしたじゃないか。
「ちょっと、リリアとかいったかしら? 私のタカシ様に変なちょっかいかけないでくれるかしら」
「あ、あなたはタカシの何なのよ!」
ティア先生が復活したようだが、何だか不穏な雰囲気なので話題を変えとこう。
「あー、そうだ! 外のカモメは全部捕まえているの? 取り逃がしてない?」
「一羽も逃がしていないわ。ミサキに話は聞いているから安心して。うちのも合わせて私とリタの闇の門の中よ」
「そうしたらどこか広いスペースに出してもらおうかな。すぐに催眠をかけるよ」
「じゃあ、親子水入らずで作業しましょうね。行くわよリタ」
「はい、ママ。パパも早くー」
リタが僕の手を引いてリリアさんの方に向かっていく。なんだこの自然な演技は……。
「ちょっと何なのかしら!?」
ティア先生、ご立腹です。
続きが気になった方は、ブクマやポイント評価を頂けると作者のモチベーションアップに繋がります。




