閑話 1
私はティアマト。水竜でございます。
愛称はティア。
双子の妹レヴィの姉でございます。
現在、千葉ダンジョンのボスモンスターの一人として主にコウモリさんのお見送りとお出迎え。あと、タカシ様の毒味役をさせていただいております。
タカシ様はこのダンジョンのマスターでいらっしゃって、とても尊敬できる方でございます。
特筆すべきは魔力操作と魔力の異常な質の高さでしょうか。あの治癒は忘れられません。っ!じゃなかった。水弾です。
水属性に特化した我ら水竜にとっても、とても信じられない水弾を撃たれます。
熱湯から零度以下の氷に近い水を操る異端者。
魔法と科学?の融合と言っていた『強酸』と呼ばれた異臭を放つ身体を溶かすという液体。
普通の人ではない。これが異端者。
いや、異端なんて失礼だ!あれは神に近い、いや神その者なのではないだろうか。
あの日から私とレヴィは、タカシ様に対して強烈な畏怖と凌辱願望が入り交じったような絶対者に対する圧倒的な屈服を望んでおります。
タカシ様が望むのならば、そのすべてを差し出す所存でございます。タカシ様の行うことに間違いはないのでしょう。
あの『賢者の杖』を手に入れたのも予定調和なのだろうと思っております。
予定調和というなら『コウモリさん』が千葉ダンジョンにお住みになられたことも、まさしく予定通りだったのでしょう。私には到底辿り着くことのできない高みにいらっしゃるのは間違いございません。
圧倒的な絶対者の一面を持ちながら、私達に対しても大変優しく接して下さります。
あれは、そう。『強酸』を初めて見て怯える私達に対してやさしく髪を撫でて下さり、水のイリュージョン『噴水』を見せることで、私達を落ち着かせて下さいました。
私はタカシ様の行動を常に見て、その考えを知ることで、少しでもその高みに近づけるように努力しております。
ある日、レベルアップのために『キャットフード』というエサを用意し、近寄ってきた野生動物さんに土棘されていました。
面白いように土棘されちゃいます。タカシ様の遠隔魔法も異端もとい、神業でございますが、私はあの『キャットフード』とやらが怪しいと睨んでおります。
野生動物さん、まっしぐらです。
みなさん我を忘れてまっしぐらでいらっしゃいます。
そんなにまっしぐらですか。気になりますね。
えぇ、とっても気になります。
あらかた土棘終わった頃を見計らって、私は『キャットフード』をゲットすることに成功いたしました。
ほぐされたお肉に美味しそうなスープの油が照り輝いております。これはまっしぐらになるのも吝かではございません。
一応、バレないように外出中のコウモリさんのお部屋に持ち込んでのまっしぐらです。恥ずかしい気持ちは若干、でもまっしぐらへの興味が勝っております。そう、タカシ様の高みに近づくためのまっしぐらなのです。
モグモグ、モグモグ、あれっ、想像してたのと違います。薄味。否、薄すぎる味といえます。これでは否まっしぐら。私のまっしぐらを返してもらいたいです。
モグモグ、モグモグ、しかしながら、これはこれでなかなかの食感を楽しめます。固いもの、柔らかいものが混ざりあった見事な食感ハーモニーがございます。
これが濃い味付けだったらと思うと、とても残念でなりません。私が求めていたのは濃いまっしぐらです。間違いございません。
バサバサバサッ。
あーいけません。先行組のコウモリさんが戻っていらっしゃいました。
もうお出迎えの時間ですね。