第10章 13話
『香川ダンジョン』に到着したのは夜の11時を過ぎた頃だった。既にダンジョン周辺のカモメは捕獲済みで、今から『香川ダンジョン』に入るところである。
捕獲方法は前回と同様で軽めの稲妻で一網打尽にした後、みんなで回収するという流れだ。視界が悪かったため、他の野鳥も回収してしまったのはご愛嬌だ。カモメを取り逃がすよりはいい。
「『香川ダンジョン』は確か解放ダンジョンでしたわね」
「うん。案内人が釜揚げさんで、ボスモンスターがスケルトンリーダーだよ」
「私、釜玉うどんが食べたくなってしまったかしら」
「いらっしゃい、釜揚げさんだよ。濃い味付けが好みなのかな。つけ汁で食べる釜揚げも是非食べてもらいたいな」
釜揚げさんが釜揚げを薦めるというシュールな光景も普段ピースケがバリボリ落花生を食べているのを見ているせいか普通に受け取ってしまっている。いいのか。
「私は濃い味付けはもちろん、食感も大事に思ってますの。讃岐うどんのコシはワンパターンですわ。ラーメンのように細麺や極太など様々な種類を混ぜ合わせて食感を楽しみながら食べたいかしら」
なんだか美味しそうに聞こえるけど本当に美味しいのかそれ。
「確かに細麺や平打ちの麺はあるけど混ぜるの? どうなんだろね」
「うどんは現状に満足してしまっているのかしら? もっとパスタやラーメンを勉強するべきよ。スタンダードなものを残しながらもチャレンジしていかなければ業界の成長はないわ。でも、私うどんのトッピング文化は好きだわ。もう、なんだか口の中がかき揚げになってしまったじゃない。どうしてくれるのかしら」
ティア先生が業界の成長を憂いているが、大きなお世話であろう。そして、うどんのトッピングはかき揚げがお気に入りのようです。食感好きなティア先生にはサクサクとしたかき揚げがたまらないのだろうと思う。
「ごめんね、釜揚げさん。なんか挨拶が遅れたけど、元気なようで安心したよ。こっちはティア」
「かき揚げはまだかしら」
最早、うどんがどっかにいってしまっている。あれだけ『神戸ステーキ弁当』を食べておいてまだ食べるつもりか。
「大量のカモメ捕獲ありがとう。攻撃するでもなく見張られるだけでどうにも不気味だったんだよね。ところで、夜食は用意した方がいいの?」
「大丈夫、いらないよ。今夜寝るスペース借りたいぐらいかな」
ティア先生が劇画タッチのような絶望の表情をしているが面白い顔なのでそのままスルーしよう。
「それならロフトにダブルベッドがあるからそこで寝てよ。今、スケルトンリーダーが掃除してるから待ってて」
「え、ロフトいいの? 君たちはどこで寝るの?」
「もともと居住区だった場所でいつも寝てるから気にしないでいいよ。離れてるから声も聞こえないし。ゆっくりしてよ」
ちょっと待て。ダブルベッドだと!? ゆっくりしてだと!?
「ベッドはツインではないの?」
「ダブルベッドしかないよ。離れてるから声も聞こえないし、朝まで居住区から出ないよ」
「そ、そう……。と、とりあえずカモメ達に催眠をかけないとね。ティア、手伝って」
「はい、タカシ様。私、そろそろ側室デビューなのかしら」
困った……。ロフトに上るとそこは六畳くらいのスペースがあり、間接照明が良さげなムードを演出している。気を利かせた釜揚げさんが、お酒を用意してくれていた。ここは高級ホテルか!? そしてダブルベッドにはすでにホロ酔いのティア先生がいる。
「たぁかし様ぁー。このぉ飲み物美味しぃー! おい、スケさんおかわり!」
いや、できあがっていた。ルームサービスでカクテルを提供してくれているスケルトンリーダーのスケさんがシャカシャカとシェーカーを振っている。
困ったような顔で、いや骨だからわからないんだけど雰囲気でこちらを見てくる。僕は頷いておかわりのカクテルを作らせた。
「あんまり飲みすぎたら明日二日酔いで辛いよ。次ので最後にしときなね」
「ふぁーい!」
僕にも一杯用意してくれたスケさんはグラスを手渡すと居住区へ戻っていった。このホテル是非また来たい。
「たぁかし様ぁー! 眠い。膝枕ぁー」
男の膝枕とか聞いたことないんだけど。多分需要もないからね。
「はいはい。どうぞ」
お酒で少し体が暖かい。女の子らしい良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「そもそもぉ、たぁかし様は……」
スピー……ススー……スピー……
何を言いたかったのかわからないけど、朝まで膝枕をしてなきゃならないのだろうか……。ティア先生の頭が重い。
動かして起こしてしまうのも可哀想だ。ティア先生の髪を撫でながら、もう少し熟睡するまでは我慢しようと思うタカシであった。
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