第10章 8話
僕たちはティア先生が準備した旅のしおりの通り東京駅の駅弁屋で米沢名物『牛肉どまんなか』を購入し、東海道新幹線こだまに乗車して浜松に向かっている。
ちなみに、この『牛肉どまんなか』であるが、山形県産米の『どまんなか』をふっくらと炊いた上に甘すぎない特製のタレで味付けした牛そぼろと牛肉煮をのせた牛丼風のお弁当である。駅弁の中でも上位の人気を誇る逸品といえよう。
新幹線は『ひかり』や『のぞみ』には乗る機会があったけど各駅停車のこだまに乗るのは初めての経験だ。
「先程のバスもですがこの新幹線ってのも、とっても空いてますのね。ここの鉄道会社の経営状況がとても心配になりますわ」
まさか水竜に経営状況を心配されるなんてJR東海も思わなかっただろうな。
「新幹線だけどこれは各駅停車だからね。大きな都市に向かう人は各駅を飛ばしていく『ひかり』や『のぞみ』といった新幹線に乗るんだ。そっちはとても混んでいるから、かなり利益は出ているはずだよ」
「そうでしたのね。ではこれから行く『静岡ダンジョン』は小さな都市なのですね」
し、静岡県民に謝りなさい。
お茶や、うなぎは勿論のこと静岡おでん、浜松餃子、富士宮やきそば等、ティア先生が喜びそうなグルメに溢れているのだよ。
「まぁ、決して大きくはないかもしれないけど静岡は魅力ある都市だよ。静岡で食べてみたいものとか旅のしおりには書いてないの?」
「そうですわね。今は食後にちょっと甘いものを食べたい気分だわ。だとしたらこの『安倍川もち』なんていいんじゃないかしら? 甘いおもちに、きなこと餡をたっぷりかけてあるとありますわ。歩きながらでも食べられそうですし、駅についたら買いましょう」
大食いタレントばりの豪快な旅になるのかと思ってたけど、今のところはその気配は無さそうだ。まぁ、旅行ではないからね。やることをやってからの観光というものだろう。
駅についた僕たちを『静岡ダンジョン』担当の『てんとう虫』さんが迎えに来てくれていた。
「お疲れ様です。マスター、ティア様。あちらに車を用意しております」
「お土産物屋で『安倍川もち』を買いたいからちょっと待っててくれる?」
「いえ、こちらで手配致します。………おい、マスターが『安倍川もち』をご所望だ。違う! やまだいち製のもので、お茶も一緒に用意するんだ。時は一刻を争う急げ!」
すぐに電話を掛け始めると、おそらく同僚の『てんとう虫』さんと思われる方と話はじめていた。
「い、いや。そんな慌てなくてもいいよ」
「問題ございません。車に乗る頃にはお渡し出来るでしょう。では向かいましょう」
「ち、ちなみにだけど、この周辺に『てんとう虫』さんは何人ぐらいいるのかな?」
「静岡支部には現在500名が任務にあたっており、本日はマスターとティア様がいらっしゃるため、浜松駅には100名。道中の警護に300名。『静岡ダンジョン』周辺に100名の配置となっております」
えっ支部って何? いつの間にそんな組織になっていたの!? というか、ここに100人もいるのかよ。
「し、支部とか出来てたんだね」
「ご存知ありませんでしたか? 失礼致しました。レヴィ様とレイコ様からの指示でローテーションを組ながら各ダンジョンで任務にあたっております」
そういえばそんなことをレイコさんが言っていた気がする。知らない内にとんでもない組織に成長していそうでこわい。
「レイコ様からは表向き警備会社として株式会社を設立する考えがあるとのことで法人の立ち上げに詳しい人材を集めたいと伺っております。マスター、夢は東証一部上場でしょうか」
「そ、そうだねー」
レイコさんってつい最近まで女子高生だったんだよね!? これはエディの影響もあるのかな。商売のことでいろいろと相談に乗ってもらっていたようだからね。でも、警備会社より商社にした方が幅が広がる気がするな。レイコさんに後で話しておこう。
「車で30分程走ると『静岡ダンジョン』に到着致します。お待たせ致しました。こちらがご所望の『安倍川もち』でございます。車の中でお召し上がりください」
ぜ、全然、待ってないよ。
「あ、ありがとう」
「さすが『てんとう虫』さんですわ。そうだわ! 私、新しく立ち上げる会社の社長をやろうかしら」
残念ながらティア先生にはこの国の戸籍がないけど国家の上層部を押さえている今、偽造したら出来ちゃいそうだから困る。ど、どんなにお願いしてもやらせないんだからね。
ブラックな要求を苦とも思わない『てんとう虫』さんのよいしょによる私利私欲にまみれたダメ社長があっという間に出来上がるのが目に浮かぶ。
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