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第10章 7話

 心地よい春の風が吹いている。亀山周辺でもこの時期は菜の花の黄色がキレイに一面を染める。隣を歩いているティア先生は風で飛ばされないように大きめの帽子を押さえるようにして、もう片方の手では僕の腕を掴んでいた。


 外出用の変身セットである帽子の中にはその長く美しい青髪が目立たないように仕舞われており、もちろん芸能人ばりのサングラスをかけて青い瞳を隠している。目立たないようにしてるのに、この田舎では逆に目立ってしまうという……。


「この菜の花は、うちの『菜の花』さんではないのですよね。私、この明るい黄色はとても好きになりましたわ。私のブルーの髪ともよく合うと思いません?」


 ティア先生ならどんな綺麗な花でもきっと引き立て役になってしまうだろう。食べ物が絡まなければとんでもない美少女なだけにすごく惜しい。心底残念でならない。


「ティアならどんな花も似合いそうだよ。帰りに時間あったら房総半島の花畑でも見て回ろうか。今は時期だからいろんな花が咲いていて見ごたえがあると思うよ」


「まぁ、素敵ですわ! これがデートというものなのね」


「デ、デート!? い、一応、そうなるのか……。そ、そうだ、食用の花びらで握ったお寿司なんかもあるらしいんだ。それも一緒に食べようか」


「まぁ! 見るだけでなく食べられるなんて、まるで私のために作られた料理かしら。なんて素晴らしいの」


 やはり食が絡むとティア先生喜ぶよね。最近のティア先生はただ美味しいものというより一風変わったチャレンジメニュー的なものを食べることも増えてきている。


 最近ではそう、栃木の『しもつかれ』という大豆、鮭頭、大根等を酒粕で煮込んだ料理を楽しんでいた。この『しもつかれ』とにかくビジュアルが悪い。見た目だけでいえば完全に嘔吐物なのだ。新宿とかの繁華街で道端に落ちていたら完全に勘違いすること間違いない。


 しかしながら驚くことに、これがご飯にべらぼうに合う。さすが郷土料理美味しい。きっと日本人は遺伝子レベルでご飯に合うおかずが大好きなんじゃないかと思う。あれっ、ティア先生日本人どころか種族も違うんだけどな……。


「それじゃあ東京駅に向かおうか」


「確か旅のしおりでは新幹線で駅弁だったかしら?」


 ティア先生が自作のしおりを読みながらついてくる。どうやらグルメ旅になりそうな予感。


「東京駅で米沢名物『牛肉どまんなか』を買いますの。タカシ様、ちゃんとお店まで案内してくださいね」


「なんだか結構下調べしてそうだね」


「情報は武器ですわ。その情報すら利用しようとしているタカシ様は何手先を見ているのでしょう。きっと将棋のプロになれますわ」


「いやいや、将棋のプロとか何十手先まで読んでいるのか想像できないぐらいすごいんだよ。僕の場合は、その都度起きた事に対して対処しているに過ぎないから」


「そういうところですわ。自慢するでもなく当たり前のように淡々と。誰にでも簡単に出来てしまうのではないかと思えるような感じであっさりと問題を解決してしまう。私はまだタカシ様と同じ高みには到達できておりませんが、いずれその神の高みに並んでみせますわ」


 普通にヤバい発言してきたな。前々から確かにあやうい感じはあったけど、とうとう神とか言い出したよこの子……。


 正直、教祖プレイはいけるかもしれないとか思ってはいたけど、すでにティア先生の中で神の高みになっちゃってるじゃないか。


「そ、そう。えーっと、頑張ってね……。あっ、ほら高速バスが来たみたいだよ」


 亀山から東京駅までは高速バスで向かうことにしたのだ。車を運転できないティア先生に公共の乗り物での移動を勉強してもらうためであったのだが、今思えば『てんとう虫』さんの運転や同行することで日本全国隈無く移動出来るんじゃねとか思ったのはご愛嬌だ。


「まぁ、随分と大きいのですね。エディが呼び込んでる観光バスと同じくらいかしら。タカシ様! 一番後ろの席が広く使えますわ! あそこに座りましょう」


 バスには誰も乗っておらず、また乗車する人もいなかったためティア先生に引っ張られるまま一番後ろの席に座ることにした。


「貸切ですわね」


 ドキッとする。そう言いながら腕を絡めてくるティア先生の方を見るのが恥ずかしくて、つい窓の方を見てしまった。


 バスの窓からも一面に黄色い菜の花が咲き誇っているのがよく見える。バスでよかったかも。

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