第1章 15話
『てんとう虫』の能力は、極めて特殊。
体に入り込み脳まで辿りつくことで、その身体を支配可能。ただし、支配する本体が自我を失っている状態か、死んでいる必要がある。
そして、私はこの死体を乗っ取り自宅に戻っている。
母親に顔色が悪いのではと心配されたが、マスターの言い付け通りに『困ったらハイテンション!』で乗りきった。
脳を操ることで、その人間の記憶を探ることができる。明日は声を掛けた知り合いと共に、ダンジョンへ向かう。魔素がない場所での活動はきつい。今日は早めに休ませてもらおう。
翌朝、早めに家を出て知り合いとダンジョンへ向かった。女性3人の仲の良い割りとよく集まるグループらしい。
「ねぇ、本当に登山コンパなんて流行ってるの?」
「普段と違うから人間性が出るんじゃない?」
「そういうもんかな。いい男いるといいなぁ!」
「スタート地点が洞窟なの!変わってるけどなんかテンション上がるー!」
「そ、そうかな?まぁ行ってみましょう」
それから私達は登山道を外れ、その洞窟に辿り着いた。狭い通路を抜けるとそこは一面黄色い菜の花で埋め尽くされていた。
「さぁさぁ、早く奥まで行こ。菜の花がとってもいい香りなの!テンション上がるー!」
菜の花の匂いを感じながら私達は中へと進んでいく。
キレイな場所。洞窟のなかにこんな場所があるなんて。
とっても気分がよくて、あれっ、なんだか眠くなってきちゃった。
ドサッ。
もう、そんなところで、横になってぇ…。
ドサッ。ドサッ。
その後、私は倒れた知り合いをマスター達に任せて、また自宅に戻った。
ダンジョンに一度戻ったことでいくらか気分が良くなった。どうやら自宅には誰もいないようだ。都合がいい。私は自分の部屋へ行きベッドに横になる。
それからようやく私はこの死体の耳から脱出した。
よし、任務完了だ。ダンジョンに戻ろう。
「てんとう虫が戻ってきたっす!」
「よし、これで第二段階成功だ。どうだった?上手くいきそうかな」
てんとう虫からの情報をまとめると、家には誰もいなかったのでベッドで寝てるように見せかけている。死んでいるのを今夜か遅くとも明日の朝には家族が見つけるだろう。
死因がどう判断されるかだが、外傷はないし、おそらく心筋梗塞になるはずだ。
念のため、知り合いの女の子の一人を乗っ取ったてんとう虫に様子を見に行かせている。
あとの二人はコンパやデートを理由に人集めだ。
僕の作戦は『菜の花』の催眠効果を数で高めること。その後は氷結で心臓を止めて『てんとう虫』の特殊能力を使い、鋸山で行方不明にならないこと。
さらに、外傷がなく突然死にみせることで、このダンジョンが疑われることを避けるといった具合だ。
これを繰り返すことで、地道にレベルアップしていこうではないか。やはり、人は動物に比べレベルが上がりやすい。
すでに人のステータスを遥かに超えているが、まだまだじっくり進めていく。バレるまでじっくり力を蓄えておくのもいいかもしれない。
翌日、偵察に向かわせたてんとう虫が戻ってきた。
昨日から体調が悪そうだったという母親の話もあり、心筋梗塞で死亡届が無事受理されたとのこと。
「お疲れさま。君も少しダンジョンで休んだら死体を自宅へ連れて行ってくれ」
「はい。かしこまりましたマスター」
「お兄さま、お疲れさまです」
「うん。レヴィも氷結ありがとう。これで第三段階も成功と」
「『菜の花』と『てんとう虫』の数を増やしといたっす!」
「ピースケ、サンキュー。あと、その手に持っているのは?」
「『銘菓ピーナッツ最中20P』っす!マスターも食べるっすか?」
「ピースケ様、タカシ様が食べる前に私が毒味をいたします」
いや、すでにピースケが食べてるから毒味はいらないよティア先生。相変わらず食に対する興味というか欲望に忠実でございます。
とはいえ、実験も一段落したし、ティータイムと洒落こもうか。作戦が上手くいってよかった。
「お茶を人数分出すよ。みんな休憩にしようか。ピースケ、ピーナッツ最中も追加ね」