第9章 9話
クソッ! なんだあの魔法は! ただの水弾がなんで追い掛けて来やがる。既にガルフは右足に続き左腕、背中にも被弾していた。
「この強烈な匂いは何だ、身体を溶かしてくるじゃねぇか。こ、これは毒……なのか」
皮膚が焼けるように熱く、そして火傷のように爛れている。奴を罠に誘い込むためにはこれ以上足に被弾するのは避けなければならず、かわすために左腕、背中にも食らってしまった。あの水弾、確実に足を狙ってきやがる。唯一、奴より優れているのがわかっているのはスピードだ。足だけは守らなければ……カール、大丈夫なのか!?
シュルシュルシュル~!
「チッ! あと何発残ってやがるんだ」
地面に滑り込むようにしてきわどく避けることに成功するも水弾は上空でゆっくり折り返すと再び戻ってくる。
「はぁ…はぁ…はぁ……。おいおいおい、まだ来るのかよ……作戦どころじゃねーだろ! 近づくのも難しいじゃねぇか」
もはや自分から罠に誘い込むことは難しく、逃げるように仕掛ける場所に移動するのが精一杯のガルフであった。
「残りの水弾は、あと3つか……あとは頼むぞ、カール」
その様子はカールの目にも異様な光景として映っていた。スピードタイプのガルフが逃げに徹しているにも関わらず魔法の被弾を許し、既に満身創痍なのだ。
あの魔法には追尾機能がついている。どこかでこちらを見ていて魔法を動かしているのか? 魔法でそんなことが出来るのか!?
作戦上、ここで姿を見せるわけにもいかない。どこで彼が見ているかもわからない。下手にガルフを助けに動くことで作戦全てを無にしてしまうことはガルフも望まないだろう。
「ガルフ、あと少しだ……頑張れ」
何とか定位置までたどり着いたガルフを見てようやく胸を撫で下ろす。それにしても、ガルフのあの傷は一体どういうことなのだ。水弾以外の攻撃は受けていないように思えるのだが……。目の前には足を引き摺り腕を押さえながら、こちらに合図を送るガルフがいる。
カールはミイラ男なので鼻が悪い。というか機能していない。彼が臭いを感じることが出来ていればガルフの状態をある程度察することが出来たかもしれない。そして、その後起きるミスも回避することが出来ただろう。
黄金色に輝く鳥が徐々に近づいてきている。あ、あれも魔法なのか……。やはり、姫様の言った通り魔法使いタイプとみて間違いなさそうだ。
私が立てた作戦はとてもシンプルだ。スピードで勝るガルフが侵入者を追い立て、罠の近くまで誘導する。何故か、逆に追い立てられているが結果的にはOKとしよう。
その後、ガルフに気をとられている隙をついて、あの大木の手前に用意した落とし穴に私が引き落とす。あの落とし穴は特別に通常より大きく広げられて作られている。
もちろんただの落とし穴ではない。落とし穴の中には大量の『ゴースト』がいる。このモンスターの得意技は『ドレインタッチ』。触れた者の体力を少しだが吸収することが出来る。落とし穴に落ちたどさくさに紛れて大量の『ゴースト』による吸収で体力を削るのだ。
そして仕上げは落とし穴の上の大木に隠れているフランケンが飛び込み、『ドレインタッチ』で体力を削られた侵入者を一撃で仕留める。
この作戦は侵入者が落とし穴に落ちた時点でほぼ勝ちが決まる。いかにして、落とし穴に引き落とすかがポイントとなる。あの様子だとガルフにこれ以上期待するのは厳しいだろう。ここからは私の仕事だ。必ず成功させてみせよう。来たな……。
ゆっくりとした歩みで全くノーダメージと思われる身綺麗な姿の侵入者、タカシがガルフを見据えるように現れた。そして、大木にはフランケンを隠すように大量のゴーストがまるで木の葉のように集まっていた。
ゴースト
レベル1
体力30
魔力80
攻撃力0
守備力20
素早さ10
魔法:特異属性初級
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