第8章 15話
「マスター、戻ったっすか。ミサキがいないってことは『佐賀ダンジョン』を傘下にはしてないってことっすね」
「そ、そうだね……その前に治癒!っと」
「お兄さま! どこかお怪我をされているのですか?」
レヴィが心配してくれる。レヴィとっても優しい子。
ちょっと怖かったけど、自分への治癒は何ともなかった。新しい扉が開かれてしまう恐れがあったが、僕の魔力がおかしいのであって、おかしい魔力に溢れている僕の身体に治癒したところで影響がある訳がないということなのだろう。自分で言っていてなんか悲しい……。
「怪我をした訳ではないんだレヴィ。保険みたいなものだから気にしないでいいよ」
「なんだか疲れてるみたいっすけど大丈夫っすか?」
「う、うん。大丈夫。復活組のダンジョンマスター……吸血鬼のリリアさんと話をして『佐賀ダンジョン』は見逃してもらえることになったんだけど、条件として僕が一人でリリアさんのダンジョンを攻略しに行かなきゃならなくなったんだ」
「復活組のダンジョンってかなりレベルが高いのではないですか?」
胸に手をあてて心配そうにレヴィが聞いてくる。
「何階層あるのかわからないけど、少なくとも五階層以上来れたらいいみたい。一人で探索することになるけど、雷属性の中級魔法に使えそうなのがあったから習得してから向かうことにするよ」
「雷鳥ですね。それにしても、不思議な条件ですね。何か策略でもあるのではないでしょうか。『菜の花』さんのような催眠術でお兄さまを拉致して『千葉ダンジョン』を傘下に入れてしまうとか」
「うーん。可能性は無くはないとは思うけど、どうかな。念のため、定期的に治癒をかけておくよ。とにかく情報が乏しい。回復薬系の準備はしっかり整えてから行こうと思う」
「ダンジョンの場所はどのあたりになるっすか?」
「場所は熊本県八代市にある八竜山というところで、近くに来たら迎えに来てくれるみたい」
「『てんとう虫』さんには探らせるのですか?」
「一応、ダンジョンの場所ぐらいまでは探しておいてもらうけど、ダンジョン内に侵入してとかは考えてない。形的に『佐賀ダンジョン』からは引いてもらってるし、変なケチがつかないようにしときたい」
「そうですか。ご一緒出来ないのが残念です。お兄さま、決して気を抜かないでくださいね」
「わかった。気をつけるよ」
◇◇◇◆◆
「ねぇ、ブーちゃん、まる子。あのガルフさんって人、リリアさんに置いてかれちゃってる気がするんだけど、手当てしてあげた方がいいのかしら。まだ血が止まってないように見えるんだけど」
タカシ君と話が終わるとリリアさんは恥ずかしさからなのかすぐに帰ってしまった。タカシ君も準備が、とか治癒をとか言ってすぐに戻ってしまった。帰り際にリリアさんの『熊本ダンジョン』に行く前にまた立ち寄るからって言ってた。
「ブヒブヒブヒッ」
「そうねえ。信じてはいたけど本当に助けてくれたのだもの。何かお返し出来るものがないか考えなきゃね……ん? どうしたのまる子? あぁ、そうだったわね」
話に夢中になってしまって、ガルフさんの血だまりが大変なことになってるわ。
ブ、ブワッー 治癒!
「ブヒブヒブヒブー」
「癖みたいなものよ。言わなくても魔法は発動できるんだけど、つい言っちゃうのよね。ほら、気持ちが入る感じするじゃない」
一応血が止まったからなのか、ガルフが目を覚ました。
「うっ……お、俺は、いったい……。あっ、姫様に蹴り飛ばされたのか……」
「気がつかれましたか?」
すぐ近くにミサキの顔があったせいか、ガルフは少しびっくりしていた。
「あー、怪我を治してくれたのか、す、すまない」
「そういう時は、ありがとう。ですよ」
「あ、あぁ……ありがとう」
「ブヒブヒ」
「あら、ブーちゃんたら、やきもちなの?」
「ブヒ」
「り、リリアは先に帰りやがったか」
「そうよ。恥ずかしかったみたいね。可愛いマスターさん」
「そ、そうか。ミサキといったな。礼がしたい。俺に出来ることは何かあるか?」
「そうねえ。取り急ぎは……あっ、そうそう、外のイノシシさん食べちゃったのよね?」
「あー、すまない……。」
「いえいえ、謝らなくていいのです。そうしたらなるべく大型の強い野生動物を気絶させた状態でダンジョンに持ってきてくれるとうれしいわ」
「殺したらダメなのか、了解した。そんなことならお安いご用だ。すぐに探してこよう」
その後、すぐにガルフによって大型のイノシシを二頭をゲットした『佐賀ダンジョン』であった。




