第8章 14話
大森林を抜けると下層へ向かう階段が現れた。おそらく、この先にダンジョンマスターがいるのだろう。不思議なのは、この階層にいるモンスター達が我々の邪魔をしないことだ。死ぬとわかって攻撃をしてこないのか、それとも攻撃するなと指示を受けているのか。
マスターが倒されたらここにいるモンスターは無制限に殺され続けるのだ。どんな指示を受けているのか知らないが、もしもそれが指示だというのならば、その忠誠心の高さは認めてやろうではないか。
階段を降りると居住区があり、ダンジョンマスターと思われる者を含む男女二名が待ち構えていた。
「このダンジョンのダンジョンマスターはどちらなのだ」
女の方がいったん男の顔を見た後に手を上げて進み出た。
「私がこのダンジョンのダンジョンマスターでミサキと言います。こちらは、別のダンジョンのマスターでタカシ君よ」
ダンジョンマスターが二人だと、会談でこの場に来ているということか。
「そうか、私はリリア・ツェペシという。ここから南に少し行った場所に出来た復活組のダンジョンマスターだといえばわかるか。それで、部外者がいるようだが理由を聞かせてもらおうか」
「どうも、リリアさんはじめまして。部外者とは僕のことだよね。ここのダンジョンと僕のダンジョンでは協力関係を結んでいてね、このダンジョンを攻略されることも、傘下に入れられることも困るんだよね」
「ほう、ふざけたことを抜かしよる」
「このダンジョンを攻略してもポイントはたかが知れているのはわかるよね。だったら見逃してもらえないかな? その代わりといったら何だけど、ポイント以外でリリアさんが希望するものを僕が用意しよう。僕が出来る範囲に限らせてもらうけどね」
「おい、姫様。どうやら、こいつら俺達を舐めてるようだぜ。やっちまうか」
女の方は心音も高く極度の緊張状態にあるようだ。顔色からも不安な表情が読み取れる。しかし、この男は何なのだ。いたって平常心そのものではないか。やはり何か策があるのか。
「我らがこのダンジョンを攻略すると言ったらどうするのだ」
「その場合は残念だけど、このダンジョンはうちのダンジョンの傘下に入ることになり、うちとリリアさんのダンジョンは敵対することになる」
随分と強気な男であるな。こやつのダンジョンはそれほどか……。
「おい、てめー」
「ガルフ、静かにしておれ」
「しかし、姫様」
「よい」
「タカシと言ったな。では、こちらからの条件は二つだ。このダンジョンを攻略しない代わりに、お主一人でうちのダンジョンを攻略してみよ。まぁ、最後まで来いとは言わん。五階層を突破するぐらいまでで良いか。まさか、ポイントが足りなくて外に出れんとは言わさんぞ」
ダンジョンから出るには五千万ポイントが必要だ。これを簡単に用意出来るなら、それなりのダンジョンであろう。渋るようならそれまでよ。
「えっ、二つもあるの? 一つ目は別に構わないけど、ダンジョンのモンスターは倒してしまって構わないの? 後で怒らない?」
「てめー! 倒す前提の話し方じゃねぇか。やっぱり舐めてやがるな」
「構わん。ガルフも黙っておれと言ったはずだ。つ、次の条件だが、あれだ……私に、……わせろ」
「えっ? ごめん聞こえなかったんだけど、もう一回言って」
「な、何度も言わせるでない! わ、私にお前の血を吸わせろ!」
「はぁ……? 一応、聞くけど血を吸われたらリリアさんの眷属になるとかないよね?」
「な、ならんわ! 眷属化のスキルは一応攻撃スキルなのだ。会談でこの場におるお主には攻撃の類は効かぬのだろう」
「ひ、姫様、そんな奴の血を吸うぐらいなら、お、俺の血を」
ズバコーン!!!!
蹴り飛ばされたガルフは壁に頭から突っ込んでいた。凄い血が出てる。吸われる準備万端じゃないか。
「あの、リリアさん。彼、凄く吸われたいようだけど」
「し、知るか!」
「あっ、だったら私の血を吸いますか?」
「そ、そんな趣味はない!」
「……あのー、リリアさん。一応、聞くけど吸血鬼にとっての吸血行動ってどんな意味があるのか教えて」
「しょ、食欲だ……」
「あとは?」
「な、なんで、まだあるのがわかるのだ!」
「いや、隠してるのがバレバレというか」
「せ、性欲だ!」
「ほえ?」
「少し、お主に興味が湧いた。献血だと思っておれば良い。たまには血を抜いた方が健康的だろう。ほら、さっさと首を出せ」
こ、これが公開逆レイプというやつなのだろうか。ミサキさんもリリアさんも顔が真っ赤じゃないか。
「ハム…ハム…ハムッ」
つぷっ
首筋を舐められていたと思ったらいつの間にか犬歯が刺さっていた。痛みは全くといってない。何か麻酔的な機能があるのだろうか。息を吸うように少しづつ血が吸われていくのがわかる。
「はぁ……はぁ……ふぐっ。な、なんだこの血は! はむっはむっ……ふぁ、すっごい……いい」
リリアさんの息が凄く荒い。座り込んでしまって、立てそうにない。どうやら無事吸い終わったようだ。
僕の方は全く何の影響もないように思える。念のため、帰ったら治癒しておこう。自分にやるの初めてだからちょっと怖いけど。
「お、おかわり!」
「は? ま、また今度ね」
「お、おのれ、一人で五階層まで来れなかったら、今後、す、好きな時に血を吸わせてもらうからな!」
条件がまた増えた……。




