第8章 11話
『熊本ダンジョン』では夕方になると眷属のコウモリ達が情報収集に飛び出していく。太陽の光は苦手なため、この時間帯から出発して、日が昇る前には帰宅予定だ。現在は、熊本県内を一通り調べ尽くし、その調査は九州エリア全域へと向けられていた。
「こうまでも他のダンジョンが見つからぬものなのか」
リリアは一人ため息をついた。
敵はダンジョンマスターではなく、人間なのかもしれない。ここしばらくの調査結果を見てもこの世界の文明発展は凄まじい。それに伴い人間の数もかなり多い。溢れているといってもいい。ダンジョンが見当たらないのではなく、やはりダンジョンマスターは隠れざるを得ない状況と考えてもいいのかもしれない。恐るべし錬金術。
「姫様、眷属のコウモリが『ガルーダ』の絵が描かれた紙を持ち帰ってきました。これはあの『カモメのジョナサン』ではないでしょうか」
持ち帰ってきたのは新聞紙の一面。『ガルーダ』が飛び交う姿が掲載されたものだった。
「見せてみろ。こ、これは見事な絵だな。今にも動き出しそうではないか。蓮子、復活組の一つは大阪といったな。この場所からは近いのか?」
「熊本から大阪はかなり離れてるわ。眷属のコウモリが日中休みながらで向かって一週間はかかる距離かも。魔素不足で死んじゃうわね」
「なるほど。『ガルーダ』でも三日から四日はかかりそうな距離だな。ということは、今のところ『カモメのジョナサン』は敵にはならないということか」
「ひ、姫様! 北方面の割りと近い場所でダンジョンを発見したとの情報が入りました。如何いたしましょう」
「なんだと! よし、私が行こう。ガルフよ、供をせい。留守はカールに任せる」
「任せとけ。今夜の出発だな」
「姫様なら大丈夫だとは思いますが、いささか危険ではございませんか」
「ガルフと二人なら逃げるのも容易だ。案ずるでない。それに、この世界のダンジョンがどう人間に対抗しているのか直に見てみたくなった。あとは錬金術を見ておきたい」
「そうでございますか……かしこまりました。くれぐれもお気をつけください。ガルフ、もしもの時は頼むぞ」
「うむ。留守を頼んだぞ」
「任せろカール」
リリア・ツェペシ(ダンジョンマスター)
レベル36
体力620
魔力490
攻撃力255
守備力270+5
素早さ318
魔法:闇属性中級、火属性初級
スキル:分身レベル2、吸血回復レベル2、眷属化レベル1
装備:黒衣のマント(プラス5)
ガルフ(ボスモンスター)
レベル18
体力300
魔力200
攻撃力330
守備力320
素早さ360
魔法:雷属性初級
「姫様は空を飛んでいくので?」
「そうだな、少しこの世界を眺めながら向かおう。眷属を道案内につける。ダンジョンの前で合流するぞ」
「わかった」
分身のスキルは自身の体をいくつにも分けることができる。いくつにもといってもその数の最大値は体の大きさと同等だ。分身する時は手のひらサイズのコウモリとなってバラバラになることもできるし、分身したコウモリを背中に張りつけるように翼を形成することも可能だ。
空を飛ぶ私は背中に大きな翼をはためかせて、その代わりといってはなんだが、体は元の半分以下のサイズ、つまり幼女の姿になっている。
空を飛ぶのだから、体が小さい方がいいのはわかるのだが、なぜ幼女なのかはよくわからない。変態に見つかったら間違いなく連れていかれてしまう容姿だ。これもスキルレベルが上がれば解決する問題だといいのだが。
久々に空を飛ぶと気持ちがとてもいい。山間部を抜けると人間の住むエリアがかなり広大であることがわかる。とにかく家が多い。そして、畑も多くのどかな風景が続いていく。やはり変だ。おかしい……ここまででモンスターを一度も見掛けていない。やはり、報告の通りこの世界の支配者は人間ということで間違いないようだ。前の世界とは大分違うようだな。
「さて、あのキラキラと光っている街を少し覗いてみるとするか」
リリアは下に見える大きな城をぐるりと回り繁華街の方へと降り立った。




