第8章 7話
一見すると漆黒の衣装を身に纏った女性にしか見えない。しかしながら、正面から彼女を見たらだいたいの人間は言葉に詰まるだろう。
その人間離れした美しすぎる顔立ちにサラリとした絹のような銀髪、そして肌の色は血が通ってないかのような病的な白。着ている衣装は露出高めの挑発的なものだが、スタイル抜群のプロポーションがより美しく着こなしてしまう。
そして、その眼は血のように紅く、口からは小さな牙が見え隠れしていた。
彼女の名前はリリア・ツェペシ。吸血鬼の姫にしてダンジョンマスター。そして目覚めた場所は熊本であった。
ようやく復活か……。
次のチャンスはないらしいからな。皆のためにも何とかして条件をクリアしたいものだ。我がダンジョンで稼いだポイントは確か10年掛けて約6億程度。ここからは他のダンジョンの攻略もポイント評価に繋がる。気は抜けないが大きくポイントを集めるチャンスでもあるな。
「姫様、お目覚めでございますか」
声を掛けてきたのはミイラ男のボスモンスター。自身に巻かれた包帯を操り攻撃や防御をする。
「あぁ、カールか。敗者復活戦が始まるようだ」
「遂に始まるのですね」
「皆を集めろ。それから近隣の情報を集めたい。眷属達に調べさせてくれ」
「かしこまりました」
「リリア、会談できるダンジョンが一つしかないの。なんかおかしい」
この子はダンジョンの案内人。辛子蓮根の蓮子という。
「そうか。情報が集まってくるまでこちらから会談を申し込むでないぞ」
「うん。了解よ」
しばらくすると、オオカミ男のガルフと人造人間のフランケンがやってきた。
「皆、おはよう。気分はどうだ?」
「最悪だな。早く嫌なイメージを払拭させたいぜ」
そう応えたのはオオカミ男のガルフ。前の世界でダンジョンが攻略されたことの悔しさが滲みでている。ガルフの特徴は雷属性を活かした俊敏な身体能力。
「フンガー!」
何を言ってるかは長い付き合いがないとわからないらしい。フランケンは動きは遅いが、その怪力は目を見張る。連携プレイにおけるフィニッシャーの役割を担っているのだろう。
「まぁ、そう慌てるでない。まずはダンジョンの防御を固めて欲しいのだ。眷属達が情報を集めて戻って来る。戦略はその後じっくり練ろうではないか」
「わかった」
「フンガ」
◇◇◇◆◆
もう一つの復活組が現れた場所は大阪。
そして、ダンジョンマスターの名前はジョナサン。
カモメである。
紳士のようなシルクハットにスーツを華麗に着こなすオシャレなカモメである。また、人語を理解し、喋ることもできるカモメだ。
好きな食べ物は魚全般。どちらかというと死んで少し腐り始めたぐらいの状態が好みだ。
「敗者復活ラウンドの始まりか」
眩しそうな目をしながら自身の羽根で光を遮る。鳥目のため目がとても悪い。夜はほぼ見えなくなる。
「ジョナサン、なんだか様子が変だ。ダンジョンの数と会談出来る数が合わねー」
彼はたこ焼きの案内人でタコ丸。外はカリカリ中はトロトロだとか。
「な、なんだとー!」
「ジョナサン、そっちは壁だ。声で場所ぐらいわかるだろ」
「冗談だよ。イーグルはどこだ?」
人間の体に鷲の頭と翼を持つモンスター。それが『ガルーダ』。イーグルはガルーダキングでボスモンスターだ。
「ジョナサン、俺っちは最初からここにいるぜ」
「おい、そっちはタコ丸だ。誰に話してる!」
「通りで肌触りがカリカリしてると思ったぜ。遠くは良く見えるんだが近くはだいたい勘だからな」
「お前ら絶対わざとやってんだろ。そんなことより、どうするんだ?」
「とりあえず、腹減ったな。イーグル、ガルーダ達に近くに海か川がないか調べさせろ。ついでに……」
「魚獲ってこいだろ?」
「あぁ、頼むぜ」
「いや、情報集めろよ!」
「タコ丸。鳥の頭なめねー方がいいぞ。二つも三つも指示出したら魚獲ってこねーだろーがぁぁ!!」
「あぁ……まぁ通常運転だな」
ちなみに、ジョナサンが稼いだポイントは7億あり、現状のダンジョンの中では一番クリア条件に近い。




