第8章 2話
あれから数日、『香川ダンジョン』は開通してしまった。ポイントは残り50P。来週もちゃんと生きてる自分が想像できない。人生は果てしなく厳しい。
ボスモンスターは『スケルトンリーダー』だった。召喚できるモンスターも『スケルトン』一択。なんで勇者の従えるモンスターがアンデッド系なんだよ。もっと光輝くモンスターはいなかったのか。
ちなみに、残ポイントが示す通りポイントを稼ぐ手段は見つけられていない。タメ息すら出ない。
どうにも困り果てたところにイノシシのファミリーと思われる群れ五匹が『香川ダンジョン』にやってきたのだった。
「侵入者だよ。野生の動物かな」
僕はマイソード(レプリカ)とともに先頭のお父さんイノシシに向かって走り出したが、すぐに急ブレーキを掛けて止まった。
プギー!!!!プギー!!!!
荒れ狂うイノシシ(大型)とても怖い。ダメだ。今の僕では奴一匹と相討ちがいいところだ。イノシシと相討ちする勇者とか悲しい。こ、ここは交渉だ。話せばわかる。
奴らの目的は何だ? 落ち着け、よく観察するんだ。失敗すれば殺られる。ま、待てよ、お母さんイノシシのお腹が……まさか奴らはこの場所を棲み処にして子育てをする気か!
ふん、駄猪め。直々に餌付けしてやろうじゃないか。僕はおやつにとって置いた『えびせんべい』をイノシシに向かって投げた。
プギー!!!!プギー!!!!
「な、何でー!!!」
その行動が攻撃と思われた僕はお父さんイノシシに思いっきり吹っ飛ばされて気を失った。
目を覚ますと少し離れた辺りでイノシシの鳴き声が聞こえる。すげー怖い。お父さんイノシシ話通じないから嫌い。僕が光魔法を習得したら真っ先に屠ってやろう。お前なんかボタン鍋にして美味しく食べてやる……あぁ、お腹が減った。
「マスター生きてますか?」
釜揚げとスケルトンリーダーが心配そうに声を掛けてきた。
「あぁ、なんとか。奴らはどうしてる?」
「それが、マスターの寝室を占領されました。ベッドのクッションはボロボロにされて、お母さんイノシシが幸せそうに寛いでるよ」
「くっ、ダンジョンの最奥を押さえられてしまったのか。あっ、ポイントはどうなっている」
「滞在ポイントが500P入って550Pになったよ」
「滞在ポイントが入る位気を失っていたのか……。って! ポイントが500!!だと。さすが勇者に勝つイノシシだ。一匹平均100Pということか」
「マスター、どうやって倒すの?」
バカめ、僕に奴らを倒せる訳ないだろうが。さっきの見てなかったのかこの釜揚げは。
「ここは戦略的撤退だ! 寝室を手放してロフトを造る」
「何ロフトって? そんな罠あったっけ?」
「罠ではない。我々の居住区域をイノシシに襲われない上部に造るのだ。そして、上から安全に餌付けしていく。あー、『えびせんべい』はやめといた方がいいな。釜揚げ、覚えておけ。勇者とは学んでいくものなのだよ」
「積極的なのか消極的なのかよくわからない作戦だね」
「釜揚げ。今は力を蓄える時なのだ。おっ、このベッド良さそうだな、交換っと。ロフトも大きめに造ってと。あぁ、もうポイントが足りない!」
「さっそく無駄遣いとか懲りないよね」
「何を言う、明日から毎日500P入るんだぞ。先を見た行動と言ってほしいな」
「そういえば、さっき『千葉ダンジョン』から会談の連絡がきてたよ。会う?」
「『千葉ダンジョン』って、じり貧のダンジョンだろ。定期的なポイント収入を得た僕に怖いものはない。断っておけ。助けてくれとか言われても面倒なだけだしな」
「それが、初期ダンジョンは運営が大変だから手助けしたいとか言ってるよ。情報交換もしませんか? って」
「どうやら『千葉ダンジョン』は僕のイノシシ&ロフト作戦をどうしても知りたいと見える。馴れ合う気はないと断っておけ」
「いいの? 悪い話だとは思えないけど」
ふーぅ。結果的に良い方向に進みだしたぞ。人に発見されてもイノシシしかいない洞窟だ、ダンジョンとは思うまい。しかもお父さんイノシシが猛烈に追い出し、追い掛け回すイメージが目に浮かぶ。素晴らしいカモフラージュ。僕は天才か! まずはじっくりポイントを貯める。そして寝室の奪還が最初のクエストだな。
と、とても厳しい戦いになりそうだ。やはり勇者には試練が待ち受けるものなのだな。




