第8章 1話
「どうしてこうなった……」
ここは『香川ダンジョン』。ダンジョンマスターのショウはため息と共に言葉を吐き出した。
彼はモンスタードールズと同じく前の世界にいた逆転生者である。
前の世界では勇者をしていた。
僕はダンジョンマスターとの死闘で命を落とした。カイトと名乗ったダンジョンマスターは今まで戦った誰よりも強くまるで底が見えなかった。仲間と協力してなんとか立ち回っていたのだが相討ちに持ち込むのが限界だった。彼を倒すためには自分の命を引き換えにしなければ難しかったのだ。悔しさはなかった。力の限りぶつかり合えた。どちらかというとこの戦いが終わってしまう悲しみの方が強かったかもしれない。
転生に際して神様に生まれ変わる世界について希望を聞かれたのだが、僕の答えは決まっていた。お願いしたのは強者としびれるような戦いがしたい。そんな世界へ連れていって欲しいと。
そうして生まれ変わった世界は日本という国、そして転生した世界を知って愕然とした。なんだこの平和な国は。魔法も使えない。勇者の力はもちろん無い。そしてこの世界にはダンジョンが無かったのだ。
事態が急変したのは24歳になった時だった。なんとこの世界にもダンジョンが出現したのだ。勇者の力を取り戻せるかもしれない。だが、テレビに映っている『千葉ダンジョン』は完全に封鎖されており入ることすら難しそうだ。
そもそもレベル1のままダンジョンに突入するのは例え勇者でも死ににいくようなものだ。少しずつレベルを上げては戻り体力を回復してを繰り返しながら時間を掛けて力をつけていくのが基本だ。そのためにはまだ誰も見つけていないダンジョンを探しだし何度も何度も通いながら力を取り戻さなければならない。
それから休日はダンジョン探しの日々に費やした。ダンジョンが出来そうな場所はあらかた探した。さすがに心が折れそうになった頃、何かに導かれるようにこの場所にたどり着いたのだが。
「どうしてこうなった……」
「どうも釜揚げさんだよ」
ダンジョンの案内人が現れたと思ったらいきなりビームを撃たれていた。普通の人間に避けられるはずがない。
確かにダンジョンは探していたが、ダンジョンマスターにしてくれとは言ってない。
「いや、でもこれで勇者の力を取り戻せるのか? しかし、完全に人類の敵だな。まぁ強くなれるならそれでも構わない」
「どうも釜揚げさんだよ」
「うるさい。二度も言わんでも聞こえてるわ!」
「だって急に独り言を話し始めたからビーム失敗したのかと思ったよ。頭大丈夫? それとも元々拗らせちゃってる系の人?」
「はぁ……どうしてこうなった」
「か、釜揚げさん……だよ」
ダンジョンマスターというのがどのようにして生まれるのかを初めて知った。とにかく、この案内人から少しでも情報を収集して一日も早く力を取り戻そう。
「おい、釜揚げ。知ってる情報全部よこせ! 隠し事するようならそのうどん釜玉にして啜ってやるからな」
「天カスにネギと出汁醤油を垂らした方がもっと美味しいよ」
「…………」
と、とにかく僕はこの案内人から話を聞いてダンジョンポイントを集めるための作戦を考えることにした。
『千葉ダンジョン』や『山梨ダンジョン』を見る限り、日本政府に見つけられたらお仕舞いだ。序盤で入口を封鎖されるのはキツい。人類を甘く見ない方がいいな。人をターゲットにするのは力をつけてからでいいだろう。そうなると牧場か、しかしどうやって何を集めればいいのか。
「さっき勢いで交換した『聖剣』500Pが痛いよね。しかも、ぷっ、攻撃力+5って。大丈夫なの?」
「う、うるさい! 例えレプリカでも、こ、これは、これだけは譲れないんだ」
まったくロマンのわからない案内人だ。やはり勇者には聖剣がなければ格好つかない。僕は形から入るタイプなんだ。気持ちが上がってこないとやる気なんてでないからな。
「はいはい。元勇者様。ポリポリッ」
「お、おい釜揚げ! お前何食ってるんだ」
「ん? あー、さっき交換した『えびせんべい』だよ。食べる?」
「お、おま、ポイント減ってるじゃないか!!!」




