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閑話 7

 とうとうその時が訪れた。それは長いこと待ちわびた瞬間でもあった。暗闇の中で蠢くそれは異常な空腹感のせいなのか少し気が立っているように思える。見るからに痩せ細った体重はほぼ半分にまで落ちていた。彼らが、彼らがついに目覚めたのだ。


 身体に足りない栄養を吸収したい。すべてを喰らい尽くしたい。捕食者としてプライドが呼び起こされる。久し振りに感じる高揚感が押さえ切れない。我々は我慢していたのだ。ここからは我々のターンだ。歓喜の気持ちを隠さずに彼らは動き始める。


 「お、お姉さま、涙が溢れていますよ」


 「ぐすんっ。そ、そうね。嬉し涙かしら」


 「長かったですからね。みなさん元気そうで良かったです」


 コウモリさん復活!!


 おはようございます。新しい春の到来と共に朗報がもたらされた。冬眠していたコウモリさんが遂に目覚めたのだ。その日の夕方、亀山から出発したコウモリさん達はお腹を膨らませて無事帰宅された。何故だか景色が変わっていることには特に気付いていないようだった。


 そして数日後、たくさんの仲間を引き連れダンジョンに戻ってきた彼らの総数は優に三万を超えていたという。そんなに住み心地が良いのだろうか。夏には繁殖期を迎える。部屋の拡大も考えねばなるまい。かなり嬉しい。他のダンジョンでも順調に数が増えていることを祈るばかりだ。




◇◇◇◆◆



 「というわけで、コウモリさんお目覚め記念! 海の幸バーベキュー大会の開催をここに宣言いたしますわ。エディ、早く炭を起こしなさい。焼き物の下処理は終わってるのかしら。人手が足りないわ。『ゴブリン』、『フォレストエイプ』も焼き係りよ!」


 今日はダンジョン三階層の草原フロアにてバーベキューを開催している。ティア先生が張り切ってみんなを顎で使いまくっている。コウモリさんの目覚めが余程嬉しかったようだ。


 「ティアちゃん、炭の準備は万端よ。魚の下処理はこれからだから誰か手伝ってちょうだい。貝と伊勢海老はどんどん焼いちゃっていいわ」


 「エディさん、私達が手伝います」


 レヴィとレイコさんが名乗り出てくれた。『千葉ダンジョン』の出来る女性コンビだ。頼りになります。


 「ヨルムンガンドちゃん、ティアと一緒に貝を焼こうよ。美味しいよ」


 「そうだな。焼いたのをレヴィとレイコに持っていってやろう」


 ここに出来る五歳児がいた。や、やるじゃないかヨルムンガンドちゃん。


 「ティア、何から焼くの?」


 「タカシ様、やはり基本は『白ハマグリ』ではないでしょうか。口が開いたら醤油を垂らして頂きましょう」


 「うん、聞くだけで涎が出そうだね」


 「おい、ティア。この網の上に貝を並べればいいのか」


 「そうね。置けるだけ置きなさい。『白ハマグリ』は1トンあるわ」


 おいエディ、どんだけ持ってきやがった。他の食材の量を聞くのがちょっと怖いぞ。


 「ティアちゃん、口が開いたら貝をひっくり返すのよ。中のお汁をこぼさないように気をつけてねー」


 「みんな聞いたわね! 汁をこぼした奴はタカシ様に殺されるわよ。そんな能なしは一回リポップした方がいいかしら」


 僕、一言もそんなこと言ってないからね。ダンジョンダークジョークなのか!? あと、『ゴブリン』はもうリポップしないんだからね! そもそもひっくり返す時に汁こぼれるだろ。


 「マスター、すげーいい匂いしてきたぞ! あの醤油垂らしたやつ一個食べていいか」


 「貝は食べきれないぐらいあるらしいからたくさん食べな。美味しく焼けたのをレヴィとレイコさんに持っていけばいいよ」


 パチッ、ピュー、パチパチッ、勢いよく『白ハマグリ』から音が鳴る!


 「うん。はふ、はふ、うんめぇーな! マスター、こんなちっちゃいのに旨味が凝縮されてるぞ!」


 なかなか上手な食リポじゃないか。ヨルムンガンドちゃんもちっちゃいのに激強だからね。


 「『フォレストエイプ』は『サザエ』を焼き始めなさい。『ゴブリン』は『白ハマグリ』を50個おかわりよ! 2秒以内に持ってきなさい。遅れたらレイコがぶん殴るかしら」


 相変わらず理不尽に人の名前を使いながらの顎使いが凄まじい。


 「エディ! バーベキューコンロが圧倒的に足りないわ。追加50台よ! 急がないとレヴィが指の爪を剥ぐかしら」


 レヴィはそんなことしない。


 「ちょっとティアちゃん、がっつきすぎー! 慌てなくても海鮮は逃げないわ」


 「エディ! 貝は食べ始めたら止まらないのよ。私の体がコハク酸とグルタミン酸を強烈に欲しているかしら」


 もはや、食べ物ではなく旨味成分で表現し始めたティア先生の満腹中枢は完全に行方不明のようだ。

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