第7章 7話
『栃木ダンジョン』から戻るとすぐにハリスは品田防衛大臣を呼び出し、在日米軍部隊による『千葉ダンジョン』攻略を宣言した。
「ハリス司令官、いくらなんでも『千葉ダンジョン』は危険すぎます。少し落ち着いてください」
「私は落ち着いているよ、品田大臣。もちろん、『栃木ダンジョン』で行方不明となった同胞の敵討ちでもあるが、わざわざ死にに行くつもりはない。例のパワースーツで攻略に挑みたい」
日米の共同開発により進められている耐熱、耐冷機能と体の動きを電動でアシストしてくれるパワースーツが実証実験段階を迎えていた。一回り大きな動きやすい宇宙服をイメージしてもらいたい。もちろん防御機能そのものもかなり強化されているため、外部から受けるダメージも低減させる。
まだ細かい動きには対応仕切れない部分もあるが、長時間任務による疲労軽減やそのパワーは各国からかなりの注目を集めている。
「まだ、実験段階のものを実戦で使うなんてどうかしてますよ」
「私は思うんだよ。奴らのここぞという時の攻撃は例の氷の魔法なんだ。あれを耐えられたら人類は一歩前に進めるはずだ。そうは思わないか、品田大臣」
「確かにあのパワースーツなら耐えられる可能性はあるかもしれません。しかしながら、これは私が判断するレベルを明らかに超えています。少し時間をください」
「結構だとも。その間に我々はパワースーツでの訓練を進めさせていただこう。それから、最悪の事態に備えて小型核兵器の持ち込みを許可願いたい。ドラゴンもいるらしいからな」
我々が実験をしてやるといってるんだ。すぐに許可を出してもらいたいね。まぁ、我々で攻略してしまえばダンジョンの利権に関しても主導権を握ることができる。きっとオーウェン大統領もお喜びになることだろう。
「今、何とおっしゃいました? 我が国への核の持ち込みは禁止されているのはご存知のはずです!」
「品田大臣。私はあなたと話しているんじゃない。早く持ち帰って日本政府の回答を聞かせてもらいたい。ダンジョンの中は日本ではないだろう。持ち込みはするけど使用するのはダンジョンの中だ。こちらは既にオーウェン大統領に了承いただいているのだよ」
「わ、わかりました。すぐに回答いたしますのでお待ちください」
品田大臣は困り顔で焦ったように部屋を出ていった。最初からそう言えばいいんだ。頼むからちゃんと仕事をしてくれよ。
「司令官、あまりご機嫌が良くないようですね」
「アレックス准将か。なんだ花なんて持って気でも触れたか?」
「これは日本の花で『菜の花』と言うそうですよ。花言葉には『豊かさ、財産』という意味もある縁起の良い花なんですよ。アメリカの成功を祈念して飾らせてください」
アレックスは用意した花瓶に『菜の花』を生けていた。准将にこんな趣味があったとはな。まさか日本の女性と付き合ってる訳じゃないだろうな。
「そういえば例のダンジョンツアーはどうだったんだ。生きてるってことはハズレを引いたようだな。かわいい日本人のガールフレンドでも掴まえたか? ハッハッハ」
「さすがにダンジョンもそんな簡単には尻尾を掴ませてくれないようですね。また機会があったら参加してみますよ」
「アレックス准将、明日からパワースーツを使用してダンジョンを想定した訓練を始めさせろ。メンバーの選択は准将に任せる。一週間もすれば日本政府も回答が出てくるだろう。早めに仕上げろよ」
「かしこまりました、司令官。早速リストアップしましょう。では、失礼します」
「あぁ、頼んだぞ」
アレックス准将に任せておけば間違いはないだろう。まぁ、このダンジョン関連で実績を出せば彼もすぐに少将になるか。
それにしても、『菜の花』といったか。花を飾るというのも悪くないかもしれんな。造花ではない生きている感じがいい。そういえば『栃木ダンジョン』から戻って全く休んでなかったせいか、ちょっと眠くなってきたな。少し、少しだけ休むか……。




