第7章 6話
や、やっとヨルムンガンドちゃんから解放されたぜ。五歳児は興味の移り変わりがとても早い。面白そうなきっかけを与えればもう夢中になってくれる。籾殻作戦でニワトリとの距離を縮めたゴブリンと一緒になって楽しそうに面倒を見ている。うん。いいことだね。
ティア達は『魔力操作』スキルの練習をしているだろうから邪魔しないでおこう。三人が頑張っている間に僕はダンジョン一階層のカスタマイズしながら居住区に戻った。
カスタマイズ部分は入口から続く通路箇所を細かく迷路状に仕上げていったことだ。『新潟ダンジョン』に指示したことと同じなのだが、そこは師匠としての意地もある。サクラちゃんが悔しがる程度にはやりきった。弟子よ、力の差を思い知るがいい。
「あー、ピースケ。お昼ご飯何にする? みんなの分も用意してあげようと思うんだけど何か食べたいのある?」
居住区にいたピースケに声をかけた。お昼どうしようかね。
「そうっすね。たまには普通にパンとかどうっすか」
「パンか、いいかもね。どうせならいろんな種類のパンとコーヒーを用意しようか。ヨルムンガンドちゃんには甘いマキシマムコーヒーかな」
「いろんな種類ということは、あそこのパンっすか?」
「そうだね。『チーターパン』のパンは、はずせないよね」
千葉で人気のパン屋といったら『チーターパン』の名前が間違いなくあげられるだろう。いわゆる一般的なパン屋で、尖ったこだわりのパンを提供している訳ではない。しかしながらその人気は小さなお子様からご老人まで幅広い年齢層に喜ばれる豊富なラインナップと焼きたての提供。言うなれば、最高の普通にして最強の普通なのだ。
「マスター、『つぶつぶピーナッツ』は多めにお願いするっす」
「わかってるよ。あれはピーナッツクリームとピーナッツの食感が素晴らしくいいからね」
カレーパン、メロンパン、クリームパン、チーズボールもいい。あとは、焼きそばパンも用意しよう。ハニーフランスとつぶつぶピーナッツも忘れずにと。
パンを用意していたらレイコさんがやってきた。後ろにはティアとレヴィも続いている。
「タカシさん、お昼ご飯用意してくれたんですね。ありがとうございます」
「うん、お好きなパンをどうぞ。今、ピースケがコーヒーを用意してるから待ってて。みんな『魔力操作』スキルはどう? イメージ掴めそうかな?」
「えぇお兄さま、『賢者の杖』があるとイメージが伝わりやすいですね。繰り返し練習すればレベル2はすぐだと思いますよ」
さすが『賢者の杖』。ここまでなかなか活躍の場が少なかったけど、ここにきてプチブレイクしている。性能はチートなのだから使わないと勿体ないよね。
「このカレーパンとっても美味しいですわ。おかわり20個あるかしら」
相変わらずティア先生はおかわりの数量がどうかしている。でも『チーターパン』を誉められたようで僕も嬉しい。
「レヴィもレイコさんもいくらでも用意するからゆっくり食べてね。おかわりは僕かピースケに言って」
「マスター、お昼出来たなら呼んでくれよ! お腹減ってたんだぞ」
あー、ごめん。忘れてたよヨルムンガンドちゃん。ニワトリさんとの親睦会は無事終わったようで何より。
「ごめんね。今呼びに行くところだったんだ。はい、メロンパンとマキシマムコーヒーだよ」
「サンキュー、マスター。俺このコーヒー好きなんだよ」
すっごく甘いコーヒーだからヨルムンガンドちゃんでも美味しく飲めるのだ。
「マスター、大変っす!」
「どうしたの? コーヒーまだ?」
「そんなことより、情報収集をさせていた『てんとう虫』から緊急連絡が入ったっす」
「えっ、何かあったの?」
「どうやら、在日米軍部隊が『千葉ダンジョン』攻略に動くようっす」
「そ、それはラッキーだね。いっぱい来てくれるといいな。というか、何で『てんとう虫』さんがそんな情報手に入れられたの?」
「マスターの役に立てるように頑張ってるっすよ。訪日観光客に混じっていた軍人さんを乗っ取り、定期的に情報を集めてたみたいっす」
『てんとう虫』さんの優秀さがとどまることを知らない。




