第7章 5話
最近『賢者の杖』はティア、レヴィ、レイコさんがローテーションで『魔力操作』のスキル練習に使っている。やはり、サクラちゃんにスキルレベルを超されてしまったのが相当悔しかったらしい。
「おい、マスター。なんか面白いことないのかよ」
みんなのモチベーションが上がって、やる気があるのはとてもいいことだと思う。切磋琢磨していくのはお互いを高め合い効果も上がるに違いない。
でもきっと誰かがやりたいことをやってる時って代わりに誰かがフォローをしてこの世の中は回っているんじゃないかなって思う。
「マスター。なんかスゲーモンスター召喚しようぜ!」
ヨルムンガンドちゃんがすごく落ち着きがない。もう昼寝はしてくれないっぽい。おやつも今はいらないという。『プレミアム枇杷ソフト』とっても美味しいのに。
今まではレイコさんやレヴィが面倒みてくれているからこそ僕は自由を謳歌していたのだ。今ならはっきりと言える。二人とも心から申し訳なかった。
さっきから僕の肩の上に乗り騒いでいるヨルムンガンドちゃんは気が済むまで遊んであげないと許してくれなそうだ。
「なぁマスター。何して遊ぶんだよ」
「じゃあ、養鶏場の様子も見たいし四階層へ散歩に行くか」
「養鶏場か! 俺がペンキ塗ったところ見せてやるよ」
「うん、楽しみだね。ニワトリは元気そうかな?」
「朝からうるさいぐらい元気だぞ。ただよぉ、まだゴブリンやフォレストエイプに慣れてねぇみてぇで変な緊張感があるんだ」
なるほど。びっくりするくらい状況を把握してるじゃないか。やるなヨルムンガンドちゃん。
「じゃあ、僕と一緒にニワトリのストレス解消とみんなと仲良くなれるように手伝ってよ」
「おぉ! 任せとけよ」
そうして、僕とヨルムンガンドちゃんが四階層にある養鶏場にくると、ニワトリ達の様子がおかしい。何だろう。この遠距離恋愛をしていたかのような哀愁を帯びた雌の目線が僕に突き刺さる。
「なんかマスターにすげーなついてねぇか?」
怪しむようなヨルムンガンドちゃんの目線が痛い。
「さ、さぁ、どうだろう。そ、そういえば最初に治癒を撃ってあげたっけな」
「あー、なるほどな。薬中にしたのか」
ちょ、言い方。気をつけてよね! 結構気にしているんだからさ。
「そんなことよりさ、ゴブリン達を呼んできてよ」
「わかった! 待ってろよ」
ヨルムンガンドちゃんは、中で掃除や餌やりなどの面倒を見ていたゴブリン達を集めて連れてきてくれた。
「ヨルムンガンドちゃんありがとう。みんなに聞いてもらいたいんだけど、ニワトリ達のストレス解消とお互いの信頼関係を構築するために定期的に外に連れ出そうと思うんだ」
「ゴブッゴブッ」
「ゴブッゴブッ?」
「ゴブ」
やべぇ。何言ってるのかわかんない。ヨルムンガンドちゃんわかるのかな。
「マスター、ゴブリン何言ってるのかわっかんねえな」
おい、どうやって集めてきた。ゴブリンなんで集合できたんだよ。あれか、ボディランゲージなのか。
とりあえず、身振り手振りでやれるだけやってみよう。まずは、程よい高さの木の柵を用意して養鶏場の周りを囲うように指示っと。
次にニワトリ達を養鶏場から外へ連れ出すように伝えた。やはり、ゴブリン達を警戒しながら距離をとっているように思える。慣れれば問題ないかと思うけど早く仲良くなるに越したことはない。
ニワトリ達はゴブリン達から離れて僕の周りに密集して集まっている。なんかごめん。ゴブリン達が悲しい目をしている気がする。
でも大丈夫だ。僕が合図を送るとゴブリン達が何かを撒きはじめた。
「マスター、白い粉を撒いてるみたいだけどあれもヤバい薬なのか?」
白い粉の薬とかイメージがよくないよ。違うからね。そういうのじゃないよ。
「ち、違うよ。あれは籾殻っていってお米の殻でね、ニワトリ達の大好物なんだよ」
「おー、すげー食い付きがいいぞ!俺もやる!」
ニワトリ達は、籾殻に米が残っていると思い、一心不乱に探しては食べ探しては食べを繰り返し満腹感を得ることでストレス解消に繋がっているのだろう。
いつの間にか、ニワトリとゴブリンの距離が縮まっていた。素敵なプレゼントをくれるおっさんと認識し始めたのだろう。
ヨルムンガンドちゃんもゴブリン達もニワトリの反応がいいのか楽しそうだ。よかったよかった。




