星が零れる夜には
憧れの先輩と私が冬空の下で星見をする、そんなお話。
初投稿ですが、頑張って書いてみました…!
楽しんで頂けますように。
「ねぇ、あのお星さまはなに?」
無邪気に先輩が天を指しながら問いかける。
「あの二つ寄り添っているのですか?あれはカストルとポルックスですよ。」
「まあ、双子の!」
数千年たってもずっと仲良しなのね、と嬉しそうに微笑む先輩。
夜空に輝く双星。α星のカストルの方が実はβ星のポルックスより暗い。
「双子なのにお父さんが違うの。カストルは人間、そしてポルックスはゼウスの子で不死身なのよ。」
大好きな兄を戦いで亡くしてしまい置いて行かれたポルックスが父神に願い、永遠に一緒にいられるように星座にしてもらったのだそう。
先輩はギリシャ神話に精通している。
お星さま自体を知らなくても、そのお星さまにまつわるお話をいっぱい知っている。
私は本当に最低限しか知らないから先輩のお話を聞いて少しずつ覚えていっている状態。
お星さまそのものにしても、小学校で教わって以来だからそれこそ最低限。
この通りだから私ではあんまり先輩のお役に立てないけれど、楽しそうに話す先輩の姿を見ていたくてついついお供してしまう。
「じゃあ、あちらの明るいお星さまは?」
「…なんでしたっけ?アプリ入れているので調べてみます。」
私としたことが。ど忘れしてしまった。絶対有名なお星さまなのに。
こういう時、スマホってほんと便利。
少し自分にがっかりしつつ、ぱっとスマホをお空にかざすとふわっと名前が浮かび上がった。
「あれは…アルデバラン、ですね。」
おうし座のα星。全天に21ある1等星の1つ。
近くにあるシリウスと比べると少し控えめだけれど、それでも静かにはっきりと「私はここにいるよ」と見上げる者に語りかけているようにみえる。
「アル…アルで始まるってことはアラビア語由来のお名前なのね?どんな意味なのかしら…」
お空を仰いだまま頬に手を当てしばらく考え込む先輩。
離れた街灯にほのかに照らされた、悩ましげな横顔がはっとするほど美しく。
もっとずっと見ていたい、
――このまま、時間が止まればいいのに。
でも世の中そんなにうまくいかないわけで。
「お家帰ったら調べないと…。ああ、どうしようもなく気になるわ、分からないのが悔しい!」
語学も堪能な先輩でもさすがに分からなかったらしく、残念な顔をしてあきらめた。
あわせて私の世界がまた動き出した。
「あっ、流れ星よ!」
先輩のはずんだ声を聞いて私も顔を跳ね上げる。
ほら、あそこ、って大はしゃぎしている。
「お星さまが零れる夜には、奇跡が起こるのかもしれないんですって!お願いしてみましょ、ね?」
あまりの嬉しさにくるくる回っていたのを止め、先輩は私を誘う。
手を組み目を閉じ、しばし祈りをささげる先輩。
頭を少し垂れた先輩は清らかな空気をたたえていて。
どこかこの世とはかけ離れた先輩に見とれていたらお願いし損ねてしまった。
先輩のまつげが震えるのを見て慌てて私も手を組む。
気づかれないように。
ふぅ、と満足そうに一息ついた先輩はしなやかに後ろを振り返った。
私の大好きな、ふんわりとした笑顔で。
「ねぇ、また一緒に星見をしましょう。今夜も楽しかったわ。」
好奇心旺盛な先輩。その新しい知識への貪欲さを私は見習いたい。
凛とした姿で目を眇める、かっこいい先輩。その立ち居振舞いの美しさも見習いたい。
私に様々な神話や小話を語り聞かせてくれる、博識な先輩。
それと打って変わって少女のようにはしゃいで楽しそうに笑う、かわいい先輩。
なんにも持っていない私では烏滸がましいの解っている。
でも、できることなら、許されるのなら。
私はいろんな先輩を見つけたい。
横で見ていたい。
その刹那。
お星さまがまた一つ、お空を駆け抜けていった。
神様にばれちゃったのかな。
でもほんの少しでいい、神様が気にかけてくれたのなら、私は満足かな。
――お星さまが零れる夜には、奇跡が起こるのかもしれないんですって。
自然とほころんだ口元のまま、先輩に返す。
「はい。私でよろしければ、またお供します。」