ミラーハウスへ行く→
「く……ここ、か!」
苦々しい声を上げて、ミラーハウスへと飛び込んだあなた。 そのまま、ずるずると座り込んで。
はあ、はあ、と、息を整えています。
……長い時間走っていたから、当然といえば、当然でしょう。
呼吸が整ってくると、次第に周囲が気になってきたあなた。
……奥の部屋から、何やら軽快な音楽が鳴り響いてます。
「……ミラーハウス、か。
……ていうか、このまま、ここに、ずっといればいいんじゃないか?」
そんなことを呟いたあなたですが、すぐに自分の考えを否定します。
何しろ、食べ物もなにも無い状態。
ここで座り込んでいても、餓死の未来しかありません。
先に進むしか、道は無いのです!
そういえば、昔、ミラーハウスに入ったことがあったなあ、とあなたは思い出しました。
当時の自分にとっては、まさに迷宮。
難攻不落の、大迷路だったことを思い出したのでした。
よたよたと、ミラーハウスの入り口へ向かっていると。
看板を、見つけました。
『本物の自分は、ど~れだ?』
看板に描かれた裏野ラビットのニッケルさんは、おどけたポーズでそんな台詞を書かれています。
本物の、自分?
何を、言っているのでしょう。
問題を横目に、ミラーハウスへ足を踏み入れると。
「ああ……なんというか……懐かしいなあ」
いつか来た、難攻不落の迷路が、そこにあったのでした。
「……まあ、今なら、クリアも余裕でしょ」
そういうとあなたは、右手を伸ばして、右手の鏡に手を付けました。
「こうやって、壁に手を付けて進んでいけば……って、うお!?」
まるで、泥沼のように、沈み込む鏡。
驚いて、思わず手を引っ込めたあなたですが。
「……これが、怪異、ってやつか」
意外と物分り良く、現状を把握しています。
「……っち。
っつっても、こうやって進むしか、ないからな……」
そして、観念したかのように、再度右隣の壁に手を突っ込むと、鏡の迷宮へ、足を踏み入れるのでした。
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「はあ、はあ……な、なんだ、ここは!?」
あなたは、耐え切れずに声を上げます。
それもそのはず。
ゴールがどこにも、無いのですから!
「別の、ゴールが、あるってこと、か?」
なんとなく鏡に向かいながら、そんなことを呟くあなたは、あることに気がつきました。
「……なん……だ?
この鏡の私……鼻の頭に、黒子がある」
ひょい、と横を見るあなた。
「……なんだ……この鏡の私は……眼帯を付けている。
……うわ、何で気がつかなかったんだ」
あなたは周りを見渡します。
鏡に映るあなたは、全く同じようで……どこかが、違う、みたいです。
そこで、思い出す、入り口の、問題。
『本物の自分は、ど~れだ?』
「……つまり、本物と全く同じ鏡を見つければ、良いってこと……なのか?」
あなたは、やっと、理解したかのように、再度ミラーハウスの中へと足を進めるのでした。
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「……右13の鏡か、左42の鏡……どっちか……だな」
鏡を覗き込みながら、あなたは呟きます。
あれからすべての鏡をチェックして。
自分と同じ格好をしている鏡を2つ、見つけたのでした。
しかし、見つけた2つは、本当に全く同じで。
違いを見つけることが、できなかったのです。
「……もう、これ以上は、仕方ないわな。
勘で選ぼう」
そう呟くと、あなたは、正解と思う鏡のひとつに、手をずぶずぶと、飲み込ませていくのでした。
ちなみに。
『本物の自分は、ど~れだ?』
答えは、『もちろん、あなた』。
鏡の中に、本物がいるわけがありません!
因みに、鏡の中のあなたとは。
虫歯の位置が、違うのでした。
「ぎ、ぎ、ぎいいいいい!?」
突然、ばきばきばき、という音が、あなたの手の先から……鏡に突っ込んだ手の先から、聞こえてきます。
……まるで、シュレッダーのような、音です。
激痛とともに、鏡に飲み込まれていく右腕。
そのまま、抵抗していた両足が飲み込まれて行き。
……新たな激痛が、追加されていきます。
静かに、あなたは思いました。
『ウワサ4 ミラーハウスでの入れ替わり
ミラーハウスから出てきたあと
「別人みたいに人が変わった」って人が
何人かいるらしいよ。
なんというか、まるで中身だけが
違う見たいだって……』
入れ替わりなのか、何なのか知りませんが。
全身をシュレッダーにかけられて。
人格が変わらない人はいないだろう、と。
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