動く魔法の絵本制作
最後は、我が出版社の絵本部門で働く、青山ユキさん(35)の紹介である。
青山さんは、「ユキの冒険」シリーズの制作を手がけている。
悠「お久しぶりです! お会いするのは、新人歓迎会の時以来でしょうか」
青「そうですね。 うちの会社では、他部署間ではあまり交流ありませんからね」
悠「今日は、魔法の絵本の制作について、お聞かせ願いたいと思いますが、絵本はどの様に制作するのでしょうか?」
青「はい。 簡単に流れを説明しますと、まずストーリーを作家さんと打ち合わせで決めていきます。 その後に、本の制作に取りかかりますが、仕掛けの魔方陣を作らなければなりません」
青山さんは一冊の本をバックから取り出した。
中を開くと、左のページの中央に魔方陣の半分が描かれており、右のページの裏には、魔方陣のもう半分が描かれている。
それをめくることで魔方陣が重なって魔法が発動する、という仕組みだ。
青「魔方陣による魔法は、まだ言語が存在していなかった古代に発達したと言われています。 魔力を持つものが、円の中に特定の記号を書き記し、魔法が発動します」
悠「魔力を持たないものでは、魔法が発動しない?」
青「ご安心下さい。 この本の用紙には、高麗人参のエキスが染みこませてあります。 高麗人参は、昔から魔力を持つ野菜として馴染みがあります」
悠「なるほど。 それなら、魔力を持たないものでも、絵本を見ることができると」
青「はい。 せっかくなので、新作のユキの冒険を御覧になられますか? これはまだ世に出ていません」
悠「ほんとですか!」
部屋の明かりを消し、悠早はおもむろに本を開いた。
次のページをめくり、魔方陣を組み合わせると、光が照射され、一人の少女が中空に投影される。
少「あなたは、誰?」
悠「えっ、誰って……」
突然の問いかけに驚く悠早。
しかし、ここで名前を告げなければ話が進まない。
悠「ゆ、悠早です」
少「悠早…… 私はユキ。 落ち着いて聞いてくれる? 今から、あなたの世界には、恐ろしい魔物が世界を滅ぼしにやって来るの」
ユキの話では、自分は、滅んだ未来の人間が残したホログラムで、時空魔法を使って過去に送り出されたとのことだ。
ユ「本を閉じたら私も消えてしまうから気を付けて。 外に行きましょう」
悠早は言われるがまま、本を持って外に出た。
悠「うわあああっ!?」
巨大な影に気づき、空を見上げると、そこには全長10メーターはあろうかと思われるドラゴンの姿があった。
ユ「悠早、今から私と一緒に、消滅魔法を唱えて! 私も消えてしまうけど、ドラゴンも消えるわ」
悠「そ、そんなっ……」
すっかりストーリーにはまり込んだ悠早。
この後、消滅魔法を唱え、ドラゴンを退治することに成功した。
ユキ「あなたに会えて、よかっ、た……」
悠「ユキーーーーーッ!」
悠「いやぁ、のめり込んでしまいました笑 とても楽しかったです」
青「良かった笑」
悠「青山さんの、今後の目標は?」
青「そうですね…… 私がこのプロジェクトを立ち上げた理由っていうのが、魔法は敵を倒す手段だけでなく、もっとみんなを楽しませることのできるものだと思ったからです。 なので、少し大袈裟かも知れませんが、これから色んな人にこの絵本を手にして頂いて、魔法って、とても楽しい
ものなんだな、と気づいてもらいたいですね」
悠「少なくとも、僕はそう思いましたよ。 本日は、ありがとうございました!」
青「ありがとうございました」