序章:魔の敵
明るくなることの無い空に荒れ果てた大地、鬱蒼とした数メートル先が見えない森、地平線魔で続く砂漠、その他にも到底人間では生きていく事、ましてや一度踏み込むと帰ってこれる保証の無い厳しい世界が広がっている、この地こそがまさに魔界と呼ぶに相応しい場所である。
そんな魔界のあちらこちらで天を貫く轟音と光、鋭い金属のぶつかり合う音、地を震わす雄叫びや怨嗟の声が鳴り止むことなく続いていた。
ここでは魔物だけに飽き足らず、神魔霊獣がこぞって己が力を振るい、より強者により高みに上り詰めるため、いずれ魔界の王となるために戦い続ける物語___
と、銘打ったネットゲーム『ヘレミュトス』は今までに無い独特なシステムで一斉を風靡した。
システム自体は良くあるネトゲと大差は無く、モンスターを狩りレベルを上げ成長し、それに応じたスキルポイントで新しい技、特技、魔法などを習得していく。いたってよく見る普通のネトゲといったところ。
だが他のネトゲには無い目玉とも言えるものがこのゲームを一躍有名にすることになる。
まず舞台が魔界というファンタジー世界で、そこは荒れた大地や砂漠に深い森、はたまた氷河や火山地帯など到底人が生きていけないような環境、そこに生息するのは屈強な魔物達である。つまりプレイヤーは魔物となりこの地を支配する魔王となるために強さを求める。といった内容になっている。
このままだと良くあるRPGの主人公を人から魔物に変えただけの色物として人気もでずに埋もれていく作品の1つになっていたであろうが、魔物であることを生かしたシステムが人気に火をつけることになる。それは多数にわたる種族とクラスであった。
魔物といっても色々な種類がいるのはファンタジーの常識となっているであろう事で、ポピュラーなところでゴブリン、オーク、エルフ、獣人、スライム、etc・・・ とこれ以外にも多数思いつくことであろう種類の数はかなりの数に上ることになる。
その数は一言で言うと多すぎるに尽きた。
この多すぎるというのには理由があり、このシステムこそがこのゲームの最大の特徴といえるもの、魔物のクラスシステムである。
このクラスというもの、たとえば最初に選んだ種族が『ゴブリン』だとしよう。このゴブリンのステータスは体力が高めで足が速い上に小柄なのもあいまって回避力が高め、力は普通だが器用さや魔法力にかけているといったものである。定石道理であるならば剣や棍棒に盾などを持ち、軽めの鎧を着込み近接戦闘を行うことになるだろう。そうしてレベルの上がったゴブリンはクラスが上がり『ゴブリンナイト』や『ゴブリンウォーリア』となるであろうと、実際そうなることのほうが多かった。
だが、あえて苦手とする魔法を学び、それを極めんとするプレイヤーもいた。効率は悪いが使えないことも無い魔法を使い続けた結果、ゴブリンはレベルを上げ『ゴブリンウィザード』や『ゴブリンメイジ』などへとクラスチェンジを遂げることになった。
これはあくまで一例であり、派生条件として特定の種族を狩り続ける事や特定の地域での戦闘、特殊なアイテムの連続使用など、様々な条件でクラスチェンジを果たすことになる。その数が尋常ではなかったのだ。
結果プレイヤー達は育成に力を入れ始めた。そして次々に出てくる新しいクラスの多さにネット上で大きな注目を集めた。その事に運営は目をつけ、図鑑システムと所持できるキャラクターの増加を発表し、育成ゲームとしての大きな路線変更を大型アップデートとして打ち込み、大人気ネットゲームへと成長してい区ことになるでのあった。
この世界に生まれてはじめて目にしたものは赤い溶岩と煙を吹き上げる巨大な黒い山と暗い空だった。見上げる巨大な火山の周りには大きな翼を持った魔物が数体飛んでいるのが見える。
「ここが魔界かー」
とのん気にあたりを見回し、自分の姿を確認する。
密度の濃い黒い霧が黒いボロのマントを羽織っただけの姿、ファントムという種族の魔物である。他の魔物に憑依し、そのコントロールを奪ってしまう魔物である。
はじめはコントロールを完全に得ることは難しく、倒した魔物の死体などを乗っ取ることが多いが、レベルが上がると意識を保つ魔物までもコントロール下に置くことができるため非常に厄介な魔物であるといえる種族である。
とはいえ最初の段階では自分そのものの戦闘力は低く、そのあたりの雑魚でさえ倒すのが難しいのである。なので初期スキルの一つに他の魔物に潜伏するというスキルがあり、潜伏した魔物が得る経験値を少量得ることができるというものである。最初はほぼコレしかないので別名コバンザメと呼ばれていたりする。
だからこそ、やることは決まっている。
まず潜伏する魔物を見つけることだ、それも簡単にやられない程度の強い魔物であるのが望ましい。潜伏した魔物がやられてしまった際にはその場に放り出されることになってしまう、あくまでコバンザメのようにおこぼれに預かるだけなのだ。
そして潜伏には見つからないようにしなければならない、潜伏できさえすれば安心だが見つかれば当然戦闘になる、そうなったらまず勝てないのだ。
そこでもう一つのスキル、影に潜む能力を利用する。
これで物陰に隠れこっそりと相手に近づくか、通りかかるのを待つのだ。
だがここは火山地帯、熱に強い魔物が多いここは溶岩の中に身を潜めたりするスキルを持つものが多く、それ以外は翼を持ち大空を舞い縄張り争いが絶えない。
そんな中で潜伏するのはかなり難しいだろう、影に潜んで待ってもいいがどれぐらいの時間がかかるか分からない。
「あいつらが降りる地点に潜んでいれば楽にいけそうだ」
問題はどこに降りるかとその地点まで無事に行動できるかだが。
空を見上げる限り4体ほどが争っているのが見えるがこちらを感知している魔物はいなさそうだ。
「いくなら今のうちだな」
こそこそと行動を開始する。
影から影に移動するにはどうしても体を外にさらす必要があるので辺りには細心の注意を払うことになるので思ったよりも先に進まない。
「レベルが上がれば感知スキルとかも覚えられるんだけど」
攻略サイトでは最初が非常にマゾいと書いていただけはある。ただ育つと強いのだ、それにカッコイイ見た目。
見た目もそこそこの自由度でクリエイトできるのも魅力の1つだった。クラスがあがるごとに姿は変わるがそれだけでなく、見た目を変更できるお店にいくとクラスに応じた装飾品などが増えている。
キャラクリエイトという点もゲームの人気上昇に一役買っているのだろう。
そんなことを考えていると空が一気に暗くなり、足場に影が増える。
なんだろうと上を見上げてみると一匹の龍族と目が合ってしまった。
「まずいまずいまずいまずい」
いやな汗が流れるような気がした。
実際には亡霊種のファントムに汗をかくということは無いがイメージがそうさせる。火山地帯なのに体温が一気に下がったような気がした。もちろん体温というものも無いのだが・・・。
発見されている状態での潜伏はほぼ不可能だ。
まず相手に近づく必要があるし、無意識もしくは潜伏させてもいいという許可がいるが、目の前の龍族は明らかな敵意を目に宿している。
「逃げるしかない、だがどこに」
龍族が大きく咆える。
地面が揺れるほどの咆哮を目の前で喰らう、圧倒的な力の差を見せ付ける咆哮は弱者の行動を大きく縛る。
動けない!!
龍族の口から赤い魔力を帯びた光が漏れ出す。
それは灼熱のブレス、火山地帯を住処とし炎熱に強い耐性を得た龍族から発せられるそれは石はおろか上位金属でさえ軽々と溶かしてしまうだろう。
「これは死んだ・・・」
これから我が身に起こるであろう事を考えて目を閉じた。
「・・・?」
予期した衝撃が来ない事にそっと目を開けると、対面の龍族は首を持ち上げ右側をにらみつけている。
その姿を見て、自分もそちらに目を向ける。
そこには一人の騎士がいた。
鈍い銀色の鎧に赤いマントをなびかせ、金色の細かな装飾が入った両手剣を片手で肩に構えている。
一番の特徴として首から上が無い。つまりデュラハンという種族である。
グルルルルルと搾り出すように喉を鳴らし威嚇する龍族に対しデュラハンはただ静かにこちらを見ている。
龍族は大きく首をもたげ、一呼吸のうちに灼熱のブレスを吐き出した。
一直線に向かってくるブレスに対して両手剣を構えて走り出した。
その動きは疾走、ブレスを両手剣で切り裂きながら突き進む。
驚いた龍族はブレスを中断し、体を大きくひねる。体中のバネを使いしならせた尻尾による攻撃で迎え撃つ。
デュラハンは大きく跳び攻撃をやすやすと回避、そのまま龍族を一撃で叩き伏せた。
「すごい・・・」
巻きこまれないように隠れていた影から顔を出し戦闘を見ていた自分はそんな言葉をもらしていた。
「珍しい魔物がいると思ったらネームドだったか」
「あ、はい。今日ここにきたばっかりで」
デュラハンに声をかけられて少し驚いたが、どうやらデュラハンもネームドモンスターのようだ。
ネームドモンスターとは種族以外に名前を持っている珍しい強力な魔物のことであり、早い話がプレイヤーのキャラということである。
「ファントムか、じゃあ龍族にでも潜伏してレベルを上げる予定だったのか。なんか悪いね、横から獲物とっちゃって」
「いえいえいえ、あのままじゃ確実にやられてたんで逆に助かりましたよ。ありがとうございます」
「ふむ、ここはレベル100辺りからよく使われるレベリング場所だから、さすがにレベル1からだと装備を整えなければしんどいと思うぞ」
デュラハンさんは親切にこの辺りの事を教えてくれた。
今の自分のレベルではここはかなり厳しいところのようだ、近場に有るレベル上げにいい場所と敵も教えてもらった。
「色々親切にありがとうございます」
「いやなに本当はこちらに潜伏させてあげるのが一番いいんだろうがクラスチェンジがいい具合に来ててな、ちょっと特定の行動以外取りたくないんだよ悪いね」
その言葉を聞きデュラハンさんのステータスを確認した。
名前はジーク、レベル110、種族はデュラハン、クラスはドラゴンスレイヤー。
「クラス見てもらえれば解るんだけどまだ確認されてないクラスになったからさ、かなり条件解りやすいしこのままさらに上があるか確認してみたいんだよ」
「確かにコレは解りやすいですね」
その後軽く世間話の後にフレンドをお願いしたが、何がクラスチェンジの条件か解らない以上現状から極力数字を変更したくないようで、最終クラスチェンジレベルの150以上になった後で機会があればという事になりその場を分かれることとなった。
その後ジークさんから教えてもらった低レベルでも比較的楽に狩りが出来るエリアにやってきた、ここまで来るのにも中々の冒険ではあったが無事であったのは龍族との戦いがあったからだろう。
影に潜み、通りかかった敵に潜伏し少しの時間がたった頃、レベルが2になった。
だが効率が著しく悪かった。
魔物同士がまず戦う必要があるのだが交戦することがまず少なかった。その上もらえる経験値はすずめの涙ほどしかないのだ。
かなり強い魔物にでも気づかれさえしなければ潜伏できるスキルの弊害か、こちらに降りてくる経験値の割合がかなり少なかった。
最初がしんどすぎるので研究が進んでいないわけである、おかげで効率のよい稼ぎ方に派生方法などもほぼ白紙だった。
「このままでも経験値はもらえるけど、どれだけ時間がかかるかわからないしなぁ。それに今潜伏してる魔物がネームドにやられるとまた一から潜伏しなおしになってしまうし。なにか別の方法を考えないとダメか」
考えるといっても一番最初に思いつくのはやはり先ほどのデュラハンだった。
龍族に怯むことなく圧倒したあのデュラハンはかなりかっこよかった。
敵を操り、敵同士で戦わせるというのも最初は策士のようでカッコイイと思っていた。いやその考えは今でも変わっていないのではあるが、デュラハンの様な近接戦闘のよさもまた理解できてしまった。
というか傍から見たらどうなんだろうか、やはり前に出て戦うほうがカッコイイのではないか?
それに潜伏もしくは操るとしても強さはその魔物に依存してしまう事になる。それはかなりまずいのではないだろうか。最悪自衛手段を持っておかないといざというとき逃げることも儘ならなさそうだった。
「そうなると何か一人でも戦える程度のスキルが必要になるな」
ここでまじまじとスキルを確認してみる。
「コレは・・・見事に状態異常とかしかないな」
あるのは潜伏系や隠密系の存在を隠すスキルに、魔法としてバインドなどの相手の行動阻害系が少しとなっていて、大多数は潜伏やコントロール系が占めてしまっていた。
「コレじゃ一人で戦うのはかなりきつそうだな」
どうしたものかと悩んでいるとあることに思いついた。
コントロール系に死体などを動かすスキルが有るのだが、うわさではこれでミミック系になれるらしい。
実際に見たわけではないが、宝箱をコントロールし続ければ多分クラスチェンジできるのだろう。どうやって宝箱で戦うのかは不明ではあるが・・・。
つまりこのスキルで鎧一式を動かす事もできるのではないだろうかと考えた。
「中身の無い騎士だ、なかなかにカッコイイなこれは。早速試してみるか!」
魔界にも街はある。そしてドワーフなどの鍛冶スキルに長けた種族が商売もしているのだ、そこで一式装備を手に入れるだけでいい。
そうと決めたら話は早い、潜伏している魔物に気付かれない様に抜け出すと、街に向けて隠密行動を始めた。
購入した一式の鎧を携え、街から少し進んだところに広がる見通しのよい草原の入り口へとやってきた。
鎧自体の装備はステータスが足りなくて出来なかったが、今からやることは物を操る事である。
「これは、なかなかに、難しい、ぞ!」
操るといっても中身が無いので結局は自分のステータスに強く依存するようで、足りないステータスをスキルによって無理やり装備したような状態になっていた。
なので動きが不思議な踊り状態である。
だがそれも少しずつなれ、ぎこちない物のなんとか雑魚敵を倒せるほどには動けるようになった。
「なぁ、それ装備があってないんじゃないか? かなり苦戦してたけどさ」
コレなら何とかレベルを上げていけそうだと手ごたえを感じたところで声をかけられた。
振り向くと、剣と盾に革の軽装を身につけたスケルトンがこちらを窺っていた。
「ここの雑魚に苦戦するって事は装備の見直しが必要なんじゃないか?」
「それは解ってるんですけどちょっと考えがありまして」
スケルトンにいきさつを説明した。
「なるほど、ファントムのスキルを使って装備できない防具を装備可能にするって事か、面白い考えだな。だが今見てた限りではかなり振り回されてたが」
「そうなんですよね、やはり自分のステータスに大きく依存してしまうようで思い通りに動けないんですよ」
「防具を軽装の物に変えるか、もしくは武器をもうちょっと軽いものにしてみるか」
そうアドバイスをくれるスケルトンは剣をしまい、かわりに槍を取り出しこちらに差し出してきた。
「今装備してるのは両手剣だろ、それだと重すぎると思うからコレに変えてみたらどうだ? 槍ならリーチもあるし敵との距離を取りつつ戦える」
槍を受け取り装備を切り替え、軽く振り回してみる。先ほど装備していた両手剣よりもかなり動きやすい。デュラハンと同じという理由だけで両手剣にしたがどうやら間違いだったようだ。
「どうやらそっちのほうが上手く扱えるみたいだな、その槍はそのまま使ってもらって構わんよ」
「いやそんな、悪いですよ」
街はすぐそこなので買いに行くと伝えたが、武器を試すだけに買った物だったようで使うことは無いならとありがたく貰って置いた。
その後、話の流れで二人でパーティを組んで狩ることになった。
パーティとは、2~4人まで一つの集まりを作る事である。
パーティ内では経験値とお金が均等に割り振られ、魔物がドロップする素材などは個人個人で手に入れることが出来るというものである。
基本は4人までで一つのパーティだが、パーティ同士でさらに組むこともでき、それを大パーティと読んだ。
最大16人までの同時行動はレベルが高くないと出来ないという点があるので、まだ先の話である。
初のパーティを組むことになったこのスケルトンさん、名前は小骨といいレベルは4とこちらとほぼ同じだった。
ネトゲの中でよく一緒に遊ぶフレンドが出来ると、途端に面白さが数倍跳ね上がる。
幸運な事に、この小骨さんとはゲーム終了までよく一緒に遊ぶフレンドとなり、その後も増えるフレンド達とチームを作るなど、非常によい環境でゲームを楽しむことが出来た。
結果、このゲームにどっぷりとハマる事となり、ヘレミュトスを愛した一人のプレイヤーとなった。
どんなものにも廃れと言うものは来る。
それは避けることの出来ないもので、ネットゲーム『ヘレミュトス』も例外ではなかった。
5周年を無事迎えた頃にはアクセス数は下降を続けていた。
それでもこのゲームを好きな人たちは残っていた。
中には図鑑を埋めることを続ける人もいれば、同じ種族を鍛え続け最強を目指した人、ただフレンドとだらだらチャットを打つだけで終わる人など、理由は違えどもゲームが好きなことに変わりは無い人たちであった。
しかし人が少ないというのは運営にとっては非常にまずいのである。
単純な話、売り上げがない以上ゲームを運営し続けるのはムリなのだ。
結果、運営は6周年を迎える直前でゲームをたたむことを余儀なくされてしまい、アナウンスがなされることとなった。
運営終了が公式に発表されたゲーム内では、フレンド達と作り上げたチームの拠点である崖の上に立つ大きな城に集まっていた。
普段集まっている人たちは、いずれも長く付き合っている所謂古参と呼ばれる人たちであった。
減り続ける人口にもかかわらずこの時期までインし続けるこのゲームを愛した人たちである。
しかし今日は珍しく公式からのアナウンスもあってか、久しぶりに顔を出している人もちらほらといた。
昔を懐かしみ、狩りに行くでもなくこうしてチャットに花を咲かせていた。
そんな中、ゲーム全体に流れる緊急の連絡。
勇者が魔界領土に攻め込んできたとの知らせであった。
この世界に人間という種族はいないわけではない。魔界の外といわれる領土に生息はしている。
過去には魔界と同じほどの大きさの領土を持っていたといわれているが、魔王軍の侵攻により領土と数は激減し、世界の端へと追いやられてしまっている。
まれに冒険者という人間が魔界に現れることもあるがたいした脅威ではなく、ある程度のレベルがあるならば簡単に倒してしまえる程度であった。
だが勇者という存在は今まで聴いたことがなかった。
外に出て上空に飛翔する。
遠くに見える小さな白い光、アレが勇者なのだろう。
こういったことは初めてではない、強大な敵が現れた時とよく似ている。これはボス出現のイベントである。
ただこういったイベントは数年ほど来ていなかった。それがこのタイミングで打ち出してきたのだ。
お遊びが好きな運営のことだろう、運営終了にかこつけて特殊イベントを打ち込んできてもおかしくは無い。実際ファンにとっては嬉しい不意打ちといえた。
翌日、運営から正式に勇者侵略というイベントが発表された。
勇者は魔王の本拠地に向かい、進行を続ける。それを逐次迎撃し倒すのがこちらの勝利条件である。
与えたダメージなどにより貢献度があり、その順位によってもらえる賞品が変わった。
参加するだけで大量の経験値やレアな素材が手に入るなどうまみの有るイベントだった。
このイベントが最後だろうという噂もあり、末期のネトゲとしては大変にぎわった。
普段では育成考察などに押され、あまり活気の無いイベント攻略サイトなどは過去最高の盛り上がりを見せていた。
勇者の進行は着実に進んでいく。
最終防衛ラインである魔王の城まではまだ距離があるにせよ、今だ勇者には有効なダメージを与えることが出来ていないのである。
当然自分のチームも勇者に戦いを挑んだ。だが今までとは圧倒的に強さが違ったのだ。
勇者は4人のパーティ農地の一人で、取り巻きに8人の冒険者がいる。
勇者のスキルなのかこの冒険者達も非常に強力で、12人のパーティは確実に魔王城に進み続けていた。
この事を危惧したチームによる総攻撃作戦が持ち上がり、その作戦に参加要請が届いた。
大小あわせて30以上のチームが集まることになった。
アクティブ数が減っているとしてもコレだけの数が集まるのは久しぶりの出来事である。その壮観な景色を見ていると熱いものがこみ上げてくる人も少なくなかったであろう。
集まったプレイヤーによる一斉攻撃が開始された。
いつにない一体感で攻め立てるプレイヤーの攻撃は苛烈を極めた。
有名なプレイヤーなども参加しているこの作戦、当初は押していると思われたが冒険者を8人倒したところでこちらの息が切れてくる。
問題の勇者パーティが一向に怯む気配がなかったのである。
結果押し切ることができず、総攻撃作戦は失敗に終わることとなる。
この後勇者は魔王城まで到達し、魔王討伐を果たすことになる。
魔界は魔王という基盤を失い崩壊の一途をたどることになる。
こうして勇者に敗北し、魔界は滅ぼされ、ヘレミュトスというゲームはサービス終了という運びとなった。
勇者は運営が用意した最後のイベントで、倒すことが出来ない。所謂負けイベントだったのではという噂が流れたが、今となっては確認するすべは無い。
ただ、魔界が滅びようとも、全ての魔物がいなくなった訳ではなかった。