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第四十九話:お出掛けは、迷子にならないように手を繋いで

とてつもなく、お久しぶりです。

 目の前に広がる、鬱蒼(うっそう)と茂る樹海。周囲一帯を青々と覆うその森は、まさに緑色の海といったところだ。

【惑いの海】

 120万平方メートルの面積を誇り、常に磁気や電波を狂わす特殊な音波を発している樹木が生い茂る。人の耳には捉えられない音域のそれは、、聞き続けることで脳や精神に影響を与えることもあるという危険な代物。

 そんな危険地帯に生息する魔物は当然強力。かつ、非常に好戦的。普通の人は近付きすらもしないその樹海に、俺達は踏み込まなければならないのだ。仲間を助け出すために。

「しかし、流石は科学都市といったところか。ナーガの技術は恐ろしいな」

 そういってシエンがバンと叩くのは、分厚い装甲で覆われた四輪駆動。つまり、装甲車(・・・)である。

 魔力で動くそれは、最高速度で時速150キロメートルを誇り、どんな悪路も力尽くで突破するという、装輪装甲車だ。履帯、いわゆるキャタピラを持った装軌装甲車ほどの路外走行能力(舗装道路以外を走行する能力)は持たないらしいが、しかしその点も、ナーガの科学力で補っており、走行速度と走破能力を併せ持ったハイブリットな乗り物だ、とドメクさんは言っていた。

「確認するぞ」

 皆を見渡して、声を張る。

「長時間の滞在が危険な以上、あまり時間はかけられない。この装甲車で突き進む。魔物を相手にしている時間はないから、基本は無視、こちらに危害を加えかねないヤツだけを倒す。車は停めず、車上からの遊撃、倒し切れなくても車で振り切る。とにかく迅速に遺跡へ向かう」

『ラジャー』

 全員が綺麗な敬礼を決める。ノリいいな、コイツら。

 俺は腰に下げたレーヴァテインに軽く触れる。

「オマエも、興味はないかもしれないが、手を貸してくれよ?」

『・・・・・・まぁ、あの聖剣に興味がないって訳でもないし。アナタに死なれても困るから、なるべく協力してあげるわ』

 やや間を開けてからの返事。やだ、最近この娘が素直すぎてちょっと怖いわ。主に、俺が闇と戦った辺りから。当初は問答無用で俺を殺しに来たのに、この頃は妙に協力的だ。決して積極的ではないが。

 頼むわ、と柄を軽く撫でて、俺は運転席に乗り込む。

 全員が乗り込んだのを確認して、よし行くかと声をかけてからアクセルを踏む。

「ところでリュージ。アナタの世界には自動車免許というものが存在するようですが、アナタもそれを所持しているのですか」

「あんなもんは飾りだ。必要なのは技術だろ」

「ちょっ!?」

 助手席に座るリリアが何かを言おうとするが、ガタンと樹海に踏み込んだ衝撃で、彼女の言葉は途切れてしまった。

 大丈夫。この世界に免許なんて存在しないし、教習所なんてあるわけないから違反じゃない。別に、世界中が法治国家ってわけでもないし。樹海に法律もクソもあるもんか。ゲーセンで鍛えた俺のテクニックを見せてやる!


 ◆


 木々の隙間を縫うように走る装甲車を軽快に操りながら周囲を確認するが、今のところ魔物らしき影は見当たらない。しかし警戒は怠ってはいけない。というか、怠ったら事故る。

 天井に付いたハッチから周囲を見渡すサタラが目を光らせているが・・・・・・やはり魔物はいない。

 むしろ、開いたパワーウィンドーから入り込む風が気持ちよく感じるほど平和である。

「おかしいな。ミーシャさんたちの話だと、樹海に入ったらすぐ襲われるって言ってたのに」

 いや、来ないなら来ないで構わない、というかむしろ万々歳なんだけど・・・・・・少し、違和感を感じる。

「リュージ、気を付けてください。・・・・・・静か過ぎます」

 あ、あかん。リリアがこういうシリアスな空気を漂わせた時は、マジなとき(・・・・・)だ。


 フッと一筋。わずかな刺激臭が、鼻をついた。


 思わずハンドルを切り、目の前の空気を置き去りにするように車体を180度回転させる。ブレーキを踏む足に力が全く入らず、もの凄い勢いで回転する車体を制御し切ることが出来ない俺は、そのまま装甲車を巨大な樹木にブチ当てる。

 ガヅン!!!と巨大な音と強烈な衝撃を生んだ衝突のおかげで、回転していた車体はようやく停止する。

「あっぶねえなリュージ!!!急に変な動きするんじゃねえよ!」

 とっさに車に手をかけて振り落とされるのを防いだサタラが、身体を折り曲げて車内に頭を突っ込み叫ぶ。しかし俺は冷や汗を掻きながら乾いた声で返した。

「――――――サタラ、ヤバイ。多分、なにかがいる!」

 身体を動かせないまま、強張った顔だけをサタラに向けて叫ぶ。

 一瞬怪訝な顔をしたサタラだが、すぐに何かを察したように顔を上げた。

「来た!右からキノコみたいな魔物が複数!リュージ、早くコイツを出せ!」

「――――――ダメだ」

「はぁ!?おいリュージ、こんなときにふざけてんじゃ――――――」

 サタラが怒声を紡ごうと息を吸うその一瞬を遮り、俺はありったけの声で叫び返した。

「――――――足が動かないんだ!下半身が痺れて、まったく動けない!!!」

 一瞬、車内の空気が止まり、サタラの表情が固まった。徐々に解けていく顔の筋肉を見送るよりもさきに、シエンとフィールが車から降りた。

「リリア君、リュージ君の治療を。ワタシたちが時間を稼ぐ」

 フィールが抱えたアタッシュケースがその姿を変える。

【中距離格闘用アサルトライフル】

 腰だめではなく肩の高さで構えたそれは、周囲を警戒しつつ、正確な射撃で敵を撃ち抜くためのものだ。反動によるブレを最小限にするために構えたその引き金に指を掛ける。

 引き金を引くとともに、彼女の戦いも幕を開けた。


 ◆


 数発ごとに繰り返される射撃音をBGMに、俺はリリアの魔法によりなんとか下半身が動くようになった。未だにわずかな痺れは残っているが。

「くっそ、やっぱさっきの臭いか」

「臭い?」

 俺の推測に、リリアが首を傾げる。

「さっき、妙な刺激臭がしただろ?多分あれ、痺れ効果があったんだ」

 おそらくは、あのキノコ型の力か。対象を弱らせて襲う。随分いやらしいやり方だ。あのわずか一瞬だけでこれほどの効果。どれだけ強力な毒かを窺える。

 俺が表情を曇らせる様子を見て、しかしリリアは不思議そうな表情を変えない。

「しかしリュージ。すぐ隣にいた私には、なんの影響もありませんが」

 ・・・・・・そういえば。よく見たら、ダメージ負ってるのって俺だけ?

『おーいリリアー!フィールも頼む!』

 またもや主人公最弱説が浮上しかけて若干ナーバスになっている俺の元に、シエンからの救援要請が届く。

 わずかに痺れる足を引き摺りながらそちらの近付くと、さきほどまでの俺と同じように、太ももを押さえながら地面で蠢くフィールがいた。

「大丈夫か、フィール」

「あ、あぁリュージ君・・・・・・すまない。ワタシもやられてしまった・・・・・・あとを任せられるか」

 駆けつけたリリアに介抱されながら、フィールは俺に言った。

 見れば、シエンやサタラが戦っているのは、さきほどのキノコ型だけではなかった。おそらく、襲われている俺達を標的、あるいは獲物(えさ)と捉えたのだろう複数の魔物が、すでに周囲を囲むように迫っていた。

 作戦、というほどのものではないが、一応、この状況から抜け出す手は考えてある。

 ジリッ、と僅かに足を滑らせ、腰に差した魔剣の柄を握り締める。

「・・・・・・任された!」

 瞬間、俺は駆け出した。剣はすでに抜いてある。

「全員車に乗れ!」

 振り上げた剣を上段に構えながら叫ぶ俺の言葉に、全員が反応する。みんなが車に近付いたのを確認して、俺は魔剣の力を発動する。

「魔剣【黒雷こくらい】!!!」

 黒く輝いた刃から、極大の黒雷が迸る。蛇行しながらも正面に伸び、俺達を取り囲んでいた魔物の一部を消滅させる。今だ。

「リリアぁあああ!!!」

『はい!』

 背後からの返事とともに、停めてあった装甲車が再び強烈な駆動音を響かせ、もの凄いスピードで走り出した。


 ――――――俺を置いて。


 ・・・・・・え?

「えぇえええええええええええっ!?」

 緑色の海に俺の叫びは響き渡り、そしてひっそりと染み込んでいった。


 ◆


「はぁ、はぁ・・・・・・許さねぇ・・・・・・。絶対許さないぞ、アイツら」

 かつては俺を殺めようとしていた反抗期の娘的な気難しさを誇る魔剣をまるで杖のように扱い、ぶつぶつと小さく恨み言を漏らしながら緑色の樹海を進む、もしこの場にお巡りさんがいたら確実に職質一直線の、非常に怪しい男がいた。

 というか、俺だった。

 リリアたちを逃がしたのと同様に、群がる魔物の一角からなんとか強行突破して逃げてきたのはいいのだが。

 当然のごとく俺を追ってくる魔物に加え、途中ですれ違ったことで逃げる俺を捕捉し増えていく追っ手の魔物。

 そして、リリアからの援護射撃のつもりか知らないが、そのことごとくを破壊し蹂躙し、まるで俺がいることなんてまったくお構いなしです、と言わんばかりに降り注ぐ魔法による絨毯爆撃。

 そんな地獄をなんとか逃げ出し、ようやく本来の目的地である遺跡に向かって、己の記憶を頼りに進み出してしばらくのち。


 いまだに俺は、自分を放り出してさっさと逃げ出してくれやがった仲間ども(見つけ次第殴る所存)と合流できずにいるのである。

 所々から差し込む太陽の光によって作られる影の奥からは、絶えず何かに見られている(・・・・・・)のを感じるが、ソイツらが俺たちに対して何かをしようとする動きを見せる前に、上空からのピンポイント魔法爆撃によって、消滅するか、身動きが取れなくなっている。ナイスアシストなのだろうが、俺を巻き込まんばかりの攻撃が飛んで来るたびに、そんな考えも爆風とともに吹っ飛ぶのだ。

「なあ、レーヴァテイン。こっちで合ってるんだよな?」

『えぇ。方角的には正しいはずよ』

 というレーヴァテインの言葉を信じてさらに進む。

 この森に長時間いると体が危険であるという恐怖が、いまさらながらに襲い掛かってくる。体の内側から染み出してくるような恐怖に背筋を震わせながら進むと、ようやく森が開け、光がよく差し込んだ明るい場所に出た。


 目の前に現れたのは、巨大な遺跡。

 正確に切り分けられた長方形の黒い石を細かく積み重ねて作られたその巨大な建造物は、これまでの町や都市で見てきた建造物や、前の世界で見た高層建築とも違う、どこか『生きているような』威圧感を受ける。


 【スグマルの遺跡】

 その地下に広がる迷宮を闊歩する強大な魔物が地上に溢れるのを防ぐために建造されたとされる、守護の遺跡。


「・・・・・・ここに」

 エクスがいるかもしれない。

 今俺に出来るのは、その不確定な問題に解を当てはめることだ。

 さて。探索を始めよう。


 仲間、見つからなかったけれど。

3年ぶりの更新です。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。

えぇ、えぇ。他の作品と同じです。見つけたんですよ、執筆中のなかに完成品があったので。

言い訳はしません。

すいませんでした!!!

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