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第四十七話:ENDED WAR

村長「気が付けばGWももう終わりですね」

魔王「それよりもむしろ、気付けば5月になってることのほうが問題だろ」

 姿を見せた瞬間、取る。

 撫子で踏み込み剣を振るうが、バールの反応は早かった。

 刃が身体に届く前に掴み取られて引き寄せられ、ナイフを突き立てられる。

「見つかっちゃったなら仕方ないね。死んでもらうよ」

 鎧を身に着けていない今の状態では、こんな小さなナイフで刺されただけでも、急所なら死ぬ。致命傷は避けられない。

 でも、関係ない。

「おぉおおおおおらあああああああ!!!」

 力任せに、振り抜く。

 数メートル吹き飛んだバールを、体勢を整えられる前に叩くため、再び撫子で跳ぶ。

「覇刀流【がん】!」

「くっ!」

 叩き付けた刃が防がれる。

 バールが手に持っているのは、銀色の巨大な盾。警察やら機動隊が持っていそうな巨大なシールドが、俺の剣を受け止めていた。

「やってくれたね・・・・・・このっ!」

 銃を突き出し、引き金を引く。左手でバールの手を掴み逸らすと、銃弾が俺の頭の横で発射された。

 耳元での射撃音が頭に響くが、無視する。

 右肘を銀の盾に押し当て、力を伝える。

「【震激しんげき】ッ」

「っぐぁはああッ!?」

 盾から持ち手、腕から胸に衝撃を通す。腕が痺れて、盾を落とす。

 胸の中心に衝撃を喰らったバールは、息を吐きながら後ろに下がろうとする。

 離されたら、また銃器を使われる。そうはさせない。

「――――――逃がすか」

 この距離を保つ。さらに踏み込む。

 振るわれるナイフを躱し、バールの肩に柄を振り下ろす。

 左に重心をずらしたバールの腕と顔を掴んで引き、足を掻ける。

「うぉわ!!!」

 背中から叩きつけられたバールの動きが止まる。

「レーヴァテイン!」

『はいはい』

 レーヴァテインの力を発動。バール自身の影で、その動きを抑える。


「――――――ようやく、捕らえたぞ。バール」


 ◆


 俺とバールの周りを、黒い靄でドーム状に覆う。

 身動きの取れないバールに歩み寄り、喉元に刃を突き立てる。

「終わりだ、バール。もう、ゴーレムを呼んでも意味がない。影の外はもちろん、内側に生み出したところで・・・・・・わかるな?」

 影で覆ったこのドームの中は、薄く差し込む太陽の光だけが頼りの薄暗い空間だ。つまり、レーヴァテインの独壇場。この空間内にいる限り、レーヴァテインに敵う者は、ほぼ存在しない。

「フィールに掛けた魔法を解け」

「・・・・・・これは、本当に手詰まりみたいだね・・・・・・。わかったよ」

 言って、バールは全身の力を抜く。抵抗がなくなったのを確認して、俺は刃を離す。影は解かないが。

「は~・・・・・・。フィール君、だっけ?彼女の魔法はもう解いたよ。軽く、記憶を弄っただけだから」

「記憶を弄った?書き換えたとかか?」

「書き換えた、というより、本来の記憶の中に、新たな情報を記憶として流し込む、みたいな感じかな?」

 ・・・・・・まぁ、結果変わらないし、別にどっちでもいいんだけど。

「リリア君の方も失敗しちゃったみたいだし」

「は!?オマエ、リリアにもなんかしたのか!」

 ていうか、器用すぎるだろ、コイツ。フィールとリリアの記憶を弄って、その上あんな数のゴーレムを一気に操っていたっていうのか?

「リリア君には、魔王を襲ってもらってたんだけど・・・・・・やっぱり魔王を倒しきることは出来なかったみたいだ」

 いたずらが失敗したように軽く笑うバールに、詰め寄る。

「結局・・・・・・なにがしたかったんだ、オマエは。かき乱すだけかき乱して、なにが目的なんだ」

 俺の問いに、バールは。ヘラヘラと緩めていた笑顔を一度引き締め、口元だけを薄く引き伸ばす。

 その口が、開く。


「僕の目的はただ一つ。【魔神】の覚醒さ」


 ◆


「魔人の、覚醒?」

 これ以上、なにか変わるのか?というより、誰だ、その魔人っていうのは。

 俺が漏らしたつぶやきを、バールは笑いながら訂正する。

「多分、勘違いしてるよ。魔に人とかいて魔人じゃない。魔の神で、【魔神】だよ」

「魔の、神?」

 また新しいのが出てきたぞ。魔神?どんどんデカくなっていくな。

「候補はいくつかあったんだけど、キミが一番手っ取り早そうだったからね。今回は、全員の足止めが目的だったんだけど・・・・・・どうやら今回は、失敗のようだ」

「ふーん・・・・・・」

 ・・・・・・あれ?

「え、なに俺?俺がなんか関係あるの?」

 魔神とか関わりたくないんだけど。これ以上強敵増やさないで欲しいんだけど。

「はは、気付いていないのか?」

 そういってバールは、俺ではなくレーヴァテインに視線を向ける。

「それでいいのかい?」

 俺ではなく、レーヴァテインに向けられたその台詞に、彼女は応えない。

 答えない。

「そうか。まあ、キミがいいならいいけど。それよりも、リュージ君。ほかのみんなの様子を見に行かなくていいのかい?」

「それよりも、オマエの拘束のほうが先だ。この影の縛りも万能じゃないからな」

 影がなくなることはほとんどないだろうが、数が減るようなことがあれば、当然、拘束力は弱くなる。そんな状態で、コイツを連れ出すわけにはいかない。

 影以外の拘束方法となると・・・・・・普通に縛ればいいのか?いやでも、縛り方とか俺知らないしな・・・・・・。

 と、とりあえず縛れるものを探そうと、辺りを見渡すが・・・・・・。

「あぁ、そうか。影の中なのか、今は」

 辺りが見えないのは当然、なにも見当たらないのも当然。周囲にあるのは影ばかり。使えるものも影ばかり。

「影しか使えないってのも、難儀なもんだな」

『なに?アタシに対する不満かしら?』

 いや、そういうわけじゃないんだけど。不満は別にないんだけど。かっこいいし。そうじゃなくて。

「不満があるとすれば、まあ・・・・・・」

 自分自身に、だろう。自分の力の不甲斐無さ、レーヴァテインの力を引き出せない自分に対する遣る瀬無い気持ちを持て余す。

 力と共に、持て余す。


「――――――おや?」

『これは・・・・・・』

「どうした?」

 俺を除いた二人、俺以外の二人が、上を見上げる。

 上。影の、その先。つまり、その外。

『リュージ。とりあえず、地面の一部にでもなるつもりで、全力で地面に這い蹲りなさい。・・・・・・死にたくないのなら』

 は?と、言おうとして。言えなかった。

 言わせてもらえなかった。


 影で作った防護壁。銃弾すらも凌ぎ落とす防御には、実はしっかりとした弱点がある。

 それは、本当に鋭利なものを防ぐことは出来ない、ということだ。つまり。


 今回のように。恐ろしい勢いで降り注ぐ光の矢を防ぐことは、出来ない。


 地面が爆ぜ、消し飛ぶ。まるでミサイルでも落ちてきたみたいだ。

 防護壁が破られた、ということは理解できた。しかし、誰が?何の目的で?

 順当に考えれば、バールの仲間、つまり魔人サイドだろうという結論が導かれる。

 それは、視界の端で逃走を図った、すでにし終えたバールの姿を見れば、理由はどうあれ結果は一緒だ。

 逃げられた。

 全員にとっての不意打ちをうまい事利用して、逃げられてしまった。

 俺は、レーヴァテインが教えてくれたおかげで、全身に土を被るだけで事なきを得たが・・・・・・そういえばレーヴァテインは?

「あつつ・・・・・・。なんだ、なんなんだよ、クッソ・・・・・・」

 ダメだ、ホントに頭痛い。顎にアッパー喰らったときみたいに、頭がクラクラする。

「・・・・・・無事?」

 少しずつ、意識が覚醒してくる。声は、すぐ頭上から聞こえてきた。人間状態なのか。

「・・・・・・レーヴァテイン、か?悪い、下半身が埋まってて後ろ見えないんだけど」

 鯱を目指して上体を起こそうとするが、人体の構造上、胸のあたりまで埋まってしまうと後ろを見ることが出来ない。

 それでも無理矢理に身体を起こし、埋まっている自分を必死に掘り起こしている俺に、レーヴァテインは続ける。

「見ないほうがいいわよ。なにあれ、新手?」


 そこにいたのは。新手というよりもむしろ――――――。


「リュージ!無事ですか!?」

 振り向くと、そこにいたのは。

「――――――ラスボスじゃね?」


 全身が返り血で赤く染まりきった、最強天使が君臨していた。


 ◆


「九十mm高射砲、魔力チャージ・・・・・・・・・撃てぇ!!!」

 数十門の高射砲から、数百にも及ぶ砲弾が、魔力の光と共に撃ち出される。

 ドラゴンの魔力障壁を無効化できるこの兵器は、魔力を込めて消費することで、その効果を発揮する。火薬による撃ち過ぎ、オーバーヒートはあまりないが、それでも、連射には限界がある。一分間に三十発もの砲弾を撃ち込む兵器に、魔力の供給が追いつかなくなる。そのせいで、通常の兵器よりも連射時間が短い。

『部隊長!連射限界時間まで残りわずかです!』

 部隊からの報告を受けて、部隊長は手元の無線通信機に口を寄せる。通信石の機能を利用し、機械と併用することで小型化することに成功した、この町特有の道具である。

「1班から4班、壁内砲の発射用意!とにかく弾幕を絶やすな!10秒後、砲撃を開始する。目標は、前方のドラゴンの群れ。ここを通り抜けるドラゴンを、一体でも減らすんだ!・・・・・・高射砲撃ち方止め!壁内砲、撃て!」

 壁上の高射砲が砲撃を止め、一瞬の隙もなく、壁から砲身だけを出した大砲が火を噴く。砲弾は、真っ直ぐドラゴンの胴体へ向かい、魔力障壁を無効化し、その身体に突き刺さる。硬く鋭い皮膚と鱗を持ってしても防ぎ切れないその威力は、ドラゴンの行軍を止める効果を十分に発揮する。

 しかし、それも一瞬だ。目の前のドラゴンを打ち落とすことが出来ても、その後ろにいたドラゴンは止められない。動きを止めたドラゴンのすぐ横を通って飛来する魔獣は、本能で理解している。

 この兵器は、速射が出来ない。一分間に数発しか撃てないこの兵器は、たとえ数列に分けて連射しても埋められない、圧倒的な隙を生む。

 発射と発射の間に生まれた、その僅かな隙を突き、巨大な魔獣が距離を詰める。

 しかし。それでも隊員たちは焦らない。焦ることで、なにを失うことになるかを知っているから。焦ったところで、なにも変えることは出来ないから。

 いつもと、やることは変わらない。

 ただ、冷静に。

 目の前の問題を解決する。

「5、6、7班!発煙弾、叩きつけろ!」

 部隊長の号令と共に、先ほどまで高射砲を操っていた壁上の隊員たちは、腰に下げた手榴弾を外す。

 地面に放って数秒後、それらは一斉に破裂、大量の煙を上げる。

 しかし。視界を封じられた程度で、ドラゴンが目標を見失うことはない。

 壁上に存在する、魔力の発生源。その全てを、破壊する。

 口からブレスを吐き出した複数体のドラゴンは、しかし直後に理解する。

 自らの失敗を。

 吐き出したはずのブレスは、そのままの威力で、そのままの速度で、跳ね返された。

 すさまじい勢いと威力で跳ね返るブレスは、ドラゴンの身体を撃ち抜いた。力なく落下するドラゴンの巨体。その勢いによって晴れた煙のその先には。

 巨大な鏡のような、しかし鏡とは違って、対象が霞んで見えるその巨大な機械は。

 全てのドラゴンの攻撃を跳ね返し終えると、役割を終えたかのように崩れ、壊れてしまった。

 しかし。

 自分たちの攻撃を跳ね返されたという『事実』が、ドラゴンたちの間に、わずかながらの『躊躇い』を生じさせた。

 それを見逃さなかった部隊長は、腕に巻いた機械のスイッチを入れ、掴んだ通信機を強く握り締める。

「近接部隊、アーマーを起動させろ!行くぞ!!!」

 起動させたアーマーとは、人間の全身を覆った薄い鉄板のような見た目をした、一種のパワードスーツである。腕の部分にあるスイッチを入れると、着込んでいたスーツが効果を発揮する。

 関節部分さえも覆ったそれは、しかし異様な伸縮性をみせ、可動域の確保は完璧である。

 どんな効果があるのか想像も付かない伸縮可能な黒い棒を手に取った隊員たちは、それぞれの想いを胸に、巨大な魔獣に立ち向かう。


 ◆


「申し訳ありませんでした。私のせいで、敵を取り逃がすことになってしまって。もしかしたら、エクスさんの情報も聞き出せたかもしれないのに・・・・・・」

 深々と頭を下げるのは、全身に浴びていた真っ赤な鮮血を拭き取ってすっかり綺麗な女の子に返り咲いたリリアだ。綺麗に九十度、あわや百度越えになってしまうのではないかと心配になるほどに、深々としていた。俺なら即土下座だね。

「いいよリリア。今回は仕方がない、俺を心配してきてくれたわけだし」

 ぶっちゃけ、あのまま何もなければなかったで、もしかしたら俺はバールにやられていたかもしれない。完全に俺の勝ち、と宣言できる状況ではあったが、あのバールがその程度に留まるはずもない。俺を操ることだって出来ただろうし、レーヴァテインを操って味方につけることも出来ただろう。

 手を抜かれていた、わけではないだろうが、手段を選ばれていた。それだけの余裕が、アイツにはあったのだ。そして、今となっては冷静にそれが理解できるが、あの時の俺は、気分が高揚していたのもあって、それを見落としていた。

 絶対的優位、という立場ゆえに、相手の脅威の度合いを無意識に下げていた。

 とはいえ、これで戦闘も一段落だ。

 一息吐こうと周囲を見渡し、ふと呟く。

「あれ、シエンは?」

 バールの話では、リリアはシエンの相手をさせられていたはずだ。だったら、一緒にいるはずじゃないのか?それなのに、合流できたのは血塗れになっていたリリアだけ・・・・・・・・・あれ?

 ちょっと待ってちょっと待って!え、まさか、まさかとは思うけど・・・・・・リリアさん、やっちゃった?殺すと書いて、()っちゃった!?

 慌ててリリアを見る俺だが、帰ってきたのは小首を傾げたリリアの不思議そうな表情だけだ。いや、察して!いつもはこれでもかってくらい、無駄に人の心読んでくるんだから!

 しかし。聞かないわけにはいかない。確認せねば。そうだ、大丈夫だよ。俺たちの天使(ガチ天使)であるリリアがそんな、仲間殺しの禁を犯すなんてそんなヤミヤミの能力を手に入れて海賊団を追い出されたあの人みたいなことしてるわけがないよね!そう、これはアレだ。リリアの身の潔白を証明するための確認なんだ。全身真っ赤だったけど!潔白って言葉から最も縁遠い姿をしていたけれども!

「なあ、リリア」

「はい?」

「・・・・・・さっき全身に塗れていた血って、誰の?・・・・・・もしかして新手の敵とか?」

「えぇ、まあ。敵といえば敵でしたね」

「・・・・・・あ、あぁそうか!敵か、そうだ敵だよね!そりゃあそうだよね!」

「あの、リュージ?どうしたんですか?」

 リリアの無実が証明されて、新たな敵の存在なんて全て安心という感情で上書きされた。いやー、ホント良かった。

「いやースマンなリリア。俺はてっきり、オマエが浴びていた血はシエンから噴出した返り血だったりするんじゃないかとありもしない憶測を浮かべて邪推してしまったんだ。ホントにスマンな。こういう勘違いが冤罪とかを生むんだろうな。真実を確認できて良かったよ!」

 全力で安堵する俺を見て、イマイチ理解が及んでいない様子のリリアは「はぁ・・・・・・」と適当な相槌を呟くだけだった。

「いやー、安心したら他の問題を思い出した。じゃあリリアよ。その血を噴出した、新手の敵とやらは、いったいどんなヤツなんだ?」

 そうだ、危うく忘れるところだった。リリアと敵対していた、あるいはすでにリリアに処分されてしまった、リリアの全身を真っ赤にコーティングした血液の持ち主は、いったいどんなヤツなんだろうか。


「あれはシエンの返り血ですが?」


 世界が、凍った。

「ちょっ、おまっ!シエン?今シエンって言ったか!?」

「言いましたが。聞かれたので。え、なにか問題が?」

 問題っていうかオマエそれ、大問題じゃねえか!パーティーメンバーが一人、犠牲になりましたよ!

 一人慌てる俺をしばらく眺め、ようやく理解が及んだように。

「・・・・・・あぁ、もしかしてリュージ。私がシエンを亡き者にした、とか考えてます?」

 リリアは軽い調子で言った。

「え、違うの?もしかして、トドメはまだですが的なそういうヤツ?結果としてパーティーメンバーが一人欠けてしまったという事実は変わらないんだけど」

「あ、大丈夫です死んでません。というか、殺してませんよ。私がそんなことするわけないじゃないですか」

 ・・・・・・なんだろう。普段のリリアだったら全くその通りなんだろうけど。先ほどの血塗れ姿を見たからだろうか。今の彼女からは、なにか狂気染みたものを感じる。触れたら負けだ。というか、なにかが終わる。

「じゃあ、そのシエンさんはどこに行ったんだ?」

 とりあえず話題を逸らそうと思ったのだが、実際、さっきから気になってはいたし。

「あぁ。彼でしたら、北部の援護に向かってますよ。私はリュージたちを見に行くように、と言われてましたので」

 さきにそれを言えよ!ビックリしたわ。というか純粋に恐怖を感じたわ。

「じゃあ、俺達もサタラ達と合流するか」

 フィールのことを丸投げしてしまったのは俺だし、その援護くらいはするべきだろう。いや、もしかしたらもう終わっているかもしれない。

「そうですね。先程からの様子を見るに、ナーガ対ドラゴンの戦いも一段落着いたようですし。バールが立ち去ったのであれば、フィールも落ち着いているでしょう。私と同じように」

 何があったのか、後でちゃんと聞いておこう。一応、俺達は『勇者ご一行』となっているわけだし、責任者としてチーム内で起こったことは把握しておくべきだろう。明らかに監督不行き届きだけどな、この現状は。


 ◆


 北側の壁上まで辿り着いた俺達は、警備隊員たちへの挨拶もそこそこに、隊長と話しをしていたサタラの元へ駆け寄った。

 俺達に気付き、隊長との会話を切り上げたサタラは、笑顔のまま俺達のほうを向いた。

「おぉ、みんな。どうだ、無事か?」

「まあ、一応な。そっちはどうだ。戦いは終わったのか?」

 辺りを見渡すと、隊員たちは軒並み装備を外し、互いに談笑したりしている。怪我人などは、すでに町に下ろされたようだ。

「ああ。とりあえず、ドラゴンたちは山に帰っていったぜ」

 じゃあ、戦いは終わったわけか。一安心だな。だが、まだ安心できないことがある。まだ確認が終わっていない。

「サタラ。フィールはどこだ」

 俺の言葉を予想していたのであろうサタラは、右手を親指だけ立てて、自分の後方を差した。

「向こうにいるぜ。シエンから大まかな状況を聞いてから、すぐに寝ちまった。暴走のフィードバックでもきたんだろう」

 今はそっとしておいてやろうぜ、とお人好しで仲間想いなサタラはフィールを気遣うように言った。俺としても、寝ているフィールを叩き起こすのも気が引けるしな。

「悪かったな、サタラ。いきなり大変な役を押し付けて」

 バールにどんな記憶を流されていたのかは分からないが、暴走するフィールを相手取るというのは、なかなかに骨が折れただろう。なんといっても、相手の身体を傷付けられないというハンデを背負っているからな。

 そんな役割を押し付けてしまったのは俺なので、せめてもの償いとして謝辞を述べるが、一方のサタラはニヤリと笑った。

「気にするなよリュージ。オレ達は仲間だろ?困った時はお互い様だ」

 と、とても清々しいセリフとともに、気持ちのいい笑顔を浮かべた。

 やっぱりカッコいいな、コイツ。我がパーティーの中で一番の男前かもしれないな。次点は・・・・・・フィールかな?

 ふとサタラから視線を逸らすと、壁の端のほうにシエンの姿を確認した。

 リリアとサタラはフィールの様子を見に行ったので、俺とレーヴァテインはシエンの元へ。

 近付いてみて気付いたが・・・・・・シエンのヤツ、なんか食べてないか?周りにらになった携帯食が転がっているし。

「おいシエン。一人だけ飯食ってるなんてズルイぞ。俺にも食わせろ」

 実際に腹が減っていたので若干ケンカ腰でシエンに絡むが・・・・・・コイツ、なんか疲れてないか?

「うん?あぁ、リュージとレーヴァテインか」

 そういって振り向く動きにも、普段の覇気を感じない。いつもは無駄に迫力があるのに。

「どうしたんだシエン。さすがの魔王様でも、リアル天使のリリアの相手は荷が重かったか」

 シエンの隣に座り茶化すように言うが、その反応も薄い。こりゃ、本当に何かあったな。

 俺のほうから掘り起こすのも邪な気がしたので、ただ黙って壁下の町を見下ろす。

 レーヴァテインはそんなセンチメンタルな空気もどこ吹く風で、シエンのそばに置いてあったスティック状の携帯食を勝手に取って一人でモクモクとリスのように齧っていた。もっと大口で食えるだろオマエ。この間俺が町でフライドチキン買ったときに、一口頂戴とか言って半分以上食ってったじゃねえか。あやうく俺の手も齧られそうだったんだぞ。

 そんな風に、心の中だけで文句を言いながら(実際に口に出したら壁上から蹴り落とされかねないからな)町を見ていると、シエンも同様に目の前に広がる町を見つめていた。

 正確には、俺やシエン達が戦っていた西方面を。

 建物が崩れたり地面が抉れたりして、他の地区よりも破壊の跡が目立っている

 その場所を見つめながら

「・・・・・・リリアは怖いなぁ」

 と呟いた。

「なんだよ。リリアを怒らせたら怖いってのは、もうとっくに知ってるだろ」

「いや、怒らせたらって言うかなぁ。アレはちょっと違う気がするぞ」

 思い出すように言葉を紡ぐシエンを不審に思っていると、ようやくスティックを食べ終えたレーヴァテインがシエンを見つめて。

「シエン。アナタ今回は随分と無茶をしたみたいね。何回死んだの?」

 し、死んだ?何を言ってるんだレーヴァテイン。と俺がいぶかしんでいると、シエンはシエンで平然と返答した。

「うーん、九、いや十一回か。さすがに、あの短時間でそれだけ復活するとな。怪我は治っても体力は回復しないし」

「ふーん、十一回ね。でも、アナタならもう少し耐えられるでしょ?」

「確かにもう少し我慢することは出来るが・・・・・・したいとは思わないな。ツライのは変わらんし」

 あと純粋に怖かった。と、シエンは溢した。オマエ・・・・・・リリアの何を見たんだ?これからは絶対に、リリアを敵に回さないようにしよう、と固く心に決めた。


 十一回死んだらしいシエンだが、飯を食べ終える頃にはだいぶ回復していた。シエンが食べていた携帯食を一つ拝借して食べてみたが、一つ食べるだけでどんどん体力が回復していくのを感じた。なんだこれ、夢の食品過ぎるだろ。あれだな。昔とある少年誌で連載してた、某バトル漫画に出てくる不思議な豆みたいだな。アレに出てくる技を、全国の少年はきっと一度は練習したことあるだろうな。かく言う俺もその口だ。結局、一度として成功したことはなかったが。惜しいところまでは行った気がするんだけどなぁ・・・・・・。とりあえず、気を集めるところまでは成功していたはずだ。


「シエン。バールってヤツを知ってるか?」

 一段落ついたあたりで、俺はシエンに問いをぶつけた。その言葉に、シエンはどこか納得したように頷いた。

「あぁ、やはりアイツだったか。はぁ~こりゃまた、面倒なヤツに絡まれたもんだ」

「まあ、確かに面倒なヤツではあったが」

 大量のゴーレムでの物量攻撃。そのうえ、遠隔からの記憶改竄能力。特に俺のように、近付いて殴ることしかできないタイプの人間からしたら、どちらの能力も脅威だ。正直、もう戦いたくないね、ああいう頭を使うタイプは。

 俺が改めて、あの男の脅威を実感している姿を見て、シエンは僅かに息を吐きつつ首を振る。

「リュージよ。多分オマエは気付いていないんだろうけどな。バールの本当の恐ろしさは、その手数の多さと利口さ。そして、その残虐性だ」

「残虐性?」

 思わず繰り返してしまった、予期せず発せられたその単語。しかし、思い当たる節も、確かにあった。

「残虐性、というと、わずかに語弊があるかもしれないが。より正確に言うなら、アイツには『命』という概念が理解できていない、といったところか」

 オレが創り出した魔人には共通するものだが、とシエンは続ける。

「どうもバールは、他よりもその色が濃い。命の重要さを理解できていない。いや、理解できているうえで、それに価値を見出していない」

「ヤツにとって命とは、奪う理由もなければ守る理由もないものだ。そのあたりに生えている雑草と同じ。わざわざ抜き取るほど気にすることもないが、いざ邪魔となれば、なんの躊躇いもなく引き抜く。いや、そうでなくとも、気が向いたときに根を摘むこともあるだろう。オマエだって、足元にある雑草を意味もなく引き抜いたり、転がっている小石を理由なく蹴ったりするだろう?ヤツが命を奪う、弄ぶのは、そういうものと同じなんだ」

「・・・・・・そりゃまた・・・・・・完全にキマッてやがるな」

 加えてヤツは、自身の分身としてゴーレムを使い捨てる戦い方をする。そういうタイプは、追い込まれた時に何をするか分からない。ああいう策士タイプは自分の計画が狂い始めると、全てを無に返そうとする傾向が強い。今回はまだヤツに余裕があったから良かったが・・・・・・、こうなると、あのリリアの奇襲はある意味、救いだったわけだ。あそこで、あれ以上本格的に追い詰めていれば。

 最悪、影のドーム内部を纏めて消し炭、なんてこともあったかもしれない。

 改めて、恐ろしい敵だ。正直、もう二度と対面したくないね。


 俺とシエン、そしてレーヴァテインは、壁から町に降りるための人荷共用エレベーターに乗り込んだ。

 それなりのスピードで降下し始めたかごに揺られながら、町を照らす夕日に思わず目を細めた。西の壁の向こうに沈む太陽。俺たちの戦いも、西に沈んだのだ。正直、もう上がって欲しくはないが。

 太陽が昇らない日はない。今日沈んだものは、明日また昇る。俺たちの真っ赤な戦火も、また上るのだ。

 煌々と輝くオレンジの炎が沈む行く様を見つめながら、隣に立つシエンが呟くように俺に言う。


「それとリュージ。言い忘れていたが、フィールと初めて会ったあの日、アイツを操っていたのはおそらくバールだぞ」

「・・・・・・・・・・・・それを先に言え」

 どうやら、アイツのと戦いも、まだ終わらないようだ。フィールから奪ったものの代償を、アイツにはきっちりと払ってもらわなければな。


村長「ここも久しぶりですね」

魔王「ああ、だいたい四ヶ月ぶりか」

村長「この時期は仕方ないですよね。受験が終わって、大学が始まって」

魔王「それでも執筆時間はたくさんあっただろう特に三月と言いたいところだが、今回はあえてツッコまんでおこう」

村長「優しさ、ですね」


魔王「で。今日はオマエが来たわけか」

医者「うむ。なぜか私だ」

村長「今回のゲストは、科学都市ナーガの天才名医、ひさしぶりの登場、ミーシャ・ワシリーさんです!」

医者「ニーナ君?キミの発言から僅かな悪意を感じるのは、私の思い違いかな?」

村長「へ?何のことでしょうか?」

医者「い、いや。うん、すまない。やはり私の思い違いだったようだ。気にせず続けてくれ」

村長「はぁ・・・。それでは改めまして。最近本編でも出番のないミーシャ先生です!」

医者「やはり感じるぞ!覆い隠せていない不の感情的な何かを!」

魔王「気にするな。ニーナはおそらく、自分でも気付かないうちにストレスが溜まっているんだ。出番がないことに対して」

医者「ふむ・・・・・・。そろそろ彼女の出番を設けるよう、作者に進言しておこう。彼女の口から毒を吐かれるのは、私の精神衛生上、あまりよろしくないな」


魔王「さて。言ってしまってはなんだが、話すことがないぞ」

村長「言い切りましたね」

医者「事実だからな」

魔王「作者も言っていたぞ。『感想もなにも来ねぇし喋らすことねぇよ』とな」

村長「確かに、もう正直ネタが底をつきかけてますしね・・・」

魔王「いや、でもなあ。だからといってなにもせんのもなぁ」

医者「だが、ここで時間をかけるわけにもいかないだろう。今回の話、作者が投稿するのを忘れて、すでに何日も経っているんだからな」

村長「3日の段階ではすでに全てを書き終えていて・・・ですから、結構な時間ですね」

魔王「仕方がない。今回はここまでだな。かなり急すぎるが、ではまた次回、だな」

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