第四十五話:倒せない敵
魔王「作者の最近の流行のアニメは~・・・」
村長「わくわく!」
魔王「さん○れあ」
村長「なんで今!?」
鎧を纏って、屋根の上を飛ぶように駆ける。ショートカットのために壁から降りて町の中、正確には家の屋根を走っている。
空舞うドラゴンを無視しながら、預かった無線ではなく、自前の通信石を取り出す。
コール先は、サタラだ。
『リュージ?なんか用か?』
こちらが走っているせいもあるのだろうが、若干声が拾いにくい。戦闘中だったのか?いや、今はそんなことに構っている暇はない。サタラには悪いが、勝手に話を進めさせてもらおう。
「・・・・・・頼みたいことがある。手を貸してくれ」
告げる俺の声は、自分でも驚くほどに重かった。
『・・・・・・オーケー。任せろ。なんでもするぜ』
返される声もまた深く、男気に溢れていた。
「・・・・・・カッコいいなぁ、オマエ。俺が女だったら、間違いなく惚れてたぜ」
サタラの男気が身に染みて、俺の走る速度はさらに上がる。風を切りながら走る俺は、そのせいで、続くサタラの呟きを聞き逃した。
『・・・・・・・・・男のまま惚れろよ・・・・・・』
「え、なに?スマン、風でよく聞こえなかった」
『・・・・・・いや、なんでもねぇ。それで?オレは何をすればいい』
俺としては、先ほど聞き逃した台詞を確認したかったが、本人がなんでもないと言うのなら、追求するのも悪い気がする。
なので俺は、最低限の情報だけを短く伝える。
「フィールが不自然に暴れている。原因は俺が止めるから、フィールを任せた」
たったそれだけ。本当に必要最低限のことしか伝えていないが、それだけで。男気サタラは了承した。
『分かった。これから行く。・・・・・・オマエも気をつけろよ』
言うだけ言って、サタラは一方的に通信を切る。サタラが斬る!まぁ、電話なんて元々一方的にかけるものなんだから、切るのも一方的だろうけど。
通信石を仕舞い、走ることに集中する。サタラに仕事を押し付けてしまったのだ。俺も、自分の役目を果たさないとな。
決意も新たに、屋根を踏む。すべてを狂わす、その元凶を、叩くために。
◆
どうやら反応は、ちょうど西の壁というわけではなく、西エリアに配する町のどこかにいるという意味だったらしい。
その西エリアに到達すると、町の中で戦闘音が聞こえた。
あそこにいるのか?
そう考えた俺は、その場所へ向かうため、再び屋根を跳ぼうと、足に力を込め、
――――――横に飛ぶ。
「・・・・・・うぉおお!?」
ゆうに数十メートルの距離を水平に跳躍した自分の行動に自分で驚き、出来事に対し若干遅れながらも反応した俺は、即座に理解した。
“折坂竜司”という一つの生物が、本能的に自らの生を守ったのであると。
それと同時に、元々飛んでいた自分の身体が、さらに遠くまで、勢いよく吹き飛ばされた。
さきほどまで俺が立っていた場所には、巨大なクレーターが出来ていた。屋根だけではない。家もろとも、地面さえも。警備隊で聞いた話によれば、この町の建造物のそのほとんどが、滅多なことでは傷も付かないとされている。つまり、それを上回る威力を誇る何かが、あの場所を抉ったのだ。
攻撃は、それで終わりではなかった。
何発も打ち込まれるその何かは、何度も。いくつも。家を消していった。
(このままじゃ・・・・・・町が消える!)
これ以上逃げ回ると、さらに町が破壊されてしまう。たとえ直撃しなくても、爆風に煽られただけで家が傷ついている。
移動はダメだ。かといって、じゃあどうする?
・・・・・・決まっている。撃たれる前に、叩く。
飛来する黒い物体は、銃弾などと同じように円錐形。尖った先端をこちらに向けながら、高速で落下してくる。軌道は、一度上空に打ち上げ、重力を利用して威力を上げる感じか。さらに、使用される爆薬も強力だ。明らかに、対人用じゃない。
だが、1人だ。軌道を追えば捕まえられる。
走り、避けて、近付く。なるべく近付いたところで、一気に背後に回りこみ、屋根から飛び降りつつ、躊躇無く剣を振るう。
なぜなら。
俺を撃っていたのは、石でできた人型の人形だったからだ。
「・・・・・・ゴーレム?」
砕けた石を見ながら、ヤツが握っていた黒い物体を見る。
俺は、コレを知っている。
「・・・・・・博物館で見たヤツだ」
そう。前にミーシャさんに連れられて訪れた、科学博物館の兵器の歴史コーナーに置いてあった。
名前はなんといったか・・・・・・。元いた世界でいうグレネードランチャーと同じようなものだ。
リボルバーをそのまま大きくしたような形で、銃身の太さは成人男性の腕ほどもある。
触れることすら躊躇われるほどの禍々しさを感じる兵器だが・・・・・・一応、回収しておいた方がいいのかと思った俺は、黒い兵器を持ち上げる。
――――――瞬間。
爆発があった。対人を想定しているらしい小規模な爆発と共に、無数の破片が飛び散る。
「うぉおおお!?」
思わず腕で顔を覆う。爆炎も破片も、全て鎧が防いでくれるのだが、それでも目の前で起こった爆発に思わず反応してしまう。
同時に上体を仰け反らせてしまった俺は、驚きのあまり背中から倒れこむ。
『ちょっと。何してるのよ』
「・・・・・・いや。仕方ないだろ、これは」
未だに放心状態の俺は、レーヴァテインの文句にも言葉だけで返す。
爆発は、おそらく手榴弾の類だろう。昔、何かの本で読んだ。あえて武器を置いておき、それを重石として、安全ピンを抜いておいた手榴弾を下に隠しておく。あとは、銃を持ち上げれば一発でドカン。というわけだ。
と、起こった出来事に対する理解は、一応出来ているのだが。
ダメだ。突然のこと過ぎて、思考が追い付いてこない。
そんな俺を、レーヴァテインは呆れる。
『リュージ。いつまでも呆けてるんじゃないわよ。気を抜かないで。まだ、終わりじゃないんだから』
え?と。レーヴァテインの言葉の真意を問おうとして。
気付く。
それはすでに、目の前に、いたのだ。
目深いフード付きのマントで身を包み、口元に薄い笑みを浮かべている。
「・・・・・・えーと。誰?」
『アホ』
「いや、だって知らない人だし・・・・・・」
俺とレーヴァテインのやり取りを眺めたマント人間は、声を上げて笑う。
「あははは★うんうん、話には聞いていたし、遠くから眺めたこともあるけれど、こうやって直に見るのはまた格別だね♪」
カラカラと声を上げていたソイツは、ひとしきり笑った後に、こちらに向き直る。
「いやいや、これは失礼したね♪うん、そういえば、自己紹介がまだだったね★」
笑い、フードを外す。
ずいぶんと、整った顔立ちだった。甘いマスク。流れるように艶のある髪質。大きな瞳。中性的な姿だった。男か女か、判別が付きにくい。背丈は俺よりも高いので、おそらく男だと思うのだが・・・・・・。
そして。その大きな瞳は、乾いていた。
「僕の名前はバール。キミの仲間になりに来たんだ★」
両手を広げて、明言する。
◆
「・・・・・・は?え、なに仲間?・・・・・・俺の?」
困惑する俺に対し、ソイツは相変わらずの笑顔だ。
「うん!僕はね、キミのファンなんだよ~!だから、ずっと見ていたんだ、キミたちをね♪勇者・・・・・・なんだろう?キミは★」
この男は、知っている。俺の、俺たちの正体を。つまり、さっきの仲間になる、という発言は、この戦線に加わるという意味ではないのだろう。それは、俺たちの旅に同行する、ということなのか。
「それとも、お断りかな?」
黙っている俺を覗き込むように身体を捻るソイツは、笑顔のままに続ける。
「うーん・・・・・・?あぁ、そうか。キミは、一目で性別を見分けるほどの眼力は無い、のかな?初めに言っておくけれど、僕は男だよ★・・・・・・って、まあ背丈で分かるかな?」
「ちっ、男かよ。だったら帰れ帰れ。パーティーメンバーに男が二人もいらねえんだよ。俺のパーティーの男性要員は、ムカつくオッサンで定員オーバーだ。アンタの入るスペースはねえ」
「・・・・・・恐ろしいほどの素早さだね、キミの身代わりは。あぁいや、うん、なんでもないよ★」
一瞬、星が消えたぜ、コイツ。ていうか、エクスもそうだけど、どうして★とか☆が見えるんだろうな。どういう原理なんでしょうかね、あれ。俺で作れるお星様なんて、折り紙くらいですよ?
「それで、本当のところはどうなんだい?僕を仲間にっていう話は★」
「あー、いや。うーん・・・・・・レーヴァテイン、どう思う?」
『・・・・・・・・・』
「レーヴァテイン?」
急に黙りこくったレーヴァテインに声を掛けると、しばらくの間を挟む。
『・・・・・・あぁ、そうね。そういうことは、自分で決めたほうがいいんじゃないの?アナタのファンなんでしょ?自分のパーティーメンバーくらい、自分で決めなさい。この世界には仲間を紹介してくれる酒場も集会場もないのよ』
「なんでオマエが、俺の世界のゲーム事情を知ってるんだよ」
酒場のほうはやったこと無いから、よく知らないけど。
まぁ、レーヴァテインもこういってるし。確かに、ここで誰かに意見を求めるというのは酷なことだ。責任の押し付けになりかねない。
・・・・・・しかし。こういう選択って悩むよねぇ。俺が優柔不断なのもあるけどさ。
と、そこまで考えて。思い出した。
「あ~、その・・・・・・スマンな、バール。今ちょっと急用があってな。ちょっとここで面接とかしてる時間がないんだわ。その用事が終わってから決めていいか?ほら、みんなの意見も聞きたいし」
言うと、バールは納得して頷く。
「あぁ、なるほどね★やっぱり、キミの一存じゃあ決め切れないよね★うん、全然待ってるよ?」
おぉ。話の分かるやつでよかったわ。いい人だなー。
「じゃあ・・・・・・えーと、そうだな。とりあえずバールは、シェルターにでも逃げててくれ。用が終わったら迎えに行く」
「うん、わかったよ★じゃあ、僕はそのシェルター?ってところに行くね★キミも、お仕事頑張ってね~♪」
そういって、マントを翻して走り去るバールを見送りつつ、声を潜めながら呟く。
「・・・・・・はぁ。背中向けられたら、攻撃できねえじゃねえか」
その呟きが聞こえていたらしいレーヴァテインが、意外そうに声を上げる。
『・・・・・・意外ね。気付いてたんだ、アナタ。あえて協力する義理も無いから、知らせないでいたけれど』
「なにそれ酷くない?・・・・・・とにかく、そりゃーさすがにな。あんだけ殺気立ってる相手を目の前にしたら、気付かないってほうが無理ってもんだ。最後まで隙が無かったし、謎の圧迫感が半端じゃねえ」
『アナタでも分かるものなのねぇ。まあ、さすがにあのレベルなら、素人でも直感で感じるところがあるのかしらね。それで?放っておいていいのかしら』
「・・・・・・いや。ダメだろうな・・・・・・。でもさ、なんかこう、話してみた感じ、悪い人じゃあなさそうだったじゃん?」
『それって、フィールをほったらかしにすることになるけど?ついでに、彼女のフォローにいったサタラも』
「・・・・・・あー。ヤバイなコレ。バレたら殺されるんじゃないか?」
仕方が無い。本来の役割を続けようか。
「レーヴァテイン。今から走って追いつけますかね?」
『まあ、今の状態なら、追いつけないことはないんじゃない?』
「そうか」
物は試し。
とりあえず、鎧モードで全力の踏み込み。
「あー、やっぱりバレちゃったかー★」
「・・・・・・うぉお!?」
首筋に、刃物。鎧があるとはいえ、やはり恐怖を感じる。思わず噴き出す冷や汗の冷たさに驚く。
火花を散しながら振るわれるナイフを、視界の端で見送りながら、一瞬硬直した身体を、勢いを殺さないまま一歩踏み出す。
腹を狙って拳を突き出すが躱され、再び拳を振るうが弾かれる。
勢いで身体が前に倒れこむが、構わない。
そのまま拳を振り下ろすし、いとも容易く見切られた。
甲冑を着込んでいる相手に対する柔術なども、実際に存在する。
戦場で使われることを前提に考案され、進化してきたその技々。
自らも、動きが制限され体力も消耗する鎧を着込み、一対多が当たり前である戦いの場においても有効に使用するために、少ない動作や少ない体力の消費で最大の効果を得る技が数多く作られている。
バールが使った技も、例え世界が違っていても基本理念は同じ。
流れるような動きで受け流され、投げられ、地面に叩きつけられる。
鎧を貫通したダメージにより、肺から強制的に空気を吐き出され、衝撃を受けた脳は思考を放棄する。そのせいで、維持することが出来なくなった鎧が消滅した。
追撃で振り下ろされる足を避けることもできず、モロに踏みつけられる。
「ガフッ!!!」
空気が内包されていない肺に、再び空気を取り込むことも許さず、与えられた痛みに喉を鳴らす。すでに、吐き出すものも存在しない。
地面を這い蹲る俺を見下ろしながら、なおも表情を崩さないバールが笑う。
「うーん★勘も反応もなかなかだったけど、焦ると動きが単調になるのは頂けないね~★今の投げだって、平時のキミなら受身も取れたろうにね♪まぁでも、仕方ないか!うんうん!びっくりするのは、誰にでもあることだしね!あははは♪」
軽口を叩きながら、少しずつ踏みつける力を強くしていく。
肋骨が、ミシミシと悲鳴を上げる。喉が渇く。声を上げることも出来ない。
せめてもの抵抗として、自身を地面に縫い付けている足を掴むが、僅かにも止まる気配が無い。むしろ、力を込めるたびに、踏みつけが強くなっていく。
「――――――――――――は、かっ!!!」
見下ろすバールに日光が遮られ、俺の身体に影が掛かる。
少しずつ力が抜けていく自分の筋肉を、必死に動かそうとする俺。そんな姿を見て、バールは溜め息を付く。
「ねぇねぇリュージ君~、もうちょっと頑張ってよー★僕としては、もう少しいい戦いぶりを期待してたんだよ?」
言いながら、一向に力を弱めない足を、忌々しく思いながら。ほとんど回っていない脳で、必死に打開策を探していた。
記憶を、遡る。自らの記憶から模索する。生き残るために。生き延びるために。
――――――あの場所に、帰るために。
この世界に来てからというもの。
何度、追い詰められただろうか。何度、殺されかけただろうか。
そのたびに縋った。自分が帰るべき、あの場所に。一緒にいられる、あの空間に。
「まぁ、今のキミじゃあその程度ってことかな?仕方ないか、コレが現実だしね♪」
バールは、ケラケラと笑いながら、その手に拳銃を出現させる。
シルバーに輝く、自動拳銃。
――――――ふざけるな。
「安心してね★キミを殺したら、みんなの記憶を書き換えておくから、誰も悲しむことは無いよ★元々キミがいなかったことにすればいいし・・・・・・あぁ、いや♪キミがいた場所に、僕が代わりに入るっていうのもいいかもね?」
クルクルと銃を弄びながら。
――――――ふざけるな!
「唯一障害になるのが、魔王の存在だけど・・・・・・うん♪そっちのほうは、リリア君に任せているから問題ないね★どうせ、ただの魔王程度じゃあ、天界の存在に勝てるわけがないんだし~♪」
言って。俺の額に銃口を押し付ける。
――――――ふざけるなッ!!!
「それじゃあ・・・・・・そろそろ、退場してもらおうか」
バールは、笑みを消して、ただ冷酷に、引き金を引く――――――
――――――俺は。宣言する。
「・・・・・・退場するのは・・・・・・オマエだ!!!」
瞬間。真っ赤な血が、飛び散った。
◆
「・・・・・・へぇ」
今までとは違う。薄く不気味な笑みを浮かべたバールは、自身の胸元を見ていた。
真っ赤に染まる、胸元を。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
数メートル上方にいるバールを見上げながら、なんとか息を整える。
俺の掌は、地面に置かれていた。バールが立っていたせいで生まれた、漆黒の影に。
影の剣に腹を貫かれた状態のバールは、それでも笑みを消すことがない。
だが、確かに変わった。
「まさか、魔剣がキミに協力するとはね。ある程度は手を貸すとは思っていたけど、これは想定外だよ。でもまぁ、それでも僕には届かないけどね」
バールは、全く変わらない笑みを浮かべたまま、その手に新たな銃器を作り出す。
踵を地面に引っ掛けて、咄嗟に移動。
目の前に、大量の銃弾が雨のように降り注ぐ。
移動したせいで影が消滅し、解放されたバールは、再び大地に降り立つ。
腹から背にかけて貫通した刺し傷を残しながら、全く気にした様子が見られない。
口角を吊り上げながら、ハンドガンよりも大きい銃を構える。
「・・・・・・さて。仕切り直しといこうかな」
「いやあの・・・・・・オマエ、性格変わってね?」
俺の問いかけにバールは、笑顔と銃弾で答えた。
「レーヴァテイン!!!」
『りゅーかい・・・・・・。はぁ、面倒』
足踏みを一つ。それだけで、自身の影が、俺を守るように形状を変化する。
剣とは違い、硬さを備えないそれは、黒い靄として広がり、銃弾を迎える。
靄ごと貫通させようとする無数の銃弾は、しかし、形を一定に保たない闇の壁に取り込まれ、包み込み、力を失い地面に落ちていく。ちょうど、布にビー玉を投げつけると、包み込まれて落っこちてしまうように。
この防御の特徴は、守ってくれるのが自分の影だということだ。つまり、俺が移動すれば、影も動く。
足に力を込め、走り出す。俺の前進に伴い、影も進む。
銃弾を受け止めながら近付き、バールの目の前まで進んだところで、闇ごと切り裂くように、剣を振るう。
しかし、振るった先に、ヤツはいない。
「・・・・・・やっぱりか」
そこに残っていたのは、大量の石。
バールを形作っていた、ゴーレムだ。
「レーヴァテイン。どこにいるか分かるか?」
聞くと、しばらくの間があった。
『・・・・・・へぇ。リュージ。アナタ、いい加減に死ぬんじゃない?』
「おい、どういう意味――――――」
急に不吉なことを言い出したレーヴァテインに苦言を呈そうとするが、それよりも早くに、状況が変化した。
背後の地面が割れ、新たなバールが現われる。
おそらく、地面そのものを材料にゴーレムを作り出しているのだろう。普通の人間と変わらないサイズをしているのは、おそらくバールの気分かなにかなのだろうが、やろうと思えば、この町全ての地面を使って、超巨大なゴーレムも製作可能なのだろう。
腰のあたりまで出てきた、バールの形をしたゴーレムを、身動きが取れないうちに斬り捨てる。
すると今度は、同時に数体のゴーレムが、地面から生えてきた。
倒しても、倒しても。何度も出現する。
――――――キリがない。
剣を握りなおし、駆ける。
作り出されるゴーレムを、近いやつから順に攻撃していく。
頭上から叩き付けた。
胴を切り裂いた。
四肢を切り離した。
胸に穴を開けた。
頭部を砕いた。
いったい、どれだけのゴーレムを砕いただろう。
振るう剣は空しく、空を切っているのと変わらない。
どれだけ倒しても、目標には近付かない。バールとの距離は、全く変わらない。
一方のバールは、未だにゴーレムの形を似せている。何人ものバールに迫られているように錯覚する。しかもその上、全てのゴーレムが武装している。刃物だけではない。
厄介なのは、銃器だ。
斬り合える間合いに入ることが、なかなか出来ない。数も多い。司令塔が同じだから、動きも統率されている。
俺を囲んでいるゴーレムは、数十体。・・・・・・あれ。いつの間にか、十を軽く超えてらっしゃる?おかしいわ、私全然気付かなかったわ。
『ちょっと。驚くのはいいけど、オネェになるのは止めてよ。アナタがやると、不快感しか感じないわ』
「ヒドイ!レーヴァちゃんったらヒドイわ!」
『レッ、レーヴァちゃん言うな!!!』
え、照れてる?もしかしてレーヴァテイン、照れちゃってる!?
や、やべぇな、コレ。なんかこう・・・・・・子供の新しい一面を見つけたときみたいな、あるいは、片思い中の彼の、意外な一面を垣間見てドキドキ胸キュン私、胸が苦しいわ状態だぜ!!!
・・・・・・ヘイボーイ。なんで俺、さっきから女の子サイドなん?
オーケーいったん落ち着こうか。クールだぜ俺、クールクール。冷静な俺カッケーになろうぜ?
・・・・・・おぉ、スゲェ。さっきまであんなにテンパッてたのに、スゲー落ち着いてるぞ、俺の心。
『・・・・・・はぁ。よく分からないけど、緊張と動揺はなくなったようね。・・・・・・いける?』
「・・・・・・モチのロンだぜ、マイハニー」
『次、フザけたこと抜かしたら、命はないと思いなさい』
踏み込む。
奥義【撫子】
久しぶりに使った気がするが、俺の中では使用する比率ランキング第一位の奥義。
俺を囲んでいた石人形の包囲網、その外へ。
あまりの速度に反応できないゴーレム。
そんな作り物の乱造品を尻目に、俺は魔法を行使する。
剣に魔方陣を展開。
大きく、剣を振るう。
その動作だけで、その場にいたゴーレム、さらには周辺の建物すらも、その全てが半分に切断された。
“空間魔法”【空夢】
空間を分断するこの技の前では、どれだけの強度を誇った盾でも防ぐことは出来ない。核シェルターだろうが、最新鋭の超硬度を誇るこの町の建物だろうと。
その全てを。等しく分断する。
「・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・はぁ、ふぅ・・・」
荒れる息を、なんとか整える。
『こんな大技があるのなら、最初から使えばよかったじゃない』
「そんなホイホイ使えるなら苦労しないぜ。それに、大技ってのは常に、デメリットと共にあるんだぜ?っても、俺のは、デメリットってほどのもんでもないけどな」
この魔法は、めちゃくちゃ強い、ほぼ必殺に等しい技だが、大量の魔力が必要であり、体力消費量も多いという欠点がある。
連発が出来ないからこそ、一撃で決める必要があった。
ゆえに。その状況に持ち込んだ。といっても、後ろに回っただけだが。
「これで、仕切りか?」
『・・・・・・いえ、まだよ。多分、キリがないわ』
再び、武装したゴーレム軍団が出現する。
「おい。これ、いつ打ち切りなんだ?」
『・・・・・・さぁ?』
・・・・・・・・・メンドクセェ・・・・・・。
鎧を纏い直し、仕方なく剣を握りなおして、振るう。
戦い続けなければならないという、地獄を抜け出すために。
魔王「気付けば季節は12月か」
村長「そうですね~。もう師走ですよ」
魔剣「年の瀬というヤツね」
魔王「作者も、ついに受験か。あぁ、そのまえに高校の定期考査だっけか?」
村長「あぁ。でも、それのほうが大事、ってわけでもないですけど、重要ですよね?だって、そこで失敗しちゃったら、卒業できないんですよね?」
魔剣「実際どうなのかしら。高校側からしても、三年生に残られて得することもないでしょうし。少なくとも、出口が狭いとは思うわ」
魔王「あぁ。作者みたいなのが残っても、百害、いや千害あって一利だからな」
村長「そうですね」
魔剣「・・・あ、フォローしないんだ」
村長「?なんでです?」
魔剣「・・・いや、なんでもないわ。・・・おかしい。ようやく彼女のことが分かり始めてきたと思っていたのに、余計にわからなくなったわ」
魔王「質問。レーヴァテインさんはツンデレなんですか?」
魔剣「待ちなさい!どこから引っ張ってきたのかしら、そんなふざけた質問!?」
村長「まぁまぁ。私はそうですねー。確かにレーヴァテインさんって、ちょっとツンツンしてるとこありますよねー」
魔剣「ツンツンって言うんじゃないわよ!なんか弱く感じるでしょうが!」
村長「でも、可愛いですよね~。尖った“ツン”の部分を剥がしたときに垣間見える、豊潤な“デレ”の破壊力は抜群ですよ~」
魔剣「ちょっと聞いてる!?」
魔王「いやー。遠くから見てる分には楽しいな。二人の絡みは。混ざりたいとは思わないが」
村長「え?どうしてですか?楽しいですよー?」
魔王「いや、疲れそう。HP自体を削るんじゃなくて、HPの最大値ごと削られてる感じ。分かりやすく一言で言うならば、メンドクさそう」
魔剣「逃げるんじゃないわよ。作者も今、困ってるんだから」
村長「え?どうしてです?」
魔剣「ずっと書きたかった私に関する後書きようのネタを、全部忘れたんですって。こちらとしては、大助かりの万々歳なのだけれど」
魔王「あー。作者が必死に思い出そうとして、全然想い出せなくて、普通に手から炎を出す妄想に逃げるレベルの記憶喪失だな」
村長「随分と可愛げのある喪失ですね」
魔王「あぁ。わざわざクラスメイトを探すために学校を早退してまで冬空の下を駆けたりする必要もないレベルの喪失だな」
魔剣「多分、部室に行ったら普通にいるのでしょう?その喪失は」
村長「それじゃあ泣けませんね・・・」
魔王「さて。夜も更けたし、そろそろこのあたりで切るか」
村長「そ、そうですね~・・・うー、ねむねむですー。えーと今は・・・」
魔剣「午前3時50分ね」
村長「・・・はやく、寝ましょうよー」
魔王「というわけだ。いい加減、ニーナが限界だ」
魔剣「そうね。はやく帰りましょう。ほらニーナ。タクシーを呼ぶから、移動するわよ?」
村長「うぅうう~・・・」
魔剣「はいはい。ほら立って。しっかり歩きなさい」
村長「ふぁ~い・・・」
魔王「・・・すっかりお姉さんじゃねえか。それじゃあ読者の諸君。次回のゲストが誰になるかはまだ未定だが、楽しみに待っていてくれたまえ。ゲストの運命を決めるのは・・・作者の友人の腕と運だ。ではみんな、また会おう」




