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第四十四話:揺れる戦況

魔王「お。どうだ、いい加減に慣れたか?」

魔剣「えぇ、まあ。とりあえず、そこの女の子には慣れたわ」

村長「それは良かったです、レーヴァテインさん」

魔剣「まあ、さすがにね。この男、荒療治が過ぎるわ」

村長「ははは・・・。まあ、たしかに。三日間同じ部屋で生活させるって、とんでもない力技ですよね。おかげで私も、村のお仕事丸投げしちゃいましたよ~」

魔王「結果良ければなんとやらってやつだ。んじゃ、本編いこうか」

 

 激しい閃光が、掻き消される。


 大砲が発射されて数百メートル。それまでの間を飛行していたドラゴンは力なく落下していく。

 しかし。強力無比の最新兵器は、しかし。


 全長で数十メートルもある巨大なドラゴンが、直接それを受け止めていた。


「・・・・・・そんな、バカな・・・・・・」

 手に握っていた無線機を取り落とした部隊長は、しかそれを拾うこともなく、ただ呆然と、最新兵器を受け切った巨大なドラゴンを見上げていた。

 その反応は、俺も、そしてフィールも同様だった。

「ウソだろ・・・・・・?」

「あれほどの攻撃を正面から受けて、効果が無いだなんて・・・・・・」

 その場にいた誰もが、困惑を隠せないでいる。

 驚き、恐れ、おののき、絶望する人間を、はるか上空から見下ろすドラゴン。

 そんな空間の覇者に、まず最初に弓を引いたのは、意外なことに、フィールであった。

「え、えっ!?」

 隣にいたはずのフィールが、いない。彼女は、すでに上空へ。ドラゴンの元へと飛び立っていた。

「ちょっ、フィール!!!」

 慌てて呼び止めるが、しかしその声は届かない。高速で飛翔する彼女は、すでにドラゴンの目の前にいた。

「・・・・・・ワタシがここへ来る理由は、わかるな?」

 ドラゴンは、答えない。だが、その瞳は語っていた。

『黙って掛かってこい、虫けら』と。

 直後。


 糸を飛ばし、一瞬で首の裏へと回り、ブレードを振るう。

 ドラゴンは、身体を捻ってフィールの身体を振り回す。その回転を利用し、飛行装置で加速しつつ、ドラゴンの身体を糸で縛りつける。

 しかしその糸は、俺の刀を使ってでさえも斬れなかった強靭な科学の糸は、一瞬で引きちぎられた。

「――――――くっ!この糸でさえ破るか!」

 驚くも一瞬。上空を落下しながらも、銃を連射する。が、雨のような弾丸も、ドラゴンの魔力障壁の前では、全てが無力化されてしまう。

 フィール自身も、そのことは重々承知しているはずだ。つまり。そのことも忘れるほどの何か(・・)が、あのドラゴンにはある、ということか。

 正直。どう動くべきか、俺には分かりかねる。

 俺の知っている、いわゆるセオリーってやつだと、こういう場面での俺は、動くべきだ。フィールを捕まえ、話を聞き、彼女が抱えた何かを破壊するために共にドラゴンに立ち向かうという流れが常套であろう。

 しかし。俺には、その決断ができなかった。

 彼女の戦う姿が、とても割り込めるような状態でない、というのも、確かにあるが。しかしそれ以上に。

 何かが間違って(・・・・・・・)いる気がする(・・・・・・)

 彼女たちの戦いは、何かがおかしいのだ。という違和感が、どうしても拭えない。

 どこがおかしい、とは明言できない。が、それでも、どこかがおかしい。直感的な違和感。証拠もなく、確証もない。

 それでも、確信がある。


 ――――――ゆえに、大本を叩く。


 レーヴァテインを地面に突き刺し、意識を強くする。

 どうすればいいかは、頭に入っている。剣と俺が触れ合っている間は、レーヴァテインのことが手に取るように分かるのだ。故に。

「レーヴァテイン。今、出来るか?」

 俺の問いにレーヴァテインは、僅かな間を取った後に答える。

『・・・・・・微妙ね。正確に調べたいのなら、あのを基点にしたいところだけど、空中にいるんじゃあアタシの影も効果が弱い。だから、明確な方向も流れも強さも分からないままに、辺り一帯を調べるわ。といっても、範囲外にいたらどうしようもないけど』

「十分だ。・・・・・・やるぞ」

 闇を、広げる。世界が、黒く染まる。

 振動の鼓動が激しい。血流が速くなるのを感じる。額に汗が滲む。

(いない・・・・・・まだ、広く、もっと遠くまで・・・・・・)


 そして――――――見つけた。


(西?確かあっちは、シエンがいたはずだけど・・・・・・)

 その事実に、俺は驚いた。だってそうだろう。

 最強の魔王が担当する地点に、違和感の元凶がある。

 それが、おかしい。


「部隊長。こっちは任せていいですかね、っていうか任せます!」

「い、いや、リュージ君。こちらとしては、彼女をなんとかしてほしいのだけれどぉおおおおおおーーー!!!???」

 鎧を纏い、駆ける。部隊長の悲痛の声が聞こえるが、ゴメン!ホントゴメンだけど任せましたよ部隊長信じてますから皆のことを!

「すぐ戻るんで!ホント、マジで!」


 ◆


「ちょっと危ねぇだろ!何すんだオマエ!」

「申し訳ございません。私、目の前の障害は破壊する主義ですので」

 リリアの振り下ろした氷の刃が地面を掠めると、その場所が一瞬で凍りつく。

 躱したシエンは、その勢いのまま距離を取る。

 離れたシエンを、冷たい瞳で見据えながら、リリアは氷の刃を横薙ぎに振るう。

 空中に生み出された複数の氷の矢が、シエンに向かって放たれるが、シエンに触れる直前に、強制的に地面に叩きつけられる。

「重力の操作・・・・・・、なんて技を。しかし」

 地面に刺さった矢から、一瞬で凍結が広がる。

「え、ちょっ、おわっ!」

 地面を縫い付けられて身動きが取れなくなる。

「だーかーらー・・・・・・止めんかっ!」

 地面を叩き、氷を消し砕く。

 その光景を見たリリアは、氷の刃を消す。続いて生み出した拳銃を連射するが素手で弾かれ、上空に作り出した大岩も砕かれ、鎌鼬かまいたちを、火の玉を、ウォータージェットを、熱光線を、砂鉄の嵐を、掻き消される。辺りに誰もいないことが幸いし、シエンも相応のレベルで対応する。

 圧倒的な力量を発揮するシエンだが、しかし脳内では、大量の【?】が腹踊りをしていた。いや、サンバかもしれない。

「ちょっと、マジで待ってくれよ。状況についていけないんだが・・・・・・。何オマエどうしたの?」

 手を突き出して必死に抗議するシエンだが、リリアには通じない。一向に緩むことのない攻撃を往なしながら、シエンは呟く。

「・・・・・・つーかよ。誰になにされてるのか知らねぇが。最強天使のオマエが、いいようにされてんじゃねえよ」

 それは、ただの愚痴だったのかもしれない。だがしかし。確かにそれは――――――。


「仕方ねえ。何とかしてやるから、俺で我慢しろ。リュージが来るまでの、下拵えだ」


 それは、開戦の言葉だった。彼は、まさにこの瞬間初めて、リリアを敵と見做すと。


 シエンが、闇を解放する。


 ◆


 リリアは、おそらく正常ではない。操られている、というわけではなさそうに見える。

(精神に干渉しているのか?・・・・・・いや、違う。リリアが、完全に自我を保っている点から考えて、外から操られている可能性は低い)

 闇を解き放つ。その久しぶりの感覚に身体を慣らしながら、思考を続ける。

(リリアは、明確な意思、純然たる殺意を持って、俺に向かってきている)

 さらに深く、考える。精神に、自分の心に、黒い闇を溶かしながら、深く深く。海底を目指して潜り続けるように、ただただ答えを目指す。

(つまり。彼女を形作る根本の部分が、改変された?じゃあ、いったい何が?――――――考えるまでもない)


「ようするに。記憶の書き換え、ってところか」


 正確に言えば、本来の記憶の中に、新たな情報を記憶として流し込む。

 そんな力を持っているヤツを、シエンは知っていた。

「ははーん。あの野郎、面倒なことしやがって」

 そして彼は。解放し、自らに順応した闇を、空間に広げた。

 リュージが行った闇による探索よりも、さらに正確に、さらに素早く。

 洗練されたその技は、もはや集中することもなく、気を使う必要すらもない。何かのついでに、片手間すらもいらないレベルまで使いこなせるまでに使い込まれたシエンの闇は、明確に、元凶を捉えていた。

 しかし。元凶を叩く前に、リリアの攻撃が迫る。

 捉えたことを気付かれたか。

 シエンが理解したときにはすでに、リリアの記憶は、さらに書き換えられているらしい。

「貴方が・・・・・・貴方がいたからッ!!!」

 今、彼女の記憶の中に住まうシエンが、いったいどんな存在になっているのか。

(考えたくもないが・・・・・・まあ、この変わりようからして、相当なことになってるんだろうな)

 リリアの攻撃は、獰猛な、感情に任せた荒々しいものに変わっている。その上、感情を乗せながらも技の面では劣ることがないあたり、彼女の瞋恚しんいの加減が窺われる。

 構える2本の矛が、数百の閃光となって突き出される。後方に生み出した魔法陣から氷と炎の矢を打ち込み、地形を操り外壁の岩を打ち上げる。

 シエンはそれを、両手に作り出した二振りの短剣を駆使し、弾き、躱し、往なす。

 リリアの相手をしながら、戦う場所を移す。

 壁から飛び、建物の屋根に降り立つ。

 町の中は、すでに誰もいない。住民の避難は、とっくに済んでいる。今頃は、全員シェルターの中だろうか。

 科学の町であるナーガの建造物は、ちょっとやそっとじゃ傷付かないから、住居への被害の心配もあるまい。

 元凶は見つけている。あとはソイツを叩くだけだが、リリアがそれを許さない。

 彼女自身は、自分が誘導されていることなど、微塵も知らない。自分の記憶に起こる齟齬も、現在置かれている状況も。それらの要因全てを吹き飛ばすほどの感情の渦が、彼女の中で湧き上がっているのだろう。いったい、どんな記憶が流されているのだろうか。


「おっと・・・・・・。なんか、マジで殺しに来てるなぁ。避けるだけじゃあ捌ききれんぞ。といっても、反撃をするわけにもいかんしなぁ・・・・・・」

 なんだろう、俺今、すっごく損な役回りな気がする。と、シエンは思った。

 しかし、まあ。それも、リュージが何とかしてくれるまでの辛抱だ。

 先ほど発見した元凶からは、離れつつある。リュージの邪魔をしないためだ。

 彼の闇のレベルなら、シエンと同じように、元凶を発見することも出来るだろう。そしてそろそろ。あちらも動いている頃だろう。

 だからこそ。シエンは自分の仕事をするだけだ。

 リリアの動きを縫い付けておく。

 それさえ達成できれば、後は主人公が勝手に終わらせてくれる。

 自身のすべき事を再確認したシエンは、自分の仕事を完遂するために、闇を纏わせた二振りの短剣を振るうのだ。

魔王「しかし良かったな、レーヴァテイン」

魔剣「・・・なにが?」

村長「なにかあったんですか?」

魔王「いや、ほら。あの三日間の修行は無駄にならなかったなって意味だ」

村長「いえ、あの・・・。イマイチわからないんですけど・・・」

魔剣「そうよ。どうして無駄になる可能性が出てくるのよ。あの、血反吐を吐いた三日間を」

村長「本当に吐血してましたもんね。あれは、ストレスで?」

魔剣「主にそこに座ってる男のせいでね。それで、どう意味か説明してくれるかしら」

魔王「いや、別に大したことじゃねえよ?ただ、作者がな。前回の後書きで『次回もレーヴァテインです』的なことを言ったことを完全に忘れて友人にゲスト選定クジを引かせちまったってことがあったんだよ」

村長「え?じゃあ元々、今日は別の人になる可能性があったんですか?」

魔剣「ていうか、自分で言ったことくらい覚えておきなさいよ作者・・・。でも、なんかそれを聞くとちょっと悪い気がするわね。それってつまり、今日のアタシのポジションには、本来は別の人がいたわけでしょ?一瞬だけ期待させるっていうのが、もっとも辛いのよ」

魔王「いや。その点は安心していいぞ」

村長「どうしてですか?」

魔王「今回クジを引いた友人っていうのがな。前回オマエを選んだまさにその人だったんだわ」

魔剣「はぁ・・・。それで?」

魔王「そんで。そのロリコンの友人はな。なんと奇跡的に、連続でオマエを引き当てたんだよ。その奇跡を目の前で見て、作者は前回の自分の言葉を思い出したんだ」

魔剣「やるわねロリコン・・・」

村長「ま、まあ。愛の形は人それぞれですから・・・。今回のことが運の為した業であったとしても、そのご友人の、その・・・ち、小さな女の子に対する想いは、その・・・本物ってことで・・・」

魔王「ちなみに。この間、次回用のを引かせたら、そのロリコンは三度、レーヴァテインを引き当てた」

魔剣「なんて奇跡!なんて強い想い!」

村長「そこまで来ると・・・怖いですね。これが本物の力、というわけでしょうか・・・」

魔王「理解したか?それが本物の重みというものだ。偽者は早くゴミになるがいい!」

魔剣「潰されるわよ?この作品、本当にゴミにされちゃうわよ?」


魔王「次回もゲストは変わらないので、時間が無い今日はこのあたりで」

魔剣「作者の時間が、でしょ?」

村長「でも!次回もレーヴァテインさんと一緒なのは楽しみです!」

魔剣「そうね。また楽しみましょう、ニーナ。魔王。アナタは来なくていいわよ?」

魔王「ふむ。冷たいな。まぁ、それもまた次回までに改善しておきたい問題だな。それではみんな、また次回。さらばだ」


村長「・・・はぁ。これから村に戻って仕事、ですか・・・。支給されるタクシー券、多めに貰っていきましょうか・・・」

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