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第四十三話:遅れて始まる勇者の開戦

魔王「さぁ。久しぶりのトークだぜ!」

村長「・・・どうしてそんなにテンションが高いんですか?」

 

 目を覚ますと、知らない天井が見えた。

「あれ。ここは?俺はなにを・・・・・・」

 俺は仮想戦闘室にいたはずだ。それが、どうして今は、ベッドで眠っているのだろうか。


「それはアタシが説明するわ」


 声に反応し視線を向けると、枕元にレーヴァテインが立っていた。

「ずいぶんと健闘したみたいね。あの子(・・・)がアナタを認めるなんて、ちょっと予想外だったわ」

「いや、実際ボコボコだったよ。また、何も出来なかった」

 いつまで経っても、俺は勝てない。多分、例の“闇の力”ってのを完璧に使いこなせるようになったとしても、俺は変わらないのかもしれない。でもまあ、大事なところでは勝てるようになりたいな。

「ていうか、いやそれよりもだ。どうして俺は、ここにいるんだ?戦闘室にいたんじゃ・・・・・・」

 思い出した疑問を尋ねると、レーヴァテインは、何を今更といった表情を見せ、適当に呟いた。

「そんなの。ドラゴンが来たからに決まっているじゃない」

 決まってるんですか。いや、それよりも。

「え!?もう始ってるのか!?」

 しまった、出遅れた。これじゃあ、わざわざ力を手に入れた意味がない。

「行くぞ。来てくれるか?」

 起き上がり、歩き出す。振り向き様にレーヴァテインに尋ねると、彼女は苦笑した。

「しょうがないわね。付いて行ってあげるわよ」

 こうして。俺と魔剣の正式なタッグが完成した。


 ◆


 町の城壁。その北側に駐在している北部方面部隊と合流。すぐに作戦会議となった。

『ドラゴンは退却した。だが、すぐに戻ってくるだろう。警戒を怠るな。壁上砲台の点検は終わっているのか』

『問題ありません』

 北の部隊長の問いかけに兵が答える。皆、一様に緊張が走っているようだ。

 そんな様子を端から眺めていた俺に、部隊長が歩み寄ってくる。

「リュージ君。諸々の事情はすでに、ドメク司令官から伺っている。身体の方は問題ないか?」

「あ、はい。問題ないです」

「そうか、よかった。では早速、作戦に参加してもらおう。といっても、基本的には自由に動いてもらって構わないがね」

「そうですか。じゃあ、皆さんの攻撃の邪魔にならない程度に、自由にさせてもらいます」

「そうしてくれたまえ。先の戦闘では、フィール君の力を目の当たりにしたからね。あの力量は、貴重な戦力だ。キミにも、同様の期待をさせてもらうよ」

 そういって部隊長は、部隊の中に戻っていた。おそらく、作戦の確認でも取りに行くのだろう。

 暇になった俺は、基地内をフラフラとしていた。

 味のある雰囲気を醸し出す廊下を進むと、反対側から歩いてくる人物を見つける。

「お、フィール。元気?」

「おぉ、リュージ君か。身体は・・・・・・大丈夫そうだな」

 一見アタッシュケースのような形をした兵器【十手じって】を背負ったフィールだった。先の戦闘では、彼女は前線に立ったらしいが・・・・・・疲労の色が若干見える。だが、それも気にするようなレベルではないようだ。

「どうだった、ドラゴンは?」

 いまだ実際に、現物を見たことがない俺は、見るだけでなく戦闘までこなしてきたフィールに問いかける。すると彼女は、表情に若干の難色を見せた。

「問題なかった。・・・・・・と言いたいところなのだがな。実際に戦ってみると、かなり厄介な敵だった。正直、ここの部隊との共同戦線、ということでなければ、ワタシなどとっくに討ち死にしていただろう」

 フィールにそこまで言わせるドラゴンって、どんだけだよ。ていうか、だったら俺じゃあ何も出来ないんじゃ?だって俺、フィールには負けてるからね?フィールでも厳しいヤツの相手とか、俺に務まるわけないじゃん。

 そんな不安、というか戦慄というか、そんなものが表情に出ていたのだろう。フィールはなぜか、優しい笑顔を浮かべる。

「そんな顔をするな。キミなら大丈夫だ。キミの強さは、かなり変則的だからな。強くなったりそうでなかったり。実際、ワタシに負けたのだって、そういう時期だったというだけだろう」

「時期ってなんだ」

 ツッコミはするが、なんとなくフィールの言うことも分かる。人の強弱なんて、時と場合によって変わるものだ。だからまあ、とりあえず。やる前から諦めるのは止めておこう。

「・・・・・・まあ、なんかちょっと気が楽になったわ。サンキューな」

「なに、気にしないでくれ」

 すっかりとフィールに助けられた俺は、礼を言って立ち去ろうとする。しかし、その袖を引く者がいた。というか、フィールが俺を引き止めた。

 振り向くとフィールは、なにやら顔を伏せてモジモジとしている。なんだろう。普段のクールな姿とのギャップでスゲーカワイイ。

「それよりも、その・・・・・・またアレをやってもらいたいのだが・・・・・・」

 アレ。というのはつまり、アレのことだろう。

「わかったよ。ていうか、いい加減慣れろよ」

「そんな簡単に言わないでくれ。ワタシだってその・・・・・・恥ずかしいんだぞ?いつまでもキミに頼りっぱなしというのは」

 フィールの用件を理解した俺は、ヤレヤレと溜め息を吐きながら、フィールの腕を引く。

 そして俺たちは、廊下の向こうへと消えた。


 ◆


 でもまあ当然、エッチな展開になるわけでもなく。

「いやだからな。別にこだわりとかないんだったらココをタッチすればいいんだよ。そしたらコイツが、勝手に割り振ってくれるから」

 俺が液晶をタッチすると、数値が割り振られ、フィールの兵器【十手じって】の能力が進化する。見た感じ・・・・・・ふむ。狙撃系が伸びてるな。あとは飛行用ジェットパックも伸びたな。うんうん、全体的な成長率がもの凄く高いな。

「オマエ、どんだけ激しいバトルを繰り広げたんだよ。成長しすぎじゃね?」

 そうやって俺は、軽い気持ちで呟いたのだが。予想に反してフィールは、いつになく真剣な表情を浮かべた。

「分かってくれたか?それが、今回の敵だ」

 ・・・・・・なるほど。経験値ってのは総じて、強力な相手からのほうが多く得られる。それと同じで、ドラゴンとの戦闘がそれだけ危険であるということか。

 彼女の眼差しを受け、正面から見据える。目を見つめ、俺は笑いかける。

「今度は俺がいる。だから、大丈夫だ」

 どこから来るのかわからない、それでもこれで正解だと思える、自信に満ちた返事。

 俺の言葉を受けたフィールは、しばらく俺の瞳を見つめ続け、やがて笑顔を浮かべた。

「ふむ。では、期待していよう」

 互いに仲間を見て、信頼を築いた。これでもう、怖いものはない。


 そのとき。基地内に、警報音が響いた。

「・・・・・・来たようだ」

「あぁ。そうだな」

 頷きあい、互いに歩き出す。

「んじゃ、行きますか」

「あぁ。今度は、手早く済ませよう」

 仲間と、新たに手にした力を伴って、俺は進む。


 ――――――さて。戦争を、始めようか


 ◆


 ・・・・・・たかーい。空飛ぶ敵、遠いー。

「やべぇ。何も出来ない」

 戦闘が始まって数分。巨大なドラゴンと絶大な威力を誇る砲弾やミサイルが上空を飛び交い、その間を縫うように飛翔しドラゴンと闘いを繰り広げるフィールを見上げながら、俺は途方にくれていた。そうだ、根本的な問題は何も解決していなかった。

 闇との闘いを経て、自分が強くなったと勘違いしていたが、そんなことはなかった。現に、俺は何も出来ていない。さっきから俺のことをチラチラ窺ってくる部隊長の視線が痛い。

『ねえリュージ。アナタ、何しに来たの?』

「・・・・・・もう、許して」

 何も出来ない自分がめちゃくちゃ不甲斐なく思ってるんだから。

 穴があったら入って二度と出てきたくないくらいに落ち込む俺。もうホントどうしよう。

『・・・・・・ねえリュージ。質問をちょっと変えるけど、アナタは何をしているの?』

「どういう意味だ?」

 質問を変えられても、俺にはその意図が分からずに聞き返す。

 するとレーヴァテインは、溜め息を吐く。

『あのね。アナタはいま、“闇”の力を手に入れたのよ?それを有効に使いなさいよ』

「いや、そうはいってもな。ぶっちゃけ、どうやって使えばいいんだよ」

 なんだ。闇が腕から伸びてドラゴンを掴んだりするのか?

『どうやってって・・・・・・アナタ、今まで見てこなかったの?闇の力を持ったヤツ』

 闇の力を持ったヤツ?えぇ・・・・・・っと。

『思い出しなさい。アナタが今まで闘った相手を。その能力を』

 今までの相手と、能力?

 まずは、そうだ。順番に思い出していこう。

 サタラ。能力は、空間を掌握すること。

 リュークブルナイを襲った魔物。能力は、魔法の吸収、無効化。

 シエン。能力は・・・・・・分からない。

 ゾルディック。能力は、対象の温度の操作、魔力操作。

 カイリ。能力は、はっきりとは断定できないが、空間に壁を作って攻撃を防いだり、分身を作ったりと、多岐に渡る。


「・・・・・・よく考えると、ずいぶん豊富なバリエーションだな」

『えぇ、そうよ。闇には、特定の方向性なんてない。アナタにはアナタに合った、そしてアタシの闇に合った力の使い方があるのよ』

「それが分からんから困ってるんだが」

『分からない訳がないわ。だってアナタは、あの子(・・・)に認められ、取り込んだ。だから、イメージはつくはずよ。想像しなさい』

 言葉に、俺は瞳を閉じて答える。

 想像、イメージ。

 あのとき“闇”は、俺をどうしようとした?俺を殺そうとした。そのあとだ。俺が闇を取り込んだとき、それは、内側から俺を支配しようとした。

(・・・・・・支配?)

 支配。そう、“闇”による支配だ。そして、その力は今、俺にある。


「――――――オッケー。イメージ掴めた」

 本質は、なんとなく身体で理解できた。

『それが出来たなら、あとは使うだけよ。それに、ここで役に立つレーヴァテイン情報を上げるわ』

「は?なにそれ」

 ていうかなんかテンション高くない?

『レーヴァテイン情報、その一。アタシは姿形が決まっていない、無形の存在』

「あぁ・・・・・・。だから、剣にも槍にも、どんな武器にでも成れるんだろ?」

『その認識は、ちょっと甘いわ。というか、それじゃあまだ足りない。考えてみなさい。無形の存在、形が定まらない、アタシという存在そのものがレーヴァテインの力』

「・・・・・・どういうことだ?つまり何が言いたい」

『察しが悪いわね。つまり、何にでも成れるってことよ。武器に限らず(・・・・・・)、ね』

「――――――なるほど」

 つまり、こういうことか。

 なんでも作り出せる。

 だったら俺は・・・・・・そうだな。分かりやすく、本質を表現しようか。


 身体の正面に、細身の剣を突き出し、構える。頭の中に浮かんだ映像を、明確にしていく。もっと詳細に、もっと鮮明に。

「――――――いくぜ、レーヴァテイン。イメージは伝わったか」

『えぇ、完璧よ。アナタの中二臭さを存分に発揮しているわ』

「ケンカ売ってるのかテメェ!」

 文句を言いつつも、力が沸き起こるのを感じる。

『いい事を教えてあげる。イメージをしたら、名前を付けて叫びなさい。言葉は想像を鮮明にするわ。それと、名前は全力で中二臭くしなさい。そうしたほうが、気分も盛り上がるわ』

 そういうもんか、そういうもんだな。と適当に納得しておく。

 周囲の戦闘による爆風とは全く関係のない、別の規則性を持った冷たい風が、俺の周囲を吹き荒れる。

 目を瞑り、イメージを完璧にまで持っていき、想像が頂点に達した瞬間、叫ぶ。

「――――――黒鎧フォール・プロテクション!!!」


 ◆


 【高機能飛行用ジェットパック】

 どんな方向へでも瞬時に飛行できる、高機能マシン。欠点としては、飛行の際の負荷がダイレクトに身体へ掛かってしまうので、動きに制限があるということ。

 そんな超兵器を使って上空を翔るフィールは、辟易していた。なかなか倒し切れないドラゴンの高い戦闘力と、どれだけ倒しても減らない数量に対する絶望感。

 それでも彼女は、兵器を駆使して闘いを続ける。

 味方砲撃の射程から逸れたドラゴンに狙いを定め、飛んで近付く。ドラゴンと交錯した瞬間に飛行を停止、糸を射出してドラゴンの背に乗り移り、弱点である首の付け根へ狙いを定める。

 高速で飛行するドラゴンから振り落とされないよう糸で身体を固定し、十手の兵装を切り替える。

【近距離格闘用高周波ブレード】

 あらゆるものを容易に切断する科学兵器。それを使って、ドラゴンの首の付け根を狙えば、確実に倒すことができる。

 ブレードを振り上げ、首を切断しようとしたまさにその瞬間。危険を察知したドラゴンが、まるでドリルのように回転しだした。

「なっ!?」

 突然の動きに対応できず、フィールの動きは止まってしまう。何度も変化する重力方向に、締め付ける重圧で動きは鈍り、身体から力が抜ける。

 脱力してしまったことで生じた純粋な体重、質量が、ドラゴンが生み出す遠心力に煽られ、ついには固定していた糸が外れてしまう。

「――――――あ」

 咄嗟に、判断ができなかった。糸を飛ばしてもいいし、それこそ直接空を翔けてもいい。しかし人間、そう簡単に状況判断ができるわけではない。特に、予想外の出来事に対する咄嗟の判断というのは、なかなか出来るわけではない。

 それは、フィールも変わらなかった。いや、というより。普段は出来ていたのに、今は出来なかった。敵が大き過ぎたからか。それとも、数が多すぎて、思考が散漫に、そして単調になっていたのか。

 はっと、意識が覚醒したのは、その身体がかなり降下したあたりだった。元々闘っていた位置がそれなりの高さだったのが幸いしたが、あと数秒で地面だという現実が迫っている今となっては、それも大して意味を成さないのかもしれない。

 少なくとも、今まさに地上へと迫っているフィールからすれば、そんなことに思考を回している暇はないだろうが。

(しまった、呆けすぎたか!)

 慌てて飛行を再開しようとするが、いかんせん速度が速度だ。多少の減速は実感できるが、激突の衝撃に対しては期待できるだけの推進力が出せなかった。高高度からの降下に耐えられるだけの力が。

 が、常識を超えた超科学は、その現実さえも超越する。

 フィールの危機感、精神状態を察知した超兵器【十手】は、急激に進化する。

 突然、ジェットの力が上がった。完全に、降下が止まるほどに。

 安堵するフィール。そして、その一瞬の気の緩みが、仇となった。

 とてつもない速さで降下していた物体が、止まった。散々自分たちを攻撃してきた小さな強者(・・・・・)が、緩み切った状態で停滞している。


「・・・・・・え?」


 振り向くと、巨大な口を開いた、ドラゴンが迫っていた。


 ◆


『この角度か!?』

『えぇ。今のアナタが全力で飛べば余裕よ。一瞬で届くから、距離による偏差を気にする必要はないわ』

 その情報だけで十分だ。心の中だけで呟く。

 足に力を込めて、飛び上がる。

 次の瞬間には、ドラゴンの黒い下顎が眼前に迫る。あわせて拳を振るうと、ドラゴンの身体は簡単に反り返り、力なく落下していく。

「フィール、吊るしてくれ!」

「・・・・・・あ、ああ!」

 戸惑いながらも、すでに落下を始めていた俺に糸を飛ばす。

 掴み、なんとか落下を抑える。

「って、おいおいフィール!なんかちょっとずつ下がってないか!?」

「仕方がないだろう、私だって未だに落下中だったのだ!というより、キミは本当にリュージ君か?その、なんだ・・・・・・鎧のせいで完全には確信できない!というかなんだその鎧は!?」

「俺だよ!正真正銘のリュージだ!いいだろ鎧カッコいいだろ!?なんでもいいからもうちょっと頑張って!」

 相変わらず落下が止まらない。が、原因は明らかに俺なのであまり文句も言えない。

 というより、そんな暇もない。目の前を、多数のドラゴンが飛んでいる。

「とにかく話は後だ!無理矢理跳ぶから、衝撃に備えてくれ!結構落ちるかもしれないから気をつけろ!」

「は!?まさかキミ、その態勢から跳躍を!?」

 フィールが何か言っているが、そんなことは今気にしていられない。目の前に敵が迫っているんだから。

 フィールを支点に、全身の筋肉を使って身体を揺らす。振り子のように揺れて、少しずつ振り幅を増していき、十分な高さまで上がったところで、身体を反らして糸を放す。

 自らドラゴンに近付き、交差。その瞬間。

「覇刀流【灯篭とうろう】!」

 広範囲攻撃で、ドラゴンの首を切断。

 勢いを失い落下しかけるドラゴンを踏み台に、近場を飛んでいた別のドラゴンに飛び移る。

「おぉおおおらあああああ!!!」

 覇刀流【滝波たきなみ】をドラゴンに叩きつけ、次のドラゴンへ。

 さらに上空へ。

「レーヴァテイン!“闇”の力ってのは、このイメージ通りで使えるか!?」

『問題ないわ。アナタのイメージに合った運用方法は、こちらで用意してあるわ』

 全身を覆う鎧から、黒いオーラが滲み出る。それを、右手に握る剣に纏わせ、漲らせる。

 ドラゴンを足場に、さらに上、一番上へ。

「レーヴァテイン!今からスゲー事するけど、これ出来るか?」

 頭にイメージを作り出す。それは真っ直ぐにレーヴァテインへ伝わる。

『あら、このアタシに“出来るか”ですって?――――――出来るに決まっているでしょう。あまり“闇”を舐めないでくれるかしら?』

「へっ!了解だぜ!」

 ドラゴンが飛び回る空域の、さらに上へ。

 最後のドラゴンを全力で踏み、誰よりも高い位置へ飛び立つ。

 刃に“闇”を込め、溢れんばかりのオーラを纏わせ、振り上げる。

「魔剣【黒雷こくらい】!」

 直後。

 黒く光った剣から、黒く強大な雷撃が奔った。

 そのいかずちは一瞬で広がり、触れたドラゴンを蹂躙する。魔力障壁を纏ったドラゴンを、弱点など関係なしに。片っ端から破壊していく。

「おぉ・・・・・・すげ~・・・・・・」

 存在が曖昧な“レーヴァテイン”という魔剣の特性を生かし、その性質を変換。“闇”をベースに作り出した黒い雷撃を纏わせ、撃ち出す。雷に触れた対象の魔力が高いほど、その威力は上昇する。

 落下する俺を、フィールがキャッチする。顔には、驚愕の表情を浮かべながら。

「・・・・・・なあリュージ君。キミはいつから、あんな規格外の力を扱うようになったんだい?」

 言われると思いましたよ。ていうかなによりも、俺が一番驚いているからね。

「俺の力っていうか“闇”の力だけどな。なんかこう、エクスとは別のベクトルでスゲェ」

「エクス・・・・・・というその子には会ったことがないので分からないが・・・・・・」

 俺を抱えながら飛行するフィールは、なるべくドラゴンから距離を取ろうと町の城壁に近付く。

「それで、リュージ君。ここからどうする?どうやらドラゴンたちは、ここで決めようとしているようだが」

「あぁ。こっちはこっちで・・・・・・なんだ、あれは?あきらかにヤバそうなデカイ大砲みたいなのがコッチ向いてるが」

「ふむ。だからこそ、壁に近付いているのだが。状況がイマイチ掴めないからな」

 その言葉通り、俺たちは壁の上に降り立つ。周りの兵たちは、なにやら慌しく動いている。

 とりあえず俺たちは、無線に向かって声を上げる部隊長を見つけ、現在の状況を尋ねた。

「あぁ、キミたちか。良かった、連絡が取れなくて困っていたんだ。・・・・・・というかなんだその鎧は?」

 アンタもか。なんだよ悪いのかよ。鎧ってそんなに悪いチョイスだったのかよ。悔しかったが、どうもイマイチ嵌っていないようなので、鎧を解除した。

「まあいい。状況を説明する。今回のドラゴンは、どうやら普段よりも強力であるらしい。そこで我々は、ドメク司令官からの指令に従い、新たな兵器を実戦投入することでこの戦いに終止符を打つ」

「新たな兵器?」

 さっきのデッカイ大砲のことかな。なんだ、今度はどんなトンでも科学兵器が登場するんだ?


 ◆


『電力供給、100パーセントです。魔力供給も問題ナシ。現在、供給率は83パーセント。完了まで、約7分です』

「よし。魔力の充填が終わり次第、即時発射する」

 ・・・・・・思ったよりも凄かった。ただの科学兵器じゃなくて、魔法と科学の最新兵器だった。そういえば昔、ミーシャさんもそんなことを言ってた気がする。科学と魔法が組み合わさった技術開発がどうとか。

「部隊長殿?その、これはいったい・・・・・・」

「うん?あぁ、フィール君か。そうか、二人には話していなかったか」

 部隊長が指差す先にある巨大大砲は、『オレ、マジで力貯めてます。オレ、まだまだ大丈夫ですから。全然イケますから!』と言わんばかりの様子だ。分かりやすく言うと、エネルギーを充填しまくって、砲口から光が漏れてる状態。

「【イグジストオーバー】既存の常識を超える、科学と魔法を融合した技術。あれは、その一つだ。砲撃を受けた対象が魔力を持つ場合、強制的に魔力を暴走させる」

 なんか凄い兵器が出てきたもんだな。個人的に、圧倒的に強いやつが相手を殲滅するって状況があまり好きではないから、気が進まないところもあるが、しかし俺が口を挟むようなことでもない。

 今重要なのは、この状況をどうするかだ。

「我々には、ドラゴンを全て殺すつもりはない。が、この勝負(ケンカ)に負けるつもりもない。こちらにも意地があるからな」

 部隊長の表情には、確かな意思があった。そして覚悟が。

 これは。この戦いは。つまりそういうことなのだ。

 この町の警備隊と、ドラゴンの。いや。

 研究者と魔獣の戦い、科学と魔法の戦争だ。

「・・・・・・そうですか。そちらがそうなら、俺も答えましょう。できることは何でもやりましょう」

 覚悟を持った人々に手を貸すのだ。こちらも、それ相応の想い(・・)というものを持っておくべきだろう。

 同じ想いを抱いたらしいフィールも、真剣な表情で部隊長を見つめる。

「部隊長殿。我々は何をすれば?」

「・・・・・・協力に、改めて感謝しよう。しかし正直、キミたちのおかげで、今回はかなり楽をさせてもらっている。これ以上の協力を、というのは、さすがに欲張りすぎだろう。あとはこちらに任せておいてくれ。キミたちは、高みの見物気分でいてもらって構わない。そうだな、ただ待っているのがイヤなのであれば、辺りを警戒しておいて欲しい。もう数分もないだろうが、発射までの間がもっとも危険だからな」

 部隊長の言葉に従い、俺たちはそれぞれドラゴンを警戒する。幸い、発射準備中の大砲に近付くものはおらず。


 ――――――数分後。目が眩むような閃光と激しい衝撃波を撒き散らしながら、強大な光線が発射された。


魔王「それで。今回のゲストは誰なんだ?」

村長「あぁ、そういえばこの間からクジでゲストを決めるんでしたよね。私もまだ聞いてないんですが、ゲストの方はすでにいらしているみたいですよ」

魔王「んじゃ、さっさと呼んじまえ。正直、時間が惜しい」


魔剣「・・・あの。し、失礼するわ」

魔王「あれ?レーヴァテインだ」

村長「え?ぇえええええええ!!!」

魔剣「な、なによ、そんな大声だして・・・」

村長「いえ、だって、その・・・レーヴァテインさんって、あの魔剣の、ですよね?リュージさんをも殺そうとした・・・」

魔剣「あ、え、いや・・・その・・・」

魔王「・・・待ってくれニーナ。なんか、様子がおかしくねえか?」

村長「そ、そういえば。本編でのレーヴァテインさんって、なんていうか、自由奔放っていうか、自分勝手っていうか、一匹狼孤高の魔剣って感じでしたのに・・・」

魔剣「え。アタシってそんなイメージだったの?・・・そ、それよりも、その・・・、あまりこっちを見ないでくれるかしら」

村長「・・・へ?」

魔剣「その、なんていうか・・・ちょっと困るわ」

魔王「・・・あ、察し。ははーん、オマエあれだろレーヴァテイン。ひょっとしてひょっとしなくてもオマエ、ニーナに対して人見知り的なの発揮してね?」

魔剣「へっ!?」

村長「え、そうだったんですか!?す、すいませんレーヴァテインさん。アナタが人見知りだとも知らずに、ついついジッと見つめてしまって・・・。め、迷惑でしたよね」

魔剣「な、ななな何言ってるのよ!アタシが、この伝説の魔剣レーヴァテインが、そんな人見知りだなんて、そ、そんなわけあるわけがないじゃないじゃない!!!」

魔王「おい伝説の魔剣。言語機能が狂ってるぞ?」

魔剣「狂ってにゃい!・・・ない!」

村長「・・・にゃい」

魔剣「―――あ、あ、あ・・・・・・こっちを見るなぁああああ!!!」

村長「・・・あの、1人で出て行っちゃいましたけど」

魔王「ふむ。どうやら羞恥心が、ヤツのキャパシティーを越えたようだな」

村長「・・・なんだか私、あの方が可愛く見えてきました」

魔王「おい作者。アイツ、どうするんだ?もうしばらく戻って来そうにないが、これでヤツの出番は終わりか?」

作者『―――あー、いや。そうだな。今回のことは、ちょっとした非常事態ってことで片付けるか。あの娘の出番については・・・そうだな。今回は不測の事態過ぎたので、なかったことにしよう。そして、次回のトークでもう一度出てもらう。なに、二度も同じ失敗はしないさ』

魔王「・・・だ、そうだぜニーナ。レーヴァテインを弄るのは、次回のお楽しみだ」

村長「じ、次回は、レーヴァテインさんと楽しくトークをしてみせます。というより、私に対する警戒心を解いて見せます!」

魔王「うむ、その意気だ。それでは今回はこのあたりで」

村長「皆さん、また次回!」

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