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第三十九話:オーバーテクノロジーって、なんか憧れる

魔王「どうやら今回の話には、俺の出番はないみたいだな。まあ、そういうこともあるんだろうけど、ちょっと悲しいぜ」

皇帝「そういうことなら、私なんてもっと出番がないんだけど」

村長「いえ、あの・・・。多分、登場していない期間だと、私が一番な気が・・・」

三人『・・・・・・はぁー』


 ナーガ警備隊でドメク司令官と初対面してから、早一週間。

「・・・なんも起きねぇな」

 朝食の卵焼き(俺が作った)を齧りつつぼやく。

「まあ仕方がないさ。彼らがいつ来るか、なんていうのは、ドラゴンの気分次第なのだからね」

 味噌汁(俺が作った)を啜りながら答えるミーシャさんは、ボサボサヘアーのままだ。まあ、この人が髪を整えてるところなんて、見たことがないけど。


 今日は、俺とミーシャさんの二人での朝食だ。そのほかの四人、リリア、サタラ、シエン、フィールは、町に出掛けたらしい。なんで俺を置いていく。

「それはキミが全く起きなかったからだろう?一時間以上もキミを起こすのに費やしたんだ。むしろ、彼らを労ってやるべきだろう?」

「まぁ、それもそうかもしれんが・・・・・・まさか朝飯まで抜かれていたとは」

「自分で作ってしまっては、彼らの仕置きも無意味だなぁ。まあ、分かってはいたのだろうが」

 ちょっとした嫌がらせ、というより腹いせ、のようなものなのだろう。んもう拗ねちゃって、可愛いなぁー。

 ・・・・・・反省はしています。

 俺が1人、味噌汁に映る自分を見つめながら落ち込んでいると、ケタケタと笑いながら俺の頭を叩いてくる。

「まあまあいいではないか。可愛らしい愛情表現だろう?」

「まあ、そう考えればあれですけど・・・・・・つーかミーシャさん。もしかしなくても酔ってます?」

 いや、

 普段もこんなテンションに近いですけど。

「ほう、よくわかったな。飲んだぞ、適度にな。なぜなら私は医者だから!」

「なに朝っぱらから飲んでるんスか」

「いや、昨晩少しばかり飲みすぎてしまってな。そのせいか、今朝も朝から頭痛が酷くてね。それを紛らわすために朝酒したのがマズかったのかな?」

「二日酔い醒ましに朝酒って、どこの飲んだくれですか。アルコール中毒になりますよ」

 とても医者とは思えない発言に、俺は戦慄すら覚えつつ、それでもやはり、呆れるしかなかった。

「この・・・・・・ミソシル、といったか?酔った体に染み渡って心地良い」

 あぁ。その感想はみんな一緒なんだな。

 なんてことをボケッと考えていると、そういえば、なんて調子でミーシャさんが呟く。

「キミの武器だがね。あれ1本で大丈夫なのか?」

 あれ、というのはつまり、エクスが残してくれた刀のことだろう。

 まあ確かに、心配になるのは分かる。こんな科学の町で暮らしていれば余計にだ。

 銃を装備し、扱い方を一通り理解した民間人が五人集まれば、刀1本の人間なんて瞬殺だろう。相手の技量に寄れば、いや、たとえ素人だったとしても、1人で殺すことも不可能ではない。

 ただ、まあ。その常識は、俺には当て嵌まらない。

 ゆえに俺は、ニヒルに笑って返答する。

「問題ないね。俺は、あれ1本あれば十分だ」

 ちょっと決め過ぎた。まあ、男は見栄を張るくらいじゃないとやっていけませんよ。

 そんな俺のカッコよさに驚いたのか、ミーシャさんは目を見開き、呟く。

「お、驚くほどにマッチしていないね。格好ついてなさ過ぎてビックリしたよ。酔いも消し飛ぶね。あぁ、もしかしてそのためにわざわざ、そんな恥を晒してくれたのかい?そうだとしたらすまなかった」

「・・・・・・お役に立てた用で」

 やべぇ・・・・・・心が折れそうだ。涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだ。


 本日の格言。

 味噌汁と人生は、しょっぱい。


 ◆


 フィールが武器を見せたいというので、俺は朝食後、ナーガ警備隊北部方面部隊の支部へと赴いた。

「わざわざ済まなかった。実際に戦う前に、協力するキミには見せたほうがいいと思ってな」

「あぁ、まあそうだな。実際、オマエの戦うシーンが全然イメージ付かなかったから」

「・・・・・・?いや、実際に戦ったではないか。キミとワタシは」

「そうだけどよ・・・・・・いや、いいや、もう」

 うん?と首を傾げるフィール。

 そんなフィールに思わず苦笑しつつ俺は、先に部屋へ入った。


【仮想戦闘室】

 と呼ばれるこの部屋は、呼んで字の如くの部屋である。俺がミーシャさんとところでやらされたものと派生系みたいなもので、好きなフィールドが発生したりするらしい。それと、攻撃されても、痛いだけで傷付かないらしい。それでも十分に辛いということが、偉い人にはわからんのです。


 所定の位置に付き、腰の鞘に触れる。

 息を1つ吐き、呼吸を整える。

 フィールの武器も、戦闘スタイルも分からない。唯一わかっているのは、彼女自身が強いということだけ。完全に未知数だ。

 気を引き締めなければ・・・・・・ヤラれる。そうしたら、おしまいだ。主人公として。

 主人公として、チーム内カースト最下位をキープするわけにはいかないのだ!


 そして、俺たちの【戦い(ケンカ)】が始まる。


 ◆


 未来ある若人たちの才能が垣間見える瞬間。

 年をとると、そんなことが楽しみになってきてしまう。

 そんなことを考えながら戦闘室に向かう。

(しかし、いつ来ても、北部支部の空気は鋭いですねぇ。他の支部と比べると断トツですね)

 表面上は、全支部トップで軽いだろう。祭り好きで、宴好き。

 しかし、それと同時に、全支部トップの戦闘力を誇り、内に秘める殺気は絶大。

「ふむ。これは、いい見世物になりそうですね」

 歩みを止めたわたしの前には、巨大なモニター。その周囲には、小さなモニターが十数個。さまざまな角度から、戦闘室の様子を見渡すことができる。

 辺りには、何人もの警備兵がたむろして、モニターの様子を伺っている。

(確かに、参考になることもあるかもしれませんが・・・・・・これは単に、戦いを見に来ただけのようですね。ケンカを見学するのと同じ気持ちなんでしょうね)

「あれ?・・・・・・ドメク司令官じゃないっスか、お疲れ様でっす!」

「あぁ、いやいやご苦労様。いちいち挨拶なんてしなくてもいいよ?」

 なるべく気付かれないようにしていたのだが、それでもやはり、分かる者には気付かれてしまうようだ。そして、その者を中心に、私の存在が波紋のように知れ渡っていく。

『え?ドメクさん来てるの?』

『マジかよヤベェ怒られるかな!』

『いや、別に大丈夫だろ、これくらい』

『コレじゃねえよ!オレこないだ、任務遅刻しただろ!』

『・・・・・・大丈夫じゃねえの?』

 ・・・・・・。ふむ、若いというのはいいねぇ、活気があって。あの程度で憤慨するつもりもありませんが・・・・・・そうですね。あとで、お小言程度は言っておきましょうかね。

 周囲の声を抑え、気にしないように注意すると、それ以降は誰も、わたしの存在を気にすることはなくなった。嬉しい限りですが、ここまで素直だと、逆に自分の威厳が欠けているのではと、少々心配になってしまいますね。

 とにかく。

 モニターを見ると、どうやらそれぞれが、所定の位置に付いたようで、甲高い開始音が響き渡る。

 ゆっくりと歩みを進めるリュージ君と、彼とは対照にすばやく駆け出すフィール君。

(ほう・・・・・・。面白い戦いになりそうですね)

 各々の武器を見比べると、それはほぼ正反対である。

(古典的かつ、現実的な武器である剣・・・・・・【刀】といったかな?そして、未来的かつ、非現実的な最先端技術の塊のような兵器である【十手じって】。あれは、ミーシャ君の案かな?確かに、彼女のスタイルには合っているかもしれないね)

 この一週間で、使い方は完全にマスターしているようだ。動きに無駄がない。


【十手】という兵器は、一兵士があらゆる役割を担えるように、というコンセプトで開発されたもので、名前の通り、十の機能を有している。

 完全に使いこなすのは難しいが、それができれば強力な武器になる。


 現在リュージ君が歩いているのは、森の中。そこはおそらく、十手を使うフィール君の独り舞台だろう。


「これは、他の兵の参考にもなるでしょうね。魔力を全く用いず行う対人戦闘に、フィール君がどのような動きを見せるか。全てが初見、変幻自在な最新兵器に対して、リュージ君がどのような対応を見せるのか。・・・・・・楽しみですねえ、本当に」

 思わず笑みが、零れてしまう。


 ◆


(・・・・・・森が深いな)

 光は差し込むが、深々と茂った木々が視界を悪くする。

(よく知らない、未知の相手と戦う時は、多分こういうところには来ないんだろうな。なんとなくだけど)

 しかし、避けるわけにもいかない。あえて正面からぶつかってやろうじゃないか。


 比較的開けた場所で、立ち止まる。

 そして、目を閉じて集中を高める。

 どこからどんな攻撃が来るのか。俺のような素人が下手に予測したところで、きっと余計なことにしかならないだろう。だったら、初めから全ての可能性を考慮して、起こった現象全てを受け入れればいいだけだ。


 視線を感じたのは、それからどれだけの時間が経ってからだろうか。

 狙われている。多分、遠くから。狙撃系か?

 両目を見開き、視線を感じた方向へ顔を向けた、まさにそのとき、はるか遠くの一点で、閃光が破裂した。

 瞬間、体は勝手に反応し、頭を振る。遅れて身体が動き出そうとした一瞬、時間が停止した。迫る鉄の塊は、重く、鋭く、唯一この世界の住人であるかのように、停止した時間の中をゆっくりと進み――――――。

 高速で回転する弾丸は、俺の頬を掠め、遥か後方へと空間を貫く。

 重力に従い倒れこんだ身体を起こし、狙撃の方向との間に遮蔽物が出来るように、急いで森の中へと入りながら、最短距離で狙撃ポイントと思われる地点へと走る。

(い・・・・・・いきなりドたま狙ってきやがったなあの野郎ぉおおおお!!!)

 やべえ、これはマジでやばい!あんな腕があるなんて、正直予想していなかった。武器を持ってほんの数日で、ここまで精密な狙撃ができるのか!?

 俺は、手の中にある刀を鞘に戻しながら、入り組んだ森の中を進む。

 と、目の前になにか、光るものが現われた。細いそれは、太陽の光を反射しつつ俺の首に迫り――――――。


「って、糸ッ!?」


 慌てて停止、しようとしたが、足がもつれて頭から地面に叩きつけられた。

 顔を上げた目の前で糸が光っていたことに、一抹の恐怖を覚えたが、ま、まぁそこはほら。結果オーライってことで。


 起き上がって辺りを見渡すと、そこら一帯に、同じように糸が張り巡らされているのがわかった。

「ほ、ホントにえげつねぇな、アイツ・・・・・・」

 しかもこれ、一度入ったら横からは出られないように、先端に行くほど幅が狭まった形になっている。まるで、漁で使う袋網のようだ。

 いちいち戻るのも面倒だし、斬ってしまおう。と思い、刀を抜いて振り斬ろうとしたが・・・・・・。

「・・・・・・斬、れねぇ・・・」

 おかしい。見た感じは、ただの糸のはずなのに、全く斬れない。なにこれ怖い。

「特殊な繊維でも使ってるのか?いかにも科学都市って感じだし・・・・・・」

 しかしどうしようか。斬れないのなら、もう一度戻らなければならないんだが。というか、フィールとかもう絶対移動してるよね。どうしよう。狙撃手との戦い方なんて知らないよ?

 とか考えながら周囲をクルクル見渡していると、側面から銃声が。

 とっさに身体を捻って、無理矢理に倒れこもうとする。


 ――――――バスッと、背後から、銃弾が右肩を突き抜けた。


 痛みよりも、驚きよりもまず、恐怖が俺を支配した。

 直感で悟ったのだ。ここはマズイ(・・・・・・)と。

 もう、面倒だなんて言っている場合ではない。俺は全力で駆け、来た道を戻る。

 その間も、フィールの猛攻は止まらない。四方八方、あらゆる方向から雨のように迫る凶弾が掠りながらも、なんとか糸が張ってある範囲を抜けた。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。ここなら多分、さっきの変則狙撃はない、と信じたい」

 フィールは、周囲に張り巡らした糸を利用して、銃弾の軌道を変化させていた。つまり、あのフィールドは、彼女の独壇場だったというわけだ。見事に誘い込まれた。

「しかし、こうなるとほぼ確定だな。フィールの武器は狙撃銃、攻撃はあくまでそれに準じたもの、か。こりゃーいよいよ、相性最悪だな。武器の特定は出来たから、あとは対策だけだが・・・・・・」

「そうでもないと思うが?」

「っ!?」

 上空からの声。見上げつつ、身体ごと後ろに飛ぶ。

 激しい銃声と同時に爆ぜる地面。その中心に、フィールは立っていた。

「・・・・・・オマエ、遠慮とかそういうのはないわけ?」

「なにをいう。遠慮して勝てる相手でもないだろう、キミは。それに、ドメク殿が仰っていた通りならば、この空間内で起こったことは現実に反映されないのだろう?ならば、全力を尽くすのが互いのためだ」

 遠慮も躊躇もねえのな。うん、瞳が燃えてらっしゃる。もっと熱くなれよ!と言わんばかりである。

「・・・・・・わかったよ。いい加減、俺も自分の立場とかそういうのを気にする年頃になってきたからな」

 刀を構え、目を瞑り、息を吐く。

 再び目を開くと、先ほどよりもクリアな視界が広がる。

 そんな俺を見て、フィールも表情を厳しいものに変える。

「・・・・・・目付きが変わったな。これはワタシも、気を抜いていられないな」

 言って、腕の中の銃を構える。・・・・・・狙撃銃の形じゃ、ない?先ほどの光景と合わせて考えると、ショットガンとか、そういった類のように見える。ゲームでもよく見たことがあるし。

 ・・・・・・あれ?もしそうだとしたら、この間合いはマズくないか?俺、いまスゲーピンチなんじゃないか?

「では、始めようか」

 その言葉が言い終わると同時に、引き金に指を掛けるフィールをみて俺は、跳んだ(・・・)

「なっ!?」

 俺の遥か下で、無数の弾丸が飛び散るのが見えた。なるほどやはりか。

「奥義【撫子なでしこ】・・・・・・からの、【滝波たきなみ】ッ!」

 高速移動で飛び跳ねてからの、重力を乗せての叩きつけ。しかしそれは、フィールが展開したシールド(?)で防がれる。そこを足場に、再度跳ねる。僅かに浮かび上がったことで生まれた重力を合わせて追撃。

「【がん】ッ!」

 しかし、足場がなく、身体の捻りも不十分だった技は威力が落ち、フィールに凌がれる。

 そのまま腕の力を使い、後方に下がる。

 シールド・・・・・・っていうか、イメージとしては、バリアみたいなもんか?ATフィー○ドみたいなのが発生したぞ?

 多彩過ぎだろう、アイツ。というか、アイツが持ってる武器が、か。

 あの武器を攻略する、のが、第一目標か?でも、フィール自身の戦闘力と、あの武器を使いこなす応用力も侮れない。

 問題が山積みだ。多すぎて、なにから片付けていいのか、皆目見当も付かない。

 考えろ。考えろ。弱点を探せ、活路を見出せ。

 考えて。考えて。限界まで思考して。ありとあらゆる可能性を考慮して、考えうる限りの選択肢を模索して。


 ――――――そして俺は、考えることを止めた。


 そうだよ。最初も同じ結論に至ったじゃねえか。

 考えたって分かることじゃねえんだ。だったら、何も考えないで、目の前で起きたこと、自分の周囲で起こること全てに反応して対処すればいいだけだ。

 結論は出た。なら、あとは実行するだけだ。

 そのためにはまず・・・・・・近付く!


 踏み込み、駆ける。フィールは、手元の武器の形状を変える。それは、剣だった。

 刀で合わせようとしたが、腕を動かそうとした瞬間に耳が、嫌な音を捉えた。甲高い、耳障りな音だ。そんな音を発する剣、考えられるとしたら、高周波ブレード的ななにかか?

 それだとしたら、刀をぶつけるのはマズイ。折られても困る。

 ので、身を屈めて、フィールの横薙ぎを躱す。そのまま刀を振り上げるが、それもバリアに阻まれる。この障壁、形を変えられるのか?

 そうなると、死角がない。手数が足りない。刀が二振りあったら、なんとかなったかもしれないが・・・・・・。仕方がない、アレ(・・)をやるか。

 バリアを蹴り、わずかに距離を取った俺は、腰に差したを引き抜き、構える。

「・・・・・・えーと、リュージ君。それは、いったいなにをしてるんだ?」

 俺の突然の奇行に困惑したように、引き攣った表情で尋ねるフィールに、俺はあえて、表情を歪ませる。口元を歪め、笑いを作る。

「変則的な二刀流。ぶっつけ本番の思い付きだけど、やってみる価値はあるだろう?」

 刀と鞘。あるじゃないか、二刀流の材料が。まったく、どうしてみんな、思いつかなかったんだろうな。ていうか、どうして俺は、思いつかなかったんだろうな。あれかな、気でも触れたのかな?ていうか、それしかないな。うん、俺おかしいわ。

 ・・・・・・気にしない方向で。

「覇刀流【大砲かのん】ッ!」

 近距離で、衝撃を飛ばす。しかし、見えない砲弾はフィールに躱され、さらに形状を変化させた銃器で、連射を繰り出してくる。

 それをなんとか避けながら、連続で斬りつける。射撃をやめて、俺の攻撃をバリアで防ぐフィール。

 攻撃を凌ぎ、ショットガンをぶっ放すが、刀を地面に刺して飛び上がり避け、その勢いのまま、回転しながら斬りつける。しかしそれは、フィールの張った糸に阻まれ、彼女には届かなかった。

 さらに飛ばされた糸で、刀を固定された。押しても引いても、ビクともしない。そうこうしているうちに、右腕は完全に糸に巻きつき、全く動かせなくなった。

「・・・・・・今回は、ワタシの勝ちのようだな」

 一歩。フィールは俺に歩み寄る。ショットガンを俺の額に突きつける。

「おいおい、ちょっと待とうぜ。オマエまさか、身動き取れない俺の頭を吹っ飛ばそうってのか?」

「まぁ、そうなるな。キミには、どうやら不確定な要素が多いようだからな。確実に仕留めるには、動きを止めた上で頭を狙うほかないだろう」

 なんか過大評価されているみたいだが、右腕を封じられた以上、刀を動かすことはできない。

 ――――――だからこそ。残った左腕を振るう。

 フィールの突き出すショットガンを、左の鞘で打ち上げる。

「んなっ!?」

 そして、そのまま鞘を投げつける。

 わずかだが、隙ができた。今だ。

「覇刀流【震激しんげき】」

 バゴンッ!という音と共に、右手を戒めていた糸、固定するために巻きついていた大木が、俺の身体から出された振動によって砕けて倒れた。

「しまったッ!」

 フィールは焦り、そして後ろへ下がろうとする。

 しかし、それを許す俺じゃない。

 俺の腕には、相変わらず糸が巻き付いている。しかし、糸が繋がっているのはもう、俺とフィールだけだ。

 距離はもう、あと数歩だ。

 フィールは、腰からナイフを引き抜いて投げてきたが、腕で防ぐ。痛みを気にせず、さらに踏み込む。

 ようやくだ。ようやく、懐に潜り込めた。

「運命の糸で繋がってるみたいだな、赤くねえけどな!」

「くっ、まだ!」

 そういって、掌底を振り下ろしてくるが、躱す。

 そして、そのまま刀を振り上げ、柄で顎を殴りつける。


 ――――――防がれた。


「・・・・・・あれ?」

 俺の攻撃は、フィールに届くことなく、あと僅かのところで、見えない何かに阻まれた。これは・・・・・・。

「・・・・・・おい、フィール」

「・・・・・・なんだ」

 俺は、汗を一つ垂らし、呟く。

「これ、やっぱズルくね?」

 フィールは、懐から取り出したハンドガンを、俺の額に押し付けつつ。

「・・・・・・違いない」

 引き金を引いた。

 ガツンという衝撃と共に、俺の意識は途切れた。


 ◆


「・・・・・・あれ?頭あるよな、俺」

 額を押さえ、頭をぽふぽふ叩きながら確認する。おぉ、大丈夫。ちゃんとあるぞ、俺の頭。

「しかし、これは存外使い勝手がいいな。うん。やはりこれがいいな」

 一見、アタッシュケースのような見た目のボックスをポンと叩きながら微笑むフィールは、とても満足そうだ。

 その武器にボコボコにされた直後の俺は、未だ気になる頭を撫でつつ、恨めしげに呟く。

「でもさ。その武器って、バリエーションは豊富だけど利便性に欠けないか?」

「なんだ、負け惜しみか?男らしくないぞ、リュージ君」

 いやまあ、負け惜しみではあるけれど。それでも、一応の根拠もある。

「だってその武器、一度に一つの武装しか使えないんだろ?」

「・・・・・・え」

 フィールがポケッとした表情を見せるので、あわや考えが外れたか恥ずかしいとか思いつつ、言い訳がましく続ける。

「いや、正確にはどうなのかわからねえけどさ。武装を出すこと自体はできるけど、効力を発揮できない、ていうか使えないってところか?」

 そんな俺の言葉を聞き、フィールは驚きながら呟く。

「・・・・・・気付いていたのか、リュージ君が」

「リュージ君がってどういうことだ。なんだよ、オマエも俺を貶すサイドに行っちまうのかよ。最後のオアシスだと思っていたのに」

 パーティーの全員が、俺をイジメてくるよぉ~。なんだろう、そのうち靴とか隠されたりするのかな。

「いや、そういうつもりはなかったのだが・・・・・・。それよりも、気付くものなのか?よく見ているのだな」

「そりゃ気付くよ。糸は元々設置してあったものだから別かもしれないけどよ、少なくともバリアを張っている間は、武装の切り替えが出来ないんじゃないか?最後だって、わざわざハンドガン取り出してたし、バリア張ってる最中は、剣の振動も消えていた」

 という俺の推測は、どうやら的を射ていたようで、フィールは驚きながら頷いてくれた。よかったー、ここで外してたらものすごい恥だった。思わずドラゴンの口内に身投げするレベルの恥ずかしさだよそれは。

 なんて、俺が一段落息をつく様子をみて、フィールは破顔して呟いた。

「・・・・・・本当に、よく見ているのだな」

 そりゃ、まあ。命がかかってますから。いや、死なないけどさ。それでも怖いんだよ。ほら、絶対に痛くないからって、いきなり刃物を突きつけられた時みたいな恐怖がある。


 と、俺が1人、マジで怖いよねーとか考えている正面で、フィールはベンチに座って自分の武器を眺めていた。正確には、武器から表示されている謎の液晶を。

「何を見てるんだ?」

 覗き込むと、それはなにかのグラフやら数値やらが色々書いてあって、よくわからない。

「あぁ、これは・・・・・・なんと言ったか。説明は受けたのだが、えぇ・・・・・・と」

 やはり、こういうガッツリ科学な話は苦手なようだ。まあ、魔法世界だからね、仕方がないのか。

 一方の俺はといえば、なんとなく分かってきた。細かいところまではさすがに分からないが、これでも俺は十数年も、科学しかない世界で生きてきたんだ。

「多分、ステータスみたいなもの、なんじゃないか?」

「ステータス?」

「あぁ。この武器の能力値を表すもの、とかだと思う。フィール、この武器ってさ、なんかこう・・・・・・成長するとか、機能が向上するとか、そういう機能があったりするか?」

 俺の問いにフィールは、しばし思考し、頷く。

「うむ。たしかに、ミーシャ女医はそのようなことを仰っていた気がする。戦闘を重ねて経験を積んだり、使用者の力量などによって進化する、とか」

 やっぱり。つーか、ホントすげぇな、この町の科学力。勝手に考えて自動で学んで自然と進化する、そんな機能を、こんな手持ちの武器に搭載しているなんて。こういうのを、オーバーテクノロジーっていうのか。

「この画面は、その機能のものだと思う。今の機能と、その成長度。それと、経験値を分かりやすく数値化したって感じかな?それに、ほら。ここのボタンの隣に、数値が書いてあるだろ?自動で進化する、とはいっても、やっぱり使用者の考えとかもあるから、勝手には進化しないみたいだな。確認ボタンみたいなものか?多分、ここを押せば、この数字が自動で振り分けられるんだと思うぞ」

 ほう・・・・・・、と呟きながら、おもむろに指でタッチするフィール。

 すると、表示されていた数値はゼロになり、それぞれのグラフに変化が現われた。

「おぉ・・・・・・!」

 画面の変化に、驚きつつも目を輝かせるフィールを見て、思わず笑顔になる。なんだろう。生まれて初めて自動販売機を操作した子供とか、初めて券売機で切符を買った子供みたいだ。何この娘スゲーカワイイんだけど。

 いやでも、自分の武器について熟知してないってのも、後々のことを考えると絶対にダメだよな。危ないだろ。

 これは、あとでミーシャさんに再度説明を求めて、ついでに取扱説明書的なものも作ろう。この武器、ハイスペック過ぎて複雑そうだし。


 ・・・・・・このオーバーテクノロジー、ちょっと使ってみたいなー、と思ってしまう、男の子の俺でした。


魔王「まあ、出番の話をするなら、それこそサタラとかリリアとか、そういう人材を呼ぶべきなんだろうがな」

皇帝「あぁ。主要キャラであるはずの彼女たちも、登場率低いわよね」

村長「いえ、でもその、仕方がないんじゃないでしょうか・・・。こういう小説って、誰かしらに焦点が合うわけですし、みんなが枠に収まるって、難しいことなんじゃ・・・」

魔王「そういうものか?」

皇帝「単純に、作者の技量の問題でしょ」

村長「止めましょうよぉ、そうやって、なんか犯人探しみたいなことするのは!」

皇帝「ニーナは優しいわねぇ」

村長「いえ、あの・・・、話が進みませんし・・・」

魔王「まあ、そうさな。分かりきった犯人探しもつまらんからな」

皇帝「そうね。じゃあ、ここらで止めておきましょうか」

村長「そ、そうですね・・・」

魔王「あぁ・・・」

皇帝「・・・・・・」

魔王「・・・・・・」

村長「・・・えーと、あの・・・なにか、話を・・・」

魔王「え?あ、あぁ・・・。悪い、話題がなくて黙ってしまった」

皇帝「たしかに、この三人での話題って、改めて考えるとなかなかないわね」

村長「じゃ、じゃあ、なにか話をしましょうよ、なんでもいいので!」

皇帝「じゃ、じゃあ・・・お風呂に入るとき、二人は、身体のどこから洗うのかしら?」

魔王「なんだその質問!?新手のセクハラか!」

皇帝「え?いえ、その・・・昔リュージが、私にした質問なのだけれど」

魔王「バカじゃねえの?」

村長「わ、私は腕からですっ!」

魔王「オマエも答えなくていいよ!」

皇帝「以前も答えたとおり、私は脚よ」

魔王「・・・なぜドヤ顔なんだ、オマエは。・・・はい終了。別の話題にしようぜ」

村長「た、たしかに・・・ちょっとエッチでしたね・・・」

皇帝「その“エッチ”って単語、ニーナみたいなキャラが言うと・・・なんかエロいわね」

魔王「そこでエロいって言えちゃうオマエには、確かに似合わない言い方ではあるよな」

皇帝「はっはー、そこのクソ魔王にプラス500エッチポイント~」

魔王「スマン。そのポイントの内容もオマエの考えもオマエの存在も、全く意味が分からない」

村長「け、結局・・・そういう話になっちゃうんですね・・・」


皇帝「え?私の出番、これで終わり?」

魔王「あぁ、終わりだ。審査の結果、オマエは非常に扱いづらいとの判断が下った」

皇帝「ちょっ!それ、私別に悪くな―――」

村長「残念です、アリサさん。またの機会に、お会いしましょう」

皇帝「あれ?ニーナ、なんかちょっと冷たくないかしら?」

魔王「まあ、そういうこと、だな、ははは。残念だったなー」

皇帝「アナタはどうして、そんな笑顔で笑っているのかしら」

魔王「まあこれが、オレたちとオマエの差、だということだ。大衆を治める長としての、な」

皇帝「コイツむかつく」

村長「私はそんなこと、全然思ってませんよ!?」

皇帝「に、ニーナ・・・」

魔王「そうそう。ニーナ君はそんなこと、微塵も思ってないだろうな。俺は思ってるけど」

皇帝「アナタ、いつかぶっ飛ばすわ」

魔王「いつか?おいおい随分と弱気じゃあありませんかね皇帝さん?皇帝とは強者の称号じゃなかったのか?」

皇帝「・・・今すぐ表に出なさい。その減らず口、叩き潰してあげるわ」

魔王「上等!」

村長「あ、あのー・・・あぁ、二人とも、出て行ってしまいました・・・。えーっと、それでは皆さん。今回はここまでです。ありがとうございました、また次回、お会いしましょう!・・・あぁ!シエンさん!ここで魔法はダメです!アリサさんも応戦しないでくださいよぅ!・・・うぅ、大丈夫かなぁ、このブース・・・」

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