第三十八話:実験《トレーニング》
魔王「・・・帰ってきたな、ネット社会に」
村長「そうですね。久しぶりです」
魔王「というわけで、一週間以上ネットから隔絶されていた俺たちは今、帰ってきた」
村長「カッコいい台詞ですね・・・」
魔王「どうしてネットに繋がらなかったんだろうな」
村長「そうですね・・・。でも、もう過ぎたことじゃないですか」
魔王「まあ、それもそうか。よくあることだし。PCもしくは世界がおかしい、って作者は言ってたな」
こうして物語は、ようやく進み始める。正確には、第三十六話のプロローグから。
◆
リハビリ、と称される戦闘訓練。なにそれ新手の詐欺ですか?
俺は刀を握り、眼前の敵と対峙する。
・・・・・・なんだ、コイツは。
見た目的には、サソリのデカイ版。違いといえば、尻尾が無く、両前足の鋏が鎌に変わっている程度だ。大きさ自体も、軽自動車くらいのものだ。
『あー、あー。聞こえるかな、リュージ君』
「・・・・・・ねえ。なにここ。なんなんですかこれは。言われるがままに連れてこられて、いきなり目の前にモンスターが現われたんですけど」
問うとミーシャさんは、上のほうにあるガラス張りの窓、その奥の向こう側から、マイクを通じて答えた。
『それはね、モーブラッドという魔物を模した、ただの立体映像だよ。触れるタイプの。当たると痛いから、気をつけて』
「当たるの?痛いの!?」
『まあ、大丈夫だよ。身体にダメージは残らないようになってるから。神経を刺激して、人体を傷つけずに痛みだけを伝えるように出来ている』
「なんてバイオレンス!」
嫌だよー。痛いの嫌だよー。
とか思いつつ、しかしそれでも、やるしかないんだろうなー。と覚悟を決める。
「すー、はー・・・・・・、よし」
意識を切り替える。目の前の敵のみに集中する。
『うん、準備はいいみたいだね。それでは・・・・・・実験スタート』
―――――――――今、実験って言いやがった!?
そんなツッコミを入れるまもなく、見た目からは想像もできないほどの素早さで、一気にこちらへ近寄る。
振り下ろされた鎌を、刀で受け流す。
「――――――ふっ!」
そのまま刀を振るが、表面の外殻を削るだけで、ダメージは通っていないようだ。
横薙ぎに振るわれた鎌を、上体を反らして回避する。その勢いのまま、数メートル後方までバック。
モーブラッドも、こちらを伺うように動きを止める。
そんなヤツを見つめながら、俺は心を落ち着かせ、そして心で呟く。
(お、思ったより強ぇえええ!!!)
呟くというか、叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
ミーシャさんがリハビリの一環だというから、信じていたのに。普通こういうのって、もっと楽なのから行くもんじゃないの?なんでいきなりハードコースなの?
『どうした、リュージ君?闘ってくれないと、リハビリにならないんだが』
「闘ったってリハビリにはならねーよ!つーか、確実に身体に悪影響があると俺は主張したいんだが!」
『安心してくれ。さすがに、なにか問題が起これば、すぐに停止させるさ』
「起こってからじゃ遅いんだよこのヤブ医者が!」
叫んだ直後、モーブラッドが迫ってくるのが見えた。
「って、やべっ!」
振るわれる鎌は、よく見ると内側が鋸のように尖っている。ちょっと待ってそれはマジで痛いと思うんですけど。俺の精神に多大なダメージを与えると思うんですけど!
というか、さっきは側面を受け流したが、もし刀で受け止めたり、刃の部分を受け流そうものなら、一振りしかない大切な刀(エクスの形見的な)がへし折れる。
という結論に至り、身体を振って回避。
そして、そのまま刀を振るい、モーブラッドの外殻を削る。が、やはり効果ナシ。
(・・・・・・どうするべ、これ)
本当にどうしようか。このままじゃ勝てないぞ?それに・・・・・・。
実際に使ってみて確信が持てたが、この刀。脆いぞ。以前に使ったときよりも、格段に。エクスとの繋がりが弱くなったことに影響されているのかもしれないが・・・・・・。いや、あるいは、エクス自身の力が低下しているせいか?
とにかく。こういうタイプの敵と戦うには、荷が重過ぎる。使い方によっては、すぐに折れるぞ。
というわけで。さっさと終わらせる方法を、なんとか思いついた。
振るわれる鎌に合わせて、モーブラッドの前足の、関節へ刀を振るう。
パキィンッ!と、意外に軽い音と共に、それこそ蟹の足でも折るかのように、簡単に割れた。
どうやら、そこまで精巧には作られていないらしい立体映像は、音声までは再現していないようで、叫び声を上げるでもなく、モーブラッドは続けざまに、残った鎌を振るう。
それが読めていた俺は、潜るように回避し、そのまま後ろ足(?)を1本切り落とす。
ガクンッ!と体勢を崩すモーブラッドの背へと跳び、空中で回転しつつ、身体の脆い部分を狙って両断する。
「覇刀流【風車】」
真っ二つになったモーブラッドは、そこは立体映像らしく、なんかこう、ブォンッ!って感じに消滅した。
そんな光景を見送りながら、俺は思った。
(覇刀流って・・・・・・久しぶりに言った気がする)
そもそも、技名を言うのも久しぶり。まあ、恥ずかしいしね。俺も、いつまでも中学二年生じゃあいられないってことだね。うんうん。
◆
「お疲れさま。おかげでいいデータが取れt・・・・・・いいリハビリになったと思う」
「いや、隠しきれてないです。ガッツリ言っちまったよ、今」
やっぱり実験体じゃねえか、俺。まあ、もうこの際、別にいいけどよ。
「それで。次はいったい、何と戦うんだい?」
「あぁ、戦うことが前提なんですか」
さすがに、もうすでに色々と諦めている俺は、呆れながらも、なんと答えようか思案していると、横合いから唐突に声が飛んだ。
「だったら、例のドラゴンと戦ってみればいいじゃねえか。訓練にもなるし、ちょうどいいだろ?」
「うげっ・・・・・・サタラ。余計なこと言うなよ。せっかく、考えないようにしてたのに」
見れば、サタラが扉を開けてこちらに歩いてくる。
「いいじゃねえか。ほら、オレも戦ってみたいしよ」
好戦的な笑みを浮かべるサタラを見て、あぁこりゃもう止まらないなーっと納得してしまう自分が怖い。
「ふむ・・・・・・。まあ、おいおいそうするつもりだったのだが・・・・・・、まあ、サタラ君もいることだし、いくつか段階を飛ばしても問題はないか。ではサタラ君。この中から、望みの敵を選択してくれたまえ」
サタラの案を受け入れたミーシャさんは、何故か俺ではなく、サタラに尋ねる。ねえ、なんで俺じゃないの?ねえねえ、なんでサタラなの?嫌だよだってその娘加減を知らないもの。
でもまあ、やっぱり俺に、決定権は一切無いわけで。
ミーシャさんは、俺には目もくれずに、薄っぺらなタブレットをサタラに差し出す。サタラは、そこに写る画面をスイスイ流しながら、敵を物色していく。
「うーん・・・・・・じゃあ、やっぱり初めは、簡単なスタンダードでいこうかな。・・・・・・んじゃあ、これがいいな!」
「ふむ、了解した。では、すぐに取り掛かろう。サタラ君、準備はいいかな?」
「おう、バッチリだ!いつでもいけるぜ!」
「では、さっそくステージに移動してくれ。あぁ、ほら、リュージ君もだよ」
あぁ・・・・・・決まっちゃったよ。ていうか、俺は敵すら知らされていないんですけど・・・・・・。
◆
「ねえねえサタラ君。君さ、さっき言ったよね?簡単なのにするってさ」
「え?あぁ、うん。言ったな。なんだ、不満だったか?」
「いや、まあ不満はあるんだけどさ。それよりも、疑問のほうがデカイんだわ。で、聞くけどよ。あれのどこが簡単なんだ?」
目の前にそびえるのは、高さが5メートルはあろうかという巨大なドラゴン。燃えるように赤く、ゴツゴツした体表に、盛り上がった筋肉。鉄すら切り裂きそうな、鋭い爪と牙。
「・・・・・・火ぃ吹いてるし」
「大丈夫だって。ただのドラゴンだから。だってほら、普通のドラゴンだぜ?以前、オマエも戦ったじゃねえか、似たようなのと」
・・・・・・あぁ、村にいた頃。そういえば、どこか似ている気がするなー。あのときは、怒りでブチ切れてたからな。あんまり憶えてないな。
「それにほら。こいつは魔物のドラゴンだから」
「・・・・・・え?逆に、魔物じゃないドラゴンっているの?」
普通に驚いた。俺の中では、ドラゴン=ドラゴンって方程式が成り立っていて、何の疑問も感じてなかったけど。考えてみれば、魔物の一種なのか・・・・・・。いや、でもそれ以外って?
「うん?なんだよ知らなかったのか?えぇっと、つまりだな・・・・・・っと。ちょっとタンマ。とりあえず、一旦前を見ろ」
「は?前って、いいから教えてくr・・・・・・わーお。なにあれブレス?」
見れば、俺たちがしゃべっている間に、ドラゴンは口に何かを溜め込んでいた。すっごく・・・・・・光ってます。
「まあ、そうだな。あれは多分、魔力を凝縮した・・・・・・一種の破壊光線的なアレだ。余計な効果がない分、純粋な威力が高め」
「ビーム系か・・・・・・。ねえ、俺たちマズくね?」
ドラゴンは、すでに発射準備OK。あとはGOサインを待つだけ、という状態だ。ていうか、今すぐ撃ってきてもおかしくない。
回避しようと決めた俺だが、サタラは一向に動く気配が無い。思わず叫ぶ。
「サタラ!?なにしてるんだ!避けないとマズいぞ!いくら身体が傷つかなくても、あれは後々、絶対に後遺症とか発生するから!」
俺の言葉に、しかしサタラはニヤリと。口元を歪めた。
「大丈夫だよリュージ。あのくらい、避けるまでもねえ」
―――――――――瞬間。目を潰さんほどの閃光が生じた。
ドラゴンが放った魔力は、一瞬で俺たちの元へと到達し、俺は思わず目を閉じた。
「―――――――――あれ?」
俺は、一向に訪れない痛覚に疑問を覚え、ゆっくりと瞼を上げた。そこには。
目の前で四散する、ドラゴンのブレスが。
「・・・・・・おやー?」
疑問しか生まれない俺の横で、ブレスに対して右手を掲げているサタラが笑う。
「あははっ!おいリュージ。今更、この程度でビビってんじゃねえよ」
サタラは、ドラゴンのブレスを、右手一本で受け止めていた。
それは、サタラの手を中心に裂け、俺のすぐ横を通り過ぎていく。次第に威力を失い、ついには終わった。
ドラゴンは、どうやら相当な魔力を放出したようで、動きが止まっている。
「――――――サタラさん?今、なにしたの?」
俺の質問に、サタラはケロッとした表情を見せた。
「え?いや、普通に受け流しただけだけど」
どゆことやねん。
「いや、だからさ。言ったろ?今のブレスは、ドラゴン本体の機能じゃなくて、魔力を凝縮したものだって。つまり、あのブレスは、ただの魔力の塊。オレにだって、干渉くらいできる。まあ、限度はあるがな。あの程度なら、問題ねえ」
「・・・・・・ふーん」
まあ、この娘が化け物染みてるのは知ってたけどね。俺のパーティー、俺以外みんな、人間辞めてるもん。人間じゃないのもいるし。
俺が、呆れ諦めていると、サタラはポスンと、床に寝転んでしまった。手足を伸ばし、完全に休憩モードだ。
「あー疲れた疲れたー。リュージ、後よろしくー(棒読み)」
「おもっくそ棒読み!感情ゼロじゃん!」
「アルコールもゼロだ」
「ドライバーさんも安心だな!」
「コレステロールもゼロ」
「とり過ぎは良くないよね」
「ヤル気もゼロ」
「完全に本音が出ちゃってるぞ!」
ドラゴンが魔力充填中のため、伸び伸びとおしゃべりが出来る。いやー、ありがたいね。
「まあ、なんだ。弱すぎて興が削がれた」
「オマエ基準で見たらね。俺からしたら、大体の敵が脅威なんだわ」
「はぁ?大体の敵の胸囲?なにオマエ、今まで戦ってる間、ずっとそんなこと考えてたのか、この変態」
「おかしい。同じ単語について語っているはずなのに、意味が変わっている気がする。おそらく、漢字の変換が正しくないぞ」
「いや、ちょっと待てよ?大体の敵?つまりなにか。オマエはいろんな魔物の胸を見て興奮しているのか?」
「ちょっと待つのはオマエだバカ。俺にそんな趣味はねえ。っていうか、なんか最近、俺の趣味に関する話題が多くないか?」
「つまりあれか。オレと始めてあった時も、ずっとオレの胸を見ていたと?」
「はぁ?冤罪もいい加減にしろよ?見て欲しいんだったら、もう少し育ってかrガバハッ!?」
ぶたれた。スゲー勢いで、顔面をぶたれた。しかし俺には、父さんにも母さんにも妹にも友人にもぶたれたことがあるので、例のネタが使えないのだ。損な人生だぜ。
ブラ○トさんにもぶたれたことないのに!
ブラ○トさんにぶたれたことあるヤツが、そもそもほとんど存在しない。
こんな腐った俺を、是非とも一度、いや二度、あの人にぶってもらいたい。
なんて1人で考えていた俺を見ては、サタラは呆れながら。
「もういいや。ほら、行ってこいよ。そろそろ動くぞ、アイツ」
サタラが指差す方を見ると、なにやらドラゴンが、気合の篭った瞳で、俺たちを睨んでいた。無視しててゴメンね?
「さっきの・・・・・・ほら。ドラゴンと魔物の話してやるから、ちゃっちゃと戦ってこい。つーか、そもそもオマエのリハビリだろ」
「オマエわがまま過ぎるだろ!」
自分から参加してきたのに!自分でコイツ選んだのに!
しかし、ここで逆らったら消し炭にされてしまうのが目に見えていたので、大人しくドラゴンと対峙します。
もう嫌だ、こんなポジション。
◆
「えーっとな。まず、今戦ってるドラゴン。ソイツはな、元々は、トカゲとかそういう爬虫類、普通の生物から進化した生き物で、分類上は【魔物】になってるが、大まかに言っちまうと動物だ。馬とか鳥とかと一緒。でも、今度戦う予定のドラゴン。あれは違う。本物だ」
「えーっと。その本物ってーのは、どんな違いがあるんだ?」
ドラゴンが吐き出す氷のブレスを回避しながら、サタラの言葉に返す。
「今度のドラゴンは、マジもんの化け物。魔物が進化した存在だ。分類で言えば【魔獣】。そんじょそこらの魔物よりもよっぽど上位の存在だ」
「今回の戦闘で、どの程度の魔獣が出てくるのかはわからねえが、ミーシャの話を聞く限りでは、全体としてはそれほどでもねえと思うぜ。魔獣としては下位、の雑兵みたいなのが大半。襲撃に備えて万全の準備を整えて、全力で事に当たれば、まあ数の利ってのも必要だが、普通の軍隊でも倒せる。ていうか、ちょっと戦闘向きの魔法が得意なやつを集めただけでも、一、二体程度なら十分に相手取れるだろう」
「でもな。やっぱり大軍の中には、数体は強力なのが混じってるもんでな。どうやら、ちょっとばかし特殊なのがいるんだと」
「あぁ、そう。特殊って・・・・・・俺にとっては、この世界の大半が特殊ですが」
跳び上がり、ドラゴンの顎を蹴り上げ、着地と同時に駆け出し、足の間を縫って進む。
そのまま刀を振り下ろし、ドラゴンの腹に斬撃を繰り出す。覇刀流の技の一つ、【雲斬】である。避けた腹は、光の粒子を撒き散す。
「まあ、そういうなって。オレから見たら、お前だって十分特殊だ」
「そんなわけがないだろう」
背後から背に飛び乗り、そのまま首の付け根を削ぎ落とす。
この攻撃で、どうやらドラゴンは終わってしまったらしい。巨大な破壊音とともにその身体が砕け散り、光の粒子となって消滅した。
「いや、だってよ。いくら雑魚ドラゴンでも、それをたった一人で、それもこんな短時間にあっさりと倒しちまうようなお前は、やっぱり普通ではねえよ」
ガラスが砕けるような甲高い破壊音に混じって、なんだか聞きたくない言葉を突きつけられた気がする。
◆
その後。数十体にも上るドラゴンと戦わされた。軽く死を覚悟した。
しかし、一応の収穫もあった。
まず、ドラゴンは総じて、首の後ろ、その付け根が弱い。
通常の魔物のドラゴンは、全身が硬い皮膚と鋭い鱗で覆われている(頑張れば斬れないこともない)が、その部分だけは脆い。俺は、知らないうちに、それを実践していたらしい。
そしてこれは、【魔獣】に該当するドラゴンにも、同じことが言えるそうだ。ちなみに、ここにある機械では、完全な【魔獣】ドラゴンの再現は不可能だったので、あくまでも理論上の話だが。
【魔獣】のドラゴンは、通常のドラゴンとは違い、普通の人間では操作が難しいレベルに濃密な魔力を、オーラのように常時展開して、それを体表に纏わせているらしい。それが防壁のような機能を発揮し、防御力が極端に上がっているのだとか。
さらに、それを突破した先には、通常のドラゴンよりもさらに強固な鱗と皮膚。
通常の攻撃で、そのドラゴンを倒そうとするならば、魔力の濃度が唯一薄く、魔力障壁がもっとも脆い、加えて、通常のドラゴン同様にもっとも脆い首筋の付け根の部分を攻撃するしかないらしい。
「うん?私たちかい?安心してくれたまえ。この町には、対ドラゴン用の兵器が複数存在する。彼らの魔力障壁を無効化する兵器もな。まあそれでも、元々の強度が高いせいで、一撃で確実に、というような兵器は限られてくるが。とにかく、通常のドラゴン程度にはやられんよ。今回の【魔獣】が、どの程度のものかにもよるが」
どことなく自信に溢れているミーシャさん。まあ、俺たちがいなくても、普段からドラゴンと戦ってるわけですしね。
◆
翌日。ようやく外出の許可が出た俺は、一応の監視として付いて来ていたミーシャさんに案内されて、町へ出向いていた。
この世界に来てからと言うものいままで、それこそまさに王道ファンタジーみたいな風景ばかり見ていたせいか、科学都市であるここ【ナーガ】は、どこか元の世界を彷彿させた。高層ビルとか建ってるし。
「ここは、まあなんだ。科学のテーマパークみたいなところかな。科学博物館だ」
「へー、そんなのもあるんだ」
「ここは、どちらかといえば子供向けで、家族連れなんかにも人気だ」
子供とか、ちゃんといたんだ・・・・・・。なんか、科学都市って言うくらいだからてっきり、研究者しかいないちょっと怖い町を、勝手に想像してました。
冷房のよく効いた館内は、とにかく広かった。展示物も、なんか凄かったし。
「ミーシャさん、これは?」
「あぁ。なんだろうな」
「・・・ミーシャさん、これは?」
「さぁ、なんだろうな」
「・・・・・・ミーシャさん、これは」
「あぁ、これはわかるぞ。えーっとだな・・・・・・多分、電気を発生させ・・・・・・、あぁ、いや違うか。えーっと、人体を切断、あ、これも違うか。うーん・・・・・・?そこの説明書きに書いてあるだろう、自分で見てくれ」
・・・・・・ミーシャさん。これ、ただのミキサーだぞ・・・・・・。
専門分野じゃないからとか、もはやそういうレベルじゃねえ!人として、何かが欠けてらっしゃる!
まあ、あんなドロデロな謎料理を患者に勧めるくらいだからなー。仕方が無いのかな。うん、あの人の料理は食べないようにしよう。
ここにきて始めて、料理下手キャラが登場した予感がする・・・・・・。
涼しい冷房の恩恵を失い、太陽の下へと追い出される。いや別に、特別に気温が高いわけだったり、変に湿度が高かったりなどではない、一般的に快晴といわれる、あるいはピクニック日和とか言われる素晴らしい気候なのだが・・・・・・。なにぶん外出自体が久しぶりなので、とにかく日差しがキツイ。太陽が僕を焼きにくるよー・・・・・・。
で。科学博物館を後にした俺たちは、続いてあるところに向かった。
「――――――【ナーガ警備隊】?」
「の、ようなものだね。この町の治安を維持する、まあ警察や軍に似たものだと思ってくれればいい。やっていることは、基本的に変わらない。ただ、訓練を積んだ人間が集まっている場所だよ」
「へー。じゃあ、ムキムキマッチョがいっぱいいる場所ってことですか帰ります」
「速いねー。ちなみに、病院はそっちじゃないよ」
・・・・・・なんてこったい。帰り道がわからねぇ。
俺はもう、ムキマッチョの巣窟に行くしかないのか・・・・・・。
「まあまあ。行くだけ行こうじゃないか。今度の戦いでは、彼らと共同戦線を張ることになるのだから、せめて顔合わせくらいはしてもいいだろう?」
あぁ、そうか。だったら、一応話はしておかないといけないな。
「じゃあ、なにか菓子折りでも持って行った方がいいのか?なにか適当なものでも売っていればいいんだが・・・・・・」
キョロキョロと辺りを見渡して見るが、どうもこの辺りには、食品を扱っている店舗はないようだ。
そんな俺を見て、ミーシャさんは笑顔を浮かべる。
「彼らは常に腹を空かせているだろう。ボリューム重視の食べ物なら、なんだって喜ぶよ」
そういって、手頃な店を紹介してくれた。
肉屋だった。ねえねえ。肉屋さんで『ここからここまで全部』って言う人始めて見たんだけど。
あの真っ黒なカードには、いったいどれだけの夢が詰まっているのだろう。
◆
「・・・・・・エライしっかりしてはりますなー」
思わず、どこかの方言が出てしまった。いやだってさー。これ、警備隊とは言えないでしょ。
町の中央部にある、ナーガ警備隊の本部は、周りを塀で囲んだ建物だった。塀の外から覗くのは砲塔。つまり大砲が備えられている。銃すら珍しいとされる、この世界で。
その軍事力はもはや軍隊。それも、俺の世界の軍隊のようだった。総合力ならわからないが、純粋に、装備だけを見るならば、例えば、完全で万全なインサー帝国軍よりも断然上だ。まあ、戦いは装備だけではないし、おそらくガチの戦争とかになったらどっこいどっこいだと思うが。でも多分。こと防戦に関しては、ナーガに軍配が上がるかもしれない。町の周りは壁だし。
「おっ、先生じゃねえか!今日はどうしたんスか?」
建物の近くに立っていた警備兵の一人が、元気な声を掛けてきた。
「やあ。司令殿はいるかね?少し話がしたい」
「そういうことでしたら!それで、その後ろのは?」
警備兵が、訝しむ、というよりは、どこか好奇の目を見せながら、俺を指差す。
「あぁ。私の連れだ。司令殿に紹介しようと思ってね」
「あ、そうッスか。んじゃあ、中に入ってください。案内するんで」
建物の中は、意外と広い。入ってしばらく歩くと、とある扉の前で止まる。
「ドメク司令官。ミーシャ・ワシリー先生が、お連れの方と一緒にお見えです」
ノックをして声を掛ける警備兵。すると中から、低く渋い声が返ってきた。
「あぁ、先生か。うん、お入りいただいて」
◆
「やあ、久しぶりですなー、司令殿。あぁ、これ。つまらないものですが」
ミーシャさんが俺を見て、察した俺が、背負っていた肉の山を差し出す。
「おぉ、これはこれは。いつも申し訳ないね。・・・・・・ところで、その少年が、例の?」
一瞬だけ、まるで品定めでもするかのような鋭い光を宿した光も、次の瞬間には、元の温厚な、優しい瞳に戻った。
「さすがは司令殿。一目で気付きましたか」
「まあね。これでも、武力を扱う組織のトップに立つ人間だからね」
そんな感じで、大人二人の歓談を眺めること約2分。
全員が席に着き、目の前のオジさんが話を切り出す。
「キミがリュージ君だね。話は聞いているよ。わたしはドメク・マルス。ナーガ警備隊中央総隊司令官を務めている。一応、役職の上では、警備隊のトップ、ということになるね。まあ役職なんて、長く生きていればいずれ管理職だからね。肩書きだけの人間だと思ってくれていいよ」
――――――いや、何言ってるんだこの人。アンタが強いことなんて、見ただけで分かるっての。
丁寧に整えられた白髪に優しい瞳。柔和な笑顔は仏のよう。
確かに、ぱっと見は優しい初老に見えるだろう。纏う雰囲気も、暖かいものだ。
しかし、感じる。その【暖かいもの】の内側に存在する、なにか言いようの無いオーラ。
それは、どことなくシエンに似ていた。強すぎて。レベルが違いすぎて。遠い存在過ぎて。逆に分からなくなる。ただ、自分よりも上の存在である、程度にしか、認識できなくなる。それほどに、圧倒的な力量の差が、俺とこの人には、ある。
「今度の戦闘では、キミを含めて五人も参加してくれるそうだね。期待しているよ。実は、キミたちの戦闘データは、すでに見させてもらった。まあ、実戦のそれとじゃあ違いはあるから、あくまで参考としてだが。いやー、全員恐ろしく強いね。本当に心強いよ」
えぇ、強いですよ。元魔人とか魔王とか天使とかいますから。あれ?そういえばフィールは、なんて表記すればいいんだ。
特徴がないのが特徴の孤高なる女戦士、とかでいいかな。アイツがどんなスタイルで戦うのか、よく知らないし。なんか格好いいじゃん?あ、格好良くないですか。中二臭いですかすいませんねぇ。
「戦闘では、わたしが最終決定権を握ることになる。といっても、現場の指揮は、あくまで部隊長に委ねられている。キミ達には、それぞれ個別の部隊に配置したい」
「・・・・・・部隊?」
「うん?あぁ、まだ知らないのか、すまないね。てっきり、ミーシャ君から聞いていると思っていたのでね」
「はぁ・・・・・・、そうですか」
とりあえず、ミーシャさんをジロリと睨んでおく。俺が顔を向けるタイミングに合わせて、ミーシャさんは首を窓の外に向けた。うわ、ズリー。
そんな俺たちのやり取りをにこやかに見送りながら、ドメクさんは言葉を続ける。
「簡単に説明するとだね。ナーガ警備隊は、大まかに五つの部隊に分かれているのだよ。まずは、トップの【中央総隊】。まあ、首脳といったところかな。町の中心に位置し、全部隊の統率・管理を担当する。それとは別に、特殊な任務を請け負う専門部隊なんてのもあるがね」
「それ以外は、この町を四方から守るように、それぞれの方角に部隊を配置している。北を守る北部方面部隊、東の東部方面部隊、西の西部方面部隊、南の南部方面部隊と言ったところかね。ちなみに、この四部隊の中で、純粋な【戦闘】にもっとも長けているのは、北部方面部隊。町の北側にドラゴンの住む山がある理由で、ドラゴンとの戦闘機会が極端に多いのだよ。その次となれば・・・・・・そうだね。東部がそうかな?彼らは、通常の魔物との戦闘回数がトップだったしね」
「えっと・・・・・・、じゃあ今度も、その、北部方面部隊?が出張ることになるんですか?」
尋ねると、ドメクさんは朗らかに笑って、言った。
「まあ、基本的にはそうなるがね。ドラゴンというのは、なにもその全てが、北側一面からやってくるわけでもない。だから、まあいうなれば、総力戦といったところか。戦闘においては、確かに北が中心となるだろうが、さすがの彼らでも、全てのドラゴンを相手に出来るわけではない。戦闘中、町の住人、つまり非戦闘員は、地下のシェルターに避難してもらうが、たとえ物的被害であろうとも、被害は少ないほうがいい。つまり、北が最前線、その他の部隊はそれぞれの方角を満遍なく警戒しつつ、一部を街中に展開。取りこぼしたドラゴンの迎撃を務めてもらうことになるね」
そして一拍。続いて、ようやく俺たちの話になった。
「それでね。キミたち五人の配置なんだがね・・・・・・。戦力のバランスを考えて、キミとフィール君。二人はセットで配置したいと思っている。キミたち二人を北、サタラ君・シエン君・リリア君はそれぞれ、東・西・中心を固めてもらおうかな」
何その布陣、最強じゃん。ドラゴンだろうがなんだろうが生き残れない気がする。
俺の表情を見て読み取ったのか、ドメクさんは笑顔で尋ねる。
「確認だが、この作戦で、問題ないかね?」
それはつまり、命を預けることに対する確認だ。自分たちの差し出す天秤に、その命を乗せることが出来るか、という審問だ。
そんな問いに対して。俺の答えは決まっていた。
「もちろんだ。少なくとも、俺に関してはな」
職業柄、断るわけにもいかんでしょ。それに、治療費の借金のこともあるし、世話にもなったし・・・・・・なにより、見過ごすつもりも無い。問題が無ければ静観するが、わざわざ頼まれたのであれば、別に受けたって構わないだろう。
こうして俺は、人生で初の【魔獣】退治を請け負ったのであった。
村長「そ、それでは。本日のゲストを・・・。インサー帝国皇帝、アリサ・エルクリアさんです」
魔王「あぁ、例の」
皇帝「そう、例の。久しぶりね、ニーナ。元気にしていたかしら?」
村長「お久しぶりです、アリサさん!お会いできて嬉しいです!」
魔王「・・・おい。二人で話を始めないでくれよ。俺が寂しいだろ」
村長「え?あ、あぁ・・・すいません。謝りますから、拗ねないでくださいよ」
皇帝「よく考えれば私、貴方とは初対面なのよね。自己紹介すると、私はアリサと言います」
魔王「あぁ、知ってるよ。ほら、前の方を読み返したから。ちゃんと予習してきたから、俺」
村長「シエンさん凄いですね!まさか、この後書きのために予習をしてくるなんて!」
魔王「うん。事前に教えてもらった。どうせ俺だけ会話に混ざれないだろうからって、スタッフに気ぃ遣われた」
皇帝「ふむ。その姿勢、一国の主として、私も見習いましょう」
魔王「・・・なあ、皇帝ってこういうキャラだっけ?もうちっと、はっちゃけてなかったか?」
村長「あぁ、それは多分、リュージさん効果ですね」
魔王「あー。リュージの特殊能力か。存在するだけで、その場をコメディーに変えるっつー能力」
皇帝「確かに、それはあるわね。私、彼と一緒に監禁されたことがあるのだけど、その時も彼は、まったく変わらなかったわ」
魔王「そういやアイツ、さすがに死に掛けたときは焦ってたぞ?」
村長「死に掛けたって・・・そんな簡単に言わないでくださいよぉ・・・」
皇帝「ニーナちゃんは、相変わらずねぇ・・・。可愛いわぁ~」
魔王「皇帝って、やっぱレズなんだな。予測できてたけどよ」
皇帝「そういう魔王さんは、あれでしょ?ホモなんでしょ?」
魔王「え、どうして?なんでそう思ったんだ?」
皇帝「いえ、なんとなくだけれど」
魔王「そんな描写、一回もなかったよね。俺、リュージと怪しい空気とか、一回もなったことないよね?」
村長「そもそも、リュージさんが誰かと怪しい雰囲気っていうのが、想像できませんね・・・」
● 実際、この作品のキャラの戦力差ってどのくらいあるんですか?
魔王「という質問を、知り合いから受けたらしい」
村長「戦力差・・・ですか。リュージさんは勇者ですから、やっぱりトップですか?」
魔王「いやー、それはねえな」
皇帝「では。一応、彼らのメンバー外の私が、客観的&作者の見解を混ぜ込んで並べてみようかしら。強い順でいきましょうか」
・リリア シエン
・カイリ(現段階)
・リュージ サタラ アリサ
・エクス
皇帝「というところかしらね。でもこれは、単純な力比べでの順番だから、実際の戦闘になったらどうなるかわからないわよ。特にリュージなんて、状況とテンションとによって、相当にバラつきがあるから」
魔王「あぁ、たしかに。時には俺にも勝るが、また時には、ニーナにもボコられるからな、アイツは」
村長「そ、そんなことしませんよ!私、リュージさんを殴ったりしないですし!」
魔王「で、次回だが。どうやら引き続き、この3人でやるらしいぞ」
皇帝「え?これって一回限りじゃないの?」
村長「どうやら、今回は時間がなくてココで終わりらしいですが、まだまだ不完全燃焼なんですって。この3人なら、もっと面白くなると思ったのに・・・って、ぼやいてましたよ、作者さんは」
魔王「作者はいつでもアホだなぁ・・・」
皇帝「シミジミというわねぇ。多分、結構なダメージよ、それ」
村長「えっと。それでは皆様、また次回、お会いしましょう!」
皇帝「次回も楽しみにしているわ」
魔王「オマエが楽しみにしてどうする。読者を楽しませろ」
皇帝「あら?それは作者の仕事でしょう?私は、自分の望むように生きるわ」
村長「か、カッコいいです!」
魔王「・・・はいはい。終わり終わり。みなさんさよーならー」




