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第三十四話:想定の範囲内


魔王「最近、俺のキャラも崩れてきてるな」

聖剣「みんなクズクズだよねー。作者の好みがコロコロ変わるから」

魔王「リュージは変わらないな」

聖剣「あぁ。あれは生まれつきだから仕方ないよ」

魔王「生まれたときからなんだな。残念なヤツだ」


 

 瞬間。

 世界が歪んだ。


「ッ!?これは・・・・・・!」

 リリアとサタラが一様に驚くなか、シエンとカイリだけは冷静だった。

 いや、果たしてあれを、冷静と呼べるのかは分からないが。


「よう。久しぶりだな、カイリ・・・・・・!!!」

 世界は、正確には歪んではいなかった。ただ、シエンの放つ絶対的な怒気と魔力が、世界に影響を及ぼそうとしているのだ。そして、それを押し止めているのもまた、シエン自身である。

 そんなシエンを前にして、なおも感情を浮かべずにいるカイリは、涼しく返した。

「魔王様、ではないのだったかな、今は。では、最低限の敬意を表して、『シエン王』とでも呼ばせてもらおうか」

「・・・・・・俺は、すでに王ですらない。しかし、偉くなったものだな、オマエも。すでに俺を超えたつもりか?」

 シエンの言葉に、カイリは自らを指しながら、自嘲気味に答える。

「今の俺では、到底不可能だろうな。少なくとも、勝利することはできない。この(・・)俺では、な。分かっているだろう?元、王よ。自らで組み立て直したとはいえ、この力の原点を与えたのもまた、貴方なのだから」

 聞いたシエンは、渋い顔をしながらも、しかし力強く、確信と信念を持って答える。

 その周囲に、魔方陣を展開しながら。

「あぁ、その通りだ。責任は俺にある。世界が変わっちまった原因も、オマエがそうなっちまった原因も、すべて俺だ。俺が、あんなものに敗北し、屈したのが、全ての始まりであり元凶だ。だからこそ、今なお世界を狂わせ続ける芽を摘むのも、俺の役目だ。道を誤っちまった息子をぶん殴ってでも引き戻すのが、父親の役目だ」

 爆発的な加速とともに拳が振るわれた。

 地面が爆ぜる。しかしそこに、カイリはすでに立っていない。

「言っただろう、シエン王。俺は様子を見に来ただけだと。今ここで、貴方と拳を交わすつもりは微塵も・・・・・・」

 跳びながらのカイリの言葉も、しかし途中で途切れる。シエンの二撃目の拳が振るわれたからだ。

 上体を逸らしながら、再度後方へ跳んだカイリは、反撃をする様子もない。まるで、癇癪を起こした子供を適当に往なす大人のように、ただ暴れるシエンを、冷たく見つめるように。

「言っても聞かない、か。しかし、ここで応戦しても、まともに戦えん。が、しかしだ。さらに否定しよう。この俺は捨て駒にすることも出来る。確認は済んだし、そうでなくとも、ある程度の予測はつく」

 言って、カイリは魔方陣を展開。両の手に二本の剣を創り出す。

「なればこそ。いいだろう、ここで相手になろうか・・・・・・王よ!」

 剣を水平に構え、跳びかかりながらの回転切り。

 しかしシエンは、相手がどんな動きをしようと構わないとでも言うように、回転するシエンの腹に、的確な裏拳を叩き込む。

 短く繰り出された拳は、正確に鳩尾に突き当たり、集中された衝撃を伝える。

 空気を吐き出したカイリは、構わず腕を振り下ろし、剣をシエンに突き立てる。が、シエンはそれを許さない。

 貼り付けたままの拳を、力ずくで振りぬき、刃が肩に到達する前にカイリを吹き飛ばす。

 宙に投げ出されたカイリは、しかし次の瞬間にはシエンの背後に回り、胴を切断しようと剣を構える。

「転移魔法!?」

 リリアが驚くのと同時、シエンはまるでその動きを読んでいたように、背中を向けたままに蹴りを突き出す。

 振るわれた二本の剣と、硬化魔法をかけたブーツが火花を散らす。

「この程度では、やはり崩せんか・・・・・・!」

「当たり前だ。オマエに戦い方を教えたのは、戦場と、そして俺だろう。ただ剣を振り回すだけでは、俺には届かんぞ」

 そのまま、流れるように回し蹴りを叩き込む。

 カイリはとっさに、眼前で剣を交差させて蹴りを防ぐが、しかし勢いは止まらずに数メートル後退する。

「そんなただの刃じゃあ、俺の体に傷一つ付けられないぞ。分かりきっているだろうが」

 再度、拳を握りこむシエン。

 それを見たカイリは、魔法を起動して、自分の周囲に突風を創り出す。

 カイリを中心に円を描くように回転し続ける風は、地面の砂を巻き上げ、カイリの姿を認識しづらくする。

「いい加減にしてほしいな、シエン王よ。もう確認は終わったのだし、もう帰らせてもらおうか。俺も、暇ではないのでな」

 声が聞こえ、次第に風が静まり、粉塵も晴れていく。

 そこに、カイリの姿はすでになかった。



 ◆



「シエン。説明してもらえますか」

 戦闘が終わるとすぐに、リリアがシエンに詰め寄る。

「どうして彼が生きているのか。貴方ならわかるのでは?」

 問い詰めるリリアに、シエンは頷く。

「あぁ、わかったよ。ちゃんと説明するから、そんなに詰め寄るなよ。なんか責められてる気になる」

 身長2メートル越えの大男が、体勢的にはリリアを見下ろしながらも、しかし気まずそうに苦笑いを浮かべる。

「え、あっ、いえ・・・・・・。すいません、つい熱が入ってしまいました」

 謝罪し、数歩下がる。

 しかし、リリアは質問の矛を収めることは出来ずにいた。

 なおも目で訴えてくるリリアに対し、シエンは頭を掻きながら答える。

「えーっとだな。とりあえず、これは最初に言っておこうか。おそらくだが、オマエたちがカイリに会ったのは、リュークブルナイ国境沿いの町、セテロでの決戦の時だけ、だろうな」

「と、いうと・・・・・・初めてサタラと出会った、あの戦いですか?いえ、シエン。アナタは知らないのかもしれないですが、そのあとにも出会っています。二度目は、インサー帝国からの帰り道。そのときは、サタラが狙われました。そして三度目は、まさにアナタと初めて出会ったあの闘技場で。そのときも、やはり狙いはサタラでしたね。その際に、リュージとサタラが、彼を倒したはず、なのですが・・・・・・」

 リリアの言葉に、しかしシエンは疑問を呈する。

「倒した、というが、そのときはどうだった?ヤツがしっかりと倒される瞬間を目撃したか?」

 その言葉に、今度はサタラが答える。カイリの最期を目撃したはずの、サタラが。

「・・・・・・正確には、見ていない。というか、そうだな。死体の確認は出来てない。背中から炎剣で腹を突き刺して、そのまま爆発させたからな。全部灰になった、はずだ」

 死んだ瞬間、というのを、確かに目撃はしたはずだった。だが、確実に死んだ証拠、というものは確認できていない。

 そんなサタラに、シエンは伝えた。信じたくない真実を。


「それは、カイリ本人ではない。オマエたちが、本物のカイリに出会ったのは、最初のカイリだけだ。それ以外は、全部ヤツの分身。偽者だ。オマエが殺したというヤツも、カイリ本人ではない。ついでに、ついさっきまであそこにいたヤツもな」


「・・・・・・マジかー」

 サタラの、気の抜けた声が漏れる。リリアも同様に、「はー、そういうことでしたか・・・・・・」なんて呟いている。

 そんな二人の反応が予想外だったのか、逆にシエンが戸惑ってしまう。

「え、っと・・・・・・あれ?今の、オマエらにとってはめちゃくちゃ重大な情報じゃねえのか?なんでそんな興味なさげなんだ?」

 尋ねると、未だにぼーっと呆けているサタラに代わり、リリアが答える。

「あぁ、いえ。なんといいますか・・・・・・。普通にありそう、というか、簡単に想像できる範疇でしたので・・・・・・。というか、その線はすでに、リュージが疑っていましたし」

「え、マジで?バカだアホだと思っていたが、アイツ、そんな推理力があったのか」

 素直に驚くシエンは、自らの発言が失礼であるとは気付かない。

 あえて指摘することもなく、リリアは続ける。

「推理力、というよりは、単純な知識ですね。彼は生前、正確には、こちらの世界にやってくる以前の世界で、彼が読んだ書物やらなにやらの中には、ありとあらゆる物語が存在していました。それこそ、この世に無限と広がる、実在する世界のように。彼はそこから様々な知識を、その頭に叩き込んでいます。そういった知識から、考えうる可能性の一つとして上げていたものが、彼、つまりカイリが未だ生存していること。その方法についても、いろいろ考えていましたね。彼の分身、コピー、クローン、幻影。倒した相手が、実体を持った一個体であったのか、それとも作り出された幻覚であったか。その辺りは絞りきれていなかったみたいですが、カイリが生きている可能性が、リュージの中では一番高かったようですよ」

「アイツ、頭がいいのか勘が鋭いのか、よくわからないな」

 リリアの返答に、シエンは呆れ顔で笑った。


 ◆


「まあ、いいや。そういや、リュージは?」

 ようやく気が付いた様子で、シエンが辺りを見渡す。

「それが、連絡がつかねえんだよ」

 両手を持ち上げ、お手上げのポーズをとるサタラを見、シエンは、ふーんと短く漏らす。

「じゃあ、探せばいいじゃん」

 なんでもないように提案すると、二人は顔を見合わせ、そして声を合わせて張り上げる。

「「あぁ、その手があったかッ!!!」」

「えー気付いてなかったかー」

 呆れたように半目で二人を見遣る。さらに溜め息のコンボへと繋げる。

「はー。もういいや。俺が調べるよ、それくらい」

 そういうとシエンは魔方陣を展開させ、その両の瞳に幾何学的な模様を浮かべる。


 そして、数秒後。


 その表情は苦々しいものに変わった。

「おいおい・・・・・・。コイツはちょっと、ヤバイかもな・・・・・・」

 魔法を取り消し、表情にシリアスの色を滲ませる。

 何事かと見上げる二人を見返しながら、シエンは伝える。

「ちょっと行ってくる。こんなところでアイツに死なれても、つまらない」


 次の瞬間。大量の砂の粉塵を巻き上げる爆音と衝撃と共に。シエンは姿を消した。

 そして。


 拠点にしていた洞窟。その岩崖が、上層から丸ごと削り取られた。




魔王「これってさ、決まった二人が二回ずつって決まりなんだよな」

聖剣「うん。勇者&聖剣、天使&元魔。そして今回の、魔王&聖剣っていう感じだね」

魔王「・・・・・・あれ?オマエ、二回出てる?」

聖剣「あぁ、うん。そうなんだよ。えーっとね、だからほら。ボクたちって五人パーティーでしょ?必然的に1人は被っちゃうんだよね」

魔王「あぁ。じゃあ、まあこんなこと今更聞くのも失礼にあたるのかも知れないけどよ。どうしてオマエが二回なんだ?こういう場合、一応は主人公であるリュージ、つまり勇者ってことになるんじゃないのか?」

聖剣「うーん。なんていうかね、後書きでリュージ君っていうのが、若干扱いにくいらしいんだよね。そのほかで言えば、リリア君やサタラ君はー、ほら。ちょっと我が強いところあるでしょ?その点ボクは、ボケ倒すわけでもなくツッコミすぎるわけでもなくって感じで、あらゆる相手に合わせられるっていう、作者的には非常に扱いやすいポジションにいるんだってさ」

魔王「ふーん。設定上ではあらゆる武器に変身できるというオマエの存在を揶揄しているのか?」

聖剣「別にからかわれているわけではない、と信じたいねー」

魔王「んで、さ。久しぶりに本編の話になるけれど、あれ。本当なのか?」

聖剣「あれって?」

魔王「だから、ほら。カイリが生存していることをリュージが読んでいたっていう話」

聖剣「あぁ、あれね。本当だよ。というか、リュージ君がなんとなく呟いていたっていうのが正しいけどね。『ふむ、ヤツは生きているな』っていう感じじゃなくて、どちらかというと『流れ的に、アイツ生きてそうだよなー』みたいな」

魔王「あぁ、なるほどな。たしかにカイリのやつ、ラスボス臭プンプン匂わせていたのに、酷い死に方してたからな」

聖剣「炎剣で刺されて爆発させられて灰になるっていう。まあ、それをいったら、それをやったサタラ君自身もどうなのよって感じだけどね」

魔王「アイツ、順調にヤンデレキャラになりつつあるな。唯一の救いは、その悪意っていうのか?まあ、なんだ。病んでる部分がリュージには向いていないってことか?もっというなら、敵対者にしか向けていないってーとこか?」

聖剣「・・・・・・ここでそういう話をすると、現実になっちゃいそうだから怖いよ。ていうか、その定義でいくとさ。最終的に全滅じゃないのかい?ボクたちのパーティー」

魔王「あー。生き残るのは俺だけ、か。・・・・・・寂しくなるな」

聖剣「あれ?ねえねえ、どうしてそんな、しんみりと呟くのかな?なんか怖いんだけど・・・・・・」

魔王「いや、だって。そう遠くない未来の話だろ?大丈夫だ。俺だけは生き残って、お前ら勇者の紀行でも書いて出版して、スゲーいっぱい稼いで、必ずや立派な墓を建ててやるから」

聖剣「諦めないで!その場にいるんだから、せめてサタラ君を止める努力はしようよ!」

魔王「はぁ?ふざけるなよ殺されるだろうが。だから俺は、お前らの墓のために、サタラが犯行に及んでいるその横で『いいぞ、もっとやれー!』と応援する役に徹しよう」

聖剣「最低だぁ!?」

魔王「いくら魔王だったとしても、俺だって死にたくはない。生き残るためには、最善を尽くすよ」

聖剣「オーケー。キミの腐った性根を叩き直してあげるから、ちょっと裏までこようか」


魔王「で、今回もカードはナシか?」

聖剣「好きだね。でも、残念ながら今回もナシだ。次回から再開だね」

魔王「じゃあ俺はもう出来ないのか。いつか廻ってくる次の機会に期待するしかないのか」

聖剣「『文句不平不満は現実へどうぞ』というメッセージだけが、今回のカードだよ」

魔王「はぁー。じゃあ、メッセージには記載されていない暴力だけでも、せめて作者に送ろうか」

聖剣「ほっほー。賢ーい」

魔王「それで?次回はいったい誰が担当なんだ?」

聖剣「うーんとね。あー、これは言っていいのかな?じゃあ、ヒント!次回はね、なんとなんと・・・・・・っと。あー、残念。ここで時間が来ちゃいましたー」

魔王「・・・・・・最初から、教える気なんてゼロじゃねえか」

聖剣「ふふんっ!そういうのはね、次回へのお楽しみっていうんだよ!」

魔王「はいはい」

聖剣「それじゃあ皆さん!また次回!」

魔王「うむ。また会おう」


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