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第三十三話:明かされる過去と現われた殺意


魔王「へー。ここってこうなってるんだな。少人数スペースは始めてきたぞ」

聖剣「ボクは、もう三度目だから慣れたかな。しかし、シエン君とこうして正面向き合って話すのって、そうそうあることじゃないよね」

魔王「あぁ、そうだな。そういやそうだ。というか、近くないか、ここ」

聖剣「本来は一人用だからねー」

魔王「しかし、俺とオマエ二人きりで話すことなんて、なにかあるか?」

聖剣「まあまあ、何でもいいんじゃないかい?オープニングトークなんだし」

魔王「オープニングって言うなら、前書きに書くべきじゃないのか?」


という会話の末、このような構図となりました


 

「・・・・・・悪い。やっぱり無理だ」

「・・・・・・えぇ~」

 そうそうに諦めの言葉を吐いたサタラに、シリアスの空気を完全破壊オールブレイクな嘆息を漏らす。

「いや、どうしてこのテンションで諦めるんですか。今完全にシリアスな空気でしたよね」

 リリアのツッコミに対し、サタラは「いやぁー」と頭を掻きながら。

「よく考えたら、オレ、アイツについてほとんど知らねぇや」

「うん?あぁ、そういえばサタラは、つい最近、魔人になったんでしたっけ?」

「まぁ、そうだな。わりと最近」

 というかそもそも。魔人という存在自体が、最近になって現われたものなのだ。

「シエンが魔王になってからってことだろ?そもそも、魔王の概念っつーのがいまいちあやふやなんだが・・・・・・」

「確かに。まあ、そのあたりは、それこそ本人に聞いたほうが正確なんじゃあないですか?」

「そうだな。つーか、そのシエンはどうした?」

 久しぶりにあがった名前。

 その名前に反応したリリアが、何か返事をしようとしたとき。別の場所から返答があった。


 ―――――――――ズドンッ!!!


 背後から、衝撃があった。

 そして、謎の自信に満ち溢れた男らしい声。


「よう。久しぶりだな」


「「シエンッ!?」」


 ◆


「で、魔王さまよ。今まで何をしていたんだ?」

「その呼び方やめてくれよ。俺にはちゃーんと名前があるんだからよ」

 そんな二人のやり取りを眺めながら、リリアは溜め息をつく。

「はー・・・・・・。それで結局、何をしていたんですか?」

 リリアの質問に、あぁとシエンは答える。

「散歩してた」

「「なぜにっ!!!???」」

「いや、ほら。燃え盛る森の中の森林浴(?)ってのも、乙なもんだろ?」

「「いやいやいや!!!」」

「え?お前ら、共感できないの?」

「まったく出来ませんけど!?」

「なんだよその意外そうな顔は!もうお前、大物なのか馬鹿なのかわかんねえなっ!」

「おいおい。そいつはひでぇ言い草だなぁ。・・・・・・それで?なんか話してたみたいだけど、そうした?」

 さすがに勘がいい。リリアは、つい先ほどまでの話を、シエンに伝える。

「え、なに?お前ら、俺のことそんなに知りたいのか?おいおい照れるなー、っつーか、なんだ。お前らまさか俺のファnうぉッ!?」

 ザンッ!と空気を割く音と共に、顔面のすぐ横を、鋭利なレイピアが通り抜けた。

 シエンの頬を、一滴の汗が伝う。

「おや惜しい」

「おや。じゃねえよ!?えぇえええええビックリしたぁあ!!!いきなり来るかお前!初手から顔面を狙うか貴様は容赦ないなぁおい!」

「いえ、思わず。意図せずしてやったことではありませんよ。身体が勝手に」

「なおいっそう怖いわ!」

「でも、貴方なら避けてくれると信じていましたよ。魔王様」

「ちょっとしたジョークに明確な殺意で答えてきたやつには信頼されたくねえ!!」


 と。一通りのギャグを挟んだところで。


「で、シエン。お前、アイツについて知っていること、洗いざらい話せよ」

「・・・・・・お前、魔人やめてからホント性格変わったよな。いや、そっちが素なんだろうけどよ。昔の殊勝なお前が、もう懐かしいものに感じる」

 うるせえ、と突き出された拳をフラッと避けながら、シエンは続ける。

「つーか、いい加減、名前くらい出してやれよ。ずっとアイツアイツって・・・・・・。いくらなんでも不憫すぎやしねえか?」

「・・・・・・そうか?」

 首を傾げながら見つめるサタラに対し、リリアも合わせ鏡のように首を傾げる。

『そうか(ですか)?』

「あぁ、そうね。お前らにとってアイツって、いわば宿命の敵だからな。そういう反応なのも、間違っちゃいない、のか?いや、ていうかおい。もういいだろ、いい加減話を進めようぜ。いつまでギャグパートなんだよ」

 いつまでもボケが止まらない。このままではいけないと、いい加減に二人も気付いた。というより、ずっと気付いてはいたが、気にしていなかった。

「はい。では、ここらで切り替えましょうか。シエン。次からは貴方のパートですよ」

「え、次って?」

「いいから。始まったらいきなり貴方の語りからの予定でいきますから、気持ちの準備をしておいてくださいね」

「・・・・・・どゆこと?」

「それではいきますよ。必殺、章替え」

「・・・・・・便利だなー、それ」


 ◆


「んじゃあとりあえず、行き当たりばったり、のらりくらりと始めてみようか。まずは、俺がアイツを拾ってきたところから話そうか」

「アイツは元々、俺が拾ってきたんだ。孤児だった。どんな理由で1人になったのかは分からなかったが、まあ地域で話題になる程度には、それなりに名の知れた悪ガキだった。んで、たまたまその辺りを訪れた当時の俺が、アイツをボコッて捕獲してきたんだ。え、暴力的で大人気無いって?おいおいそういうなよ。俺だって大変だったんだぜ?まあ、その辺はどうでもいいか。とにかく、俺がアイツを拾ったとき、アイツは名前を持っていなかったんだ。本人も何も憶えていなかったから、忘れたのか、それとも最初からなかったのかは分からないが。んで、アイツの名前を付けるにあたり、アイツの特徴を使ってみようと思ってな」

 そこで俺は、一つ息を吐き、続ける。

「しかしアイツは、外見的に特別目立った特徴がなかった。そしてアイツは、名前や特徴の代わりに、あるものを携えていた」

「剣だよ。子供だったヤツには身に余るとしか思えない、馬鹿でかい剣だった。2メートルくらいか?」

「そのほかには、無駄に高い戦闘力と、死んだ瞳。そして、決して他者を寄せ付けない、熱く冷たいオーラを纏っていた。それでいて、どこか世界から逃げているような、『近付かせない』というより『近付かない』。『寄らせない』というより『寄り付かない』。全てから目を逸らし、そむき離れていくような、な」

「だから俺はアイツを、『カイリ』と名づけた」

「最初は嫌がっていたよ、アイツも。俺が魔王になって、アイツがあんな感じになる前は、それはまあ可愛いヤツだったよ。イジリ甲斐のあるヤツだった。まあ、全部が過去形だがな」

「んで。俺はそのカイリを連れて帰って、まあ育てたな。息子的扱いをしていたっていうのかな?結婚はしなかったがな、俺。未だに独身だし」

「いえ、聞いていません」

 リリアがジト目で眺めてくる。

「いや、聞いてないとかいうなよ。重要なアピールタイムだろうが。・・・・・・まあ、いいか。続けるぞ」

 一区切りを付け、俺は続ける。

「俺はカイリに、戦い方も、魔法も教えたし、アイツが知りたがったことは大体教えた」

「カイリはな。覚えが早くて、そして賢かった。気が付けばアイツは、俺の率いる仲間の中でも、ほぼトップクラスの実力を誇っていた」

「凄かったんだぜー、アイツは。もーホント、なんて言えばいいんだか分からんが、とにかくさー」

 そこまで言ったところで、リリアの声が挟まった。

「いえ、あの・・・・・・。思い出に浸るのはあとで、1人でのときにしてくれませんか?私たちは、魔人になった彼について知りたいので」

「・・・・・・お前って、なんかスゲー冷たいよな。天然なのか?それ」

 俺の言葉に、例の首傾げで答えてくれたリリアを見つめつつ(こいつ無自覚なこと多すぎだろ)、何度目か分からない溜め息を吐き、サタラを見遣る。

「・・・・・・お前も大変だな」

「まあ、たまーに嫌んなることも、無くはねぇけどなー。安心しろよ。ホント、たまーにだから」

 二人で顔を見合わせ、天を仰いで溜め息を吐く。

 そして俺は、話す。

「めちゃくちゃイイやつで、スゲー気持ちのいいやつだったんだが・・・・・・だからこそかな。俺が『魔王』になったとき、一番性格がひん曲がったのが、アイツだった」

「魔人になったアイツは、それこそ絶大な強さを誇っていた。元が強かったんだから、まあ当然っちゃあ当然なんだがな」

「アイツの能力っつーか、特性か?サタラでいう【空間掌握】みたいなやつだな」

「あぁ、そういえば。魔人の皆さんって持ってますよね、そういうの」

「そういうのっていうなよ。なんかカッコ悪くなるだろうが」

 サタラは、ぷすーっと頬を膨らませる。なんつーか、素のコイツって可愛いのな。なーんで魔人のときは、あんな性格になっちまったんだろうな。

「はいはい。続けるぞ。えーっと、あぁ、そうそう。カイリの能力な。あいつはな、基本的に何でも出来る。まあ、専門よりは劣るが。例えば、空間転移とかは出来るが、空間掌握自体に焦点を絞れば、サタラのほうが上、みたいな。んで、アイツの専門は、そうだな。【万物操作】ってところか?」

「なんですかそれは。チートですか」

「いや、公式チートのお前が今更何を・・・・・・」

 サタラがツッコむが、しかしリリアの耳には届かない。もうホント、なんとかしてよこの娘・・・・・・。リュージよりタチが悪いって相当だぞ。

「元々与えたのは別の能力だったんだがな。アイツが自分で組み替えて、昇華させたモノらしい。面倒であることこの上ないな・・・・・・って、おい。なんだよその目は。あーあー悪かったよ。そうだよな俺が全部悪いんだもんな。俺が闇墜ちなんかに負けたのがいけなかったんですよねサーセン」

「いや唐突に拗ねるなよ」

 だって二人が凄い見てくるから。

「まぁいいか。んで、これでアイツの話は終わったか?一応、一通り話したろ。これ以外、なにか聞きたいことは?」

 シエンの質問に、リリアが尋ねる。

「一つ。今回の一連の出来事に、魔人が関わっている可能性は?」

 それに対し、シエンは溜め息を吐きながら答える。

「あぁ。十中八九、というか九分九厘、そうだろうな。誰かという特定までは難しいが・・・・・・。サタラ。なにか心当たり、ヒントになりそうなものはあるか?」

「・・・・・・あぁ。残念ながら、ある。魔物だ」

「・・・・・・?魔物のなにがヒントに?」

 リリアの疑問に、しかし直接は答えず、サタラはシエンへの台詞として解答する。

「ついさっき、巨大な蜘蛛型の魔物が複数現われた。それも、それなりに強力な。あれだけの魔物を複数一度に操れる。そんな魔人に、1人心当たりがある」

 サタラの言葉に、シエンは、まさか・・・・・・と漏らす。

「来ているのか。バールのヤツが・・・・・・!?」

 シエンとサタラの表情の意味が掴みきれずにいるリリアは、しかしそれどころではないと感じていた。

 二人とは別種の、しかしこちらも同じくらい、あるいはそれ以上に緊迫した表情のリリアは、表情を固めたままに、二人に呟く。

「・・・・・・二人とも。気を引き締めて。・・・・・・来ます。それも、いるはずのない、アイツ(・・・)が・・・・・・!!!!!!」


 二人が、その言葉の真意を汲みきる前に、それ(・・)は現われた。

 まるで、初めからそこにいたかのように。そこが、自分の領域であることを存在するだけで主張しているかのような圧倒的な存在感とともに。

 そいつは、いた。


「・・・・・・ふむ?様子を見に来ただけのつもりだったのだが・・・・・・、どうやら俺の悪運も、来るところまで来たようだ」


 その声に。脳に直接響くような、地獄の底から届くようなその声に。

 全員が。主にリリアと、そしてサタラが。驚愕とともにゆっくりと振り返る。


「よもや、このようなメンツと顔を合わせることになろうとは。面倒なこと、この上ない」


 そこにいたのは。圧倒的な絶望(・・)の権化のような存在であった。


「な、んで・・・・・・。どうして、オマエが、ここにいる・・・・・・。どうしてオマエが、生きているんだ・・・・・・カイリ!!!」


 サタラの言葉に。彼女の心性を如実に現したようなその声に。

 しかしその男は、何の気もなしに返した。


「久しいな、貴様ら」




魔王「前書きから長文って、ウザくないか?」

聖剣「キミがいうかね。オープニングで提案した張本人のキミが」

魔王「ふとした発言にそこまで責任を求められても困るな。そんなんじゃあ会話なんてできんぞ」

聖剣「まあ、普段から気にはしてられないよね。ところで、いったい何を話すんだい?」

魔王「何でもいいといったのはオマエだがなぁ」


聖剣「はーい、それでは、オモシロオカシク初めましょうか!どーも、聖剣っ娘のエクスでーす!」

魔王「・・・・・・うん?それでいくと、俺は何っ娘になるんだ?」

聖剣「少なくとも娘ではないよ、シエン君」

魔王「しかしあれだな。慣れたとはいえ、未だに違和感が拭いきれんな」

聖剣「何がだい?」

魔王「見た目子供のオマエに、君付けで呼ばれることがだよ。もう一生無いと思っていたが」

聖剣「まあ、ボクからしたら、大体みんな年下だし。正式には聞いたことなかったけど、そういえばシエン君はいくつなんだい?」

魔王「えー、と・・・・・・ふむ、いくつだったかな。100と60位だったかな。長くて憶えてないな」

聖剣「あぁ、分かる分かる。これだけ長く生きてると、もうその辺どうでもよくなってきちゃうよね。誕生日を祝われても、『あぁ、そういえばもうそんなだっけ?つーかこれ去年も同じ事考えてたなー』みたいな」

魔王「・・・・・・ほんと、見た目“だけ”は子供なオマエとこんな会話してると、違和感が半端じゃあないな」

聖剣「ねぇ?なんで今、“だけ”を強調したのかな?」

魔王「ふむ。事実だろう?」

聖剣「ボクだって一応女の子なんですけどね!そのあたり、もうちょっと気を使ってもらえないかな?!」

魔王「うん?剣に性別の概念などあったのか?てっきり、見た目だけのまやかし物だとばかり思っていたのだが」

聖剣「精神が女の子だから女の子になってるんです!別にボク『美少女のボクっ娘はガチのボクっ子美少年だった』とか狙ってないからね!」

魔王「いやぁてっきり、パートナーであるところのリュージを御するのに最適な姿になっているものだとばかり。いや、本当にすまなかった」

聖剣「残念でしたー!この見た目も性格も、ぜーんぶボクのものですー!生まれながらの、ありのままのボクですー!」

魔王「その子供っぽい性格もか?こういう機会だ。少しは盛ってもいいのではないか?本来は、もう少し大人しいはずである、とか」

聖剣「うるせーいい加減ぶっ飛ばすぞ!この性格は今のボクの力量が反映されてるんだよ!パワーアップしたら、見た目も中身も大人になるんだから!」

魔王「ほう、それは見物だな。そのパワーアップというのは、オマエ単体の話か?それとも所有者、つまりリュージを含めてか?」

聖剣「両方だけど」

魔王「ならばとっとと力を上げて来い。リュージのほうは俺が底上げしよう」

聖剣「そんなに見たいのかい!?大人のボクを?」

魔王「純粋な好奇心というのが強いがな。しかし俺も男だ。大人なオマエというものに、そういう興味を抱いても不思議ではあるまい?」

聖剣「リュージ君みたいな下衆発言じゃなくて真剣に言っている分タチが悪いなあキミは!」

魔王「ガキのアイツとは違って、俺は大人だからな。あんな青臭さ、もう俺には残っていないさ。ああいう年頃のガキってのは、一途だとかなんだとかほざいているが、そんなものは所詮幻想だ。それこそまやかし。青いまやかしだよ。俺くらいの大人になれば、もうそんな淡い青春なんて残ってはいない。あるのは、純粋な欲望と愛だけだ」

聖剣「・・・・・・なぜだろう。間違っていないはずなのに、色々と間違って聞こえる。あれ?ここで納得したら、明らかに間違った道を進むことになりそうな予感!?」

魔王「ふっ、青いな。何百年生きようが、やはり所詮はガキか。まあ、見た目通りの中身で安心したよ。そんななりで精神大人とか、接しづらいにもほどがある。どこぞの名探偵みたいなことをいいだしたら、本当に取り返しが付かんぞ」

聖剣「あぁ、それは自覚しているよ。声を変換する蝶ネクタイとか、ちょっと欲しいけど」

魔王「いまどき蝶ネクタイなんかつけて出歩いてたら苛められるだろ」


聖剣「おや?どうやら今回はこれで終わりらしいね」

魔王「あれ、やってなくないか?カードをめくるヤツ。恒例なんだろ?」

聖剣「今回は用意できなかったらしいよ?」

魔王「そうか。少し楽しみだったんだがな。まあ、楽しみは今度に取っておくか」

聖剣「えーと、次回の後書き担当は、まだ未定です。みんな、当日を楽しみに待っていてください!それでは☆」

魔王「さらばだ。また会おう」


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