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第三十一話:石人形《ゴーレム》


試験前ーのー逃避行ー!

「うーん、素晴らしいね★」

 どこかから聞こえてくる、軽い声。

 倒したはずの、男の声。

 しかし。

 男が立っていたはずの場所には、ボロボロに崩れた石の塊が残るだけだった。

(ゴーレム・・・・・・やられたね、これは)

 どうやら、エクスがさっきまで戦っていたのは、石で作られた遠隔操作型の高性能ゴーレムだったようだ。着込んだマントは、姿を見にくくする魔法道具だろう。

「剣を創りだすだけで、単体では脅威になり得ないただの聖剣だという僕の想定は、まあ間違ってはいなかったけれど、どうやら過小評価だったみたいだね★」

 こちらの手を暴くためのデコイ、ってところかな?と考えたところで。

 その思考を先読みしたようなバールの声が響く。

「キミの手の内を暴くための囮とか思ってるかもしれないけど、そういうことじゃないよ♪ただ、遊びたかっただけだよ★さっきも言っただろう?」

 死んだら全てが終わり。それはつまらないとね。

 そこで声は途切れ、今度は拡声器から流れるような声が響いた。

『そーいうわけだからさ♪まあ、キミを騙していたことについてはしっかりと謝罪するよ、ゴメンね★』

 続いて聞こえてくるのは機械音、そして地響き。

『言葉の謝罪だけじゃあダメだよねー♪だから僕も、手の内を少しばかり明かそう★』

 そして、燃える森の木々を掻き分けるように遠くに姿を現したのは。

 巨大な戦車の御一行様だった。

『僕が出せるのは、小さな銃器だけじゃないんだよ★剣しか出せないキミと違ってね♪』

 ズルイだろ。と思わずにはいられないエクスであった。

 エクスは、別に軍事関連に詳しいわけじゃないので細かい種類はわからないが、それでも、今相対している戦車が、かなり大型のものであることだけは判別できた。

(こういうの、重戦車っていうんだっけ?車体も主砲も大きいし、装甲も分厚そうだね)

 というか、そもそもどうやってこんなのと戦えばいいんだ。と、軽く溜め息をつく。もう嫌だ、と。

「はー。こういうことをキミに聞くのはどうかと思うけどさ。それを分かった上で聞かせてもらうよ」

『うーん?なにかなー♪』

「ボクはどうやって、この戦車群を攻略すればいいのかな?」

『さっきみたいに、剣を振り回してればいいんじゃないかな★』

 そう尋ねるエクスの質問に。まさに愚問とでも言いたげに、バールは嘲る。

 まあ、そういう返答がくるよねー。というか、正直本当に、どうすればいいんだろうか。と思考を始めたエクスを、しかしバールは待ってくれない。

『まあ、そういうことだから、いい加減始めようか★』

 いきなり主砲を噴く戦車陣。飛来する砲弾。

(これは・・・・・・剣で防げるようなものじゃないねー)

 そう判断したエクスは、駆ける。

 爆ぜ散る大地は、抉れていた。

 嘲るような彼の声が届く。

『あぁ、言い忘れていたけど♪この戦車、ただの砲撃+魔法の効果も上乗せしてるんだよ★』

 そういって、数台の戦車がボクを轢き潰そうと迫る。

 地面を震わす振動のせいで、幾分歩きにくくなりつつも、エクスは戦車に向かって駆け出す。

 前進しながらも放たれる主砲、身を乗り出したゴーレムの操る機関銃を潜り抜け、うち一台に飛び乗る。

 反応の遅い機関銃ゴーレムを破壊し、すぐに飛び降りる。

 直後、本来味方であるはずの周囲の戦車が、一斉にその戦車を砲撃した。

 爆ぜた戦車を尻目に、エクスは止まらずに駆け出す。彼女はすでに、次の行動に出ていた。


 突如、戦車のキャタピラと地面を縫い付けるように、大量の剣が出現した。

「ふう。これで戦車は終わった、かな?」

 戦車は全てのキャタピラが破壊され、微動だにも出来ない状態になってしまった。

 しかし。と思う。

(これらの兵器の出所は、いったいどこなんだろうなー?)

 考えたところで、まったく根拠のない憶測しか浮かばない。

 ここで全てを判断してしまっては、後々面倒なことになる。

 そう判断したエクスは、とりあえず動きを拘束したバールを確認しに行こうとする。

 エクスは、あくまで戦車の動きを止めただけで、彼自体の動きは拘束できていない。

 ので。一歩、戦車に向かって踏み出そうとした瞬間。

 ガチャリ、という、ごくごく小さな音を耳にした。ともすれば聞き流してしまうような、ただの幻聴、耳鳴りとも取れるようなほんのごく僅かな音に違和感を感じたエクスは、素直にそれに反応し、とっさに自分の周囲に何重にも重ねた剣の壁を創り出した。


 ドガッッッ!!!と。

 爆発がした。

 ビリビリとした衝撃と爆発音が、剣の要塞の中にまで響き渡る。

 空白が生じた思考の中で、それでも本能が命じるままに、エクスは数本の剣を生み出し、それを射出する。単純な魔法を使った、簡単に言えば念動力だ。

 閉ざされた視界のせいで確認は出来ないが、感触はない。外したらしい。


 自らを囲う剣を全て消し、一瞬で周囲の状況を確認する。

 捕らえたのは、巨大な筒を肩に構えてこちらを狙う、バールの姿だった。

「あはは・・・・・・。まーた面倒くさそうな・・・・・・」

 思わず呟くエクスだったが、魔人は待ってくれない。

 引き金に掛けた指を引き、凶弾が撃ち出される。

 直撃は論外。どれだけの範囲が有効なのかが分からない今、跳んで避けるのも上策とはいえない。


 だからこそ。前へ踏み込んだ。


 すぐ横を通り過ぎる砲弾を見送りながら、バールの元へと駆け込む。

 握った剣で、迷わずバールの身体を横薙ぎに斬り捨てる。


(あー。またコレかー)

 ゴーレムである。ほんと、いい加減にして欲しいと本気で悩むエクスだが、しかし気を抜いて入られない。

 動きも緻密で気配も発し、遠隔操作も可能なゴーレムを、これだけ大量に、しかも一度に操れる。

 これは、看過できない問題である。

 本体がどこにいるか分からず、こちらはただ、力と魔力を消耗していくだけという、考えてみれば最悪の状況。さらに、おそらくだがすでに、周囲は囲まれていて逃げることも容易ではない。


 放たれる狙撃をかわしつつ思考をめぐらせ対抗策を考えるが、一向に案が出ないエクスは、若干苛立っていた。というよりも、焦っていた。

 もっと言えば、焦り苛立っていた。

 ここにダラダラと時間をかければかけるだけ、リュージの身に起こっている事態が悪くなる一方であることが分かりきっているからだ。

(まあ、そんなことは分かりきっているんだけどね。今からするコレが、もしかしたら無駄になるかもしれないってことも、ボクが完全に焦りに飲まれているってことも、分かりきっている。でも・・・・・・・・・)


「こんなところで手を拱いているヒマは―――――――――ないんだよ」


 巨大な大剣、それも伝説級の宝剣聖剣魔剣の類を、周囲一帯に生み出す。

 それは、エクス自身を中心にするように、まるで扇風機の羽根のように回転を始める。


「手早く終わらせようか」


 燃え盛る森の中で、物量という暴力が猛威を振るう。


 ◆


 なにをしたらそうなるのか。

 元々は森であったはずのその場所は、1人の少女を中心に、更地と化していた。

 燃えるべき木々は全て斬り倒され、丸太や切株すらもズタボロに切断されている。

 それでも。

 その惨状の中心に立つ少女は、まったく優位には立てなかった。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 息も切れ切れに、立っているのがやっとというほどにまで疲弊したエクスは、ほとんど切れかけの、なけなしの集中を周囲に払っていた。

 声は、響く。

『おやおや~♪どうやらそろそろ、魔力(ねんりょう)切れみたいだねー★』

 最初からまったく変わらない、どこまでも鼻に付く声。

「まあでも~、エクス君♪キミもすごいねー★僕の手持ちのゴーレムが、いったい何百体と壊さ(やら)れたかわからないよ♪」

 目の前に現れたこの人型の【何か】も。きっとヤツではないのだろう。

「もーう、つまらないなー♪辛いのは、疲れているのはキミだけじゃあないんだよ?僕だってほら・・・・・・あー、これは言ってもいいのかな?・・・・・・まあ、どうせ僕が動かしていることだから別にいいか★」

 何を言っているんだ、と。声にならない呟きを漏らすが、しかしその言葉は届かなかったようだ。

「僕はね。キミと戦う数百というゴーレムを操りながら、同じ頭で同じ魔法で、リュージ君とも戦っていたんだよ?」


「――――――――――――は?」


 思わず、擦れた声が漏れた。

 この男は、何を言っている?リュージと、戦っていた?

 いや、それ自体は別に驚くことではない。もともと、リュージを襲うためにエクスを足止めしただろうということは、誰にでも容易に予想できた。

 そう。問題はそこじゃあない。


 戦っていた(・・)


 いたってなんだ?

 なぜ過去形なんだ?


 疲弊に苦しまれながらも、目で魔人に疑問を伝える。

 それを察したらしいバールは、あぁ♪と声を上げた。

「そうそうそうだよねー♪キミ的には気になる話だよねー♪大丈夫だよ★僕が過去形で言ったのは、別にリュージ君を殺し終わったからじゃあない♪いやー驚いたね♪彼、なかなかしぶとかった、というか、あそこまで追い詰められた人間っていうのは、もう自ら死を選ぶのかとも思っていたけれどねー★」

 驚きを隠しきれない、といった笑顔でそう告げるバールの言葉は、しかしまだ終わっていなかった。

「僕の作戦的には、まあ本来は失敗といいたいところだけれど、結果的には成功といったところかな?」

 そしてバールは、再度言葉を区切り、一度呼吸を整えてから、言葉を紡いだ。

「だってさ。あのままじゃあリュージ君。放っておけばすぐに死んじゃうよ」

 そこだけは本気で。心の底から楽しそうな、薄ら寒さすら感じるような、本物の笑顔で、告げた。


 ◆


 なけなし。

 最後の搾りかすのような魔力と精神力を捻り出し、無理矢理に生み出した剣は、そのままバールの首を貫いた状態で出現した。

 そんな状態でも、バールの表情は変わらなかった。

「はっはー。ごめんね、怒ったかな?でも大丈夫さ。100パーセント死んだかも知れないし、もしかしたら100パーセント生きているのかも知れないよ?その辺の確率論は、僕の苦手なところではあるけれど、まあ現実が全てだからね。彼が生きていようが死んでいようが、その現実を目撃した瞬間、キミの中でのそれは、100パーセントの事象となるんだから」

 切断され、ボトリと地面に落ちた生首は、それでも声を発し続けていた。

 ボロボロと崩れる胴体の部分を見つめながら、エクスは乾いた笑みを浮かべる。

「は、は。まったく、キミは本当に、ムカつくヤツだねー。・・・・・・最後に、聞かせておくれよ。・・・・・・・・・キミは今、いったいどこにいるんだい?」

 エクスの問いかけに生首は。もといバールは、なんでもないように答えた。

「さぁ、どこだろうね?もしかしたらとっても離れたところかもしれないし、あるいはこれが本体かもしれないし。・・・・・・いやいや、やっぱり」

 そこまで言って生首は完全に消滅し、そしてすぐ背後で、続きの言葉は紡がれた。


「―――――――――ものすごく近くにいるかもしれない」

 そう呟いたバールは、その両手を、動くことの出来ないエクスの背中に押し付けていた。


「さぁ。狂乱の祭りを、始めようか★」


 バツンッ!!!

 直後、強烈な衝撃と共に、謎の力が流れ込んできて。


「キミという存在は、僕たちにとってはなくてはならないものなんだよ、聖剣君♪」

 そう呟きながらエクスを見下ろすバールを見上げ。

 エクスはそこで、意識を完全に失ったのだった。




リュ「・・・・・・・・・」

エ「ボクも・・・・・・倒れたままになりそうだね」

リュ「・・・・・・おいおいおい、勘弁してくれよ!ここはあれか?カードゲームで言うところの墓地か?敗者の巣窟かナメやがってコノヤロー」

エ「まあまあ落ち着きなよリュージ君。大丈夫だよ。ここは墓地じゃない」

リュ「え、マジで?よかったー、だって状況証拠が揃いすぎてるからさー」

エ「ゲームから除外された、圏外さ」

リュ「復帰不可!?」


エ「はい!皆様おはようこんにちはこんばんはー、かな?みんな大好きボクも大好き聖剣っ娘のエクスでーす!」

リュ「のっけからテンション高いなー・・・・・・。えー、どうも。リュージです」

エ「まあまあいいじゃないか。こうでもしないと話すことがないんだよ。ほら、感想が来なかったから」

リュ「あぁ、まあ予想通りだからな。作者的にも、とくに問題はないっぽいぞ」

エ「悲しい現実だなー」

リュ「というわけでだ。ネタはこっちで用意していたものを使おうということらしい」

エ「あぁ、この紙ね。この、机に並べられた数枚の紙」

リュ「あぁ。ちなみに、作者の手元にも、リアルタイムでその紙が広がっている」

エ「あぁ、つまり。ちょっとメタ発言をすれば、あっちで引かれたお題が、そのままこっちにも反映されるのか」

リュ「そういうことだ。んじゃ早速――――――レッツ・オープン!」


 ● 数学


リュ「パス」

エ「早いッ!?いや、ちょっとは語らおうよー」

リュ「ふざけんなよ。あんなもん理解できるわけねえだろうが。丸暗記だ丸暗記」

エ「ちなみに作者は高校三年生になり、それさえも出来ないほどになったらしいよ?もう諦めてるってさ。なんか、街中の壁に書かれている落書きよりも理解できないって」

リュ「あー、俺もそうなるのかなー・・・・・・文系に進むか。うん、今決めた」

エ「好きにしたらいいさ。キミの人生だからね。じゃあもう、次のお題にいこうか」


 ● 英語


リュ「パス」

エ「今回は読めた」

リュ「だってあんなもん、理解不能だもん。数学とは別のベクトルで理解不能だもんよー。ちなみに、古文漢文も同じ扱いだ」


 ● 物理


リュ「消し飛べ」

エ「さてはヤル気がないな、リュージ君」

リュ「もうよくないか?今回はいいだろ。作者もさ、明日から中間試験だからって、科目についてしかネタを用意してねぇみたいだし」

エ「ああ、そうみたいだね。じゃあもう、今回はここらで締めようか」


リュ「次回はどんな話だ?」

エ「さあ?リリア君たちの話になるんじゃないかい?」

リュ「要するに未定ってことだな・・・・・・。んじゃあ、いつになるかはわからないが、次回をお楽しみに!」

エ「バイバーイ♪」

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