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第二十九話:操り人形《パトリオット》

どうぞ!

「ちっ・・・・・・。面倒なことになったなぁ、おい」

 なにが原因かわからないイラつきが、サタラに悪態を吐かせる。

 今、私たちを取り囲むのは、砂や泥を人型に固めたような、いわゆる『ゴーレム』と呼ばれるものだ。

「倒しても倒しても出てくるね。このままじゃあジリ貧だよ」

 エクスは、握った剣で2、3体のゴーレムを胴から正確に切り崩す。

 ゴーレムとは、それぞれの個体が核を所有し、その部分を破壊しなければある程度は再生してしまうのだ。

 ゆえに、主に足止めに使用されるものであるが・・・・・・。

「ねーねーリリア君。いい加減、この辺も暑いんだけどー」

 エクスが文句を言うが、確かにその通りだ。

 正直、このままでは全員丸焼きになってしまう。ので、私は魔法を発動させ、辺り一帯の火事を消す。

 そんな私を、少し離れた位置からジト目で見つめるサタラが一言。

「なんかリリア、扱いが消防隊だよな」

「どちらかというと、消火器だねー。リュージ君の世界のものだと」

「はぅ!?」

 思わず膝から崩れ落ちる。

 分かってたのに・・・・・・分かってたのに!

「わざわざ口に出さないでください!」

 叫ぶと同時に、腹いせにゴーレムを破壊する。

「おぉー。一気に10体近くいったんじゃねえの?こりゃ、リリア怒らせたほうが効率いいなー」

 はははー、と笑いながらゴーレムを内側から爆発させるサタラ。確かに、効率はいいかもですが・・・・・・!


 このような笑いが起こりながら、正確に敵勢力を排除していく。

 私たちが、特に気取ることなく行動できる理由は、リュージに対する心配がないから。ではない。

 心配は、完全にはないとは言い切れない。しかし。


 どうせ彼は大丈夫、絶対に無事だ。なぜなら彼は、基本的に物語の中心に身を置く存在だからだ。まあ、彼自身の物語に限っては、なのだが。

 だからこそ。私たちは知っているのだ。

 どうせ彼は。


 今頃、新ヒロインとかとイチャコラしているのだろうということを。


(また・・・・・・・・・また、私の出番が・・・・・・!!!)


 彼女は、そんな葛藤の中で、力を振るうのだ(笑)。


 ◆


「―――――――――がぁ・・・・・・はッ!?」

 俺は、焦点の定まらない瞳で、自らの腹部を凝視する。

 喉が焼けるように熱い。声が震える、口から血が溢れる。

 腹を抑えた俺の手は、赤く染まっていた。


(―――――――――貫通ッ?腹をッ、なにでッ!?)

 混乱する思考を必死に紡ぎ、目の前の現実を確認する。

 そんな俺を、感情のない瞳で見つめる少女が、一人。

 その手には、先端から煙を吐き出している“拳銃”。

 痛みで麻痺する視界が、彼女が銃を握る手に再び力を込めるのを見つける。

(死、ぬッ・・・・・・!?)

 腹の激痛を感じながら、身体を無理やりに地面に叩きつける。

 再度痛みが神経を襲うが、拳銃が再び火を噴いたのを見て、さらに冷や汗が吹き出す。

(なんで?なんで、なんで、なんでッ!?何が原因だ何が発端だ何を間違えたッ?)

 分からない、分からない。突然の負傷による混乱が酷い。思考が乱雑に飛び交う。

 原因が、きっかけが何も分からない。

 が、とにかくヤバイ。一度頭を冷やさなければ。一旦、間を置く必要がある。

(とにかく逃げる、一時撤退だ!)

 幸い、フィールの動きは遅い。旧式の機械のように、動きが単調だ。古びたマシンのように、一つ一つの動作の間隔が大きい。

 これなら多分、負傷した状態でも逃げられる。

 森の方を見遣る。刀は洞窟の中だが、そんなところに行ったら袋叩きだ。確実に殺される。

 逃げる。そのために俺は、なんとか起き上がると同時に一歩を蹴り出す。


 ――――――――その足を掴まれた。


 さっきまでフィールが立っていた位置から、一歩だけ踏み込めば、確かに手は届く。しかし、今の彼女からは、そんな機動力があるように感じられなかった。動きを予想できなかった。

 掴まれた足首は、それこそ骨が砕けるような力で握られている。

(う、ごかな・・・・・・ッ!?)

 一歩も、一ミリも進めない。

 彼女は、万力のような力を緩めることなく、そのまま俺を放り投げる。

 暗くて深い、洞窟の方向へ。


 ◆


「が、はぁ・・・・・・ッ!」

 腹から流れる血は止まらない。未だに溢れ出ている。

 片手でそれを押さえながら、這うような姿勢で進む。

 フィールの動きは遅い。一歩一歩、踏みしめるように近付いてくる。まるでゾンビのように。

 地面に転がっている刀を掴む。投げ飛ばされた位置に、ちょうど落ちていた。

 つまり、洞窟の奥の奥まで飛んできてしまったということだ。

 力なく、鞘から刀を抜き取る。柄にベットリと血が塗られる。

 握る刃は振るえ、狙いなんて全く定まらない。切っ先が揺れる。

(死ぬ、死ぬ、死ぬ、殺されるッ!!!)

 かつてないほどの、明確な死のビジョン。信じられないほどの恐怖が俺の感情を支配する。

 そして、その感情が漏れ出しそうになったところで。


 一周回って、なにかが吹っ切れた。

 唐突に訪れた落ち着きに、戸惑いを感じつつも便乗する。

 さっきまでのビジョンは、まだ頭に残っている。しっかりとこびりついて、一向に払拭されない。

 それでも、気持ちはクリーンだ。


 とにかく、なんとかする。なんとか生き残る。

 未だに痛む腹を片手で押さえながら、刀で身体を支えるように立ち上がる。

 あれか。アドレナリンとかそういうのが分泌されてるのかな。

 瀕死の状況に置かれて、脳がいろんなものを排除したのか?

 そんなことを考えながら、俺は“敵”である少女を見据える。

 意識は今にも落ちそうで、すぐにでも倒れこみたいのを抑えて、フィールを見る。


 ちなみに、そのときの俺は全く気付いていなかったのだが、俺の頭がクリーンになったのは単純に、体内の血液が減っていたからだ。

 客観的に判断すると、それなりに危険な状態でした、まる。


 フィールとの距離は、約5メートル。なんとか、動ける距離だ。

 彼女は、左手に銃を握ったまま、空いた右手で剣を引き抜く。

 その瞳に、光はない。

 ただ無表情に、俺の身体に狙いを定めている。

 酷く落ち着いた、どころかむしろ真っ白になっていく頭で、それでも身体が、本能が。俺と刀を動かす。

 奇しくも、そのあたりは、何かに操られてるっぽいフィールと似たような状態だ。


 それまでの動きからは想像も出来ないような、唐突な駆動で、フィールの剣が振るわれる。それを斬り上げで対処するが、身体を動かすたびに傷が痛む。というか、血が出てる。

 早急に終わらせる必要があるし、じゃないと本当に死ぬのだが、今のところ活路が見えない。

 剣の動きに合わせるように、銃が突きつけられる。それを右手で弾くと、銃口から火が吹き出る。

 かなりの近距離なので、そのまま右掌を打ちつける。フィールの顔面に掌底が決まるが、彼女はまるで痛みを感じてないような、表情を全く変えずに、弾かれて後ろへ引いた頭部を、そのまま振り下ろしてきた。

 迫る額を、なんとか腕でガードするが、ビリビリとした衝撃が骨にまで染みる。

(コイツ・・・・・・マジで、感情がないッ!?)

 操られているか、もしくはそれに近い魔法かなにかの影響下にあるのか。


 フィールは、悪いヤツじゃあない。どちらかといえば、友達になれそうで、友達になりたいランキング上位ランカーだ。展開的には、彼女を解放して、できれば仲間に~とか、そうでなくとも友達にはなりたい。

 しかし、今の俺に、それが出来るか?いや、たとえ万全の状態でも、どうだろうか。

 俺には、フィールが掛かっている魔法が一体どんなものなのかの検討も付かないし、分かったところで、解き方がわからない。こんな状態じゃあなおさらだ。だって腹に穴開いてるんだよ?

 という言い訳くらい、許して欲しい。


 フィールの振るう剣が、俺の振るう刀を正確に打ち落としていく。そして、交わされる剣戟の間を縫うように行われる射撃。

 全てが正確に、俺の命を刈り取ろうと、その猛威を振るう。


 頭の中を廻るのは、どうすれば生き残れるか。どうすれば、フィールを凌ぎ、あるいは解放できるか。

 そればかりが駆け巡り、一向に考えはまとまらない。

 でも、なにかが思いつきそうな気がする。なにか、あと一歩、踏み込みが足りないような、そんな感覚。なんだろうな、なんかのきっかけで、ハッと思いつきそうなんだが・・・・・・。


 俺がそんな思考をしていると、無意識のうちに動きが鈍っていたようで。

「カハッ・・・・・・!?」

 首を掴まれる。そして、そのまま身体を宙に持ち上げられた。左手の銃は、いつのまにか手放されていた。どうやら弾切れらしい。

 そしてフィールは、その感情のない表情のまま、無機質な瞳で俺を見つめ、右の剣も地面に落とす。

 ガラァン。という金属音が、洞窟の中のほぼ密閉された空間で反響する。しかし、そんな音にも興味を示さないフィールは、そのまま空いた右手を引き。

「があッ・・・・・・・・・!あぁ、あぁああ、ああッ!!!」

 俺の傷口に、その指先を刺し込み始めた。

 痛みで神経が破裂しそうになる。傷口からは、バカみたいに血が吹き出し、彼女の指先と顔面を赤く染める。

 彼女は、それでも止めない。その手を止めることはない。ゆっくりと、じわじわと。俺の腹の中へと、赤く染まった手を沈めていく。

「あぁ・・・・・・がふッ!?ぐ、ふあぁがぁあああ!?」

 ついに彼女の手は、俺の身体の中へとその姿を消し、完全に見えなくなった。

 死ぬ。死んでいる。俺はもう、死んでいるはずなんだ。これだけの出血、いや、そもそもこれだけの痛みとショックに、人間が耐えられるはずがない。

 今すぐに死んで、早くこの苦痛から解放されたいと願い始める感情が、俺の中に芽生え、それは大きくなっていく。もう、感情の成長は止められない。

 俺が、この世に命を繋いでいる最後の枷は。皮肉にも神に上げてもらった肉体強化だった。

 すでに死んでいるはずに肉体に、しかしそれを許さない耐久力が、俺の身体には備わっているのだ。


 俺が死んでいないと分かったフィールは。相変わらずの無表情無感情のくせに、どこか首を傾げるような雰囲気を漂わせた。

 これは、フィールではない。おそらく、フィールを操る術者の感情だ。


 そしてフィールは、俺の体内に突っ込んだ手を、強く握った。

「――――――――――――――――――!!!!!!」

 確実に、死んだと思った。

 しかし、死ぬことをなかなか許してくれない俺の身体は、律儀にもその、言葉にならない痛みだけを、クリアに伝えてきた。

 口とやらなにやらから流れ出る血液が、まったく気にならなくなっている。喉の奥から吐き出される血液と、喉にこびり付いた血が、首を絞められていることもあって、俺の呼吸を荒くさせる。すでに、虫の息よりも小さなものとなっているだろう俺の命の灯火は、なかなか消えてくれない。

 いつの間にか感覚が麻痺していたようで、見下ろしたフィールの手は、どうやら俺の腹の中で握ったり開いたりを繰り返しているようだ。

 俺の中の不の感情が、どんどん肥大化していく。

 早く殺せ。早く殺してくれ。今すぐ俺を、楽にさせてくれ、と。

 今更スゲーどうでもいいけど、なんでこういう操られてたりゾンビだったり系のヤツって、攻撃方法がいちいちエグイんだろうね。ほら、噛み付いたりとか。

 今だってさっさと剣で首でも刎ねてくれればよかったのに。


 ――――――――――――だからほら。やっぱり心の奥のほうに、まだ諦められない感情が、残っちゃっている。


 人の気持ちは常に表裏一体とはいうけれど、『死にたい』っていうのと『生きたい』って、共存できるのね。初めて知りました。

 神経が完全に麻痺して痛みを感じなくなったからか、思考は若干働く。なんででしょうね。火事場のバカ力?

 そして俺の記憶が、走馬灯を引き起こす。

 走馬灯というのは、死に瀕した者が死ぬ直前に、自らの過去、記憶を全て振り返り、決定的な死を回避するために、その中から解決策を探すためにあるものだ。まあ、実際はあんまり役に立たないらしいけど。

 そして、その走馬灯は。つい最近の記憶になったあたりから、役に立ち始めた。

 昨日の出来事、やり取り、会話、経験、体験。その全てを思い出し、ポイントを算出し、そして思い至る。


 とりあえず、俺が助かる方法は見つからなかった。

 そもそもこの状況から生きて生還するなんて、老化で衰弱したのちの死を避けようとするようなもので、考えたところでどうにかなる問題ではない。それだけの怪我を、俺はしている。怪我っていっていいのか分からないが。

 だから、俺が思いついたのは。

 フィールと二人で共倒れる方法だ。

 まあ、可能性としては低いが、もしかしたらフィールの魔法が解けるというおまけが付いてくるかもしれない。

 ほら、ああいう操られる系って、本体が気絶したら治るでしょ?

 もともと可能性なんて、懸けるだけの価値もないようなものしかないんだ。ダメで元々。

 だから俺は、自分にできることをするだけだ。


 俺は、魔力を生成し、右手にごく小さな魔方陣を展開する。

 火炎魔法。名称はそのまんま『ライター』。ライターを見ていて思いついた、本当にライター程度の火を撃ち出す魔法。攻撃用としてはゴミみたいな、パーティーグッズ的なノリで作ったものだったので、封印していたものだ。

 それを、後ろ手に撃ち出す。

 洞窟の奥の端に大量に積んであった、薪やらなにやらに。

 撃ち出した火はごく小さいものだが、それでも火の手はすぐに大きくなった。

 パチパチと音を立てながら燃え上がり、洞窟という地形のせいで熱が内部に籠もり、空気が息苦しくなる。

 少しそちらの方を見たフィールの、一瞬の隙を逃さずに、腹に埋まった手を引き抜かせ、俺は自身の首を掴む手を掴み返して、フィールの手のつぼを押さえて首を解放する。

 どさりと背中から地面に落ち、身体が思い出したように痛みを走らせる。

 呻き声を上げながら、それでも俺は、魔方陣を展開する。

 刀に魔方陣を展開し、そしてそれを、力なく、それでも思いきり振るう。


 俺が作り出した魔法の1つ。サタラとリリアの魔法を原案として組み立てた、“空間魔法”。名称『空夢(そらゆめ)』。

 簡単に言えば、空間を切断する技だ。

 これによりこの洞窟は、斬った場所から最奥までの、完全な密閉空間。音も気配も差し込む太陽も、空気さえも拒絶する断面を作り出す。

 後方で燃える炎が、俺たちを怪しく映し出す。


 俺が肝として思い出したのが、エクスとの会話だ。

 まあ、俺が思いついた方法は、ちょっと気絶とかそういうレベルじゃない、最悪絶命とかそういう類のものだ。

 つーか、ほぼ確実に死ぬ。

 つまり、道連れだ。弱い俺には、そのくらいの事しかできない。


 腹を見ると、まだ血は止まっていない。つーか、やっぱりあれだ。穴広がってるな。まあ、銃弾をぶち込まれたところに無理矢理に手を突っ込まれたんだから当然か。

 とにかく。俺はこのまま、あと数時間持たせればいい。

 フィールは、というかフィールを操る何者かは、俺が何をしたいのかがいまいち理解できていないようで、その動きが止まっている。

 俺は呼吸を整え、ようとして失敗する。

 時間を稼ごう。とにかく、ここで終わらせる。

 荒い息のままに刀を構え、決意を固める。腹をくくって腹を決める。

 まあ、その腹にはすでに、穴が開いているのだが。

 一方、一区切り付いたようなフィールは、再度俺に意識を向けた。

 うーん。正確にはフィールじゃないんだけど体はフィールだからなー。ややこしい。

 よし。以降、この状態のフィールのことはフィール(仮)と呼ぼう。ア○ーバで検索しても出てこないので、あしからず。


 フィール(仮)の急駆動。

 すでに数回目撃したこともあり、速さには多少慣れたものの、やはり唐突な動き出しには反応できない。初動には、対処が出来ない。

 彼女の踏み込みは素早く、鋭い。俺との距離など一瞬で詰め、それと同時に懐から取り出した何かを、手ごと俺の首に向けて打ち出す。

 が、彼女の動きは単調だ。ただ素早く、真っ直ぐに俺の首目掛けて伸びる左腕は、しかし頭が冷静ならば、避けるのは容易い。

 まあ、腹を撃たれて首絞められて、あげく体内に手を突っ込まれたりしてるのに、頭が冷静なのはどうかと思うけどね。自分のことながら。俺もなんか、すでに人間を辞めているんじゃないかという疑惑が、俺の中で浮かび上がっている。

 首のすぐ横と伸びる腕を抱くようにして、腕を絡め、そのままフィール(仮)の身体を投げようとする。

 しかし、彼女の足が地面から離れたところで、彼女は拳を振るってきた。

 (やわ)で華奢な、力を入れれば簡単に折れてしまいそうな美しい腕から繰り出される拳は、しかし俺の身体に減り込もうかという勢いで、脇腹に突き刺さる。

「―――――――――が、はぁッ!あぁあああああ!!!」

 開いた穴と口から、血が吐き出される。が、そんなことはもう気にしない。

 俺は構わず、フィール(仮)の身体を地面に叩きつける。

 背中から叩きつけられたフィール(仮)は、肺から空気を吐き出す。

 吐き出されたものを取り戻そうと呼吸を荒げ、必死に空気を吸い込む彼女を見つめつつ、俺は思考する。

(狙い通り、だな。やっぱり、母体の機能停止に直接関わる問題は無視できないか)

 例えば術者は、フィールの疲弊や痛覚などには全く反応を示さずに、その体を行使させるだろう。しかし、まぁかなりバイオレンスな例になるが、例えばフィールの足を折るなどしてしまえば、どれだけ彼女の体を行使しようが、動かせないものはどうしようもない。

 肺から空気を吐き出されてしまえば、活動のために空気を取り入れざるを得ない。

 そして、今この場に溜まりつつある気体は、吸ってはならないものだ。


 一酸化炭素。

 物質が燃えた際には、ほぼ必ず発生する有害物質。

 専門的なことは省くが、とにかく多量に吸引すると、血液中のヘモグロビンと結合して別の物質を形成させ、体内の酸素循環機能を停止させたりする。結構適当に言うと、貧血のさらに上位版みたいな状態になる。

 特に酸素を必要とする脳が、もっともダメージを受け、眩暈や頭痛に始まり、次第に身体の自由が利かなくなり、ついには意識を失い、命さえ落としかねない。

 そして、この気体のもっとも恐ろしい特徴は、無味無臭無色な気体であるという点。症状が現れるまで、事前情報がなければ気付くことができない。

 そして、この世界の住人は。その原理について知らない。つまり、気が付かないのだ。


 まあぶっちゃけ、身体に穴が開いている俺は、もっとヤバイのだが。

 俺のこの状態は、もうこの際仕方がない。どうしようもないし。

 だからこそ。相手を引き摺り下ろす。俺のところまで。もしくは、俺よりも下へ。

 ついさっきも、足を掴まれてブン投げられたんだ。お返しとして、思いっきり引き摺り下ろしてやるぜ。地獄までな。


 ◆


 どれほどの時間が経っただろうか。

 すでに俺の意識は低下し、身体の自由も利かなくなっている。

 が、それはフィール(仮)の方も同様だ。

 無表情ながら、その動きは明らかに悪い。おそらく、意識のほうはほぼ無いだろう。

 生きる屍、操り人形。フィールは完全に、何者かの支配下に置かれることになるだろう。壊れかけの兵器として。

 そんな状態になりつつも、俺たちは互いに刃をぶつけ合う。大した力も出ないままに、俺たちは動き続ける。

 フィールは術者に、俺は『俺』に。

 身体に染み付く技術と、心に眠る本能が。俺の身体を突き動かす。ここまでくれば俺も、ただの操り人形だ。

 生きた屍。呼吸をする兵器。

 そういえば昔、誰かにも言われたっけか。俺は兵器だと。武術という力に操られる玩具(おもちゃ)のようだと。

 そういう時期もあったなー。もう消化したと思っていたが、どうやら『俺』という存在の奥底に、仕舞いこんでいただけだったようだ。


 フィール(仮)の無機質な瞳に、俺の姿が写る。

 ちっ、胸糞悪ぃ。

 自分の姿を見て、思わず悪態を吐いてしまう。


 ――――――――――――笑ってやがる。


 はぁー。やっぱ壊れてるなー、俺。命の危機に瀕していて、ついさっきまで声を交わしていた知り合いをも道連れにしようとしているというのに。

 こうして彼女と刃を合わせていることに、喜びを感じている。

 戦いの中で生きている。とも言われたな、そういえば。


 そして俺たちは。

 互いの刃で互いを貫いた。


 2人揃って、地面に伏す。ダメだ、もう動けない。つーか、下の方も息苦しいな。

 フィール(仮)の方は、動かない。動けない。

 彼女の表情から、感情が芽生え始めた。機械的だった呼吸にも、生き物らしさが戻った。

 どうやら、術者は干渉を止めたようだ。使えなくなった道具はすぐに切り捨てる、といったところか。

 さまざまなパターンがあるから断定は出来ないが。術者の人格として、こういう場合、たいていはぶっ壊れている(・・・・・・・)

 笑顔で人を殺したりできるような。紙屑をゴミ箱に投げ入れるような感覚で、命を捻り消せるようなヤツである可能性がある。

 まあ、漫画やらアニメにはありがちなパターンだ。

 そして、そういうヤツに限って、厄介なんだよな。

 はー、メンドくせぇな。

 まあ、どうせリリアたちがなんとかしてくれんだろ。面倒事は全部丸投げのリュージ君だ。


 ・・・・・・・・・疲れた、寝よ。あぁでも・・・・・・こういう寝方って・・・・・・二度と目覚めないタイプのヤツじゃ・・・・・・。


 薄れゆく意識の中、考えることすら放棄した脳が捉えたのは。


 ―――――――――巨大な破壊音と、差し込まれる眩しい光だった。


本日は晴天なりー。

みなさま、GWはいかがお過ごしでしょうか。

私は、なんの予定もなくて逆に、するべきことを忘れてしまうという、まさに末期の状態に陥っております。今回の投稿時間が0時でないのも、それが原因です。

大変申し訳ありませんでした!

今回はそういった事情で、後書きは簡単になってしまいました。

それでは皆様、今日はこの辺で。

よい休みをお過ごしください!


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